43話 ポンちゃん、移動レストランオープン
いつもよりちょっとボリューミーです
あれから数日間、弟子たちとわちゃわちゃしながらレストランの運営方法を取り決めていく。
客人は最初こそ数名だったが、せっかくジーパに来たのだからと懐かしい面々を招待しては食事をご馳走する運びとなった。
今回は勇者シルファスの契約がメインだったが、ついでとばかりに今まだ溜め込んだレシピを提供。
湖の向こう側の景色を想起してもらうとともに、舌鼓を打ってもらう算段だ。
「このでっかい肉がスープ?」
「ああ、それはザイオンに生息しているドラゴンの尻尾肉だ。ゼラチン質が豊富で、一度煮出してから再度皮に詰め込んだ一品となる。熱すればそれ自体がスープとなり、一体化するんだ。口の体温でうまい具合に溶けると思うので、まずは食べてみてほしい。ジーパの鬼人にも親しみやすい味わいにはしているつもりだ」
肉よりも野菜や魚を主食としている鬼人達。
揚げるよりも煮るや蒸すのを好む。
そんな彼らに披露したのはヨーダとマールも絶賛したスープだ。
肉本来のオイリーさも感じさせながら、口当たりはスープそのもの。
浮いた野菜が程よい食感を生み出し、気がつけば大皿を傾けて飲み干している。
そんな光景を思い浮かべて作り上げている。
「驚いた、想像以上に飲みやすいな!」
「氷河、自分一人だけずるいぞ!俺の分も回せ」
「一人一食だ。そうだろう、旦那?」
早速、ジーパの守備隊長が睨みを聴かせて自分の取り分の確保に急いでいた。
ビュッフェスタイルでテーブルに所狭しと置かれているうちから、物珍しいものを一皿全部奪って口に入れている。
手掴みなのはご愛嬌。
ジーパの文化で箸を使う礼儀作法はない。
鬼人ならではの豪快な作法が尊ばれている。
「はは、急がなくても皆さんの分はありますよ。今日は貸切です。いろんなメニューをご用意してるので、お腹は余分に空かせておいてくださいね。ではティルネさん」
「はい、皆さんにジーパ酒の発展系をご用意示唆ていただいております」
「あんたは確か、ロクさんのところの!」
「お久しぶりでございます、皆様。今回は甘味処の店主としてではなく、酒造を担う一人の人間としてお付き合い願います。こちらは純米酒の発展系、焼酎と呼ばれるものです。辛口で、酒精が強いので、普段のように一気に煽るようにいただくのはお勧めしません」
「ほう?」
大の酒飲みの紅蓮が確かめるようにお猪口に手を伸ばす。
純米酒を好む彼は、忠告を聞かずに一気に煽り、ぐらっと体をよろめかせる。
「おぉう、これは想像以上に効くな」
「ですから一気にお召し上がるのは危険と申しました」
「だが、米の味が随分と強く感じる」
「ジーパの大地が育んだ米は粒が立ち、酒の風味を際立たせます。それで作った酒が美味くないわけがない」
言い切るティルネに、紅蓮も同意する。
「おい、紅蓮。その焼酎なるものはそれほどか?」
「お前が飲めばぶっ倒れるかも知れんぞ?」
肌の色より顔を赤くする紅蓮に、お前の場合は肌の色よろ青くなるかもなと忠告される氷河。
腕前は互角だが、酒の飲み比べでは常に一歩紅蓮に届かずにいた。
「ほっほ、そちらの腕ばかりあげて、ジーパ菓子の真髄は鈍っておらぬか?」
そこへ、鴉天狗のロクがティルネに挨拶を入れてくる。
先に何品か摘んだのだろう。
口元を何かの葉っぱで拭いながら近づいてきた。
「やや、これは師匠。お久しぶりにございます」
「弟子よ、約束を覚えておるか?」
「もちろんでございます。次会うときは対決の時。その時までに研鑽を積んでおく。これにおいては一日たりとも忘れておりませぬ」
「ならばよし! 早速勝負を挑みたいがよいな?」
「望むところでございます。そして、その勝負の決着をお客人に選んでいただくと言うのはどうでしょうか?」
「ワシのホームで、ワシ相手にジーパ菓子で挑むだと?」
「私がご用意したのはジーパ菓子ではありませんから。外の大陸の菓子をジーパの皆様にも味わいやすく噛み砕いたものにございます。ぜひご賞味いただきたく」
「ほう、見せてみるが良い!」
ここの姉弟の対決は相なった。
酒に酔えぬ年若い者や、女子供はこぞってタダで食える菓子に舌鼓を打つ。
ロクの作り出す団子の腕前は一級品だが、油分を落とし、甘みを抑えた外の世界の歌詞もまた魅力的で甲乙つけ難いものになっていた。
特に芋を練って焼いたスイートポテトは、栗きんとんより甘さが控えめで食べやすいと女衆に評判だった。
ねっちりと甘いのに、後を引く風味で芋だけの旨味ではないことに気が付かされるのだ。
「おっちゃん、腕を上げたなぁ」
「ヨルダ殿の新鮮な野菜があってこその菓子です」
「へへ、嬉しいことを言ってくれるね」
「く、これは流石に敵わん。腕を上げたな、弟子よ」
「まだまだ道半ばにございますれば。それよりも私には師匠の団子の奥深さに感心してしまいます。まだその先があったか、と唸ってしまうほどでした」
「これで負けたらわしの500年が霞むからのぅ」
「団子の腕ではまだまだ敵いませんね」
「それ以外ではボロ負けだからの。これだけは負けられぬ」
なんて、お互いを褒めあって旅の話を肴に日本酒を振る舞った。
旅先で仕入れた茶の種類に感嘆とし、甘味をつまみに話を盛り上げる。
かつてジーパで過ごしていたことを思い出しながらティルネは一時の団欒に混ざった。
その一方で珍しさから興味を引く屋台がある。
ケモミミを生やしたシルファスの屋台だ。
コロコロとした揚げ物は、香ばしいソースとオイリーなマヨネーズで彩られ、中には海産物の風味まではらんでいる。
主食に海産物を含むジーパ人は、これが一体なんなのかと興味が心身だ。
洋一は「やってるな」と思いつつ手助けはしない。
シルファスが望む夢に全ての種族が好む粉物を作り上げると言うものがあるためだ。
「この丸っこいの、脂っこいと思えばそれほどでもなく、中はトロッとして美味しいわ」
「中にはお魚の風味が効いていて美味しいね」
「これは、ジーパで流行るわよ」
「ザイオンはもっと野蛮な種族だって効いてたけど、認識を改める必要がありそうね」
ジーパ人とザイオン人は犬猿の仲であった。
旅先で見かければ一触即発で、色の違いでも諍いが起きない。
そんな種族の振る舞う料理をどこかで見下していたジーパの民。
それがたこ焼きを口に入れた瞬間、虜になっている。
「なぁ、これはミンドレイでも食べられるのか?」
来年成人したらミンドレイに住むと述べる子供が、シルファスに聞いてきた。
「どうかなぁ、これは俺の発案だ。まだどこにも出回っちゃいないんだ、これが。もし坊主が気に入ってくれたんなら、特別に作り方を教えるが、やってみるか?」
「おいらにこんな細かい仕事できるかな? 後おいらは女だ。そんなに男っぽく見えるか? 坊主はショックだ」
「そりゃ悪かった。姉ちゃんも女なんだ。これでお互い様か?」
「見えないよ! しかも俺って言ってたし」
「ワハハ、外の世界はおっかないところでな。女の一人旅なんてしてられないんだ。そのための男装だぞ?」
「ふーん。じゃあそっちも含めて教えてくれる?」
「たこ焼き以外にもか? まぁ乗りかかった船だ。どんとまかしてくれ」
「やった」
だなんて弾んだ声が聞こえてくる。
中には本当に女なのかと疑いの視線を向ける目もあった。
まだ民族差別の抜けきれぬ目があるのは仕方がない。
シルファスがどこまでジーパに許されるかで、今後が決まると思っていい。
そのためにも第四王子のゼスターが王位を取ってくれたらなと言う思いが募る一方である。
「盛況であるな」
「おかげさまでね」
今ではこの空間の主人みたいな振る舞いの玉藻。
以前までは借りてきた狐みたいな振る舞いだったと言うのに。
洋一のダンジョンで、さらには契約者だから実質自分のダンジョンの庭先みたいな感覚なのかも知れない。
ちゃっかりダンジョンに専用の通路を設けていつでも自由に行き来できるようにしていた。
なお、女王である華まで顔を見せているあたり、暇を持て余しているのかも知れない。
「このままジーパに居残って欲しいところではあるが」
「あいにくと、迎えに行き損ねた奴がいますので」
「母君か。だったら引き止められぬな」
「悪いね。物事に優先順位をつけないとだらだらと居座ってしまうタチなんだ」
「知っておる。人間換算で一年は長い方であろう? ダンジョンに入っていたとはいえ、随分と長い時間をここで過ごしてくれた」
「いつでも帰ってきますよ。次はオリンを連れて」
「でも寂しさからたまにここにきても良いか?」
「いつでもお待ちしておりますよ」
「やはり料理は作りたてが一番じゃからの」
もう冷めた料理は嫌だとその両目が訴えてきている。
王族あるあるなのか? だなんて考えながら厨房に戻る洋一。
懐かしいといえば数年顔を出さなかったミンドレイのとあるレストランにそろそろ赴きたいな等考えた。
◆
「それじゃあ、また準備ができたら開くから」
「いつでもはやってないのか?」
「仕入れの問題もあるからな。その時は華様から直々に宴の催しがあると通達される。その時はまたよろしく頼むな」
「つまり定期的に?」
「可能であればという話だよ」
鬼人からこぞって引き止める手を振りほどけずに、洋一は開催はジーパ国の祭りに合わせて振る舞うと約束を入れた。
レストランという形式上、いつでも来られるがひっきりなしにこられても困るというのが本音。
