37話 ポンちゃん、ザイオンに向かう
「何はともあれ、これで目的は達成したな」
洋一は皆に振り返り、終わったし帰ろうかと切り出した。
しかしそれに対して不満の声を上げるものがいた。
「俺、お好み焼きを作ってた記憶しかないんだけど?」
シルファスである。
ザイオンの第三王子であり、勇者。聖剣の担い手である彼がこのダンジョンにきてやったことは攻略でも討伐でもなく、ゲーム知識をひけらかしたことくらいだった。
今やこの世界がゲーム世界と同様であることは疑いようもないけど、洋一のようなゲームには存在しない人物の登場でシルファスは「実は俺、主人公じゃないんじゃね?」と思い始めている。
何せミンドレイのダンジョンはそれなりに難易度の高いブレイク型ダンジョン。
聖剣の力で雑魚敵を寄せ付けないチートこそあるものの、ダンジョン内に入ったら逃げるか戦うのかの指示出しをするつもりでいたシルファス。
しかし蓋を開けたらとっくの昔にダンジョンは攻略されていて、今回に至ってはダンジョン内のモンスターはポップせず、勝手にストーリーが進行して何もしてないのに妖精が聖剣の力を解放したのだ。
もう、何が何だかわからない。
攻略してない。戦闘してない。討伐してない。
それで全て終わって帰るか、となれないのはそれなりにこのゲームに打ち込んできたプレイヤーであるからだ。
「ダンジョンなんて本来そんなものさ。正直俺だってダンジョンに入っても飯を作ってた記憶しかないぞ」
それは流石に嘘だろ?
シルファスの疑うような視線は、しかしヨルダやティルネが頷くことで瓦解する。
「え、まさか洋一さんは今までずっとご飯作ってただけでダンジョン踏破をしてるのか?」
「してるんだよなー。概ね、師匠の飯食いたさで勝手に元気になった護衛がはしゃいだ結果が踏破に繋がってる。ジーパの時はなんだっけ? あの冒険者」
「エメラルドスプラッシュのお三方ですな。ゼスターさん、もみじさん、カエデさんです」
「ゼスター!? 弟が急にやる気を出した原因て洋一さんだったのか!」
やはり兄弟だったか。
「うん、ジーパに赴く時に船を動かせるのが彼しかいなくてね。そしてパーティメンバーのお二人がジーパ出身だったんだ」
「おかしいと思ったんだよ。あの王位継承権とは対極にいる弟が急に王位が欲しいなんて言い出したから。あいつ、いったいなんで王位を欲しがったか知ってます?」
「ジーパの鬼人を嫁に貰い受けるために誠意を見せるんだって張り切ってましたよ。鬼人というのはパーティメンバーのお二人のことですけどね。出会った当時は少し尻に敷かれてたんですが、一緒にダンジョンに潜ってから別人のように戦闘狂になりましてね」
「その戦闘狂になるきっかけが、師匠の飯だったんだよね。基本的に何を捕まえてきても美味しく料理しちゃうから、普段は見つけても逃げるような相手にも果敢に立ち向かって打ち倒すうちにね?」
「俺も腕の振るい甲斐があったよ。彼らはなんでも美味しくいただいてくれたからさ。やっぱり料理人としては美味しく食べてもらいたいからさ。張り切っちゃうんだよな」
「それで、ボスを誘拐しては料理にするという恩師殿の裏技でダンジョンに篭ること五ヶ月」
「一週間くらいのつもりだったんだけどさー」
「一度も表に出ることなく、ボス部屋前で宴開いてたって聞いた時は笑ったよな」
「私どもは心配しておりませんでしたが、外で待つのはこれきりにして、次は一緒に潜ろうと思い技術を磨いてたんですよね?」
「うんうん。オレは農業を。おっちゃんはジーパ菓子なんかをね」
「そんな経緯があったんですね」
ジーパの姫である紀伊が洋一達がジーパで何をしてきたのかを察した。
アンドールで味わったジーパ菓子の数々が、そんな短い期間で取得したものだとは信じ難いというのもある。
「しっかし、どこかの誰かさんは無粋なことするよねー。クリアしてそのまま放置だなんてさ」
話の腰を折るかのように、ヨーダが脱線しつつある話を元に戻した。
洋一を咎めるような視線を絡めて。
なんでここに来なかったんだ? と詰る。
「俺がここがダンジョンだと知らなかったのと、ティルネさんが騎士団に報酬を支払う都合で一度街に向かう話が持ち上がったんだ。すっかり調味料関連でティルネさんに頼ってた俺たちも旅に同行することになったんだよ」
「あ、じゃああの時ミンドレイに来てたのって?」
「うん、街にいるのは一時的にですぐ森に帰るつもりだった。でもヨッちゃんがジーパにオリンがいるかもしれないって情報をくれたじゃない?」
「あー、そんなこともあったな」
ヨーダは視線を泳がせながら、洋一がダンジョンのクリアを確かめにいかなかった原因は自分にあるのだと察した。
そしてそれ以上追求すると矛先が自分に向かうと判断してこの話を締めくくる。
「ヨシ、この話はこれでおしまいだな。シルファス様、聖剣の力が解放されてよかったですわね?」
「非常に納得いかないが、まずはヨシとしようか」
溜飲を下げる。
そもそも今回の遠征もシルファスの無茶振りから始まったようなものだ。
たとえゲーム知識があったとしても、低レベル縛りでメンバーを現地調達でクリアするなんて普通は土台無理な話なのだ。ゲームの時のRTAでだってやりたくない。
それが誰一人も脱落なく終われたのだからこれ以上を求める方がどうかしている。
気持ち釈然としないのは、シルファス本人が全く活躍した覚えがないからか。
「シルファス殿下がそうであるように、今回私たちはついてきただけですからね? 活躍どころかいい思いをさせていただいただけです。シルファス殿下がこの程度で落ち込もうものなら、私共はどんな顔をすれば良いのでしょう?」
役に立ってない具合なら、自分たちも負けてないぞと、マールが主張する。
それに賛同するようにヒルダ、紀伊が頷いた。
なんあら活躍してない具合ではヨーダも同様だが、演技に力を入れていたのもあって、自分は働いた気持ちでいた。
この女、自分に対してだけ評価が甘々である。
本人が聖女だの言われても全くピンとこない代表。それがマールであるからだ。
今回はヨーダが「オレオレ。オレ聖女!」と胡散臭いアピールで、マールの身代わりになってくれたが、本来ならマールがその任をまっとうしなければならないのである。
しかし今回に至っては聖女のせの字も出てこず、消化不良のままここにいる。
本当に踏んだり蹴ったりだった。
「ダンジョン、それが魔王の手先だなんて初めて聞きました。皆は知っておられたか?」
ジーパを代表して、紀伊が尋ねる。
ダンジョンを持つ国家は数あれど、ダンジョンが災いを引き起こすものという認識がなかったのだ。
ジーパには怪生と呼ばれるモンスターがいる。
しかし鬼人の隣人として接してきた歴史が、紀伊の記憶に連綿と綴られていた。
母親である華から、そう教わったのもある。
代々契約者である此山家。継承者の紀伊も、当然モンスターから襲われない性質を持っていた。
屋敷がダンジョンの中にあるというのもあるだろう、幼い時の遊び相手を開くの、それも魔王の手先だと言われて少し複雑な気持ちを抱く紀伊であった。
「ミンドレイには深く知られてるよな、ヨルダは詳しかったし。でも、ジーパにはそれに関するものが一切ないと言うのもおかしな話だ。勇者に魔王。彼らは一体どこからきて、どこに行ってしまったのか」
洋一が漠然とした情報から答えを導き出そうとする。
まず根幹にいるのはオリン。
そのドールが関わっているのは確かだ。
今の所ジーパとアンドールに関わりはないが、それがミンドレイとザイオンにのみ伝承されているというのもいずれ分かるのだろうか?
