表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

2度目の人生でも後悔はする?

作者: Yayoi

あの時に戻りたい、後悔したくなかったと、今の人生に満足している人は少ないだろう。けれど、戻っても後悔する事があるかもしれない。

私、藤澤茜音は今35歳で 独身。美容師をしている。

今は母と姉と妹の4人暮し。父は5年前に胆管がんで54歳の時に亡くなっている。


とある日、姉と散歩をしている時、暴走車に巻き込まれ病院に運ばれ、危篤状態の中、夢を見ていた。いわゆる走馬燈?。


美容師は別に望んだ職業ではないけど、やむを得ずというのが本音。

中学の卒業が近い時期、高校に進学か就職かを悩み、

「借金してでも高校に行かせてあげたい」

と言う両親の言葉に、けして裕福とは言い難い家庭事情を見てきて、私たち子供に食べる事にだけは困らせないようにと頑張っていたのも見てきた。

私に進学という選択はなく、まだ中学生の私が就職を決めたのは、ただただ貧しさから少しでも抜け出したかっだけかもしれないけど、勉強があまり好きではないというのもちょっとあったかな?。


妹はまだ小学生だし、私はせめて金銭的に少しでも家族の助けになればと、中学を卒業後、手に職をと、アルバイトをして美容師の専門学校の入学資金を貯めた。


姉は心身に障害がある。両親...とくに母は、時々人の物を取ったり壊したり...。近所・知り合いに、毎日のように謝って回る姿をみてきた。

父は亡くなる前に、

「姉ちゃんを頼むよ」

と、寡黙な父らしく、たった一言を言い残して天国に旅立った。姉の将来が気がかりで仕方なかったみたい。

今は私とパートで働く母とで家系を支えている。


この歳になって最近、よく考える事がある。もし高校に行っていたらどんな人生だったのだろう?...、そして姉が普通の自立できる人だったら?と...。

付き合ったことがある人は何人かいたけど、姉の事を知ると、重いと考えるのか、みんな離れていった。

当時は「お姉ちゃんがいなかったら」と、最低な人間になっていた時もあったけど、姉を頑張って守ってきた両親、とくに父の(姉ちゃんを頼む)の言葉に、間違っても考えてはいけない事だったと反省している。