けど出したメニューを喜んでもらえたという事実が作り手としてありがたいのも事実だ。
「それでは華様。後ほど連絡を入れますので、後のことは頼みます」
「玉藻様も大変気に入っておりました。わざわざ我ら鬼人にまで斯様な対処、心入ります」
「こっちも好きでしてるのさ。鬼人の人付き合いの良さにもさっぱりした性格にも救われてきてる。これはせめてもの恩返しだよ」
『たまらぬだろう、華? こちらが何をしたわけでもないのにこの態度。母君が惚れ込むわけよ』
「全くでございますね。ただの一度、受け入れただけでここまでの返礼をいただけるとは思いませんでした」
何やら感銘を受けた華と玉藻の様子に洋一は苦笑いする。
洋一たちは移動するが、この場所には玉藻を通じていつでもこれる。
そういう安心感があった。
「それではしばらくの間席を開けます。準備が出来次第呼びますので、その時まで」
『馳走になった。代金はどうすべきか』
「もう受け取ってますよ」
『はて?』
「料理人にとって、美味しいという言葉は何よりも重いものです。稼ぎを目標としてないのもあり、こちらは振る舞いこそスレそれを味わってくれる対象に飢えている。両者納得の形がこのレストランなのです。その都合上、開催タイミングは完全にこちらの都合になってしまうんですが」
毎日は難しいこと、お金は特に欲してないことを伝えると鬼人と妖狐はポカンと大口を開けて呆けていた。
洋一は何かおかしなことを言ってしまったかと首を捻るが、途端に笑い出す玉藻に驚いている。
『ワッハハハ。これはいっぱい食わされたわ』
「左様でございますね。化かすのが得意な我々が、化かされた気分です」
人を化かして取り入る妖怪に完全にいっぱい食わせてしまった形の洋一。
得意技能を生かした返礼がただ料理だっただけであるが、大層気に入られてしまった。
まぁそんな日もあるさと特に気にせず思考をミンドレイ城下町に向ける。
「ではまた」
そんな軽い挨拶で、かすみのように存在をかき消す洋一一行。
これではどちらが妖怪かわからぬわと玉藻が囀る。
宴は終わり、日常が始まる。
ジーパの夜は静かに更けて行った。
「ではシルファスさん、次の街に向かうとしましょう」
「びっくりするくらい順調にMPが溜まってビビってる」
洋一には預かり知らぬところだが、勇者にとってMPってそんなに早く回復しないらしい。
「オレはゲーム知識そこまでないんだけど、一回のジャンプで次に飛ぶ時はどれくらいかかるものなんだ?」
ヨーダの質問にシルファスは頷く。
この世界そのものの知識はないものの、ゲームをそれなりに齧ったことのあるヨーダ。洋一への解説役にも一役買っての抜擢だ。
「ゲーム内時間で一週間は束縛されるな。元々転移系のスキルは貴重だし、術者もいない世界だ。勇者特典みたいなものだから、その間にミニクエストをこなしてしまう感じだよ。山賊退治とか、勇者に休息はない感じ」
「ただの小銭稼ぎだろうに」
「それを言われちゃ元も子もない」
ヨーダのツッコミにシルファスも痛いところをつかれたという顔。
今回、転移には洋一とシルファス、ヨーダのみが赴き、それ以外は洋一のダンジョンでくつろいでいる。
合流は洋一がダンジョンを開けばいつでもできるためだ。
いっそ中に生活空間を築いてしまいつつあるので、旅の移動は快適になっていた。
実際は出番が来るまで待機という形だ。
「ミンドレイの要請値は契約済みで用はないから、次はアンドールかな」
「あそこか」
「なんだかんだ1年ぶりだな」
「ポンちゃんは滞在スパンが長いからな。オレらもバカンスで行ったきりだわ。あの時はまだ在学中だったか。時の流れは早いもんだね」
「ついつい長居しちゃうんだよ。その地域の料理を覚えるってなったら尚更さ」
「料理人の性だねぇ」
「当てがあるのは洋一さんか。鏡の準備を」
「はいよ」
「じゃあ飛ぶぞ。聖剣エクスカリバーよ、鏡の人物への道を示せ!」
八咫鏡に聖剣が差し込まれ、錠に鍵が差し込まれるようにカチリと回る。
その場にいた三人は、即座にかき消えアンドールで今一度姿を現した。
一度行ったことのある場所、交友を交わした人物への直接転移。
なんだかんだすごく便利な技術だよなぁと感心する。
「ここも変わってないなぁ」
どちらかといえば島国だったジーパから、亜熱帯地方への転移。
照りつける太陽から逃げるように腕で影を作り、街中を歩く。
道ゆく人々は忙しそうに自分たちの目的の為に足早に行き交う。
「アンスタットも随分緑が多くなってきたな」
「そうなのか? 俺は初めて来るからわからないんだ」
「そう言えば獣人てあんま見なかったな」
「暑苦しいところは苦手なんだ」
洋一の言葉に、シルファスが相槌を打つ。
これほどまで特徴的なケモミミ、一度見たら忘れられないのだが。
「そういえばザイオンの暑さは湿度が高かったな。対してアンドールは」
カラッと晴れ渡っている。
元々砂漠地帯だったのもあり、緑が増えても日光の強さが変わらない。
懐かしみながら歩いてると、道をかけ分けて一人のハーフフッドが走ってくる。
「やっぱり旦那だ! 帰ってきてくれたんだな!」
「もしかしてバイセルさん?」
「覚えててくれたんですか? こんなにふっくらしちまったのに」
「俺にここまで物おじせずに話しかけてくる人って限られてるからね。ただいま、バイセルさん。今のアンスタットを案内してくれるかい?」
「へい、合点でさぁ!」
言って、すぐに手持ちの荷物をその辺に置いて洋一達の案内を優先し始める。
「おいおい、荷物置き去りにしていいのかよ」
「そうだぜ、不用心にも程がある」
ヨーダとシルファスがバイセルの迂闊さを指摘する。
ミンドレイやザイオンの治安の悪さを知っているからだ。
しかしここアンドールでは、ハーフフッドのナワバリ意識が強く、全員が知り合い。
洋一の帰還を知って、その案内に駆り出されたと知ったからこその荷物への配慮は欠かさなかった。
以前までのアンドールなら、ミンドレイの承認が幅を効かせていたが、洋一達が追い出したのでもうここはハーフフッド達の街になっていた。
当然国外の冒険者もいるが、決して弱くないハーフフッドにわざわざ喧嘩を売りに行くような奴はいなかった。
「大丈夫だよ。ここのハーフフッドはナワバリ意識が高いんだ。冒険者だって伸しちゃうくらい強いしね」
「へぇ、人は見た目だけじゃわからんもんだなぁ」
「本当にな」
納得しながらバイセルの跡をついて行く三人。
街の景色を抜けた先には見渡す限りの畑があった。
「こっちです。ヨルダさんが手入れしてくれた畑もようやく軌道に乗ってきたんですよ」
「へぇ、すごいな。随分と熱心に世話をしているのがわかるよ」
バイセルが捥いだ茄子は濃い紫をメインに七色に輝いていた。
洋一は包丁で縦に割り開くと、軽く塩を振って取り出した鉄板の上で焼いた。
灼熱の地であるからこその料理法だ。
まるで普段から鉄板焼きをしてるかのような、土台が用意されていた。
鉄板の上でじわじわと焼き目をつけ、しわしわと川が緩んで身が柔らかくなっていた。
「あー、醤油をかけて食いたいな。こいつは」
「わかる」
鉄板焼きに食いつくのは現代日本の知識があるこの二人ならではだろう。
「醤油ならあるぞ。魚醤でよければ」
「あー、癖はあるけど背に腹は変えられないか」
「割り箸もどうぞ。皿は……」
「もちろんご用意しております」
わかっておりますよ、とバイセル。
ここではこの風景がありふれているのだろう。
匂いに誘われて、作業中の農家が自分の畑の農作物を持ってやってきていた。
「誰かと思ったら町長じゃないですか! お帰りなさい、もう用事は終わったんですか?」
「まだ途中なんだ。今日はこちらのシルファスさんの案内を兼ねていてね」
「アンドールの暑さは獣人にゃ答えるでしょう。よければ傘をお貸ししますよ」
ハーフフッドでもここの暑朝には参ってしまうのだろう、随分と厚みのある日傘を愛用しているようだ。
シルファスはそれを受け取り、なんだかんだ気に入ったように装着した。
「お、随分いいな。目線が塞がれないというのもいい。お代は」
「いただけませんよ、町長には返しきれない恩義があります。そのお客様からお金を取るなんて」
「そういうことだ。俺も彼らにお金を頂かない施しをしたからな。物々交換だよ。だからそうだな、自慢のお好み焼きを振る舞ってやったらどうかな」
「お、そういうのいいね。なら、早速準備をしようか」
鉄板はシルファスにとっても馴染みのある調理器具だ。
常に持ち歩いてる鉄ベラを構え、これまた常に持ち歩いてる小麦粉に卵、水をお椀の中でかき混ぜる。
「何が始まるんです?」
「面白いものさ。彼はザイオンの生まれでね、その中でも火がしっかり通った食事を好む」
「ザイオンは確か生食を好むって聞きますが」
「変わり者なのさ」
俺と一緒でね、と洋一。
すぐに鉄板の上ではジュワーと粉物の焼き上がる香りが農園に広がった。真剣な目つきで鉄ベラを操り、ひっくり返したところへ持ち歩いてるソースを愛用の刷毛で塗りたくる。
その動きはプロそのものだ。
削り出した鰹節、紅生姜を合わせて皿の上に。
「マヨネーズはないの?」
「あるけど、ここの住民が油っぽいものを好むか次第だな」
「あー」
見慣れないスタイルのお好み焼きに、足りないものがあると指摘するヨーダ。それに対してシルファスはお好みのトッピングとして提出した。