「俺も世話係に聞いた話だけど」
シルファスが思い出すように話し始める。
魔王と勇者、聖女の伝承を。
それは物語風の絵本のようで。
伝説の剣と鏡をもち、全てのダンジョンを踏破した者に富と栄誉が得られる黄金狂が開ける。そういった伝承だ。
魔王はそれを阻止すべく勇者の前に立ち塞がるという。
物語の悪役が勇者のために存在してるのが本当に不思議だが、シルファスは子供ながらに深く考えずに飲み込んだという。
封じられた聖剣の力は、魔王の手下の討伐と共に力強く光出すらしい。
全ての部下を倒した先、魔王の住む城に行くのに鏡が使われるそうなのだ。
その鏡こそ、代々聖女の家系に継承されるらしい。
ティルネは実家にそんなものがあったかと悩み始めてしまった。
そしてマールも必死に思い出そうとするも、全く心当たりがないということを言い出した。
どうもマールは自分が聖女であることを誰かに言われただけらしい。
その聖女に任命したものこそが、キーマン。
もう一人の転生者。彼女に一度話を聞いた方が良さそうだった。
そこで話は一旦締切、一同はベアキチグルマに乗っかり一路ミンドレイに向かう。
聖剣の力が解放されたというのもあるが、本当に道中で襲われることはなかった。
どう考えてもダンジョン契約者の効果のように思うが……
そんな矢先、ヨーダが話題に上げたのが例の勇者伝説。
ミンドレイ国民でもないヨーダだからこそ、そのツッコミどころ満載の物語に指摘する…
「そういやさ、勇者の仲間って聖女しかいないの?」
「世話係にはそう聞いてるな。ゲーム的には賢者とか戦士とかいてくれると助かるんだけど、DPSとヒーラーだけじゃ詰むって言っても聞いてくれねえんだよ。ダンジョンを一体なんだと思ってんだ。作り込み甘いんじゃないかってツッコミどころ満載の物語だったわ」
案の方というか、転生者にとってはツッコミどころの方が多かったらしい。
ヨーダは「だよなぁ」と納得しつつ水羊羹を口に運んだ。
「物語って必要な部分省く傾向にあるから。単純に継承者ならそれだけ知っとけばいいとかって感じじゃない? あとは現地調達で」
「そんな都合よく仲間になってくれる人材がいるのかっていっつも疑問視してたぞ?」
「仲間ならここにいるじゃないか」
洋一が胸を叩いて答える。
「洋一さんが来てくれるんなら、俺も心強いですけど」
「ポンちゃんなら戦士と魔法使いの両方を賄えるしな」
「ヨッちゃん、褒めてくれるのは嬉しいが俺のメインはコックだぞ? それ以外もできるにはできるが、不要な殺生をするつもりはない」
非難めいた口調の洋一であるが、食うためだったらいくらでも無茶をするつもりである。そういう時の非常識っぷりを目の当たりにしてきたヨーダだからこそ、頼りにしてるのだ。
「師匠がついていくなら当然オレたちもセットでついてくんだけどな」
「左様です」
「ほら、便利な一次産業者と二次産業者の魔法使いがついてきた」
「これで表向きがコック、農家、学者じゃなければなぁ……」
箔がついたのにとぼやくシルファス。
「勇者に聖女だけで魔王討伐の旅に出るつもりなのに、今更愉快な仲間がついてきただけで細かいこと気にすんなよ」
ヨルダが農家であることを疑問視されてることに噛みついた。
農家舐めんな! の精神である。
「民を説得させるための材料を用意するのも王族の勤めなんだよ。特にザイオンは成果を尊重するからな」
「気は進みませんが、対人戦で格の違いを見せて差し上げるしかないようですね」
気は進まない、と言いつつも満更でもない様子で居住まいを正す。
一度戦闘したシルファスは悪夢を思い出したかのように血の気を引かせた。
一見して温厚そうなティルネほど、怒らせたら怖い相手なのだ。
「オレも、気は進まないけど」
ヨルダもまた、血気盛んに鍬を拾い上げる。
襲いかかって来るんなら土壌の肥やしにしてやるぜ、鍬を振るうモーションをしてみせた。
「俺はどうしようかな」
「ポンちゃんの場合は試合にならないと思うぞ。基本的に目視で対応できないから」
「師匠は一番敵に回しちゃいけないよな」
「然り。それ以前に料理で胃袋を掴むのが先でしょう。まず喧嘩になってるのを見たことがありません。気がついたら即座に料理を振る舞いますからね」
「まぁ、それにオレたちが付き合ってるからなんだけど」
「むしろそれをしたくて私どもが手を貸してますからな」
ヨルダの回答にティルネが乗っかる。
「と、まぁそう言うことで、俺たちの次の目的地はザイオンということになっている。名残惜しいが、ヨッちゃんとはここでお別れになるな」
禁忌の森は遥か遠く。
ミンドレイの中央年まではまだあるが、ヨーダたちを送り届けたらその足でザイオンに向かうことを告げる洋一。
「ん、まぁそこは仕方ないな。けど、いつまでも待ってるだけのオレたちじゃねーぜ?」
「要望があれば料理は送るしな」
「そういうんじゃねーっての! 学園にダンジョンができた。エネルギーが稼ぎ放題になる。なんせ今度から授業にダンジョンアタックの科目が増えたからな」
その宣言に対し、シルファスがヨーダを疑うように見つめた。
「え、ゲームではミンドレイのダンジョンはデフォルトだったけど、実は違うのか?」
「シルファス殿下風に言えば、もとよりミンドレイにダンジョンの類はありませんでしたわ」
ヨーダとシルファスの会話にマールが割って入る。
「そうなのか?」
「ええ、ダンジョンの発生はとあるダンジョンマスターがミンドレイに目をつけたが故に発生したのが発端です」
「ダンジョンマスター。ゲームでも聞くが、その存在はいまだに謎が多いんだ」
ヨーダ曰く、下級生にそのダンジョンマスターがいるらしい。
どうもアンドールの全契約者の子供がそれを継承したらしい。
らしい、らしいで済ませてるのは契約者に本当にそんな力が解放できるのか?
