序章
どちらかと言えば、主人公最強系なので、そういうのが嫌いな人はご注意ください。(主人公よりも強い人間も結構居るので、無敵キャラという訳ではありません。)
あとは、キーワードに載っているように、『現代ファンタジー』な『シリアス』で、『魔法使い』達が活躍する『戦争・謀略』系。そんな感じで『世界の崩壊』を止める為に主人公以外の皆が頑張ったりする小説です。
ついでに、核兵器が大量に使用されたり、一部の大国が崩壊したりします。
そういうのが苦手な人は読まないほうが良いでしょう。
中学校に入学して、数ヵ月後。
中学での生活にも慣れ始め、同じ小学校の奴等だけでなく、他の小学校の面々とも遊ぶようになった頃。
そんな時の休日のことだ。
「このままでは、後五年で世界は滅びます」
親指サイズの謎の物体X(光り輝くよく解らない何か)は、俺の目の前に現れるなり、そんなことを言った。
まず思ったことが「ああ、夢か」だった。
光り輝く謎の物体Xが目の前に現れて飛び回っているだけでも非現実的なのに、そこから言葉が聞こえてきたのだ。
どう考えても、夢の世界の出来事だ。
しかし、謎の物体Xはそんな俺の考えを読んだかのように言葉を続けた。
「夢ではありませんよ」
夢の世界の住人に「夢ではない」と言われてものねぇ…。
「信じられませんか。
ならば仕方がありません」
謎の物体Xはそう言うと、俺が理解できない未知の言語で何かを呟き始める。
「…~…・・・…~・・・・・・…~…・・・・・・・・・…~~~」
と、その言葉が途切れた瞬間、体に衝撃が走った。
電気ショックを当てられたような、しかし、後まではその影響が残らない衝撃。
「どうです。
意識覚醒の魔法を使っても変化がなかったのですから、これが夢ではないと解ったはずです」
何処となく自慢げにそう語る謎の物体X。
うん、やっぱり夢だな。
俺はそう確信した。
「なんで、これを夢だと思うのですか!
意識覚醒の魔法を使ったのですよ。
それで変化がなかったのだから、夢な訳がないじゃないですか」
謎の物体Xが俺の視界の中を怒ったように飛び回りながら、そう叫ぶ。
「魔法なんてファンタジーなものが、夢以外の何だって言うんだよ」
いい加減、この謎の物体Xが鬱陶しくなってきた俺は、少々の怒りを込めてそう言い返した。
夢なら早く覚めて欲しい、そう思いながら。
「…まあ、いいです。
別に貴方が現実を夢と思おうと、問題があるわけでもありませんし。
こんな夢のない人間がパートナーとして選ばれたなんて、悲しくなりますが」
全く、むかつく言い方である。俺の夢の癖に。
というかパートナーって何だよ?
そんなことを考えている俺を放っておいて、謎の物体Xは続けて言う。
「この現実を夢だと信じている貴方に何を説明しても無駄でしょう。
全く、頑固なものです。これだから、科学至上主義者は困る。
仕方がありません。
聞きたいことができたら私に声を掛けてください。
それまで貴方の周囲を飛び回っていますから。
数日も経てば、これが夢でないと気が付くでしょう」
いや、こんな光る謎の物体Xが視界の中を飛び回っているだけでも十分に煩いんだが。
そんな俺の考えを読んだのか、謎の物体Xはさらに言葉を続けた。
「ご安心を。今は貴方に気づかせる為に発光しているにすぎません。
このように、通常の状態では貴方は気が付くことすら出来ないでしょう」
その言葉と共に、謎の物体Xから光が消え、消滅する。
いや、言葉が聞こえる以上、存在が消滅した訳ではないのだろうが、そう見えた。
「これなら、問題はないでしょう。
では、夢ではないと気が付いたら、私に声を掛けてください。
パートナーとして何でもお答えしますから。
それと、私は由緒正しき精霊です。聖精霊下第二位の。
思考の上でだけとはいえ、謎の物体Xなどと呼ぶのは止めてください」
精霊ね。流石は夢、随分とファンタジーなことで。
自称だから本当かどうかは解らないけど。うん、これからは謎の物体Xじゃなくて、自称精霊と呼ぶことにしよう。
まぁ、どうだろうと、俺から見えなくなるなら問題ないはず。
どうせ夢だしね。生活を見られたところで困る訳じゃない。
そんなことを思いつつ、俺は日常的な休日へと戻った。
この夢は何時覚めるのだろう?