ミンドレイであればかけて出しても構わないだろう。
しかし見知らぬ土地でそこまでする勇気もまたなかった。
「洋一さん、ここでは普段どんなものが食べられてるんです?」
「揚げ物か辛いものだな」
「脂っこくていいならマヨネーズもありか」
「そこは個人差があるから」
手本がわりに洋一が口に運ぶ。
よく咀嚼して、味の評価を出す。
食べ慣れた味だ。
バイセルに食べ方を伝えると、彼が食べ、次第に集まったハーフフッドも口に入れる。
最初は食べ付けないソースとお好み焼きの組み合わせに驚いていた。
だが食べ進めていけば、この組み合わせもありだと考えるようになる。
「こんなのもあるぞ」
取り出したのは一味唐辛子である。
マヨネーズをかけた後で一振り。
バイセルはようやく食べ慣れた味になったとみんなに言いふらした。
その後おかわりが続き、シルファスは忙しそうに、それでいて楽しそうに鉄板の上でお好み焼きを作り続けた。
ヨーダと洋一はそれを横目に乾杯をする。
すっかり飲んだくれモードだった。
◆
あれからバイセルに案内されてアンスタットの街並みを堪能した洋一たち。
行く先々で料理を披露し、なんなら構えたレストランへと招待しているうちに三日が過ぎた。
目的などとうに忘れて楽しんでしまった。
「いや、悪いのは洋一さんだけじゃないって。俺も勇者の使命バリバリに忘れてたし」
「どうも俺はこう、スイッチが入るとそればかり考えてしまう男でな」
「料理人としてお客様に美味しく食べてもらえるならば、それが本望なのでしょう。私もジーパで同じような経験をしましたからね。いやぁ、時の経過は残酷なまでに早いものです」
旅の目的を思い出させてくれたティルネにそう促され、洋一とシルファスは反省をした。
「ま、オレは楽しかったけどな?」
ここに一人、一切の反省をしない者がいる。
散々、飲んで騒いで周囲を巻き込んでいい空気を吸っていた人物。
ヨーダは馬鹿正直に任務だけするのなんて面白くない。
旅に寄り道はつきものだと快活に笑う。
「ねーちゃんは楽観視しすぎ。さっさと用事終わらせてミンドレイのお姫様に料理提供するって約束まで忘れちゃってんじゃねーの? オレはもう貴族やめたからどうでもいいけど。姫様無視して先にジーパで宴会したなんて耳に入ったらおっかねーぞ?」
「「「あっ」」」
ヨルダの問いかけに、洋一、シルファス、ヨーダの声が被る。
洋一は約束を交わした張本人で、シルファスは国交の架け橋としての顔役、ヨーダは筆頭貴族としての顔つなぎ役として自分の責務を思い出していた。
「そ、そうだった。まだ紀伊様への料理の準備何もしてないぞ!」
「大丈夫だ、ポンちゃん。まだ三日。オレの権限でなんとか引き延ばせる。オ、オレと紀伊様はズッ友だからな」
震える声で表情を青ざめさせるヨーダ。
いかに友達とはいえ、食の恨みとは恐ろしいものだ。
実際にどこまで引き延ばせるかは賭けでもあった。
「ここで三日だ。ジーパで二日過ごしたのを換算すると……」
「ヨーダ様の権限で伸ばせても後二日が限界でしょう。ジーパから王都まで片道5日。酔い潰れた鬼人がどれほどの速度で日常に復帰するかは分かりかねますが、楽しかった記憶を仲間に共有したいというのはこちらでも確認しております」
冷静な判断で指折り数えるシルファスに、マールが残酷な現実を述べる。
ミンドレイのレストランでウェイトレスとして培った鑑識眼。
来客は貴族が多いが、平民でも楽しめるラインナップのおかげで騎士たちや冒険者なんかも足を運ぶ。
その中には当然近いうちに国交を結ぶ鬼人の姿も確認していた。
「シルファスさん、MPは?」
「とっくに全回復」
「定点ジャンプできるからこそ、日程を組むのが下手くそになりましたね、私達」
「何言ってんだおっちゃん、師匠は昔から日程なんて組んで行動してないだろ?」
畑作りが数日でできてたまるか、と言いたげなヨルダ。
それを聞いたティルネも「そうでした、そうでした」と相槌を打つ。
二人の成長は、長い時間をかけて研鑽を積んだことで体得できたものだった。
もしこれが日程を組むタイプの主人と共にいた場合、二人はいつまでも落ちこぼれの魔術師の枠をはみ出せずにいただろう。
そういう意味ではその場所にどっしりと腰を落ち着けて技能獲得に勤しむ洋一のスタイルは、二人の成長を見守るのに適していたのだ。
責任を一切負わない弟子二人は、いかに自分たちが他国でゆっくり過ごしていたかを思い出し笑いあう。
「すまない、バイセルさん。急用を思い出した」
「こちらこそ長く引き止めてすいませんでした。あの時以上の感動を覚えております。もちろんこれらをこちらで模倣してしまってもよろしいんですよね?」
「当然だよ。料理ってのは一人の料理人だけで独占すべきものじゃない。いろんな人に渡り、アレンジされてこそ発見がある。その中で自分の味を出すのが料理人という生き様だ。バイセルさんもまたそのうちの一人だ。だから託すよ」
「オレはもうとっくに店を辞めて商人に成り下がっちまったぜ。けど、旦那はまだオレを料理人だと呼んでくれるんだな」
「生きるために必要だったとはいえ、それで客を取り、し生計を立ててきた人だ。だからさ、バイセルさんならこの料理をどう消化させるか一人の料理人として楽しみでもあるんだ。次来る時までに、宿題の答えを聞かせて欲しいな」
「分かりました、このバイセル。料理人として今一度花を咲かせてやりましょう」
「期待してるよ。それとこれらの調味料は餞別だ。馴染みのないものも多いが、使いながら独自の変化を見せてほしい」
洋一はそう言って醤油、味噌、麹などを並べていく。
どれもアンドール産の唐辛子との相性がいい調味料だった。
「確かに賜りました。これでまた旦那に借りができちまいましたね」
「貸し借りなんてしてないさ。俺はバイセルさんの料理をもう一度口にしてみたいと思った。ただそれだけだよ」
どうしてここまで洋一がバイセルを褒めるのか。
バイセル当人は全くわからないでいる。
が、実際に洋一やシルファスが鉄板焼きをする場面を、バイセルは無意識のうちに自分ならどうするかと瞳を輝かせ、一挙手一投足を見逃さずに注視していた。
他のものは「美味そう」と涎を垂らす中で、バイセルだけがかつて料理を振る舞っていた経験を覗かせたのである。
洋一としてはそういう気持ちが痛いほどにわかってしまう。
だからこその投資。
こういう投資を方々でしてきた。
それというのも、自分はこの世界の生まれじゃないから、ずっとはここにいられないという蟠りがあったから。
だから地元民に教え込み、独自の発展を知りたかった。
自分の知ってる名前で、知らない味の料理を食べてみたかった。
それが何よりも自分の味を高めるための修行になると理解してるからだ。
感無量とばかりにバイセルは洋一たちを見送る。
今まで散々足を引き止めるばかりだったハーフフッドは、次来たら今度はこちらが振る舞う番だと同胞たちに焚きつけ始めた。
それを尻目に、洋一はアンドールへ意識を向ける。
八咫鏡と聖剣の力を使い、元王族だった知人の店に顔を出すことにした。
拠点にしていたレストランから、アンドール随一のレストランへ一堂で乗り込む。
顔出しだ、と言いながら小腹を満たす気満々の面構えだ。
レストランに来るのに、挨拶だけなんて無粋な真似をしない洋一だった。
「大人6人で」
「今お席にご案内します」
ウェイターは知らない人だった。
客層もハーフフッドのみならず、ミンドレイの商人や冒険者もちらほら。
案内された席で、ヨルダやティルネが懐かしんでいた。
メニュー表には写真が投影されており、その横には番号が記載されている。
大盛りや小盛り、小鉢や汁物にまでしっかり画像と番号が記載。
多国籍の人員が集まるからこその配慮だろう。
「メニュー1つとってもこだわってんなぁ。そっか、文字が読めない可能性も踏まえて番号制か」
アンドール特有のミミズがのたうった文字はザイオン出身のシルファスには理解不能であるようだった。
実際に洋一はどこの言語も読めない。
だが、弟子たちが音読してくれるおかげでことなきを得ていた。
「なんかあれだな、券売機みたい」
「あ、それだ!」
ここのレストランを知らないヨーダの発言に、シルファスは「それだ!」と食いついた。
日本でのラーメン屋での販売方式だ。
英数字などは共通なのか、アンドールのミミズがのたうった文字でもなんとか読み取れた。
「ご注文、お待たせしました。テーブルへお並べしますね」
どこか大人びた雰囲気の鬼人が配膳係を務めていた。
洋一達に気付かぬまま、流麗な所作でホールへ戻った。
そのあと、厨房を通じて何やら騒がしくなる。
あ、やっぱり気づいてたんだ。
それを客前でやらないあたりプロ根性が窺える。
やっぱりあの子、ハバカリーのところにいた女冒険者だよなぁ。
「旦那!」
「久しぶり、ハバカリーさん」
「きてくれるんなら連絡してくれれば、いつでも迎えに行ったんだぜ?」
「混雑中にそんな真似はできないさ」
「よっす」
「お久しぶりです」
「お二人も、お元気なようで。と、知らない人もちらほら。今は仕事中で外せませんが、どうぞ心より料理を堪能してってください」
「楽しみにさせてもらうよ」
ハバカリーは厨房に引っ込んだ。
すっかり料理人の顔で、料理に自信があるようだ。