という不確証な情報しかないからだった。
そこで洋一が新情報の中で聖剣の特性がダンジョンの契約者特典と酷似していることに気がついた。
「ところでシルファスさん」
「何かな?」
「その聖剣はダンジョン内でしか効力を発揮しない系ですか?」
「ええ、よくお分かりで」
なるほど、それそのものが契約の媒体。
血統を重視するのは、単純に継承者としての受諾が関わっているのかもしれない。
アンドールの件然り、ジーパの件然り。
もしかしたら聖剣そのものが擬似ダンジョンを発生させる装置で、ダンジョン情報を上書きしている可能性も高い。
だとしたら、洋一の食事バフの効果を政権も受けるのか?
食事バフの恩恵は契約したダンジョンの中で、モンスターを加工して調理、食すことで発動する。
もしそれが可能だった場合、気持ち早く現代に戻ることができるかもしれない。
全ては憶測、机上の空論でしかないが。試してみるのも面白いだろう。
どうせダメ元だ。
「この聖剣に何か?」
じっと聖剣のことを考えていたのがいけなかったのか、シルファスから疑いの声をかけられてしまった。
「ああ、いや。単純にモンスター特攻と雑魚避けだけの効果にしては勇者の定義が重すぎると思ってさ。それで命をかけて魔王討伐するなんて」
「そうですね。でもこれ、扱うのに血統が必要だったりするので、あながち誰でも扱えるというわけじゃ……」
やはり契約者特典と深い結びつきがあるようだ。
「なるほど、シルファス殿は選ばれた存在だったと」
「洋一さんほどじゃないっすけどね。なんか何もしないままじっとしてるの落ち着かないんで、鉄板触らせてもらっていいですか?」
「またお好み焼きを?」
「いえ、女性陣が多いのでホットケーキなんかを」
「いいですねぇ」
「オレたち舌は超えてるから、ちょっとやそっとのものじゃ靡かないよ?」
ニッと微笑むヨーダに、シルファスは「善処しよう」と鉄板に火を入れた。
ここから先は勇者ではなく、一人の男の鉄板の上での物語。
洋一はお手並み拝見とばかりにシルファスに席を譲り、後方腕組みモブおじさんと化した。
◆
ヨーダ達を学園にまで送り届け、洋一はそこで学園のダンジョン契約者に出会う機会を得ていた。
その間、シルファスは借り受けていた生徒の送り届けの手続きをしてくるということで、学園長に会いに行っていた。
その隙にヨーダに少し時間をくれと言われて、こうして面会に赴いたのだが……
「洋一殿! よくぞ我が学園にお越しなさった!」
そこで、部室に案内されてる間、ロイドに捕捉されて急遽近況報告会となった。
「お久しぶりです、殿下。アンドールでは随分急いでおかえりなさいましたが、あれから婚約の方はどんなもので?」
「貴殿のおかげでとんとん拍子だ!」
それほど世話をした覚えがない洋一。
しかしロイドが褒め称えるのでそれでヨシとする。
貴族のお偉方というのは何かにつけて文句を言ってくるパターンがあると聞く。
向こうが気分がいい時は、逆らわずにヨイショしとくというのがこの世界で培った洋一の処世術だった。
そこで、ロイドの横で見知らぬ少女がスカートを上げてお辞儀してきた。
「お初にお目にかかります。わたくし、ロイドお兄様の妹をしております、カプリンと申します。以後お見知り置きを」
「殿下の妹君ということは、王女様ですか。初めまして、流れの料理人をしている洋一と申します。殿下の他に陛下にもよくしていただいておりますよ。こちらこそよろしくお願いしますね」
「お兄様、この方がわたくしのご病気を治してくださった料理人なのですわね! お会いできて光栄です」
洋一は初めて聞いた話題に首を傾げる。
ロイドはそういえば言ってなかったなと思い出して改めて紹介をしてくれた。
「実は妹は寝たきりで。以前父上、陛下が口にした食事が目の覚めるような美味しさで、不調が治ったとおっしゃっていたとかで。それだったら妹にも食べさせたら病気も治るんじゃないかと食べさせたところ……」
「治ったと?」
そんな効果あったかな?
どこかで料理バフが発動したかもしれない。
洋一はただその時の気分で作っているのもあり、バフ内容を熟知していないのだ。
普通ならその部分を考察して効能を高めるように動くのだが、洋一にとって二の次。
まずは旨みを引き出し、さらには旨い食べ方の研究。最後に料理を振る舞ってもらったみんなが笑顔でいてくれたらそれ以上を求めない。そういう男だった。
「ええ。こうして起き上がれ、尚且つ学園に通える機会をいただいた洋一さまと直接出会えて感極まっております。もちろん、食事をいただく機会をくれた紀伊お姉様にも感謝しておりますのよ?」
紀伊に至ってはうんざりといった感じ。
これは相当に振り回されているな。
表情からその様子が窺えた。
ただでさえ藤本要に振り回されているというのに。
藤本要が二人に増えたら、多分洋一でも頭を抱えるかもしれない。
「でしたらこれから食事会を開こうと思っていましたので、ご一緒にいかがです?」
「まぁ、よろしいんですの?」
「カプリン、ダメだろ? 洋一殿は御用向きがあってこの学園にお越しくださったんだ。そこに甘えて入っていっちゃいけないよ」
「いやいや、全然いいですよ。俺としても作ったら多くの人に食べて欲しいですから」
「そういうことでしたら、ご相伴に預かります」
ペコペコと頭を下げ、カプリンのほかにロイドとオメガまでついてきた。
ヨーダはそれにうんざりとしたような視線を投げかける。
妹のカプリンをダシに、まんまとついてきた食いしん坊達に辟易してるような、そんな視線だ。
「あら、ロイド様? とヨーダ様方ではないですか。お揃いで私に何のご用向きでしょう?」
「やぁカプリン。実は私の恩人が君に用があると聞いてな。私も一緒についてきたというわけだ」
「アンドールで領主代行をさせていただいてる本宝治洋一と言います」
「あーーーーー」
突然椅子から立ち上がり、大声を叫ぶアソビィ。
洋一の情報を家族から聞いていたのか、腕があったら指差していることだろう。
「どうされました?」
「あなたがアンドールをめちゃくちゃにしたから! 私の家が没落したんですよ!」
「めちゃくちゃ?」
「どういうことだ、ヨッちゃん?」
「実はその子、クーネル家のご令嬢でな」
「あー」
そのつながりか、と洋一は頷いた。
ロイドだけが理解が及ばぬという顔。
しかしここで真実を語ってしまっていいものか。
「では、彼女が?」
「ああ、学園ダンジョンのマスターだ。今はこの通り重い代価を背負って生きることになっている」
重い代価。確かに本来ならあるはずの両腕が見当たらない。
一体何をしたらこんな目に遭うのだろうか?