そんな反省と後悔の中、私はなぜか天井から、泣き叫ぶ母、呆然とする妹、そして感情の無さそうな様子の姉の姿が見えた。

ただ、その姉が天井を見上げ、私と目が合った気がした。そして笑顔で手振っている。

私は、一度でもお姉ちゃんをいらないと思ってしまった事を必死であやまった。そして心電図は無常の音を鳴らす。

私は死んだ……はずだった。


なぜか目を覚ました私はやっぱり病院にいるようだ。

心配そうに私を見る母となぜか父が..?.。その横にどう見ても、成人なっているはずの小学生の妹・莉子。そして学生服姿の……。

「えっ!?、麻美...姉ちゃん?」

当然パニックになる。

天国ではこんな夢を見せてくれるのかと、しばらく呆然としていた。

そんな、何が何だか分からない状況の中で翌朝目を覚まし、携帯を操作している母の姿を見つける。私は小さい声で、

「え?ガラケー?。母さん、スマホどうしたの?」

私の頭の中が???でいっぱい。

目を覚ました私に気が付いた母は

「茜音!、良かった~。昨夜はまた眠ったから心配したわよ。」

交通事故にあったのは間違いないようだ。

「……ん?、スマホって何?」

と、不思議そうな顔をしながら、とにかくみんなに連絡をと、またガラケーを操作している。

私はスマホが壊れたか何かで、その代わりだと思っていた。ただ...、母がちょっと若い...。


母からの連絡を受け、姉と妹が駆けつけた。

でもやっぱり姉は学生服、妹はランドセルを背負っている。

「夢じゃなかったの?」

私がつぶやくと、麻美姉さんは、

「ゴメンね、私のせいで...」

どうやら姉をかばっての事故は微妙に合っている。

「今、何年何月。」

私は少し不安を残しながらき聞くと、20✕✕年の2月だと姉は言う。

それって私が中学2年の時じやない...。だから3つ違いの姉が高校生の学生服姿...。当然、父も健在の時期。

ここまで来ると納得するしかない。私は16年前の過去に戻ったのだ。

有り得ない...有り得ないと思いながらも受け入れるしかなかった。だって大好きな父さんがいるんだもん。

私は、姉への不誠実な思いと彼女に普通の生活を味合わって欲しかったという思いが、私を過去に戻してくれたのだと、運命の神様に感謝をした。


無事退院をした私は、家族にとっては普通の自宅。でも私には、美容師になってからは自宅から少し離れた美容室で働いていた為、一人暮らしだったから、16年振りの我が家である。

とはいえ、やっぱりその当時とあまり変わらず、変わったと言えばテレビが大きくなってたくらい。でも、生活水準は以前ほどではないようで安心する。なにせ姉さんが高校に通っているのだから...。


姉妹3人で1部屋も変わっていない。

久しぶりにその部屋で寛いていると、

「茜音姉ちゃん、何か...雰囲気違う感じがするね」

妹の莉子が唐突に言う。

あんな事があったから、まだ落ち着かないだけだと誤魔化したけど、莉子には何かの能力があるのかと思ってしまう。


過去に戻って数ヶ月。中学3年生になった私は三者面談に望み、十分高校に行ける成績だと進路指導の先生に言われ、進学する決意をした。来年の春には、経験したことの無い高校生活が始まる。


4月、入学式に望む私は高校の学生服姿に、過去に戻してくれた事に深く感謝した。


高校1年生は誰もが初めてではあるけど、私には特別だと思っている。学生生活が始まるのか楽しみで仕方なかった。


当たり前ではあるけど、何もかも新鮮で、友達も何人かでき、思春期にありがちな男子生徒に恋をしたこともあったけど、未来の記憶がある私には、状況が変わった今でもまだ、姉さんを拒んだ恋人との辛さを拭いきれずにいる。