そんな疑問を覚えながら。
困ったことに、この夢は二週間が経っても覚めなかった。
寝て起きた後、自称精霊が居るかどうか確認しては、夢の中であることにがっかりする毎日が続いている。
因みに、もしこれが現実だったとしたら大変なので、毎日、しっかりと中学校に通っている。
夢の中でも学校で勉強するなんて、全く、自分を褒めたくなるね。
ここまでくると、本当は夢じゃないのではないか?という疑惑も沸いてくる。
ただし、これが夢だと考える根拠である非現実的な現象もこの一週間で急速に増加していたが。
第一に、『魔法使い』を名乗る預言者気取りの人間が世界中で同時多発的に発生した。
その総人数は、ある週刊誌の調べでは数百人を超えているとか。
彼らは異口同音に叫ぶ。
「このままでは、あと五年で世界は滅ぶ」と。
どっかで聞いた台詞だが、所詮は夢の世界と無視した。
週刊誌で特集されていた内容によれば、文明の進歩と人間の増加の結果、マナ(生命・文化的エネルギーとかいう俺には理解できない何か)が世界の許容範囲を後五年で超えてしまうらしい。
夢の中の出来事らしいファンタジーな内容だ。
しかも、この魔法使い達は、魔法という超能力的な力を実際に使えるというのだ。
俺もニュースでその映像を見たが、あれは凄かった。
比喩でもなんでもなく、そこそこの高さを誇っていた小山が、何もない更地になったからな。
噂では、天皇家の人間の中にも魔法を使える人間が現れたらしいが、政府かどっかが情報を遮断しているらしく、噂以上の情報は出回っていない。
第二に、テロ攻撃による各国の被害が急増した。
どうも「後五年で世界は滅ぶ」ということを本気にした連中が居るらしい。
世界が五年で滅ぶと魔法使い達が言う理由は、先に書いたとおり『文明が発展し、人口が増加した結果、マナが世界の許容量を超えてしまう』ためだ。
つまり、文明を破壊し、人口を減らせば、世界の滅びは回避できるのである。
そして、頭の痛いことに、それを信じてしまう人間が結構居たようだ。
文明を破壊し、人間を殺戮してまわるテロ集団『救世会』が誕生し、全世界で活動を始めたのである。
その集団の中には―そもそも彼らが言い出したことなのだからある意味で当然だが―多数の魔法使いが含まれていた。
考えても見て欲しい。
小山を跡形もなく消し去れる力を持つ魔法使い達がテロ攻撃に参加するのである。
控えめに見ても、その被害と脅威は、イスラム系のテロが可愛く見えるくらい、甚大で強大だ。
第三に、テロ攻撃によって魔法使いという存在の攻撃力を実感した各国の軍が、魔法使いの確保と魔法の研究に乗り出した。
表向きは各国とも「新たなテロ攻撃に対処する為」と表明しているが、まぁ、少し考えてみれば彼らが本心で何を考えているのかなど直に解る。
ただ、日本だけは例外で、どういう訳か宮内庁が国内に居る魔法使い達をかき集めているらしい。
もしかしたら、天皇家に魔法を使える人間が現れたという噂と関係しているのかもしれない。
そして、更に二ヶ月の月日が経った時、戦争が始まった。
当時『第三次世界大戦』と呼ばれ、後に『第一次幻想戦争』と呼ばれることになる戦争が。
この時になっても、まだこれが夢だと思い続けていた俺は、あの精霊に言わせると異常者らしいが。
始まりは、アメリカ合衆国のとある空軍基地だった。
そこから大陸間弾道ミサイルが核を搭載した状態で全世界に発射されたのだ。
後に解ったことだが、この空軍基地は魔法使いが率いるテロ組織『救世会』によって秘密裏に占領されていたようだ。
彼らは幻術魔法を巧みに使うことで、アメリカ軍に気づかれることなく、基地を占拠。
そして電子魔法で基地及びミサイルのコンピューターを乗っ取り、核を搭載した状態でICBMである『LGM-30 ミニットマン』を全世界に向けて放った、らしい。詳しいことは俺も知らないが。
モスクワ、ロンドン、パリ、ローマ、ベルリン、北京、東京、デリー等々、アメリカ合衆国を除く(この為に「実はアメリカ合衆国が犯人なのでは?」という疑惑が後々まで残った)ありとあらゆる大都市が核の標的とされた。
狙われた大都市の中でそれを逃れられたのは、モスクワ、ローマ、東京、大阪の四都市のみ。
モスクワは辛うじてミサイルを打ち落とすことに成功した為。
そして、日本の二都市とローマは、魔法使いという新しい戦力による防御が間に合った為だ。
他の国々は成す術もなく、核攻撃を受けた。
奇襲だった為にミサイルの追撃が間に合わなかったというのもあるが、テロ組織『救世会』が魔法による妨害によって各国の防衛システムを狂わしていたのが痛恨だった。
(ロシアはその広大な領土の結果、妨害されない地域が出現した為、辛うじて追撃が間に合った。それでもモスクワ以外の大都市は核攻撃を防げなかったが)
そして、この核攻撃がアメリカからのものだということが判明した瞬間、ロシアと中国は報復の為の核攻撃をアメリカ合衆国に対して開始した。
それが第三次世界大戦、その始まりの合図だった。
ロシア・中国(+北朝鮮)VSアメリカ(+韓国)という、悲劇的な戦争の。
第三次世界大戦が始まって一週間で、アメリカ合衆国の人口は四千万人にまで減少。しかも、生き残ったほぼ全員が放射線による被害を受けているという悲劇。当然、その国土の大半が核攻撃で完全に破壊されていた。
また、中国とロシアも―核の飽和攻撃を受けたアメリカ程ではないが―アメリカ軍の攻撃によって深刻な被害を受けていた。
特に中国は最初の核攻撃で共産党の首脳部が全滅し、その後のアメリカ軍の攻撃で党の構成員に深刻な人的損害が発生した為に、完全な無政府状態に陥っていた。
そして日本はというと、完全に自国に引きこもっていた。
政治面では、防げたとはいえアメリカから核攻撃を受けた以上、かの国に協力する必要はない、という意見が国の大部分を占めるようになった為。