「アソビィ様。この方が例のエネルギー大量獲得の奥義をお持ちのお方です。ご無礼なきようにお願いしますね?」
ヨーダがアソビィに余計なことすんなよ、メンチを切りながら促す。
令嬢モードなので、結構な圧力が周囲にかかってる。
「ぐ……ぬぬ。お父様達の仇に恩を受けるなど、末代までの恥」
商人ギルド長のデブルに関してはアンスタットの全員で報復した覚えはある。
しかし前領主に関しては全く何も知らない洋一だった。
ダンジョンに落とされ、帰ってきたら全部終わっていたのだ。
だからこそ、アソビィに言いがかりめいたものを感じてしまう。
「洋一殿が仇とは……一体何をされたのです?」
「全く身に覚えはないんですが……もしかしたらあれかな? というのだったらいくつか」
「お聞かせ願えますか?」
一様には信じられないとロイドは洋一に尋ねた。
洋一は知りうる限りの情報を出した。
みるみる顔色を悪くしていくアソビィに、怒りに腕を振るわせるロイド達。
「つまり、クーネル家は……」
「俺が知る限り、アンドールを実質裏から支配をしていた一族です。民達に重い税を課し、そして国外からの為替を操作し、不正に資金を巻き上げていた。その一部を王国に献上し成り上がったのでしょう。そして逆らう存在には賊を雇って襲わせたり、サンドワームを操って街ごと破壊した。俺が知ってるのはこれくらいですが、叩けばホコリはまだまだ出てくるでしょう」
「何ということだ。失望したよ、アソビィ嬢」
「ち、違うのです殿下! この者は嘘を申しております!」
「ほう、私の恩人に向かって嘘つきとは、随分と申せるようになったものだなアソビィ嬢」
周囲が冷え切るような威圧。そして腰から引き抜かれる小剣。
それを後ろから支えているオメガ。
ヨーダは何やってんだか、という冷ややかな視線。
「どうやらいくつか行き違いがあったようだ。俺は気にしてないよ。ただ、アンドールのみんなは君のご家族をひどく恨んでいたように思う。俺はさ、苦境に陥った民達を見捨てられなかった。君たちミンドレイ貴族のやり方に納得がいかなかった。でも違うのだね、俺は気づきもしなかったが、たちなりにアンドールを良くしようと働きかけていた。それが民達に伝わらなかった。そうなのだろう?」
洋一は自分たちの理解力のなさを詫びた。
「そうであったか。これは失礼をした。すまないなアソビィ嬢。私も度量の狭さを露呈してしまう始末だ。許してもらえぬか?」
ロイドは納刀し、アソビィは命が助かるならもうそれでいいやとこくこくと頷くだけの人形となった。
このやり取りだけで洋一をどのように思っていても、自分に味方はいないのだと理解するアソビィ。
仕方なく、この場にいる全員を自身の管理するダンジョン内に案内することに。
実際に管理してるのはヨーダ達だが、それをバラしたら今度こそアソビィは命を散らすことになる。
今こうしてロイドやオメガにチヤホヤしてもらってるのに、それを自ら手放すなどあり得ない。
ただでさえ、今のやり取りで信頼は地の底まで失墜してしまったからだ。
そしてダンジョン内。
セーフゾーンにて食事会を始める洋一達。
「ダンジョンというのは随分と埃っぽいところですのね」
こほこほ、と咳払いをする王女様。
そう言えば病み上がりだと言っていたな。
「ヨルダ、空気清浄の魔道具を頼む」
「オッケー」
洋一に頼まれてヨルダは即座に作業にかかる。
それが珍しいのか、ロイド達が興味津々に眺めた。
「ここをこうして、こうなぞって、こう」
見た限りでは簡単に作ってるように思う。知らない技術だ。
ミンドレイの魔道具とは根本から異なるように思った。
「よし完成。ヨーダさん、これ壁に設置していい?」
「オッケー」
アソビィの気など知らない軽いやり取り。
かくしてそれは設置された。
「あら、随分と埃っぽさが消えました。これならばここで食事もできそうですわね。ご苦労おかけいたしました」
「いいえ、こちらも食べてもらうのにご都合を悪くされてしまっては本末転倒ですから。ティルネさん御貴族向けのテーブルセットをお願いします」
「任されました。少しお待ちください」
ティルネはミンドレイ貴族の挨拶を交え。ステッキを軽く振り、そこに魔法陣を描いた。そこにステッキを二度、叩く。
浮かび上がる魔法陣。そして魔法陣の術式によって木のテーブル、人数分の椅子が土の中から競り上がって形作る。
懐からテーブルクロスを抜き出し、テーブルにかける。
人数分のクッションを簡易的な異種に乗せ、再度ミンドレイ式の挨拶によって貴人達に案内した。
「まぁ! まぁまぁまぁ! すごいですわ!」
王女様はその場で手を叩き、ティルネの仕事に喜びの表情を浮かべる。
デモンストレーションとしてもこの上なく奇抜。
しかし座り心地はこれ以上ないほどである。
気遣いの人であるティルネならではのおもてなしであるが故である。
「ヨルダ、どうせならばこの場に調理室も作ってしまおうか。テーブルセットもここに置いて、生徒達に使ってもらおう」
「いいよー。アンドールダンジョンにおいたのと一緒でいい?」
「多くは求めないさ」
「それって、お前が作ったの?」
「アンドールのはそう」
「へぇ、やるじゃん。あとで作り方教えてよ」
そんなやりとりをロイド達は楽しそうに見つめる。
しかしヒルダはそれを信じられないように見つめていた。
自身と実の姉ヨルダの実力差は僅差であった筈だ。
確かに禁忌の森では神話級を討伐したという話は聞いていた。
だが心は否定する。
まだそう離れていないと信じていた。
しかし、今の自分にヨーダに興味が引く技術があるか?