体育祭、修学旅行、友達との遊びなど、青春時代を精一杯楽しんだ。

もちろん定番?のイジメに合う事もあったけど、そこは大人の対応?。足を引っ掛けられたらやり返し、無視されたら

「ああ~、器のちっちゃい人が多いなぁ」

と怯まずに反激した。大人を舐めんなって感じ。そんな事があってイジメは減り、充実した楽しい高校生活を終えようといていた。


卒業間近の2月末、帰宅しようとした時、1人の男子生徒が声をかけてきた。

「藤澤さん、ちょっといいかな?」

なぜか偶然にも3年間クラスが同じだった古川亮平君。

彼とはあまり親しく話したことが無い気がしていたけど、体育祭でクラスの催し物の係になり、それなりに話す切っ掛けはあった。ちょっと気になった人ではある。

「えっとぉ...、もうすぐ卒業だし、今言わないと...と思って...」

めちゃくちゃ緊張している高校生の仕草である。

「何?、何かいつもの古川君と違う気がするけど?」

「えっと……、俺、高校を卒業したら東京の専門学校に行くんだ」

「そうなんだ、これから大変だね」

何の専門学校かは聞かなかったけど、彼自身も知らない未知の世界は不安なのだろうと思った。

「俺...、藤澤さん……、茜音さんの事好きなんだ。東京に行く前に後悔したくなくて...」

付き合ってとまでは言わなかったけど、突然の告白に戸惑う。そんな素振りなど今でなかった気がする。

「3年間、ずっと君を見てきて、こんな人がなぜ彼氏がいる様子がないんだろう?って不思議だったんだ」

虐められても反撃したりする勇気ある人だと思ったらしい。

大人しい人だと思っていた彼は私への想いを続ける。

「もし、5年後くらいにまだ君が付き合っている人がいなくて結婚もしてなかったら、もう一度告白するチャンスが欲しい」

クラス委員を務める彼だが、いつも控えめの彼にとっては勇気のある事だったと思う。私も好ましくは思っていたけど、恋は封印する気持ちが拭いきれずにいた。

そんな時の告白は私を戸惑わせた。


私の2度目の就職もやはり美容師になることにした。技術は伴わないかも知れないけど、必要な知識は忘れていない。

未来と変わらずアルバイトて専門学校の資金を貯めて、いちから美容師とし歩始め、専門学校を卒業後、美容師数人が働く美容室で見習いから始めるようになった。


私が美容師として給料がもらえるようになる頃、3つ違いの24歳になった姉さんは、職場で知り合った男性との結婚をひかえていた。

「姉さん、おめでとう。ホントに嬉しい...」

号泣した。

「そんなに泣かなくても~、最初から彼とは結婚前提だって言ってたじゃない」

姉は大袈裟すぎると戸惑うが、私にとっては望むことも叶うこともないと思っていた姉の結婚に、幸せを願わずにはいられない。


もうすぐ、美容師になって3年目を迎えたある日、ふと卒業間際に告白したまま東京に行った古川亮平君の事を考えていた。

あれからこの3年間、気になって仕方なかったのは当たり前。

その間、何の音沙汰もないため、東京での毎日に忙しく、もう私の事は忘れているのだろうと、いつまでも引きづらないよう努力した。


姉の結婚式の日、私はやっぱり終始号泣で、そんな私を抱きしめながら姉は

「茜音...、今度は茜音の番だからね。幸せにならないと」

と、やはり望んでもいなかった優しい言葉をくれた。私なんかより姉さんが幸せならそれでいいよ。


年末、まだまだ見習いの身の私だけど、美容師としては書き入れ時の大晦日を乗り越え、のんびりお正月を過ごす。

過去戻りしてから、今年年で7年を迎える。驚くほど平凡な幸せを過ごしている。

何も無いことか何よりの1番の幸せだとを噛み締めていた。


相変わらず彼氏無しの21歳。何の予定もない私は動画を見て過ごしていた。この頃にはガラケーからスマホがメインで動画も見やすい。スマホの勢いが目覚しいのは見てきたけど、なんだか新鮮さを感じる。

ふと、ある動画が目に止まった。何かのイベントのようで、その会場にはステージに登場した人達に女性たちの歓声の嵐。全員顔は知らないけど、どうやら人気アニメのイベントで彼らはその声優さんらしい。

私もアニメ・マンガは好きで、よく見たり読んだりしていて声優の存在は知っていたけど、今はこんなに人気があるんだと初めて知った。

一人一人の自己紹介の時にある1人の声優さんの歓声があがり、名前を聞いて「えっ?」と思った。「〇〇役の古川亮平です。今日は楽しんでくださいね~」

と...。

高校卒業間際に私に告白して東京に行った彼の名前と字も同じ。同姓同名は何人もいるだろうし...とは思ったけど、彼がアップになった時、大人びてイケメンになっていたけど面影がある。

「古川君の言ってた専門学校って声優のだったんだ...」

もちろん古川君の事はずっと忘れたことはない。何せ初めて告白してくれた人だもん。3年も経てば、きっと私の事は忘れているだろうと思うほど人気声優になっていた。遠い存在になってしまったんだな。

思わずドキッとしてしまったけど、それならそれでしかたない。

この歳になって、初恋かもしれない恋はあっさり終わってしまった。

2度目の人生でも恋愛には縁がない……のかな?。

とはいえ、気にならない訳が無い。スマホを手にする度に彼の動画を見つけ、ため息が出る。

「なんか残念。人気声優の彼女になれたかも~」

などと、妄想を膨らませる。

動画の中の彼はあの時と少しも変わらない。真面目で控えめだが、画面ではシャッキとして話をしている。こういう世界の中では引っ込み思案の人では務まらないのかもしれない強さを持っているのだろう。画面上ではあるけど彼の人柄が見え、頑張ったんだろうなと思うと、またドキッとしてしまった。