そして、防衛面では、魔法使いを集めていた宮内庁が『守護結界』と呼ばれる戦略級の防御魔法を開発することに成功した為だ。
この守護結界によって、日本はあらゆる兵器の領海・領空への侵入を拒絶できるようになった。
その副作用として、結果的に在日米軍が日本から追い出されたりもしたが、それは余談だ。
こんな状況において、最初の核攻撃の被害から辛うじて立ち直ったEU諸国や一部南米諸国、大都市が少なかった故に攻撃を受けなかったアフリカ各国や中南米諸国、そして日本は、中国・ロシアとアメリカの和平交渉の仲介に乗り出した。
だが、この和平交渉は思わぬところで中断されることになる。
(ロシアが停戦に応じたので、全くの無駄だったという訳ではないが…)
無政府状態に陥っていた中国で、クーデターが起こり、新政権が樹立。
それだけなら良かったのだが、新政権はこの戦争の悲劇を日本とEU諸国の陰謀だと決め付けて、それら各国に対して宣戦布告を行ったのだ。
後に、これもテロ組織『救世会』が魔法によって裏で糸を引いていたことが解るのだが、この当時の各国は、中国の行動に戸惑うばかりだった。
アメリカ軍の攻撃によって、中国国内の産業とインフラはその多くが破壊されている。
避難民が現在進行形で出続けているような、そんな状況で、救援活動を行おうとしている各国に宣戦布告を行うなど、正気の沙汰ではないのだから。
ここに至り、第三次世界大戦は、中国・ロシア VS アメリカの核戦争から、中国・北朝鮮 VS EU諸国・日本・韓国の戦争へとシフトすることになる。
突然の宣戦布告を受けた日本やEU諸国等は戸惑いながらも対中国同盟を締結。
日本がEU各国に守護結界の魔法を提供し、EU各国は対中国戦争の為の戦力と物資を日本と最前線である韓国に提供するという取り決めがなされる。
戦争は、日本・EU諸国などの連合軍にとって有利に進んだ。
守護結界があるために、中国は敵国を直接攻撃できず、逆に日本・EU連合軍は好きなように攻撃できるのだから当然ではあるが。
この頃になると、ニュースなどで伝えられる戦争の悲壮さから、漸く、俺はこれが夢ではなく現実なのではないかと思うようになっていた。
四ヶ月以上が過ぎているのに覚めない夢などありえないだろう、と思ったというのもある。
そんな時、あの自称精霊が久しぶりに話しかけてきた。
「やっと、これが現実だと認める気になりましたか。
頑固、というよりは、世界に興味を持っていないが故に、なのでしょうが、人として異常です」
ファンタジーな存在に異常と言われてもねぇ。
そんなことを思いつつ、俺は口を開いた。
「それで、どういうことなんだ?」
「このままだと、世界が後五年で滅びる。極論すればそれだけですよ。
まぁ、この戦争で、文明が幾分か削れましたし、人口も減りましたから、六年ぐらいは持つかもしれませんが」
以前に週刊誌の特集で読んだ、マナが~とかいうやつだろう。
あの本によれば、魔法使い達は光り輝く精霊達からそれを教えられた、と書かれていた。
おそらく、四ヶ月前に、この自称精霊の同類から説明されたのだろう。
俺は全く信じなかったが、世の中にはそんなありえないことを信じる奴が大勢いたということか。
だが、それが本当だったとしても、根本的に解らないことがある
「なぜ、お前はそれを俺に教えるんだ?」
俺はそう尋ねた。
彼女は、その言葉を信じるのなら、この四ヶ月間、俺がこの世界を現実だと認めるのをずっと待っていたことになる。
普通に考えるのなら、そんなことをするぐらいなら別の人間に対象を切り替えるべきだろう。
「貴方が私のパートナーとして選ばれたからです」
「それは何でだ?」
理由が解らずに尋ねる。
パートナーというのもよく解らないが、質問としてはその理由のほうが先だろう。
「聖精霊様は、この時代に生きる人間を、魔力が高い者から順に、配下の精霊たちのパートナーとすることを決めました。
人間に世界の今後を選択させる為に」
「…聞きたいことが一気に増えたんだが…まぁ、いいか。
その聖精霊様というのは何なんだ?」
「世界の監視者ですね。
世界の誕生と共に生まれ、この世界を見守ってきた存在。
私達精霊の取り纏め役です。
生命の進化にも干渉していたりするので、ある意味、人間という存在の生みの親とも言えるかもしれません」
それは凄いな。けど…。
「そんな存在が居るのなら、世界の滅びを防ぐことだって出来るんじゃないか?」
「今問題になっているのは、世界のマナの許容量です。
いかに聖精霊様とはいえ、世界そのものを改変することは出来ません」
その言葉に「ふ~ん」と呟きつつ、俺は次の質問を尋ねた。
「魔力の高い者達から順に、配下の精霊たちのパートナーにした、っていうのはどういうことだ?」
「どういうこと、と言われても、そのままの意味です。
人間の中で魔力が一番高い人間に、聖精霊様の配下で一番偉い精霊を、魔力が二番目に高い人間には、二番目に偉い精霊を、魔力が三番目に高い人間には、三番目に偉い精霊を…という形で、聖精霊様は配下の精霊を人間の下にパートナーとして派遣しました。
精霊は、聖精霊下第千二十四位まで居るので、合計で1024人の人間の元に精霊が派遣されたことになります」
「つまり、お前が来たということは、俺にもその魔力とやらがあるということなのか?」
疑わしげにそう尋ねる。
普通に考えれば、魔力=魔法を使うための力、だ。
つまり、それが本当なら、俺にも魔法が使えると言うことになるのだが…
正直、自分が魔法を使っている姿なんて想像すら出来ないんだよなぁ。
「勿論です」
しかし、そんな俺の思いとは裏腹に、目の前の自称精霊はそう断言した。
「へぇ」
気分は「1へぇ~」だ。
正直信じられない。
それとも、やっぱりこれは夢の世界なんだろうか?