ないと言い切れるほどになかった。
ただの仲のいい姉妹。それ以上でもそれ以下でもない。
ヨルダの魔道具はあっという間に出来上がった。
その上で扱い方を説明していく。
「へぇ、魔獣の魔核(微)を燃料とするのか」
「うん、拾っても大したお金にならないみたいでさ。だったら燃料にしちゃえば良くねって思った。でかい魔核の方が燃料としてのもちはいいけど、そういうのはお金にしたいじゃん」
「それはどんな魔核でも利用可能なのかい?」
「神話級のはサイズ的に無理かな?」
「あはは、そんなの出てきたら私たちじゃどうしようもできないよ」
それはそう。
学生達のダンジョンに、そんなのが出てきたらミンドレイは文字通り終わる。
「じゃあ、お楽しみの食事会を始めるよ。まずはスープから。病み上がりのお嬢様もいるからね。あまり揚げ物オンリーは憚れると思って。でも安心してくれ、スープといっても固形物もしっかりとある。水餃子という名のスープだ」
「餃子!」
反応したのはオメガだ。
すっかり餃子の虜である。
脂っこいのが大正義のミンドレイにおいて、餃子がもたらしたジャンク感は新しい扉を開いていた。
ゴールデンロードには足繁く通ったオメガであるが、やはり洋一の作った本物とはどこか違う偽物が多かった。
だがこれを口にした時「ああ、これだこれだ」という感情が競り上がってくる。
それをヨーダが「何こいつ? キモ」みたいな顔で眺めていた。
「嘘……こんなことって」
アソビィは、全く違う数値に驚いている。
それはエネルギーの総量だった。
今の水餃子を一食で、アソビィが必死になってためた1000を簡単に上回った。
両親を失い、実家は没落。それほどの不幸を得て手に入れたエネルギーはいったい何だったのかと思うなどしている。
「お口に合わなかったかな?」
「そうなのか、アソビィ嬢」
両腕がないためにロイドに食べさせてもらっているアソビィ。
そこで自分が気にいる味が気に入らないなどと誰が言えようものか。
「いいえ、いいえ違いますわ。びっくりするくらいに美味しくて、少し気が動転してしまいましたの」
「ああ、そうだろうね。蒸し餃子こそが最高だと思っていたが、こうして煮たものもまた美味しかった。タレに浸すこともなく、これほどの旨味を引き出せるリュオ売り人はそう多くないだろう」
ロイドに至っては絶賛だ。
そして次に現れたのは春巻きだった。
「これ、ゴールデンロードにあったものですよね? 僕はこれよりもやはり蒸し餃子の方が……」
オメガが不服そうに差し出された皿に評価を下す。
しかしゴールデンロードでバイトしているマールにとっては見慣れない色合いだった。
「いえ、これはウチで扱ってる春巻きとは異なるものですよ。今から楽しみです」
マールがその味を精査しようと頬張り、驚きの声を上げた。
口いっぱいに溢れたのは肉汁の旨味。そして辛さだ。
火が出るほどの辛さ。しかしそれを緩和させるための具材で咀嚼するたびに口の中が幸せに満ちていく。
一口、二口と食べ進めていけば次、次と端を差し出していく。
このままではマールが一人で全て食べてしまいそうな勢いだった。
「そんなに美味なのか?」
「マール嬢、そんなに勢いよく食べるのははしたないぞ」
そう言いつつもしっかり自分の分を確保する男性陣。
そして口に含んで、自分の下した評価を即座に取り下げるオメガである。
「これは……」
「ポンちゃん、これって」
「ああ、カレー味だ。アンドールが辛味のメッカでな。本格中華もできそうなほど香辛料が各種揃っている。しかしその豊富さからこういうのも面白いんあじゃないかと思って」
「エールのお供に最高なやつ」
「さすがに学園内では出さないぞ?」
「ちぇー」
あわよくば飲みたがっていたヨーダ。令嬢の姿でそれはやめておけと洋一は釘を刺した。
「ああ、集合場所にいないと思ったらこんなところに」
合流したシルファスが、何食わぬ顔でロイド達に挨拶を交わした。
「シルファス殿下。学園長はなんと?」
「思いの外早く帰ってきてくれたので陛下の顔に泥を塗らなくて済んだと」
「本当ならこんなに急にやってきて、人員を招集するなど無粋の極み。しかし我が国はザイオンと友好国であるからな。これは貸しだぞ?」
「ああ、心得ている。しかし意外だな、洋一殿がこのようなジャンクを」
「ポンちゃんは人に合わせて出す料理を変えるからな。自分の旨いを追求する上で、ただそれをゴリ押しをしないんだ、自分の料理に限界を作らないために、常に勉強の男だよ」
「そうであったか。だから故郷の食べ物についてあれこれ聞いたのだな」
うんうんと頷くシルファス。
そこでロイド達がザイオン国の国民食に興味を示した。
「でしたらザイオン料理をいくつかお出ししますよ。聞いた話なのでどこまで再現できるかわかりませんが」
「なら俺自らが評価しよう。洋一殿なら間違いはないと思うが」
「はは、合格点をもらえるように努力するさ」
それから数時間。ミンドレイ、ザイオン、ジーパのやんごとなきお方を交えた食事会は続いた。
それぞれの国民職を完全再現した。
全員が笑顔。
そして食事会は終了した。
全員がお互いの国を認め合うように、握手を交わす。
そしてその場で得られたエネルギーは1000万をこえた。
アソビィは「何だこれ」と有り金を全部溶かしたような顔でその場に立ち尽くしていた。
料理一つで全員から好意を抱かれる存在の洋一と出会い、彼女の中で何かが変わっていく。
「これが、運命の出会いというのかしら」
ちょっと乙女チックな感情を昂らせ、今までにない心地でダンジョンを後にした。
◆
「いやぁ、一時はどうなることかと思いました」
一路オルクハウゼンまで戻ってきた洋一達は、ギルドマスターにそう報告した。
わざわざ中央都市を離れてこっちにきた理由は、単純にザイオン行きの船が出ている港がこっち方面にあるからだ。
ミンドレイ大陸は三日月に谷山がぐるっと囲んでおり最南端の禁忌の森、そして中央都市から東にジーパ、北にアンドール、西にザイオン行きの便が出ている。
そのため中央都市から目的の港町に行くために、わざわざアンドール方面のおルクハウゼンまで来る必要があった。
山岳を直接超えられたらよかったんだが、途中道のない場所も多く、王族のシルファスを連れて歩くのに不適切としてこちらを選んだ次第だ。
「随分とお早い帰りだな。本当に行って帰ってきただけじゃないのか?」