「ただのファンになっだけだよ」

そう思うようにして、ちょっと辛いので彼の動画はあまり見ないようにしていた。

私のことが好きだったとはいえ、遠い存在になった今は、多分プライベートでもモテモテなんだろうと考えながら、お正月も明け、また成人式に向けて忙しい日々が待っているし、「そのうち忘れるよ」と自分を慰めていた。


そして2月。妹の莉子から電話があり、

「茜音姉ちゃん、早く帰ってきて!。偉いことになったぁ~!」

いつも、歳の割には大人びている高校生になった莉子が、慌ててというより興奮している様子で「今すぐだよ!」と言って電話を切った。

私は家族に何かあったのかと心配で、職場に許可をもらって家に急いだ。

帰宅するなり莉子は、

「姉ちゃん!大変大変!」

莉子の興奮がまだ収まらない。私.の手を引っ張り、リビングに向かうと、お客さんが座っている。

私に気がついたその人は振り返り、

「藤澤さん、久しぶり、3年ぶりだね?」

古川君だった。私がトキめいてしまったのは言うまで無い。

莉子が家の一大事かのように興奮していたのは、大のアニメ好きで声優オタクの彼女は、私と彼が同級生なのを知って、すっかり彼の大ファンになっらしい。

あまり彼女の趣味嗜好を話したことはなく、これほどのファンだったとは知らなかった。その憧れの人が自分の家にいるのだから、ミーハーでなくても興奮する。


私と古川君は近くのファミレスで話をすることにした。莉子は何で家で話さないのかと不満そうだったけど、「一緒に写真とサインいっぱいくれるなら」と渋々了解した。


大人になり、あか抜けてカッコよくなった彼と向かい合わせは、めちゃくちゃ恥ずかしい。

「動画みたよ。もちろんアニメも...。すごいね。すっかり人気者じゃない。莉子も推しに会えてすっごく嬉しそう。」

私から話を切り出した。

「藤澤さんは...、嬉しくない?」

「そんなこと!……ない...。たった3年でって凄いことなんでしょ?。そっちの世界はよく分かんないけど...」

「うん、頑張ったよ。少しでも役をいっぱいもらえるようにって、必死で...」

有名になっても、どこか自信なさげだったけど、真面目で頑張り屋さんなのは変わらない。

「頑張っても報われない事もあると思うよ。きっと古川君には才能と声質って言うの?、それに恵まれたって素直に受け取っていいんじゃない?」

私がそう言うと、

「ありがとう、そう言ってもらえると嬉しいよ。でも、最近さぁ、二十歳を越えて、ちょっと焦ってて...」

21歳で何を焦っているのだろうと思っていると

「あの時は5年くらいっ言ったけど、5年の間に俺の事を忘れられたらどうしようって思うようになって...。」

「忘れらたかもって思ったのは私の方だよ。だって何の音沙汰も無かったじゃない。芸能界にいるなんて思ってもいなかったし。」

「まだまだ駆け出しの新人だよ。あの時はせめて5年は必要かなと思ったんだ。10年経ってもダメかも知れないのに...。子供だったのかもな」

「だから何?」

薄々勘付いてはいたけど、中々本題に入らない彼にちょっと意地悪を言った。だって可愛かったんだもん。

「もう一度改めて...、君の事が好きだから付き合って欲しい。返事は約束通り後2年待つよ。」

彼は、もっともっと頑張って私を東京に招待したいと言う。

「私ね、古川君の動画や出てるアニメ見て、声を聞く度に、亮平君の事を思い出すとドキドキして...。答えはあの高三の時に出てたのかもしれないね。」