「全く、また信じていませんね。
もう少し他人の言う事を信じたらどうですか。
ま、実際に魔法を使ってみれば信じざるを得ないでしょう。
今から私が言う言葉を繰り返してください」
自称精霊はそう言うと、何やら呟きだした。しかし…
「~~・・・・・・…~…・・・・・・・・・…~…・・・・・・~~」
うん、何言っているのか、さっぱり理解できねぇよ。
「ああ、そうでした。人間はオリジナル・スペルを喪失しているのでしたね。
ちょっと待ってください。
貴方の脳に、直接、オリジナル・スペルの情報を入力しますから」
自称精霊はそう言うと、俺が止める間もなく、再び何かを呟きだした。
「~~・・・・・・…~~・・・・・・…~~・・・・・・…」
そしてその音が途切れた瞬間、ガ!という衝撃が俺の脳裏を襲った。
衝撃で平衡感覚を失った体が床に倒れる。
「~~~~~!」
俺は倒れたまま、声にならない悲鳴を上げた。
痛いとか、辛いとか、そういうレベルじゃなかったのだ。
二度と経験したいとは思わない、思い出すことすらキツイ。
そういう類のものだった。
「この程度で倒れるなんて、相変わらず人間はひ弱ですね」
馬鹿にするようにそう呟く自称精霊。
そりゃ、この苦痛を受けて倒れなかったら、そいつは人間じゃねぇよ。
そう心の中で俺は愚痴った。
「さて、そろそろ平気でしょう。
私が言うオリジナル・スペルを繰り返してください」
漸くこの苦痛が抜けてきた頃、自称精霊はそう言った。
俺はまだ起き上がってすらいないというのに。
《世界よ、無より有を成せ、闇より光を成せ、光よ、顕現せよ》
その自称精霊の言葉が終わると共に、部屋の中が光で満ちた。
はっきり言って、眩しすぎる。
だが、その光は直ぐに弱まり始め、一分と経たずに蝋燭の炎位まで小さくなり、そして消えた。
「今のが、魔法です。今度はオリジナル・スペルが理解できたでしょう。
貴方も言ってみてください」
俺はよろめきながらも起き上がり、自称精霊に言われた通り呟いてみる。
《世界よ、無より有を成せ、闇より光を成せ、光よ、顕現せよ》
俺が言い終えた瞬間、部屋が白く染まった。
目が開けられない。それほどに強い光。
目を閉じても、瞼を超えて光が襲ってくる。
「ちょ、どんだけ魔力を込めているのですか。
ああ、もう!