一年ぶりに食べる腕前に、洋一達はそれぞれスプーンを口につけ。
「おい、しぃ。なんですか、これ。ミンドレイ料理でもない、ましてやジーパのものとも違います。ザイオンとは雲泥の差で!」
「マールさん、言い過ぎですよ」
スープに口をつけたマールが他国の料理と比べて、感想を述べる。
その最下位にザイオンがいると知ってシルファスも心中穏やかじゃない。
「でもよ、あれから随分腕は上がってるぜ」
「はい。恩師殿と比べるのは酷ですが、これを日常的に食べられる環境はうらやましく思えますね」
「それな」
弟子たちもまた舌鼓を打つ。
まだスープしか飲んでないのに、随分と評価が高い。
その分お値段が高い典型でもあるのだが。
ここは元々ミンドレイの貴族の一人が統治していた国家。
ダンジョンの中から珍しい鉱石が出土し、それを占有することで財貨を得ていた国なのだ。
今でこそミンドレイ貴族はアンドールの中枢から撤退しているが、それでもここの貴金属は商人が足を運ぶほどの希少さを持ち、金回りは良い。
そこにできたレストランならば当然、舌の肥えた商人を唸らせる必要があるわけで。
金に糸目をつけない食材が贅沢に使われていた。
客層を見ればわかるぐらいに、ここに来れる庶民はいない。
いたとしても洋一のような恩人くらいだろう。
「ごちそうさまでした。随分と腕を上げたね、ミズネさん。代金は、メニューに書かれてなかったけど」
「流石に恩人から貰えないですよ。これは恩返しの一つだ。俺たちハーフフッドの国内での人権問題、アンドールの属国解放、サンドワームの排除。まだまだ返し足りないくらいです」
「そんなに大したことした覚えはないけどな」
「そうそう、師匠なんて、あいつ食ったらどんな味するんだろうくらいのことしか考えてなかったぞ?」
「それを打ち倒してしまうヨルダ殿も大概でしたけどね。私もいい経験になりました」
わっはっは、と当時を懐かしく思う三人組。
この国の恩人はどうにも懐が深いと客達がざわついていた。
部外者の三人は、この洋一達がこの国でどんな伝説を打ち立てたのかちょびっと気にしていたりもする。
それはさておき、本題へ。
今ダンジョンに入る場合、どこから許可を取ればいいのかの確認を兼ねて会いにきていた。
ここの厨房で腕を振るうミズネは元々ヌスットヨニ王国の騎士団長。
ダンジョンの入り口は王宮の真下に封されている都合上、出入りにはそれなりの身分が必要となっていた。
当然、領主代理であるヨウイチは顔パスで入れるが。
不在の間、何か変わってないかの確認も兼ねていた。
他国への滞在スパンが長すぎる洋一は、そういうトラブルも同時に抱えているのだ。
さっさとダンジョンに入ればいいのに、なんでそんな回りくどいことをしているかといえば、勇者のミッションのためである。
行方をくらましたオリンが最後に立ち寄った場所、エルファン。
エルファンへの道のりは、聖剣の封印を全部解除することで赴けるギミックがあった。
本来なら契約者特典で、洋一はアンドールのダンジョンを顔パスで入ることができるのだが、シルファスを連れてきてからというものの、ダンジョンコアのボタンとの連絡が取れずにいた。
これがゲーム世界の強制力なのか、はたまた別の理由か。
わからないなりにシルファスの攻略知識を当てにして行動した。
今日を含めてあと二日。
最悪紀伊を招待するのはアンドールのダンジョンの中になりそうだ、と洋一は市場で食材を買い込むのだった。
◆
「聖剣よ、我に道を示したまえ」
シルファスが剣を構えると、入り口を塞ぐようにして置かれた大岩がゴゴゴゴ……と鳴動しながら開かれた。
知らない、そんな演出。
ダンジョンに入った時も出入りする際も正門から入った覚えのない洋一なので、正門からの侵入はこれが初めてであるからだろう。
変な感動を覚えながら侵入する。
「ヨシ、これで第一の関門は突破だな」
「ぶっちゃけ過剰戦力だと思うぜ、オレら」
「サクッと終わらせるんだから過剰でいいんだよ。俺も早く勇者の責務を降りたい!」
ぼやくヨーダに答えるシルファス。
シルファスに至ってはこっちの道で食っていく気はとうに失せていると言いたげだ。
「あの、ここに私がいる意味って?」
場違い感が酷い、と怯えるマール。
原作ゲームのヒロインである彼女は、全てのフラグをヨーダにおられてここまできている。聖女としての自覚も、成長なども一切していない。
「一応、俺が鏡の持ち主として認められなかった時の代理かな?」
「あ、そうですよね」
「おいおいおいおいポンちゃん、バカ言っちゃいけねぇぜ? マールはダンジョンアタックに絶対必要だ」
洋一の返答に気落ちするマール。
しかしヨーダがそれは違うぜ、と反論を試みる。
「そうなのか?」
「ああ、マールは空間認識能力が高いからな。ダンジョンの構造の穴をつくのに長けている。それにこいつの魔法はちょっと特殊だ。力任せのオレたちでは解けないギミックもたちまちのうちに明かしちまうぜ? 普段こんなだけどSクラスに抜擢される実力の持ち主なんだからな!」
「あの、ヨーダ様? 急に持ち上げられて居心地が悪いのですが?」
「いつも通りでいいってば。それにお前の力はこのメンバーに負けず劣らず。弱くはないと思うぜ?」
「だったらいいんですけどね」
自分の中ではいつまで経っても叔父のティルネに一歩及ばぬという葛藤があったマール。そんな彼女はこの中では一番落ちこぼれという認識だ。
皆がそう扱う中、ヨーダのみが本質を履き違えてるぜと指摘。
自分が思っている以上に優秀なのだと言われて釈然としないマールである。
しかしその予兆は洞窟に入ってすぐ発揮された。
「ここから数メートル先、不自然な空気の流れを感じます」
「分かれ道か?」
「いいえ。何かの隠し通路かもしれません。それが近道か回り道かまでの判断はできませんが」
マールはワンドを何度か振るい、腰に吊るしたポーチの中から薬品を取り出した。蓋を開け、地面に数滴垂らす。
たちまち色のついた煙がたちのぼり、それが空気の流れに沿って吸い込まれていった。
それが三つに分かれて吸い込まれていく。
進行方向はT字路。
しかし煙は左右の他に真っ直ぐ壁に吸い込まれていっていた。
視覚を誤魔化す仕掛けでもあるのだろうか?
「ポンちゃん、反応は?」
念の為、ヨーダが尋ねる。
マールの空間把握能力が際たるものだと知ってはいるが、同様にダンジョンそのものを解体できる洋一が何も言わないのが気に掛かった。
ことダンジョンのプロフェッショナル具合でいえば洋一の方が上だからだ。
しかし、洋一は首を横に振るうだけ。
「俺の解体スキルには何の反応もなかったよ。いつもなら怪しい場所は不自然に綻びが出ているんだが、今回は特に目立つところもなかった。だから純粋にマールさんの技術に感心している」
「俺の知ってる攻略情報にも載ってないぜ、こんなところに抜け道なんて」
シルファスも知らないと言ってのける。
洋一と違い、このゲームを物理的に攻略してきたプレイヤーの言葉だ。
転生してから随分と経っているが、知識がうろ覚えになっていると言うわけでもなさそうな瞳で答える。
ならば、それこそ勇者と聖女の選ばれたものにしか道が開かれない。
そう言うタイプの隠し扉なのだろうとヨーダは考える。
「ま、見つけちまった以上。素知らぬふりをするのは不可能だ。ポンちゃん、この壁切断できるか?」
「既にやった。だが、道が開かれる気配は微塵もないときた」
手が早い、というかやれる手段は先にしておく洋一。
しかしそれでもダンジョンは反応しなかったと述べる。
「ならシルファス殿下にお願いしようかな」
俺に言われても困るぜ? と眉間に皺を寄せるシルファス。
だがこれが勇者イベントの一つであれば、取れる手段は限られていた。
それが聖剣の提示である。
「聖剣よ、道を示したまえ!」
ヤケクソとばかりに声高々に。
しかしすぐに異変が起こる。
閉ざされた岩壁は競り上がるようにして道を作った。
前方は光も差し込まないほどに暗く、しかしその入り口はマールの発生させた煙を勢いよく吸い込んでいた。
「やっぱり聖剣専用ギミックか」
「お手柄だな、マール」
「ありがとうございます」
おまり褒められ慣れてないのか、恥ずかしそうに身をすくめるマール。
ヨーダがズンズンと先頭を歩き、洋一、マールが続く。
しんがりはシルファスが務める。
本来なら勇者の他に、聖女と魔法使い、戦士などがベストパーティなのだが。
今回集まったのは勇者(お好み焼き屋)、魔法使い(酒飲み)錬金術師、料理人だ。どう考えてもバランスが悪いことは誰の目でみても明らかだ。
今回このアタックにヨルダ、ティルネを連れてこなかった理由はいくつかあるが。
単純に周囲を巻き込む、一撃が大きすぎて被害がでかいと言うのが主な原因か。
そう言う意味では今回のメンバーは全員コマ割りが聞くと意味では最適だった。
階段を降りた先には肌を刺すような冷たさの銀世界が待っていた。
当然このダンジョンに入り浸っている洋一も知らない世界である。
「シルファスさん」
「ああ、ここなら知ってるぜ。試練の間だ、くるぞ!」
どうやらこれがゲーム世界専用の部屋であるらしい。
勇者と聖女が揃ってあく場所らしく、妖精が封印されているのもここ。
しかし攻略本にはもう少し先にある横穴から入るとかで、こっちのルートは確認されていないとか。
ぱき、パキパキパキパキ!