「じゃあ!、OKしてくれるってこと?。やった!」

まるで高校生...いえ中学生のようにガッツポーズをした。私ってこんなに想われてたんだ。

「遠距離恋愛になるけど、それでもいいの?」

彼は少し不安そうに言う。

「この3年も同じようなものだったじゃない。私を選んでくれてありがとうね」

初めて私に愛しい恋人ができた瞬間だった。

しばらく雑談をした後、

「もっともっと頑張るよ」

「無理はしないでほしい。身体を壊したら何にもならないからね」

彼は微笑みながらうなづく。


自宅への、手を握りながらの帰り道、少し薄暗い路地わきで、

「待っててくれてありがとね」

「亮平君も私の事、忘れないでいてくれてありがとうね」

彼はグッと私を抱き寄せ、2人は初めてのキスをした。未来では別の人と経験あったけど、大好きな人とのキスに力が抜けそうになる。


自宅に戻り、莉子に、何枚ものツーショットとサインと東京土産を渡して、明日もアフレコの仕事があるから帰って行った。

よくよく考えたら、高校に入ってしばらくして、初めての恋をした生徒は彼だったような?。……気がしただけかな?。


彼が帰った後、

「何で数ある同級生の中で姉ちゃんのところに来たのよ!?」

と問い詰める莉子。めちゃ恥ずかしかったけど、これまでの経緯のファミレスでの話をした。

莉子はしばらく呆然とした後、

「え~~~っ!」

信じられない様子と輝かせるような目。

「誰にも内緒だよ!、言ったら絶交だからね!」

「なんでさ~、茜音姉ちゃんの初めての彼氏じゃないの?。みんな喜んでくれるよ?」

「先はどうなるか分かんないじゃない。振られるかも知れないし...」

それは私の不安の現れ。多分だけど彼はますます大きくなると思う。後2年、自信を持てたら東京にと...。それを私はプロポーズなのかもと期待しているけど、自信がないのは私の方。どうなるのか分からないのが人生だもん。


彼が東京に戻ってからは毎日のように電話をくれる。話しているとお休みは1週間に1度あるかどうかだとか。そんな忙しい中で時間を作ってくれる。誠実で真面目な彼に溺れていってもおかしくない。


ふと私は、もし今の姉が本来の障害を抱える人のままだったとしても、彼なら受け止めてくれるのだろうかと、今の幸せ過ぎる生活に、(幸せ過ぎて恐い)の意味がよくわかる。

いつか大きなしっぺ返しが来なきゃいいけど...。


そんな心配は今の所はなく2年を過ぎた正月3日、彼は約束通り私を東京に招待してくれた。

この日しか休みが取れないらしいけど、せっかくの休みに良いのだろうか、疲れてなきゃいいけど...。


東京では結構有名らしいホテルで待ち合わせる事になり、前日にそのホテルに向かった。

初めての東京はスゴすぎる!。人の多さとのんびり歩いている人やその様子もない都会は、田舎者の私にはちょっと息苦しい。


その夜は始めてみる摩天楼と言われる夜景に見惚れながら、どうしてだか彼を遠く感じてしまった。

「こんなに景色を見慣れてるんだろうな。」

私は、昔流行った”木綿のハンカチーフ”という歌を思い出していた。彼は都会の絵の具に染まっていない...とは思うけど...。


翌朝10時の待ち合わせに、私はソワソワして朝食もそこそこに8時過ぎからロビーで、サービスのコーヒーを何倍飲んだことか...。もうすぐ24歳にもなるのに子供みたい...と恥ずかしなる。