《世界よ、有を無とせよ、光を闇とせよ、闇よ、顕現せよ》」
目を閉じて光に耐えている俺に、自称精霊のそんな言葉が聞こえてきた。
そしてその言葉が終わると共に、余りにも強すぎる光は消えた。
「明かりの魔法に、あんな魔力を込めるなんて、何考えているのです!」
怒るようにして自称精霊が怒鳴る。
だが、そう言われても困る。俺は魔力の込め方なんて知らないのだから。
「そうですね、そうでした。
貴方が規格外の魔力保持者だってことを忘れていました。
次から魔法を使うときは、威力を抑えるように念じながら使ってください。
それで幾らかはましになるでしょう」
規格外の魔力保持者って…
「そんなに俺の魔力って多いのか?」
「かなり多いです、流石に人間の中で一番という訳ではありませんけど」
呆れたように、自称精霊が言う。
「まぁ、いいや。
次の質問に移ってもいい?」
正直、魔力が多かろうがどうでも良かったので、話を進める為にそう尋ねる。
あんまり、魔法とかいう胡散臭いものに関わりたくないのだ。
自分の常識が音を立てて崩れていきそうだから。
ほんと、夢であって欲しいんだがなぁ。
「どうぞ」
「人間に世界の今後を選択させる為に、っていうのはどういうこと?」
「私達精霊は、飽く迄も、世界の監視者です。
そう定められて生まれました。
故に、私達は警告を出すことは出来ても、世界の選択に関わることが出来ないのです。
その為、世界の今後を選択する権利は、この世界で私達以外に唯一の高度な知的生命体である貴方達人間に委ねられることになりました。
そしてその補佐をする為に、私達が派遣されたのです」
監視者、ねぇ。
「今の言葉を聞いた限りだと、まるで貴方達をそのように定義して生み出した存在が居るみたいだけど」
「正確には、居ました、です。今はこの世界には居ません」
「それは死んだということ?」
「いえ、世界を生み出し、私達を生み出し、原初の生物を生み出した後、忽然と世界から姿を消しました。
おそらく、多次元世界へと旅立ったのではないかと」
「多次元世界、ねぇ…。
この世界の他にも世界があるんだ?」
「それは勿論ありますよ。
この世界に近い次元世界だけでも、確率が分岐する分だけ、無限にあります。
例えば、貴方が出会って直ぐに私の言うことを信じた世界などもあるでしょう」
それは既に俺じゃねぇな。そう思いつつ、口からは別のことを呟いた。
「所謂、IFの世界って奴か?」
「いえ、それだけではありません。確かに「もしも~」の世界も存在しますが、それ以外に、この世界とは完全に断絶した世界も無数にあるみたいですから。
まぁ、私も、聖精霊様から聞いただけなので、詳しいことは知りませんが」
なるほど、と、話が逸れているな。
「話がずれたな。
次の質問だけど、
世界中で派手にテロをやっている自称『魔法使い』達が、聖精霊が配下の精霊を派遣したという人間達、ということで良いんだよな?」
「ええ、そうみたいですね。
貴方みたいに全く信じなかった例外も居ますし、他にもテロ以外の方法での解決策を探っている者達も大勢居るようですが」
「ふ~ん、君の同類が人間を扇動してテロをやらせている訳じゃないんだ?」
「そんなことをするはずがないじゃないですか。
先程も言った通り、私達は監視者です。
情報は与えますが、何をするのか決めるのは人間達でなければならないのです」
「でも、意図的に与える情報を取捨選択して、結果的に人間の行動を操るということなら可能だろう?」
「可能であっても、私達はそういうことをしないのです。する自由がないと言っても良いかもしれません。
私達は監視者であることが定められているのです。
私が、この四ヶ月間、ここが現実の世界だと貴方が認める今日まで、貴方に何も干渉できなかったように」
なるほど、それで四ヶ月間も俺に付きまとっていたのか。
監視者であるが故に、自分から干渉して俺が決めた結論を変更できなかった、と。
「変わってるねぇ。もっと好きに動けば良いのに」
「貴方達人間とは違うのですよ」
ま、本人がそれで言いと思っているのなら問題はないのだろうけど。
俺に害があるわけじゃないし。
「質問は終わりですか?」
「そうだな、うん、たぶん終わりだ」
もう特に聞きたいことはない。
また後で何か出てくるかもしれないけど、その時に聞けば問題ないだろう。
「やっぱり、貴方は異常です」
俺の返答に対して、自称精霊はそんな毒舌を述べた。
「そうか?」
「ええ、異常です。
普通は、後五年で世界が滅びるなどと聞いたら、どうすればそれを回避できるのかなどということを考えます。世界が滅びれば自分を含めた人間達も死に絶えてしまうのですから。
けど、貴方はそれがない。
別に世界が滅んでも良いと思っている。
いや、違いますね。
世界が存続しようが滅びようが、貴方にはどうでもいいのです。
貴方は世界に興味を持っていない。
というよりも自分以外に価値を認めていない。故に、自分以外に興味を持てない。
だからこそ、自分の内面を破壊するものを酷く恐れている。
貴方が魔法や私などの特殊な出来事を忌避するのも、それによって貴方の常識が破壊されるのが嫌だから。
しかも、そうであるにもかかわらず、貴方は自分という者を見切ってしまっている。
別に自分が五年後に死んでも構わないと思っている。
違いますか?」
その推測が矛盾を含んでいることを、自称精霊は気が付いているだろうか?