「問題ない。聖剣の封印もこの通り解けた」
シルファスがギルドマスターに聖剣エクスカリバーを見せつける。
素人にはぱっと見で変化の程が見当たらない、
しかしシルファス本人が自信満々に言うのだから、それをギルドマスターが咎めるのも違うだろう。
何にせよ、これで意味のわからない海路封鎖も無くなった。
心置きなく仕事もできると言うものだ。
ザイオンからは上級冒険者を輩出してもらってる。
高難易度のクエストに出てもらおうにも、今回のような王命を行使しての封鎖は後にも先にもこれが初めて。今後同じようなことがあればミンドレイの被害が増えるばかりである。
だからこそ、今回の仕事の早さに対して、ギルドマスターは報酬を上乗せした。
「これは成功報酬だ」
「前金はもらってますが?」
「気持ちの問題だよ。ザイオンとの海路封鎖は仕事に響くんだ。ザイオンからは人材を、ミンドレイからは魔道具を。それぞれ送り合って友好国たり得る」
受け取った皮袋の中身は結構な数の金貨だ。
洋一は中身を確認せずにティルネに渡した。
枚数を知ったとして、それがどれくらいの金額なのか、洋一が計り知れないからだ。
「おお、すごいな。ゲームじゃ前金だけで護衛は雇えるんだが」
「ここはゲームじゃないってことさ。さぁ、早速マッシュアンクに向かおうか」
「待った、あんた達だけで行くのか?」
あんた達。洋一にヨルダ、ティルネにシルファスを加えた四人組である。
「何か問題が?」
「紹介したい冒険者がいる。護衛にどうだい?」
「ふぅむ。しかし急ぎの旅でもないんでね」
洋一は一瞬考えるが、すぐに今のメンバーで問題ないと言い切った。
ザイオン出身で元日本人のシルファスがいるので、案内は問題ないと言いたいのだ。ギルドマスターはシルファスが転生者である事実は知らないが。
「今なら護衛費は半額でいい」
「随分押してくるじゃないか」
「あんた達とバッティングしたら、ぜひ押してくれって頼まれてたんだよ」
「一応、名前だけでも聞いておきましょうか」
「あんたの知り合いだと聞いてるぜ。『エメラルドスプラッシュ』この名前に聞き覚えは?」
「ああ、ゼスターさんたちか。確かザイオン出身の獣人でしたね」
「よかった、やっぱり知り合いか。どうも諸事情あって向こうに渡れないらしくてな」
「その諸事情って海路の封鎖ですか?」
「ああ、その通りだ」
洋一はシルファスに振り向く。
あまり馬の合わない兄弟だと聞く。合同していいか?
そんなコンタクトだ。
「問題ない。洋一さんには関係ない、こちらのことだからな」
シルファスは他人に面倒かけるつもりはないと潔く引き受けてくれた。
「よかった。それでは護衛の件、引き受けましょう。あれからどれほど強くなったのか、気になりますね」
「よかった、じゃあそいつらと連絡を取り付ける。しばらくはオルクハウゼンでゆっくりしてってくれ」
「わかりました。臨時収入もありますし、しばらく外食でもしてますよ」
「そうしてくれ」
マスタールームを出て、そのまま冒険者ギルドを抜ける。
「シルファスさんはミンドレイ料理はどれくらい精通してます?」
「ほぼ皆無と言ったとこだな。本当に家を出てそのままミンドレイに向かったんだ。ゲームだったら行き先を決めるだけでオートで進むんだが、この世界ではそこだけがネックだったな」
本当に周囲に目を向ける余裕もなかったように言う。
料理人として、それは勿体無いと思う洋一。
「なら少し食べ歩きでもしましょうか。お金も両替してないでしょう?」
「ゲームは共通金貨だったしな」
「あいにくと国ごとに通貨が違いますよ。ミンドレイは金貨、ジーパは赤札、アンドールは打ちつけた金板。これらがお金になります」
「へぇ。所変わればってやつか」
「ゲームと違って面白いでしょう?」
「恩師殿、また綿飴の屋台が出ています。買われて行かれますか?」
「綿飴まであるのか! 前世では屋台の定番だったな。これと焼きそば、焼きもろこし、りんご飴が鉄板だった」
「へぇ、俺はお祭りはよく知らないんで、そっちの情報に興味ありますね」
「あ、洋一さんはダンジョンのある世界だったか。それじゃあお祭りなんて危なくてしてられないか」
「そう言うことです。お金は出しますので色々見繕ってもらっていいですか?」
「そう言うことならまかしてくれ!」
シルファスは初めて前世について語れる相手ができて嬉しそうに表情を弾ませた。
そして十数分後、すっかり大荷物を持つ洋一達の姿があった。
宿に持ち込み、味の品評会などをしている。
「うーん、どこはかとなくコレジャナイ感」
「それは仕方ありませんよ。どうしたってお国柄が出てしまいます。ミンドレイはとにかく高カロリー! 油っぽいのがお国柄です。ジーパの方やザイオンの方はそれが少し苦手だと聞いていますね」
「なるほどなー。こうやって外の大陸まで来て食べ比べしたことがないからわからなかったわ。それ以前に前世と味覚が全然異なるのもその違いに拍車を欠けているのかも」
「やはり前に比べて猫舌に?」
「ああ、鉄板焼きはよく冷まさないと食えなくなった。熱いのがうまいのによ、これじゃあ本末転倒だ」
シルファスはそれだけが残念だと言った。
しかしそれ以外の肉体スペックが前と比べるまでもなく上昇してるという。
「昔はどれだけ鍛えても筋肉がつかなかったからな。こっちはただ運動してるだけでもりもりついてく。前までは重くて持ち上げられなかったものもこの通りってな」
ベア吉を片手で担ぎ上げる。
本熊も初めての高い高いに喜んでいた。
なお、ヨルダもティルネも同じことをしようとするなら魔法抜きではできない。
ベア吉はとても重いのだ。見た目の可愛さとは裏腹に、普通に軽自動車くらいの重さを保持していた。
それを宿に連れ込んで、よく床が抜けないものだ。
シルファスはできれば前世のうちにこの能力を手に入れたかったと嘆いている。
転生する前と今。それぞれ違っている箇所は多く、そして種族の壁が前世の夢を諦める原因となっていた。
「猫舌、そして生食文化ですか」
「ああ。ザイオンに限って言えばユッケとかの方が正義なんだ。それを焼くって言った時の周囲の白けた目は今でも忘れらんねぇよ」
「これは俺の経験則なんですが」
「ああ」
「ジーパの人たちも、最初はミンドレイのような脂っこいものは受け付けないとおっしゃってたんです」
「だろうな」