10時の約束に、彼は30分も早くやってきた。

マスク姿の彼は顔バレをちょっと自覚してるのかも...?。

「早いね」

少し息を切らしながら笑顔で声をかけてきた。

「亮平さんこそ...」

「待たせてら悪いと思って...」

こういう真面目で優しい彼が大好きだ。

「私こそ、ゴメンね。忙しいのに...」

ソファーに座る私の前に腰掛けた彼は、

「何か...、毎日ほど電話してたのに、直接会うと恥ずかしいね」

彼は、まるで女性に免疫がなさそうに少し照れる。

この5年間、本当に誰とも付き合ったことがないのだろうか?。どんな一途な人にも落とし穴があるんじゃ...と思ってしまう。私はないけど!。

「今日はありがとうね。こんなに立派なホテル。東京は初めてだから戸惑ってる」

「俺たちの住んでたとこ田舎だもんな。俺も慣れるの大変だったよ」

少し、沈黙のあと

「えっとぉ...、部屋行かない?。大事な話があるんだ。ここではちょっと...」

彼の言葉に最高潮のドキッ!。私は小さくうなづいた。交際2年とはいえ、彼がうちに来てくれた2年前にキスをしてい以来。超プラトニック。


もう一度、昨日泊まった部屋に戻り、私たちは取りあえず腰掛けた。

彼は大きく息をして、

「実は俺、君と同じ16年前の未来から飛んで来た。今年で9年になる。」

寒気が身体中を走った。私とまったく同じ?!。

「茜音だったら、この話信じられるよね?」

私は突然の彼の話に言葉が出ない。まさか……?、でもそんな事ある?。

「俺たち、中学も一緒だったの知ってた?」

ハッキリ言って私は覚えていない。

彼は話を続けた。

「中学卒業の時、ダメ元で告白しようと思ったけど勇気が無かったんだ」

そのまま、彼は進学して私は就職して、繋がりが無くなったら...と落ち込んたという。

「でも中学の頃からの夢だつた声優になる事も諦めきれず、高校を卒業して専門学校に行って、声優にはなれたけど...」

未来で彼は、その後10年、何とか食べて行ける程度の生活だったらしい。

今の生活とは正反対じゃない。にわかには信じられないけど、彼は話を続ける。

「そんな中でも君のことは忘れられなかった。気持ち悪いよな」

彼にとっては私が初恋だつたんだろう。初恋はどんなに歳を重ねても忘れることはない。

「何とか食べて行けるようになったそんな時に、地元の友達から、茜音が事故で死んだって聞いて、俺は、もっと早く地元に帰って君に告白すれば良かったって、どんなに後悔したか...」

そして彼は、気落ちしすぎて、ボーッと歩いてる時に信号無視の車に跳ねられたという。

彼も私と同じ経験したなんて、何度も言うけど、そんなことある?!。

「そして気がついたら中学生に戻ってた」

息を引き取る前、中学生に戻りたいと強く願ったらしい。

そして彼は私が高校に進学したことを知って同じ高校を受験したという。

「まるでストーカーだよな...」

彼はバツ悪そうに言う。

「じゃ、私の本来の姉さんの事を知ってたの?」

「もちろんだよ。それが過去に戻ったら、君が高校に進学...だけでなく、お姉さんも高校生になってて...、戸惑ったよ。世界が変わってるじゃんって」

「それがどうして私か過去戻り ︎って気づいたの?」

彼は、私が変わらず美容師になる事を知った時、あれっ?て思ったという。

私の中学の進路希望の用紙をチラ見したらしく、

漫画家かバスの運転手と書いてあったのを覚えていたと言う。美容師の”び”の字もなく、漫画家は分かるけど、なぜバス?と印象に残ったらしい。

私は家族で旅行に行ったことがなく、せめて仕事ででも旅行に行きたいとガイドではなく、なぜかバスの運転手。多分ガイドは向かないと自覚していたからだろうな。

それなのにやっぱり私は美容師。この、世界の違いはもしかして私が望んだ世界なんじゃないかと思ったらしい。彼自身の経験もしているから。

「君はお父さんが亡くなってから家族のために頑張ってたのも知ってた。高校生になったこの世界でも変わらず美容師を目指してた。俺自身も声優になる夢はそのままだし、高校の3年間同じクラスだったのは、運命だと思ったよ。……ちょっとクサイよね」