部屋の温度が一度に下がる演出と共に現れたのは、氷でできた巨人だった。
「アイスゴーレムだ。こいつには聖剣以外のダメージが通らねぇ! 戦士が大楯で防ぐのがセオリーだが」
今回のメンツにそんな器用なものは誰一人いない。
舌打ちをしながらシルファスは駆ける。
自ら囮になるつもりだろう、目立つように聖剣を肩にかけ獣人の脚力を活かす時が来たと体を低くして駆け抜けた。
迫るアイスゴーレム。
丘の如き手が、叩き潰さんとシルファスへ迫る。
「やらせねぇよ、グラビティスタンプ!」
ヨーダが、反対側の手に向けて重力魔法を発動!
突然腕を引っ張られるようにして体勢を崩したアイスゴーレム。
間一髪でシルファスは生き埋めになるのを避け、ゴーレムの体を駆け上がってコアの位置に向けて聖剣を振り翳した。
「聖剣よ、我に答えよ!」
ギィン!
剣が光を纏い、熱を帯びる。
至近距離で聖なる光に当てられたアイスゴーレムは悲鳴を上げるように体を崩していく。
コアが剥き出しになる。
そこへシルファスが切りつける。
一発、二発。
合計で十発お見舞いするとアイスゴーレムはコアを隠して復活した。
ヨーダの重力魔法も効果が切れたかのように全てが何もなかったように動き出す。
「仕留め切れなかったか! もう一回」
「お待ちください」
「マールさん、どうした」
「私に持たされた鏡がですね、ゴーレムのコアの新なる位置を導いているのです」
洋一が持っててもワープする時ぐらいにしか使わない。
そう思って今回のダンジョンではマールに持たせていたのだが。
マールいわく、アイスゴーレムはコアの他に幾つかのダミーコアを持ち合わせている。自分にはなぜかその位置が手に取るようにわかると言い出した。
「すごいぞ、マール。お手柄じゃないか」
「そんなことないです。もしかしたら、これが本来私が歩む聖女の道だったのかもしれませんね」
周囲からそう言われたからと言って、今更歩む道を変える気はないマール。
しかし実際に不思議な現象を目の当たりにすれば、不思議とそれが本来の使命なのだろうと言うことがわかった。
「ならマールさん、俺に位置を教えてくれないか」
「それぐらいでよければ喜んで」
「ならいっちょゴーレム退治と行こうか」
「なら俺は鍋の準備しておくな!」
四人がそれぞれの思惑で動き出す。
一人おかしなことを言い出してるのにも関わらず、特に突っ込むことなく自分の仕事に集中した。
「コア移動、胸から右手のひら!」
「あいよ!」
マールの呼びかけに、すぐに復帰態勢に戻るアイスゴーレム。
攻撃は相変わらず聖剣しか受け付けないため、シルファスは戦場を駆け回ることになった。
「おっと、まだお前は寝ててくれよ? 殿下がまだ距離を取り切れてねぇ」
「助かる!」
動き出すゴーレムを重力で押し潰してその場に縫い付ける。
シルファスはその間に安全圏まで逃げ出すのだ。
そのゴールには洋一が待ち構えており、温かいスープをしおるファスに差し出した。
「だいぶ長丁場になりそうだと思ってな。体冷えたろ? ちょっとここで休んでおくといい。その間俺とヨッちゃんで時間稼ぎくらいしとくから」
「本当洋一さんは一体どれだけ先が見えてるんですか?」
「俺はバトルはそこまで得意ではないが、客が何を求めてるか見抜く目くらいはあるんだよ。もし俺がこんな寒い場所で戦うとして、何が欲しいか考えたら自ずと作るもんは決まってくる」
「はへぇ」
スープはこの白銀の世界でも温かく、シルファスの冷え切った体を温めた。
小さく切り分けた温野菜やベーコンが再びシルファスに活力を与える。
冒険の時、こんなご飯にありつけたらどんなに最高か。
洋一の機転でいつまで続くかわからないバトルに少しだけ光明がさした気がした。
「代わります!」
食べ終わり、シルファスが駆け出す。
聖剣でしかダメージが通らないアイスゴーレムは長い時間勇者とその仲間たちの体温を奪い続け、疲弊を誘う仕掛けなのだが、洋一の機転のおかげで疲れることなく撃破に成功していた。
なんだったら食事の世話になったのはシルファスだけではなく、マールやヨーダも含まれた。
もはやキャンプに来たついでに退治されたようなものである。
「なんか食ってる間に終わりましたね」
「はい」
「お疲れ様。ナイスファイト!」
「ポンちゃんは一家に一台欲しいレベルの料理人だからな。場所を選ばずに飯を作ってくれる家政婦さんなんだ!」
「なるほどなぁ」
「私、こんな極寒の地でお料理が食べられるだなんて思ってもみませんでした」
「本当、寒い場所で食うポトフがまた沁みるんだわ」
「熱燗が欲しいところだな」
「戦闘中にアルコール摂取は流石にな」
普段なら飲んでるが、今回は急ぎの案件である。
自分で急がせておいて、飲酒をしたいなんてわがままは通さぬ洋一だった。
アイスゴーレムはその場にコアを落とす。
それが奥の門の鍵となるとシルファスは言った。
「さて、ここで妖精の封印を解くイベントが起きるはずなんだが」
扉はコアを嵌めてもうんともすんとも言わなかった。
◆
「…………開かないな」
「おかしいな、ゲームではこれで開いたんだが」
「あの、私の鏡に反応が」
「ナイス、マール。それで何がわかった?」
「その分かりやすい扉がただの壁で、入り口はまた別にあるということぐらいですね。コアが私に呼びかけるんですよ。収まる場所はここじゃないと」
シーン。
室内に沈黙が行き渡り。全員の目が、自称ゲーム攻略者のシルファスに移る。
「ちょ、これ俺が悪いの? こんなギミック知らないんだけど」
「ま、何はともあれ入口はここじゃないみたいだし。悪いけどそれ外してくれ」
「しゃーねぇなぁ」
シルファスは壁からコアを外そうと手で掴む。
しかしがっちりハマってしまったのか、押しても引いても外れそうもなかった。
「ちょ、外れないんだけど」
しまいには地響きと室内に冷気が集まり始める。
ぴき、パキパキパキパキ!
そしてその扉を中心に、岩と氷のゴーレムが生成された!