「でもですね、一度美味いと思ったらその限りではないんですよ。最初こそ忌避されましたが、本当に美味しい料理を口にした後、人は意見を変えるものです。俺はジーパに中華を持ち込みました」
「うわwww」
シルファスは思い切ったことをするな、と内心で叫んだ。
古き良き日本文化のジーパに中華は横暴だろう。
だが、洋一の話を聞くうちに、すっかり中華に染まったジーパの話を聞き、自分はただチャレンジ精神が足りないだけだったのだと思い知る。
「そんなわけでですね、ザイオンもまだ鉄板焼きの美味しさを知らないだけだと思うんですよ。それでこれは提案なんですが」
「ちょっと聞くのが怖いな」
言わんとすることが、もし自分の考えている通りなら。
シルファスは王族としても、勇者としても大成できなくなる道を歩むことになる。
「俺と一緒に屋台をしませんか? もちろん、ダンジョン攻略のついででいいので」
「俺を鉄板焼きのメインに置くという話じゃなくてか?」
少しの肩透かし。
てっきり自分に鉄板焼きをするための準備をすると申し出ると思っていたシルファス。
「そこは俺も料理人ですからね。人のを見ていたらきっと自分も作りたくなる。だからここは共同屋台ということでお願いします。あなたは矢面に立たなくていい。同じ鉄板焼きの共同オーナーとして、一緒に作ってくれませんか?」
それは、シルファスに王族として、勇者としての道を諦めることなく前世の夢も一緒に見てやろうぜという誘いだった。
シルファスは片手で顔半分を覆う。
自分はこんなにも泣きやすかったか?
ボロボロとこぼれ落ちる涙を堰き止めるように、手で瞼を擦りあげる。
垂れ落ちそうな鼻水を啜り上げ、再び洋一に向き直る。
「俺なんかでよければ、いくらでも」
「そう謙遜なさらないでください。あなたに教わりたいと思った。あなただから誘ったのですよ、シルファスさん」
今まで王族としても落ちこぼれと言われてきた。
ゲーム知識しか披露できるものがなく、種族特性で鉄板焼きとは相性が悪かった。
それを、全て承知の上で誘ってくれた。
これを断れるはずがない。
これを断ったら男じゃない。
料理人じゃない。
先ほど拭い去った涙がまた込み上げてきそうだった。
「こちらこそ、知識でも技術でもなんでも提供しよう。その代わり、どうすればザイオンで鉄板焼きが流行するか一緒に考えてくれたら助かる」
「では決まりですね。このまま商人ギルドで登録してしまいましょう。その前に宿屋の厨房を借りて一枚差し入れを持って行きましょう。ミンドレイ国民はこういうコッテリ系は大好きですからね」
「天かすマシマシで作ってやるか!」
「焼きそばも入れましょう」
「それは邪道だ」
「えー、美味しいのに」
「俺も好きだが、客は大阪風か広島風でうるさいんだよ」
「ここは日本ではありませんよ? だからこそ好き勝手できる。うるさい客はアジで黙らせてやれ。それがこの世界のルールだと俺は思ってます」
「それもそうだな。しかしソースがな」
日本的な中濃ソースがない。
ミンドレイにもソースはあるが、味が濃厚すぎて果物の甘味が感じ取れないものがほとんどだった。
「うちのティルネさんは俺の好みの調味料を提供してくれる。色々情報を提示してくれたらオリジナルソースを作り上げるくらいはしてくれるぞ」
「なんと!」
シルファスのティルネを見る目が変わった。
今までは師匠と仰ぎ、さらには魔法使いとして尊敬。
ジーパ菓子の腕前で度肝を抜かれてきたシルファスであったが、ここにきて調味料の伝道師という肩書きを聞いて感極まった。
「師匠、俺に焼きそばソースをお恵み願えますか?」
「引き受けましょう。恩師殿も欲するそのソース、見事達成してこそ詩としての腕の見せ所!」
「ありがとうございます!」
「しかし私一人だけでは至らぬ道。野菜全般、果実にお米の生産者であるヨルダ殿のご助力も頼まなければならぬでしょう」
シルファスは信じられないという顔。
こんな小さな少女がこのパーティの中で一番の信頼を勝ち取っている事実。
洋一からも、ティルネからも一目置かれてる存在。
「なぁ、オレにはお願いしますって言わねーの?」
「頼めるか?」
「土下座したら考えてやる」
「お、俺は王族だぞ!」
「残念ですが殿下、あなたと彼女に生まれの違いは誤差です。彼女は公爵家令嬢正統後継者。つまりは王女殿下の御息女。王族は親戚です」
「ぐっ! とんだところに伏兵が! もしや師匠や洋一さんもどこかの国の王族だったりとか?」
「私はただの男爵上がりですよ」
「俺は平民。なんなら戸籍もないぞ。一応肩書き的にはアンドールの領主代行ではあるが、ほとんど役割果たしてないからな」
「ほれほれどうしたよ、お辞儀でもいいぞ? お願いしますっていうだけでみずみずしい野菜にお米、果実なんかもつけちゃうぞ? 普通お米はジーパの豊かな四季でしか栽培できねーのに、俺はどこでも白米を調達可能だ。この意味がわかるか?」
「お、お願いしましゅ」
「いいぞー、オレは心が広いからな。ちびっ子と言ったことも気にしないでおいてやるよ」
けけけ、と悪魔が笑うように応答するヨルダ。
気にしないと言いつつもしっかり気にしてるあたり彼女らしい。
それからしばらくして、シルファスの求めた中濃ソースが出来上がった。
なんあらこれは前世の味を上回るんじゃないかというほどの出来だった。
洋一の打った麺を茹でて鉄板の上でソースと絡める。
モッチモチの太麺。
もうこれだけで上手いと確信できるほど。
だがシルファスの仕事はここからだ。
お好み焼きを焼きながら中に焼きそばを閉じ込める。
それを折りたたんで上からソース、青のり、マヨネーズをトッピングして最後に紅生姜を添えた。
もう見ただけでソースの濃厚さが宿のあちこちに広がっている。
女将さんは「あたし達の分もあるんだよね?」と声で圧をかけてくるほど。
結局、商人ギルドへの持ち込みは翌日にまで持ち越した。
ソースのうまそうな匂いに集まった客によって、ほとんど食べられてしまったからだ。
その日、シルファスは自分の焼いたお好み焼きを笑顔で食べる民衆の顔が忘れられなかった。
◆
「ヨウイチの旦那!」
「お久しぶりです、ゼスターさん」
シルファスのレシピ登録から二日後、洋一達は無事、冒険者ギルドにてエメラルドスプラッシュと二度目の護衛依頼を頼むことに。
外で屋台をしてたのに、どこで場所がわかったんだ?