そして、せっかくもらった2度目の人生を失敗したしちゃいけないと、高校卒業前に告白したと言う。

そんな、お互いの過去戻りを確認するために私を東京に呼んだみたい。


未来でも過去でも1人を思い続けられる、こんなにも一途な人がいるだろうか。私は自分の事ばかり考えていたと思うと自暴自棄になる。

声優を続けながらも、告白してくれていれば、私は姉さんの存在を否定するような酷い妹にはならなかったかも知れない。彼は姉さんの全てを受け入れてくれていたのだから。

「勇気出して欲しかったよ。姉さんの事を受け入れてくれる人がいると知ってたら、過去に戻ることは無かったかもしれない」

「ごめん...。ホント、ダメすぎるよ俺...」

今の変わった過去は、それはそれで感謝してるけど、本来の姉さんの存在を無かったことにしようとした私が幸せになってもいいのだろうかとも思う。

「もう一度、未来の本来の私たちに戻れたらいいのにね。35歳の、美容師と声優として諦めず頑張ってる亮平さん。」

「そうだね。でも、茜音が姉さんたち家族のために手に職をつける仕事を選んで。それを神様がちょっと応援してくれたんだよ。」

「亮平さんも、夢も私も諦めずに居てくれたから応援してくれたのかもね」

お互いに2度目の人生、これはこれで良かったのかと思いつつも、私が障害のある姉さんじゃない世界を望んでしまって、姉さんの存在を無くそうとした裏返しの人生になった事。望んじゃいけない事だったなのかもと後悔している。

誰も障害者になることも、その家族になる事も望む人はいない。でもそれは、人への優しさを持つために与えられた使命なのかもしれない。だって、私の知る、障害者を持つ家族はみんな優しいんだもん。


贅沢な話だけど、もう一度未来に戻れるなら、亮平さんは声優として成功し、彼が私をずっと好きでいてくれた事以外は変わらずにいて欲しいと願う。父さんが姉ちゃんを頼むと言った事の約束を守りたいから。