普通に考えれば気が付かないはずがないのだが、常識からして違うようだからな。
ま、そんなことはどうでもいいか。
とりあえず、無難に返答しておく。
「さて、どうだろうね。
自分という存在ほど、解り難い物は無い。
俺はまだ十三歳だ。自己分析というのは難易度が高すぎる」
本当に、自分ほど解らないものはない。心底、そう思いながら。
「私には、貴方が十三歳にはとても見えませんよ」
「ま、どう思われようと構わないさ。
これが夢の世界である可能性だって残っているんだしね」
そう、夢の世界だ、という可能性があるのだ。
寧ろ、俺が魔法を使えるというご都合主義から考えれば、その可能性のほうが高いのかもしれない。
夢、夢ね。
こんなに長く続くのなら、彼女が生きている夢であれば良かったのに。
ああ、そうか、もしかして魔法なら彼女を…。
「へぇ、その年で恋人が居たのですか。
しかし、貴方にとっては重要な人物だったようなのに、よく今まで一度もそのことを考えませんでしたね。今知りましたよ」
面白い物を見つけたというような様子で、自称精霊が呟く。
その言葉で、俺は自分の考えが自称精霊に筒抜けになっていたことを思い出した。
「恋人じゃないよ。
彼女はそんな存在じゃない。
大切だった人。ただただ、大切だった人。
それだけ、それだけだった。
だから、今まで思い出さなかったのも当然だ。
大切だった人、それだけなんだから、一々思い出す必要性がない」
「それでも悔やみながら過去を振り返るのが普通の人間だと思いますけどね。
彼女が貴方の異常性の原因ですか?」
興味深げにそう尋ねてくる。
「だから言っただろう、自分という存在ほど、解り難い物はない、と。
そんなこと、聞かれても答えられない」
「そうですか。
では、魔法で彼女を救うことが可能だと言ったらどうします?」
「さて、ね。
その、救う、ということがどういう意味なのか、それが解らないことには何もいえないよ」
彼女を救うには過去に戻る必要がある。
その結果待っているのは、有名なタイムパラドックスだ。
彼女が救われたら、俺の性格は全く別のものになっているだろうから。
そうである以上、詳しいことを知るまでは、打てる手など何もない。
「ほんと、貴方は異常ですね。
普通なら、真っ先に飛び付くところでしょうに」
「何を持って普通とするかにもよるだろうよ。俺はこれが普通なんだから。
でも、そうだね、うん、
暇な時間にでも魔法を教えてもらおうかな。
できれば時間操作や時空間移動の魔法を」
ま、教わるだけなら無駄にはならないだろう。
精々が、彼女に教わった常識が壊されるだけ。
彼女を救えるかもしれないことの為にそうなるのなら、それもまた一興、というやつだろう。
「はじめからそう言えばよいのです。
しかし、面白いことを考えましたね、時間操作と時空間移動とは。
それなら確かに、五年どころ二~三年で彼女を救える水準まで至れるでしょう。
五年という時間制限がある現状ではベストな選択です。
魔法を信じていなかったくせに、そういう知恵は持っているのですね」
さてね、どうなんだか。
「それじゃ、早速教えてもらおうか」
さて、俺が漸く魔法を認め、それを教わり始めた頃、世界では再び大きな動きがあった。
後に『聖女』と呼ばれることになる女性、『極位魔法使い』マリエ・ナーベルが、この世界大戦はテロ組織『救世会』が暗躍した結果引き起こされた出来事だということを、ローマで行われていた国際会議の場で大々的に公表したのだ。
幻術魔法、電子魔法、精神操作魔法、等々を彼女自身による実演つきで説明し、魔法の真の意味での危険性を指摘。
その対抗策を発表すると共に、国際的な魔法研究機関の設立を各国に呼びかけた。
同時に、全世界に散らばっている魔法使いに対して、『もう一つ別の世界を人工的に作ることで、世界のマナ許容量を増やし、世界の破局を防ぐ』という、これまでの『人口を減らし文明を単純なものに戻すことで世界を救う』とは全く別の対処手段を提案し「テロによる破壊ではなく、新たな世界の創造によって、世界を救うべきだ」と全世界に向けて呼びかけ魔法使い達の協力を募ったのである。
一歩間違えば再び大規模な魔女狩りが世界単位で起きかねない彼女の暴挙は、しかし、彼女の名声に支えられる形で(ローマへの核攻撃(キリスト教の総本山であるバチカン市国も効果範囲)を防いだのは彼女なのである)ある程度の成功を収めることになる。
そして、一ヵ月後、魔法使い達の行動をある程度制御しておきたい各国の思惑もあり、マリエ・ナーベルを代表とするIMO(国際魔法協会 International magic Organization)が設立。
テロに加わることを良しとせず在野に居た魔法使い達や、各国の軍部に協力していた魔法使い達が相次いで参加した。また、テロ組織『救世会』に所属していた魔法使い達の中にも、別の方法で世界が救えるのなら、とIMOに寝返る者達が現れ始め、その勢力は急速に拡大していく。
この結果、魔法使い達は『救世会』と『IMO』の二つの勢力に完全に分裂することになるのであった。
そして、IMOの設立とほぼ時を同じくして、アメリカでも一つの組織が立ち上げられようとしていた。
組織の名前は反魔法連盟(anti magic league)