第二戦の始まりである。
「シルファス殿下、墓穴掘ったな」
「知らない、こんなギミック知らない!」
「仕方ない、また鍋の準備を」
「私はコアの居場所の検索ですかね」
仕事に慣れきったと洋一とマールは始まる第二戦を暖かい目で見守った。
よもやコアの設置場所次第で連戦を強いられるとは思わないとはシルファス。
対してヨーダは今度こそ飲んでやるもんね、と洋一に何を頼むか決めあぐねていた。
それから一日が経過して、ようやく洋一一行はあたりの扉を引いたのだった。
ハズレの回数は実に15回。
扉の奥に扉があり、マール曰く正解の扉はその奥にあるとのことだった。
結局踏んだり蹴ったりの連戦を潜り抜け、疲労困憊の四人の前に現れたのは見知った牡丹の姿で。
『今は妖精の役をこなしているので知らないふりをしてくださいね』
だなんてそのばで洋一に断りの念話があったくらいである。
「ヨシ、これで聖剣の最後の封印が解けた! 俺はもうやらんぞ! こんな面倒なこと!」
その場で大の字に寝転がるシルファス。
聖剣以外のダメージが一切通用しないというクソギミックを15連戦やらされたのだ。誰だってコントローラーを投げつけるに決まっている。
ゲームでもここまで難易度は高くなかったぞ! と文句の一つや二つ出てくるほどだった。
「お疲れ様。今おでん茹でてるからゆっくり休んでてくれ」
「洋一さんのおでんか、楽しみだな」
「オレは牛すじでいいぞ。温燗とな」
「おでんというのはどういう食べ物なんですか?」
「マールは食べたことないか。オレが食い方をレクチャーしてやるよ」
洋一がおでんの準備をするなり、みんなが先ほどまでの「やってらんねぇ」雰囲気を濁してくつろぐ準備をし始めた。
洋一は一度準備をしにダンジョンに戻る。
そこでティルネとヨルダに声をかけ、手伝いを申請した。
「お疲れ様です恩師殿。聖剣の封印解除の方は?」
「恙なく。けどあまりの連戦振りにシルファスさんが駄々を捏ねてな」
「それで恩師殿が一品振る舞う形ですか」
「そんな感じだ」
「オレも準備? ヨーダ姉ちゃんがいるのに?」
魔法使いとしては一歩どころかだいぶ離されてしまっていると自覚するヨルダ。
そういう意味ではヨーダに引け目を感じていて。
「実は今作るおでんには新鮮な野菜を煮込む過程があるんだ。そこでヨルダには大根、玉ねぎ、人参、ネギなどの目利きを頼みたい。俺も目利きはできるが、野菜の目利きじゃヨルダに敵わないからな」
「へへ、そういうことなら任せてくれ! 最高の一品を持ってくから!」
言って、ヨルダは自分の持ち場に引っ込んだ。
「私は?」
「ティルネさんには調味料を頼みたい。以前魚を乾燥させて作った削り節があったろ? それでスープを作るんだ。醤油に、あとはカラシなんかも欲しいな」
「確かにそれは私でなければ扱えませんね。マールさんも教えれば覚えるでしょうが」
「それは後でいいかな。まずは食べてもらって、それで気に入ってくれたら教えればいい」
「確かにそうですな。ですが恩師殿の料理にはハズレがない」
「俺にとってはとてもシンプルな料理だよ。シンプルだからこそ、手が抜けないんだ。食材の味が重要だからね。素材と素材を掛け合わせ、調和を産む。それが俺の故郷の料理の真髄なんだ」
「ミンドレイの油の旨みで誤魔化す料理とは違うと?」
「あれはあれでうまいものだけど、たまにはこういう素朴なものが食いたくなるのさ。俺もそうだが、シルファスさんやヨーダが好む味でもある」
「国籍の違う種族が同じ料理を好きになるなど」
「魂の故郷だよ。では早速取り掛かろうか」
洋一はティルネを促し、アンドールのダンジョンへと舞い戻る。
後から夜だが新鮮野菜を持って後を追い、そのばで調理を始めていく。
「おでんの決め手はスープだ。濃すぎず、薄すぎず。しかし具にしっかり味をつける。塩味は醤油から取る。まずは水から煮出した白湯に削り節を入れて風味を出していく。しっかり香りがついたら湯から引き上げ、醤油を投下。このくらいか」
色味などほとんどついてないくらいの薄っすら黄金色。
魚の干物の削り節のみで仕上げたスープなどマールには想像もつかないと言った感じだ。
ミンドレイ生まれのマールは昔からジャンクばかりを口にしていたためである。
「ヨルダ、野菜を洗っておいてくれ。ヨッちゃん、皮剥きお願い。ピーラーとかないけどいけるか?」
「皮付きじゃだめ?」
「泥臭さが残ってもいいならいいぞ」
「やめとくー」
ワイルドさを求めるには、おでんのスープは薄すぎる。
それでも旨みを出す方法はあるが、ここでは素材が限られていた。
「ヨッちゃん、お湯」
「ほい」
ヨーダに頼めば于洋一が欲しい温度の湯が鍋に即座に張られる。
一度手にしたらなかなか手放せな便利さがヨーダにはあった。
「すげ、よく温度も言われてないのにその温度だってわかるな」
「おでんでお湯って言えば、野菜を煮るものだ。沸騰するくらいの湯加減は常識だろ? じゃがいもとかだと煮崩れ起こすから温度を調節するがな。ポンちゃんがお湯って言ったら沸騰するくらいがデフォだぞ?」
「まるで阿吽の呼吸が如しですな」
「そうなのかな?」
魔法を扱うヨーダ当人がそれに気づけていない。
ティルネもヨルダも。それを羨ましく思いながら、魂の同郷という繋がりだけでこれほどの差があるのかと悔しい思いをした。
大根やにんじんなどの芯が硬い野菜は熱湯で煮通す必要がある。
だがそれはそのままにればという意味だ。
洋一は切り方一つとっても料理人の工夫があるとマールに教えていた。
「この、先を斜めに切るのはどうしてですか?」
「これは角を取っているのさ」
「角……」
「おでんというのは異なる性質のものを一緒くたに煮る都合上、どうしたってかき混ぜる時に煮崩れを起こしやすい。このまま放ればすぐにぐずぐずになってしまう。そうなるとせっかくの大根の風味も食感も台無しになってしまうだろう?」
「よくわかりませんが、なんとなくは。これをするとその煮崩れを起こしにくいというわけですか」
「そういうこと。ヨッちゃんをグループに入れると、いろんなところで緩衝材になってくれるだろ? 本人がだいぶ口が悪いところもあるが、不思議と話が綺麗にまとまるところがある。違うかい?」
「いえ、その通りです。ヨーダ様は私をAクラスに抜擢してくれて、あれよあれよと貴族社会の上層部に導いてくれました。その上であらゆるトラブルも思いのままにまとめてくださいました。つまりこの大根の角というのは」
「ヨッちゃんみたいなものさ」
「おいおい、言うに事欠いてオレのポジションそこかよ」
ヨーダがブー垂れながら不満を述べる。
「何言ってんだ、大根のないおでんなんかおでんじゃないぞ? 忘れてしまったのか、日本の心を。こうやって角を取ることでまあるくなるんだ。他の食材の和を保つ。なくてはならない中心人物だぞ?」
「そ、そう言われたら少し照れ臭くなるな」
「洋一さんて不思議な方ですね。あんな傍若無人なヨーダ様をこうもあしらえる。一体どんな経験を積めばそこまでの領域に至れるのでしょう?」
「さぁね。俺はこんなだから方々に迷惑ばかりかけているよ。そのたんびにヨッちゃんが手助けしてくれたもんさ。だから君も彼女に同じように助けてもらったんじゃないかって、そう思って話をしたんだ」
「そういうことでしたか」
「さて、湯通しを終えたら同じ鍋で煮ていくぞ」
洋一は鍋に野菜を並べ、そこに見たこともない白くふわふわしたものも並べていく。マールは綿飴を入れているんじゃないかと驚くが、あの熱に弱い食べ物がこの熱気の中で原型を維持できるはずがないとすぐに気がついた。
「あの、これは一体なんていう食べ物なんでしょうか?」
「それは食ってからのお楽しみだな」
「練り物も用意したんだ。じゃあ煮卵も?」
「もちろん。こんにゃくは間に合わなかったが、こいつはなんとか間に合った」
洋一は秘密兵器とばかりに結んだ昆布を取り出した。
これが煮込んでいくごとに味に深みを出すと言いたげだ。
「こいつに蓋を落とし、一煮立ちすれば食いどきだ。ティルネさん、ジーパ酒を」
「蒸留ですか、それとも熟成発酵の方?」
「まずは軽く行きたい。ノーマルで」
「わかりました」
「マールにはフレッシュジュースのほうがいいかな?」
「おでんにジュースか」
洋一は味が想像できないといいたげにヨーダを咎める。
だからと言って水というわけにも行かないだろう。
ならば何を選ぶかとなったところで、ティルネに相談した。
「熟成の甘い、米の風味を残したものですか?」
「俺の故郷ではそれを甘酒という。醗酵する前の酸っぱくないやつなんだが」
「樽によっては残っているかもしれません。少し見てきましょう」
「頼むよ」
「なんだか私を子供扱いしてるような雰囲気です。私だってワインくらい飲めますよ?」
少しだけムッとするマール。
学園ではヨーダと行動を共にすることも多く、当然酒場にもよく通っていた。
この場では飲めると息巻いたが、実際に弱い自覚はあった。
ヨーダもそれを知ってるからこそ薦めなかった。
ジーパ酒は飲み口が軽い分、調子に乗って飲めば当然悪酔いする。
勇者伝説においては、まだまだ活躍の機会が残されてるマールに、泥酔する道を取らせる真似だけはできぬヨーダであった。
「ワインじゃこの味わいを楽しめない。だからこその用意なんだって」
「バカにしてるわけじゃないならいいですけど」
「ちょうどいい状態のものが見つかりました。私もこういう状態のを飲むのは初めてですが」
「流石にそのままじゃな」
洋一はもろみと麹をよくかき混ぜて、ほんのりと砂糖を加えてその上澄を掬い上げてコップに注いだ。
マールはコップに花をつけ、匂いを楽しむ。
米そのものは口にしたことあるが、米を主原料とした飲み物は初めてだ。
「口当たりは軽く、ほんのり甘いですね。なんだか好きかもしれません」
「オレたちは日本酒で乾杯だな。ちびっこも飲めんのか?」