私と彼、2人の不思議な出来事や想いを出し切った私たちは、その夜に結ばれた。

そして彼は今年中には結婚しようと言ってくれた。


翌日以降、彼はやはり仕事なので、私は、一度は憧れたバスの運転手を思い返し、高速バスで帰宅することにした。


後1時間くらいで家に着くという時にそれは起こった。


……ご想像のとおりです。……


目を覚ますと、天井はやはり病室。また?。

周りを見渡すと、元の年老いた62歳の母と小さな子供を抱えた妹の莉子。そして、感情の薄い表情の姉・麻美の姿。父の姿は無いのが悲しく辛い。

今度は危篤ではなく、足の骨折で済んでいる。実際もそうだったかな?。


そこは35歳の私の変わらない世界だった。なんだ...、長い夢、長すぎるリアルな夢だったな。と、ふと母の隣りを見ると、…亮平さんがいる。

私は号泣してしまった。

皆んなはどこが痛むのかと心配そうに声をかける。

「何で亮平さんがここに……?」

皆んなのことは分かるのに彼がそこにいることだけを忘れていると、記憶の一部でも欠けたのかと思ったみたい。

そんな私を切なそうに見る彼が、

「ちょっと二人で話していいですか?」

と、皆んなに部屋を出て行ってもらった。

「茜音...、寂しいこと言われてちょっとショックなんだけど...」

と言って、少しでも記憶を取り戻してくれるのならと、彼がここに居る理由を話した。


長い夢の時のように確かに声優になって今も東京に住んでいるという。

彼は話を続ける。

「デビューしてから10年くらいはあまりパッとしなかったけど、30歳を前に大きなチャンスが来て、やっと声優だけで食べて行けるようになったんだ」

と、少し嬉しそうに話す。過去で彼が未来の自分の事を話していた内容と同じ。

夢での世界とはちょっと違うけど、成功してよかったと思った。

「それが、亮平さんがここにいる理由と関係あるの?」

「俺はさ、茜音が初恋だったから、ずっと忘れられなかったけど、夢を叶える為にあれからの十何年必死だつたから恋愛する暇もなかったよ。」

ほんの少しだけお付き合いした人はいたらしいけど、頭に浮かぶ私がその恋愛を邪魔したらしい。知らない事だけど、なんかごめんなさい。

「やっと少し落ち着いたから、茜音に改めて告白して、もう付き合って3年になるんだよ?」

「そんな大事な事を忘れててごめんなさい...。」

私は、今度は自分から言おうと勇気を出した。

「改めて私と付き合ってくれる?。これからもっと亮平さんのことを知ってたいけばいいと思う。だって知らない仲じゃないんだもん」

彼がどんな人なのかは十分知っているしね。

あっさり受け入れた私の言葉に彼はちょっと意外そうな顔をした。

「もちろんだよ。この3年間もだったけど、遠距離恋愛楽しもうな」

「うん。離れてるからって浮気はダメだよ」

「当たり前じゃん。伊達に長い片思いしてないよ」

私にしてみたら3度目の同じ人からの告白。この神様の素敵なイタズラに深く感謝した。


彼か声優として認められたのが最近だったのは以外だったけど、ちゃんと告白してくれたんだね。

ただ亮平さんはまた未来に戻って来た訳では無さそうだというのは分かる。

今は、私だけが過去戻りして、また未来に戻ってきたと思っている。

あの過去の出来事は私の望みだけの、本当に夢の世界だったのかも知れない。

私が過去で最後に願った、彼がずっと私を好きでいてくれて、姉さんが本来の姉さんでいてくれる。願いが叶っていると感じた。ただ、一度でも姉さんの存在を否定した罪悪感は一生忘れてはいけないと思う。だって本当の姉さんも根は優しい人だから...。


いつか私の過去戻りの話をしようと思う。彼なら信じてくれるかも知れないから。


無事退院して、また美容師として働き始め、何度も東京へ彼に会いに行き、1年後に私たちは結婚した。

人気声優の結婚にファンはちょっとショックだったらしいけど、独り占めしてゴメンね。


過去を変えることは到底不可能なはずの、この私の体験は、大事なものが何かを教えてくれたと思う。

姉さんが本来の姿であることに感謝し、過去に戻っても後悔することはあると教えられた。

母はその2年後に父の元へ旅立った。きっと安心したんだと思う。

もっともっ~~~と贅沢なわがまま言えば、せめて両親には私の子供を見るまでいて欲しかったな。


終わり



最後まで読んで頂きありがとうござました。

この作品は、半分実話で半分フィクションで、妄想かなり入ってます^^;

三姉妹で姉が障害者であること、私が中卒であること、両親が早くに亡くなったこと。

えっと、主人公が美容師の設定も想像で、夢の職業・第2位です。一位は…内緒です(^^ ;


私がこの作品を書こうと思ったのは、この歳になって(歳は内緒ですがw)物語にあった、姉の存在に目をつぶろうとした過去を悔いているからです。

物語の後半にあった(誰も障害者になることも、その家族になる事も望む人はいない。でもそれは、人への優しさを持つために与えられた使命なのかもしれない)と最近思うからです。

もちろん高校に行かなかったことも少し悔いています。もし高校に行っていたらというのもあって、めちゃ理想の恋を妄想しましたW


ちなみに、私は普通に会社員になり、普通に結婚しました。

私の夫は姉の存在を受け入れてくれた普通のサラリーマンです。


普通ってホントは何より幸せなんでしょうね、


作者より

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