マリエ・ナーベルによる暴露によって、自国を襲った悲劇は全てが魔法使い達に仕組まれたものだと知った人々の怒りは、当然だが魔法使い達へと向けられた。
そんな魔法使い達に強い憎しみを持つ人々が集い、そして作り上げたのがこの組織であった。
その目的は、極論すれば『魔女狩り』だ。
彼らは、魔法使い達を認めない。
魔法使い達の主張を「人類を騙す為の偽りであり、テロ等を正当化させるための嘘」と断言し、積極的にその活動を妨害すると共に、魔法使い達へのテロ的な行動を含む、過激な活動を開始した。
『魔女狩り』という別名で呼ばれることの方が多いこの組織は、アメリカから全世界へと急速に拡大していく。
それだけ、魔法という常識外の現象への拒否反応が強かったと言うことなのだろう。
また、あの核攻撃での犠牲者なども含めて、テロ組織『救世会』に恨みを持つ人間がそれだけ多かったということでもある。
魔法使いに親しい者を殺された人々にとって見れば、IMOに所属する魔法使いですら、憎しみの対象であった。
『救世会』と『IMO』と『魔女狩り』
この三組織による三つ巴の攻防は、世界大戦の裏で、こうして始まった。
まぁ、自分勝手に魔法の練習をしているだけの俺には全く関係ないと言われれば、その通りなんだが。
そして、世界は魔法を中心に動き出す。
『IMO』を設立したマリエ・ナーベルは、連合軍を構成する各国から活動資金等の援助を得る代償として、この戦争に協力することを要請され、それを承諾。
『IMO』を使える駒として各国に認識させることでそれらの国を味方に付け、広がり始めた『魔女狩り』の動きに対抗しようとした、というのがその理由らしい。
まぁ、この推測はネット上で流れた噂なので、真実なのかどうかはわからないが。
『IMO』にとってみれば、テロ組織『救世会』のお蔭で世界中に広まってしまった魔法使いへの悪印象を消し去る為にも、『救世会』を悪の魔法使いの組織、『IMO』を悪の魔法使いから人々を守る善の魔法使いの組織、としておきたかったのだろう。
その為には『救世会』と敵対関係になる必要があった、という訳だ。
悪と善の対立関係は解りやすく民衆受けしやすい。『IMO』をこれまでの魔法使いの悪印象から切り離すのにはベターな選択といえるだろう。
まぁ、『IMO』が善の魔法使い達の組織かどうか? と問われれば首を傾げざるを得ないというのも事実ではあるが。
そのような状況下でマリエ・ナーベルは配下の魔法使い達を連れて中国に潜入。
中国の新政権を陰で操っていたテロ組織『救世会』に対する、戦闘行動を含む妨害工作を開始した。
この時の『救世会』と『IMO』の魔法使い同士の戦闘で、中国の地形がかなり変わってしまったとか。
具体的には、山が消えたり、平地が湖になったり、森が砂漠になったり。
そして、そんな激闘の末、マリア・ナーベルは『救世会』に壊滅的な打撃を与え、終には、彼らを中国から撤退させることに成功する。
『救世会』の後ろ盾を失った中国の新政権は急速に崩壊。
国内で反乱が相次ぎ、中国は内戦状態に突入。
それを見た北朝鮮が講和に応じたこともあり、こうして第三次世界大戦は終結した。
この戦争は、魔法使いという幻想の存在によって引き起こされ、そして終結させられたことから『幻想戦争』とも呼ばれることになる。
そうして、世界がとりあえずの安定を見せた後、マリエ・ナーベルは『IMO』を実働部門と研究部門に分割した。
研究部門が『新たなる世界の創造』を行う為の魔法を研究し、その傍らで実働部門が『救世会』や『魔女狩り』への対策を行うという体制を構築したのである。
同時に、世界各国に働きかけて、それぞれの国に魔法学校を設立させ、魔法という新しい技術の普及を促進させた。
とはいえ、魔法を使えるかどうかは個人差があり、また、魔法を使用できるほどの魔力を持っているかどうかは実際に魔法を使って見なければ解らないという状況であった為に、この魔法学校という学び舎は必ずしも上手く行っているとは言えなかった。
因みに、俺が居る日本などでは、一般の学校のカリキュラムの中に魔法学を組み込み、その中で魔法の才能が発現した者を魔法学校に転入させる、という方法が取られている。
まぁ、魔法学を教える先生が、魔法を全く知らない素人という笑えない状況の為、その授業で魔法の才能を発現させた生徒は本当にごく僅かしか現れなかったようだが。
俺はというと、意図的に手を抜いて魔法を使えないように装っていた。
魔法学校に転入とかなったら、面倒なことになるのが解りきっている。
そもそも、精霊が大抵の魔法を教えてくれるので、わざわざ魔法学校に通う必要がないのだ。
俺は時間移動の魔法が使えればそれで良かったのだから。
その代わりという訳ではないが、俺が影からアドバイスした結果、俺の友人である三人が魔法を使えるようになり、魔法学校に転入することになった。
一つの中学校から三人の人間が魔法学校に転入すると言うのは、それなりに快挙だったようで、テレビ局までが来たのには驚かされたが。
第三次世界大戦後、世界の国々の魔法に関する動きはどうだったかというと、これは本当に様々だった。