「タメなんだけどなぁ、オレとねーちゃん」
ヨーダから直々に名指しされ、不貞腐れるヨルダ。
お互いに男装しているのもあり。同年代には微妙に見えない。
男装の年季に至ってはヨーダに軍配が上がっていた。
「年齢の話なんてしてねーよ。飲んだことはあんのかって話だ。ポンちゃんもおっちゃんも嗜む中、お前だけ仲間はずれなんて目にあってないか心配してるんだ」
「ワインとかなら飲めなくもないけど、ジーパ酒は酔っ払っちゃうな」
「じゃ、マールと一緒のでいいな。ジーパ酒は疲れ切った大人が嗜むもんだからな」
「それだと俺が年寄りの仲間入りすることになるんだが?」
どちらかといえばヨルダに近しい年齢のシルファスが訝しむ。
転生前と換算すれば年寄りだろう? ヨーダの視線はそう物語っている。
シルファスは何も言い返さず、鍋の蓋を開けて話を誤魔化した。
鍋の中ではぐつぐつと野菜が煮だっている。
そろそろ食べどきだろう。
洋一は日を落とし、それぞれの汁椀によそって振る舞った。
テーブルは屋台のそれを加工したものである。
「では、いただこうか」
「「「「「「いただきます」」」」」」
全員が顔の前で手を合わせ、頭を下げる。
日本式の食事前の作法だ。
マールはヨーダから聞き、ティルネやヨルダは洋一から。
シルファスは昔を思い出して、それを唱えたあとプッと吹き出した。
「ははは」
「お行儀が悪いぞ、殿下」
「いや、悪い。人種も作法も何もかも違う人たちが日本式のマナーを同時にやるなんてさ、思いもしなかったから」
「オレとオッちゃんは師匠から習ったんだよ。命をいただくときに感謝をするものだって」
「私はヨーダ様から教わりました。当初は広域族のマナーだと思い込んでいましたよ。あの破天荒なヨーダ様が、その時だけはおとなしかったから、てっきり」
ひどい言われようである。
だが、洋一はそれも仕方のないことだと思っている。
何せ食うものに困っていろんなものを口にしてきたのだから。
だから精一杯の感謝を捧げて食事をいただく。
その頃からの癖になっているんだ。
「卵いただきー」
「牛すじもあるぞ」
「オレの分取っといて!」
「残念、早い者勝ちなんだなー」
「てめ、きたねーぞ!」
テーブルを囲み、わいわいと。
それぞれが鍋を囲んで重い思いの食事をした。
ザイオンの王族。ミンドレイの貴族。そして異邦人。
卓を囲めば国籍など関係なく、口にした食事に一喜一憂した。
「ふわっ、びっくりするくらいに柔らかいですね、これ!」
はんぺんを口にしたマールは名前の如く目を丸くして。
「ちくわぶ、これほどの完成度は相当苦心したろ」
転生して初めて口にした味に感動するザイオン国の王子。
特に粉物においては一家言あるほどのシルファスは、獣人でも問題なく食べられる硬さに感動すら覚えていた。
「牛すじってのはよくわかんねーけど、味が染み込んでてうめーな」
ただ憧れから、ヨーダの好みの食材を奪ったヨルダ。
奪って正解だったと串を噛み締める。
洋一は苦笑しながら、これはまた定期的におでんをするようかなと思案して。
「いやはや、大根を煮ただけだというのにこの滋味。沁みますなぁ」
「でしょ、ティルネさんならわかってくれると思った」
なんだかんだとミンドレイ出身者はすぐに味の濃いめの物に移った。
ヨーダやヨルダ、マールなんかは煮卵や牛すじ、練り物なんかを汁椀に取り込んでいく。
だから野菜が余る傾向にあった。
それを率先的に取り込むのは洋一やティルネくらいで。
「残り物には福があるとはよく言ったもんです。取り残されたスープの汁を吸って、年季が出たかのようです」
箸で持ち上げた大根は芯までスープに染み込んでいて。皿の上で箸で割ればほろりと縦に裂けて。
そこにちょんちょんとわさびをひと垂らし。
一口サイズに切り分けて、口の中へ放り込む。
熱いものをハフハフ言いながら食べ、それをジーパ酒で流し込む。
この一連の動作を尊いと述べた。
通の食い方だ、と洋一は思う。
「ポンちゃん。締めは?」
「うどんか雑炊だな」
「定番だな」
「ヨーダ様、締めというのは?」
「おでんに限らず、鍋物ってメインが具だからどうしてもスープが残るだろ? スープそのものは美味いってわかるんだが、そのまま飲むのも体に悪い。ならば他の要素を足しちゃえって風習があるんだよ。雑炊はジーパの名物であるお米を炊いたものを投入する。米が汁を吸って、旨みが凝縮されるんだ」
「へぇ」
「逆にうどんというのはこれくらいに太さの麺をスープに絡めて食べることだ。ご飯と同様に主食にしている民族も多く、おでんの汁も同様にしてしまおうというものだ。今回は特に多くの塩味があるので、俺雑炊に一票だな」
「私は逆にうどんが気になりますね」
「用意はしてないけどな、食べたいなら打つぞ」
食材だけなら豊富にある、と言いたげに洋一は腕をまくる。
結局締めはうどんでいっぱいずつ食べたあと、雑炊にしていただいた。
皆が満足して一日を終え、そこへ何日経っても連絡をよこさないヨーダに痺れを切らした紀伊が突撃訪問してきたことで、宴会をしていたことが明るみになった。
寝起きの洋一達は地獄みたいにひんやりとした空気の中、VIP待遇を強いられることになった。
◆
「一体、これはどういうことでしょう? 詳しく説明していただきますよ、ヨーダ様。マールさんも彼女を引き留めもせずに一緒に楽しむだなんて……」
「紀伊様、これは、仕方ないんだって!」
「しゅみましぇん……」
激昂する紀伊に、真っ向から対立するヨーダ。
しかし一般的貴族のマールは萎縮するばかりだった。
国の重鎮に真っ向から対立するなど自殺行為に他ならない。
この場合、どちらが適切な対応をしてるのかなんて火を見るより明らかである。
「この度は申し訳ありません。こちらが勝手に忖度した結果、こうなってしまいました」
「忖度していただくのはかまいません。それだけこちらに気を遣ってくれているということでしょう。しかしこちらは友人としての招待を望んでおりました。王族だからと気を使っていただく必要はありませんでした」
洋一は、ここでごねてもいい方向に転ばないだろうと察して速やかに謝罪。弁明を述べた。
対する紀伊もそれを受け取り、王族としてではなく友人としての振る舞いを求めていたと説明の行き届かなさを詫びた。
お互いに行き違いがあったのだと知れて、一応この場は治った。
とはいえ、約束を先延ばしにされて、その間に複数回宴会を行なっていたという事実は消えず、蟠りは残り続ける。
「本当に、申し訳ない。こちらにも事情があり、それを優先した結果でした」
「わかっております。そちらのシルファス殿下のことでしょう? 確か勇者と。こちらのマールさんを聖女として求めるよう要請がありましたから。それの迷宮巡りを優先していたのは存じております。ですが行く先々で宴会を起こすというのは、先約したはずの私は面白くありません」
「紀伊様、ここはオレに免じて許してやってくれないか? ポンちゃんは自分の仕事をしただけなんだって。そもそもの話さ、後からやってきて勝手に約束を取り付けたのは紀伊様の方なんだぜ? それで約束を優先させろはあまりにも行きすぎてる。ポンちゃんはただの料理人だ。求められても、求められずともインスピレーション次第で料理を作ってしまう。そこに人が集まって宴会になった、普段からこうだ。それを約束だけで優先しろは違うよな」
ヨーダはいけしゃあしゃあと自論を述べる。
お互いにとっての顔役という立場ならではの弁明だ。
いまだ洋一は国家間で奪い合いになるほどの人気者。
ミンドレイの権力を総動員しても動かせない人物であることは明白で、それを言われたら紀伊とてぐうの音も出ない。
が、それはそれとして紀伊としては友人特約を効かせてほしいのである。
それほどまでに便宜を図っている。
確かに無理を言っている覚えもあるが、それなりの見返りも欲しかった。
特にヨーダの国外逃亡の手助けをしたのは該当貴族から渋い顔をされている。
ロイドの付き人で、将来王宮魔導士として国防を担うタッケ家のオメガ。その婚約者候補の一人がヨーダで、オメガ的にはそれ以外の対象者が目に入らないくらいにゾッコンラブであった。
そんな相手を国外に逃亡する手引きは国家反逆罪クラスの重罪。
ロイドから離縁されても文句のないくらいのやらかしだ。
だからヨーダにだけは言われたくないという感情が優った。
一体誰の配慮で得た自由なのか、もう一度考え直せとヨーダにあたりつける。
「ヨーダ様は一体どちらの味方なんですか? ミンドレイ国民として、友としてこちらに与しているものだと思ってました」
「オレは誰の味方でもないぜ。そこに美味い料理があるのならば、そちら側に行くってだけだ」
「でしたら今すぐにでもノコノサート様に用立ててオメガ様とのご婚約を急がねばなりませんね。まさか私の温情でそれを延期させている旨をお忘れではないでしょう? オメガ様も奔放すぎるヨーダ様を大変慮っておいでですよ。ノコノサート様もヨーダ様が後継になってくれたらさぞ鼻が高いでしょう」
お前も妃教育をうけろ! そうすればこっちの苦労もわかると言いたげに紀伊はヨーダを王宮の泥沼に引き摺り込む。
「げ! あいつまだ諦めてなかったのかよ」
「普通は逃しませんよね。なんでここでボロを出すんですかね、この人」
「ヨッちゃんだからな」
洋一も、肝心なところでボロを出すのが実に相棒らしいと締めくくる。
それが嫌ならこっちの言うことを聞けという紀伊の言い分はかなりの暴論ではあるが、先延ばしにしてきたのも事実であった。
あとはこのままエルファンに赴き、有耶無耶にしてしまうという手もあったが。
ダンジョンを先に結んでしまった都合上、向こうはある程度までならこちらのテリトリーに入ってこれるのだ。
その手引きをしたのは間違いなくヨーダで。
洋一からしてみれば、今のヨーダは過去に一緒にいた友人であるのは間違いはないのだが、所属はどちらかといえばミンドレイ国側であることは明白だ。
今こうして旅についてきてるのも、昔を懐かしんでのことだろうと思う。
何せ、王国で別れた時のやることリストを何一つ終わらせておらず、なんならこれ以上ないくらいに囲い込まれるほどの大活躍! その状態で逃亡を図ったのだ。
紀伊を含めて逃しはしないとその言動の端々から匂わせている。
自ら逃げ道を塞いでおいて、いまだに被害者ヅラしてるこの友人を、洋一はどうやって宥めるかを考えて、じっと見つめた。
「なんだよ」
「いや、墓穴掘ってるなって」
「なんだよ、ポンちゃんまで紀伊様の味方かよ」
「俺はどっちの味方でもないんだよな。ヨッちゃんにはヨッちゃんの未来があると思ってる。俺は転移で、ヨッちゃんは転生だ。無理に俺に合わせなくたっていいんだぜ? ダンジョンを繋いだんだ。いつでもこっちと合流できるんだしさ」
「それってオレに知らない男と夫婦になれって言ってるのか?」
「ヨーダ様、流石に今の言葉はオメガ様が泣きますよ?」
あれだけ一緒に過ごして、なんだったら一時期一つ屋根の下で過ごしている相手に対して『知らない男』扱いは流石に涙を禁じ得ない。マールであってもオメガに肩入れするほどだ。
「オメガ様、おかわいそう」
「そういう人生もあったかも知れないってことだ。それとも何か? こんなおっさんに嫁いで一生を棒に振るつもりか?」
「ポンちゃんといると楽なんだよなぁ……あれこれせっつかれなくて済むし、こっちが言いたいことを汲んでくれるし、やりたいことをやらせてくれるし。理想の旦那様なんだけど、あまりにも女に興味がなさすぎるのがな。いや、相手がいるのに無理にくっつこうとしてるオレもオレなんだけどさ」
「わかる」
「恩師殿と一緒にいれば食うのに困らず、やりたいことを率先してやらせていただけますからね。私もこの歳になってやりたいことが次々に出てきて困っていますよ。婚約対象としてでなく、恩師としてのポジションも相当に高いと思われます」
頷く一番弟子と二番弟子。
特にヨルダは真っ先に「あ、この人女に興味ない」って気づいて身を引いたほどだ。以降男装をして、いかに同じ境遇で暮らしていけるかに専念している。
色恋に頭を悩ましている暇があれば立身出世を考えるレベルであった。
おかげでヨルダは一人で生活していけるのに問題なくらいの能力を有している。
それもこれも洋一が誘惑に負けない強メンタルを有していたおかげだろう。
それはそれとして。
「なんか話が脱線したな。それでご馳走の件なんだけど」
「はい、なんでもいただけますわよ。お腹を空かしてきましたの」
「うん、それはすごく助かるね。空腹は何よりのスパイスだ」
洋一はおでんのセットを片付けて、レストランに戻ると一品ずつ仕上げるスタイルをとった。
もうどんなメニューを作るかどうかは考えていない。
なんでもいいと言われたのだ、思いついた端から味わってもらうことにした。
ただし一人でやらずに全員に仕事を割り振る。
今までお留守番に徹していたベア吉にも。
「ベア吉、塩漬けにしていたお肉があるだろう? あのサンドワームの肉だ。それを出してくれるか?」
「キュウン(今出すね)」
あまり相手してやれないのを気に病みながら、洋一は久しぶりの会話をベア吉とかわす。
影を開いて取り出したのは巨大な燻製肉。
結晶化した塩がまばらに散らばり、それを湯引きしながら塩を洗い流す。
決勝が取れた肉は艶めき、見るものをうっとりさせる輝きがあった。
それをブロック単位にサク取りし、洋一は次に炊い白飯を塩と酢を入れて切るように混ぜ込んだ。
これだけで寿司とわかる人は元日本人くらいだろう。
しかし味の想像がつかないと言いたげに注意深く洋一挙手一投足を見守った。
「まずは干し肉の握りだ。しっかりした味がついてるからそのままいただけますよ。味変をするのでしたら、こちらのワサビをどうぞ」
「珍しい形の食べ物ですね。こちらは手でいただいても?」
「ええ、箸を使ってもいいですが、手でいただいても問題はありません」
ジーパの左方は手づかみだ。紀伊もまた箸やフォークやナイフの作法を受けていながら、どちらかといえば手で食べたい衝動に駆られている。
妃教育の反動もあるのだろう、真っ先に問いかけたのはそんなところだった。
なので洋一から許可が出て、手でつまんで口に入れる。
一口で食べられるサイズなのも嬉しかった。
扱えると言ったが、まだ小さいものを掴んで口に入れるのは難しかったのである。
「もっと塩辛いものだと思っていました」
「塩漬けはそう思われがちですよね。ですがこれは腐食防止のために表面から水分を取り切る加工手段なのです。肉は腐らせる手前が一番美味いとは言いますが、その見極めは極めて難しく、素人が手を出すものではありません。そこでこの塩漬けなら、腐らずに肉を熟成させることができると市民の間でも流行っておりますね」
「へぇ」
「ですが程よい塩味で後を引きます。もう何巻か握ったら次の料理をお出ししますよ」
「ふふ、こちらの思惑がバレてしまっていますね」
「お客様の顔を見たらだいたいわかります」
気に入っていただけたかどうか。そして次もこれを食べたがるかどうか。それを見ながら食事の提供をするのが洋一の仕事である。
「はい、お茶」
「ヨーダ様が淹れてくれたものですの?」
「んだよーオレが淹れた茶は飲めねーってのか?」
「そうは言っておりませんが……」
口の中の余韻を台無しにされたらたまったものじゃないと紀伊の視線は物語っている。
が、結果は異なり。
口の中で茶葉が花開くような感覚に紀伊は目を見開いた。
「これ、随分とホッとしますわ」
「茶葉はヨルダが仕込んだものなんだぜ。オレは温度管理を任されただけなんだがな」
「お砂のばーちゃん直伝の高級茶葉だぜ! ジーパの心だって口を酸っぱくしながら育成を叩き込まれたよなー」
「それで」
自分の心は今ジーパに旅立ったのかと感嘆とする紀伊。
「さてここで一つ軽く甘い品をおひとつ」
ヨルダが下がり、ここでティルネが茶菓子を差し込む。
それは一見して見たことのない造形のもので、食事の間に食べるのにちょうど良いサイズだった。
「甘納豆でございます。結晶化寸前まで煮詰めた豆を綿菓子で包みました。常温に弱く、時間の経過で溶けてしまいますのでお早めにどうぞ」
言われるがままにこれも手づかみで口に含む。
モサモサとした綿菓子は触り方一つで姿形を変えていく。
指でつまんで綿をちぎれば、中から小豆を煮た豆がいくつか出てきた。頬張れば口の中が甘味で満たされる。
しかしそれほど腹にはたまらず、先ほどの茶と流し込めば満足感だけが口の中に広がった。
これほどのおもてなし、王宮でも味わったことがない。
毒味に毒味を重ね、冷め切った食事にうんざりしていた紀伊。
望んだのは温かい食事の提供であったが、今まで提供された食事はお茶以外どれも冷めたものである。
暖かくなければおいしくはないとどこかで思い込んでいた紀伊。そう思うのも無理はなく、ミンドレイの料理はどれも油や甘味料を多く使うものだった。
冷めれば硬くなり、油分はしつこくなり食感を損なう。
お腹にこそ溜まるが、体調も悪くなること請け合いで。
それを嘲笑うかのように洋一は冷めても美味しい料理を出し続ける。
紀伊はどこか試されてるような心地で、それに望んでいた。
食べ切った後は確かな満足感と、料理の幅広さを感じていた。
「贅を尽くすだけが料理ではないのですね、勉強不足を痛感させられました。それと冷たい料理にも美味しいものはございますのね。これならミンドレイの民もジーパの民も納得していただけると思います」
「俺の方こそどんな沙汰を下されるかヒヤヒヤしたよ」
最後の最後に出したのは肉巻きおにぎりの茶漬けであった。庶民の食事を貴族、ましてや王族に振る舞うのは洋一とて覚悟が必要だった。
「特に最後のご飯はアイディアの塊ですわね。おにぎりをあのようにして食べるだなんて」
握り飯くらいはジーパの中にもある、割とポピュラーな兵糧飯である。それを肉で巻き、椀の中に茶をかけてくらうアイディアはなかったと紀伊は褒め称えた。
「温かい食事となれば、求める道具はそれなりに必要です。野戦の多いジーパの民も、最適化されたのが手づかみでの食事だったのでしょう。しかし今の時代は妖術や魔法を扱う鬼人も多い。そんな人がジーパを離れて暮らすときに、こんな食事ができるのならとアイディアを募りました、今回は肉を巻きましたが、魚の切り身を入れてもいい。そこは食べる人の好きな具材を持ち合わせてくだされば」
「そこまで考えての采配でしたのですか。ジーパの鬼人一同、心よりお礼申し上げますわ。なので本当にお心苦しくてたまりません。あなたがミンドレイの王宮料理長であるならばと何度願ったことか」
「ヨッちゃんからある程度聞いていると思うが、どうも俺は一つのところに長居するのは向かないみたいなんだ。これからはダンジョン経由で落ち合うぐらいにして、それ以外は自由にさせて欲しいな」
「もしも私がヨーダ様の立場であったなら、確かに洋一様についていきたい気持ちがわかりますわね。本当に理想以上の旦那様です」
「おいおい、俺にそんな気はないってのに」
「ポンちゃんはこういう人だから」
「だからこそ、女を磨いて絶対に落としてやろうって躍起になるんだよなー」
「わかります」
ヨーダの言葉に、なぜかヨルダと紀伊も頷いて。
マールだけは『私はおじ様一筋ですからね?』と余計にややこしい状況を作り上げており。
シルファスに至っては『洋一さんらしいや』とどこか他人事のように思っている。
こうしてまた洋一は当人の知らないところでフラグを立てて、一人困惑するのであった。
味方が、味方がいない!
ベア吉に構いながら、感情を落ち着かせ。
複雑化する人間関係の煩わしさにまたダンジョンに篭りたくなる洋一であった。