俺が居る日本は、魔法によって核攻撃から救われ、また、魔法のお蔭で戦争による被害を受けなかった為に、世界でも有数の親魔法国となっていた。元々、ゲームやアニメなどで魔法が馴染んでおり、その上、宗教的な制約がなかったと言うのも大きい。
他にも、戦争やテロなどによる被害を余り受けず、国内の魔法使いによる恩恵の方が大きかったアフリカの各国や一部の中南米各国が親魔法国として存在していた。
反対に、アメリカやロシアは、完全な反魔法国だ。
特にアメリカは国民の90%以上が反魔法連盟、通称『魔女狩り』に参加しているという状態である。
魔法使いによって引き起こされた核戦争で人口の4/5が死に絶え、生き残った人々もその多くが放射線による被害を受けたのだから当然ではあるが。
そして、ヨーロッパや中東などの国々は、というと、これはまた複雑な立場に居た。
簡単に言えば、政府は親魔法派よりなのだが、国民は反魔法派よりなのだ。勿論、国によっては例外もあるが。
政府が親魔法派よりなのはある意味で当然であった。
単純に戦力だけで見ても魔法使いは戦略級であり、その他にも、インフラ整備や天候操作による農業支援などで大いに役立つのだ。彼らを国に取り込むことがそのまま国の強化に繋がると言っても過言ではない。
その上、テロ組織『救世会』に対抗する為には、彼らと同じ魔法使い達の協力が絶対に必要だった、という事情もある。
そうである以上、国策が親魔法派に傾くのは当たり前であった。
また、国民が反魔法派よりなのは、テロ組織『救世会』への憎しみや反感と、そして宗教的な要因によるものだ。
キリスト教やイスラム教の教義では、魔法使いはどちらかと言えば『悪』の部類に入る。
その上、魔法使い=テロ組織である『救世会』、というイメージが一般に広まってしまっている為に、それが先入観となってしまい、好意的な印象を魔法使いに持ち辛いのだ。。
それと、これは殆どの政府や国民に言えることだが、魔法使い達が主張する「このままだと、五年後に世界が滅びる」というのは余り信じられていなかった。
まぁ、当然だろうと思う。俺も、正直、未だに信じていないところがあるし。
日本の宮内庁など、それを信じて行動しているような所もあるといえばあるのだが、やはり国全体としてみれば、信じていないと言わざるを得ないのだ。
後は、日本の宮内庁とIMOの関係が微妙なものになりつつあるらしい。
宮内庁はIMOが設立される以前から、東京と大阪への核攻撃を防いだり、守護結界を開発したりと、魔法に関してかなりの力を入れてきた。
どうも、IMOは、その宮内庁の研究成果を宮内庁の下部組織ごと強引に接収しようとしたようなのだ。
まぁ、これは宮内庁だけでなく、日本政府からも猛反発を受けたことで(今では、宮内庁の魔法技術は日本の国防の中枢なのである)IMOの方が折れたのだが、それ以来、宮内庁とIMOの間には微妙な関係が続いているらしい。
この為、親魔法国であるにもかかわらず、日本にはIMOの支部が進出しておらず、日本に居る魔法使いは基本的に宮内庁に所属するという形になっていた。
世界の様子は俺が知る限りこんな感じである。
『救世会』が中国で大打撃を受けた為か、そのテロ活動も嘗てに比べれば沈静化しつつあり、魔法というものが出現したことによる混乱が漸く収まりつつあるということなのだろう。
まぁ、本当にタイムリミットが後五年しかないのなら、混乱が収まったところで大した意味は無いのかも知れないけれど。
そして、世界は表面上は安定を見せたまま、二年の月日が流れた。
補足
この作品で言われている『マナ許容量』は、PCゲームなどにおける計算処理の限界と考えると解り易いかもしれません。
例えば、古いPCで戦争系のゲームをやると、年代が進んで各国の保有する軍隊が延々と増えた時、コンピューターがそれを処理しきれずに、どうしてもフリーズするか強制終了するかしてしまうことがあります。
これを回避する為には、増えた軍隊をチートなどで消し去って、PCが処理できる程度に部隊数を削減する。もしくは、CPUを新型に変えるか増設するかしてPCの演算能力を上げなければなりません。
この現象がそのままこの作品の世界の現状に当てはまります。
人口が増えすぎ、しかも高度な文明によってそれが複雑化したために、このままだと、後五年で世界の許容量(計算処理の限界)を超え、世界が滅んでしまう(フリーズしてしまう)という状況になってしまったのです。
これを回避する為には、人口を減らし、かつ、複雑化した文明を簡単なものへと戻すか。
もしくは、別の世界を生み出し、二つの世界を繋ぐことで許容量を増やすか。
そのどちらかの手段が必要になります。
とはいえ、実はこの世界はゲームの世界でした、などということはありません。
PCゲームの例は、飽く迄も比喩的な説明であり、イコールではないので。
以上、一般的なファンタジー作品とは、マナの意味が違っていることへの補足でした。
始めまして、一唯です。
せっかくなので、私もここに小説を投稿してみよう、ということでオリジナル小説を一つ書いてみました。
私は執筆速度が遅いのですが、気に入っていただけたのなら、今後とも読んでいただけると幸いです。
追記(二月十四日)
第一話に入れる予定だった内容を序章に追加しました。
物語の本編を高校生から始めたほうが流れがすっきりしそうだったので。