ギルド職員が直接準備が整ったことを聞きつけて洋一達はギルドに向かっていた。
と思ったら、どうも行きがけに手渡したヨルダの魔道具で見つけたそうだ。
あれは今後各町のギルドマスターに手渡したほうがいいのかな?
行き違い、すれ違いは今後増えてくるだろうし。
ダンジョンに潜ったら篭りっぱなしだからな。
「よう、愚弟」
「なんでここにクソ兄貴が?」
そこでシルファスが久しぶりにゼスターと兄弟としての会話を交わすと、あまりにも久しぶりすぎて少し険悪なムードを醸し出す。
「実はザイオンに向かう上でご一緒することになってね。それと彼はゼスターさんが思うほど悪い方ではないよ。これ、食べてみて」
洋一は疑いの目を向けるゼスターに、シルファス謹製のお好み焼きを手渡した。
「お、新作か?」
「楽しみです」
「美味いが、あたしらには少し脂っこいな」
「そりゃそうだろ。ジーパ国向けにゃ作ってないからな。こいつはミンドレイ向けの味付けだよ。ジーパ国向けならこっちだ。食べてみてくれ」
「なんで兄貴にそんなことがわかるんだよ。味音痴の兄貴が」
「俺は味音痴じゃないぞ、ゼスター。ただ、食の好みがザイオン寄りじゃないだけだ」
半信半疑のゼスターのすぐ横では、カエデ、もみじが驚きの声をあげていた。
「これはすごいな! 本当にあたしらの好みを完璧に再現されちまってるぞ!」
「美味しいです」
「だろ? 魚介たっぷり。火入れしすぎず、生本来の旨みを生かしたシーフードお好み焼きだ。ゼスター、お前も食ってみろよ。俺の自信作だ」
「え、これは旦那が作ったんじゃないのか?」
「俺はこのジャンルにおいては彼に敵わないよ。騙されたと思って食べてみてほしい。君はお兄さんのことを少し誤解しているようだからね。こっちがミンドレイ向け、ジーパ向け、アンドール向け、そしてザイオン向けだ。シルファスさんは確かな味覚を持ち、これらを仕上げた。まずは食べて、理解してくれ」
「旦那にそこまで言わせるなんて、王宮にいた時とは別人だぜ」
「初対面ではお互いに誤解してたけど、思いを聞いて、この人は自分に素直になれないだけだなと知った。やけに深い知識。そして鉄板焼きはザイオンでは受けないと知って、ずっと心の中で葛藤してたんだよ。これはある意味でシルファス殿下の想いの結晶だ。俺たちと出会い、そして頭を下げてようやく作りたいものとしての集大成がこれなんだ。好き嫌いせずに食べてみてほしい」
「わかった。俺にとって兄貴は兄貴。これ以上心象は変わらないとは思うが、飯に罪はないもんな。その代わり、厳しくチェックしてくからな」
「それで構わない。正直、王宮にいる時の俺は自分から見てもどうかしてたしな」
「だから今、本当に同一人物か? と勘繰ってる俺がいるんだよ」
「一体どういう人だったんだよ」
「一言二言では言い表せないような堅物、かな? ミンドレイ貴族と商人を掛け合わせて、位が王族なもんだから、そりゃもうひどいもんだぜ? 選民意識は酷いし、自分以外をモブだのNPC?だの散々な扱いだったからな」
ゼスターはお好み焼きをもぐもぐしながら、仲間にそんな説明をした。
どうやら王宮にいる頃からゲーム知識全開で動いていたらしい。
そりゃ孤立してもおかしくない。
「へぇ、そんな人がこんなに美味しいもんを作れるとはね。最初は食べつけないと思ったミンドレイ向けも、他の料理と比べたら全然食べれるってことに気がついたよ。決め手はこの赤い漬物だ」
カエデが紅生姜を指してドヤ顔をする。
酸っぱめのこいつがあるからこそ、油っぽさが緩和される。
むしろ紅生姜なしでこいつを食えというほうが酷だろう。
シルファスが今回作る上で心掛けたのは紅生姜の酸味だった。
ミンドレイ向けは濃く、ジーパ向けは繊細な味を殺さないように、アンドール向けは本体に負けない酸味にさらに甘味を付与して。
最後にザイオン向けはワイルドな仕上がりにした。
お好み焼きというにはあまりにも肉本来の味が全面に出過ぎているための臭み消しの役割を見出す。
ゼスターは最初こそ順調にミンドレイ、ジーパ、アンドールのお好み焼きを食べて、まぁこんなものかという感想を述べた。
正直、違いがわからないのだ。
ザイオンの獣人は総じて猫舌で、熱いものを食べなれない。
鉄板焼きとの相性は最悪と言って良かった。
が、ザイオン向きのお好み焼きを口にした時、目が飛び出るほどの旨みをそれに感じた。なんだこれは? 今まで食べてきたもののどれとも違う。
本当にザイオン人向けに作ったのだという覚悟が伝わる。
火入れはほどほどに、半熟なレア。
全てにおいてがレアで、表面のパリッと感とは裏腹に中はトロッと、そしてシュワっと消えて肉の旨みと混ざり合った。
人によっては好みが分かれる味だが、ザイオン人ならまず間違いなく飛びつく。
そんな味わいだった。
ゼスターはそんな心地だが、あまりにも生すぎてもみじとカエデは途中で残すほどだ。洋一達も試食したが、やはり食べ慣れなかった記憶がある。
完全な味覚の壁がそこにはあったのだ。
「兄貴……俺、兄貴を誤解してたよ」
「俺もお前に対してモブだのNPCだの言って悪かった。血を分けた兄弟だというのに、俺は知識にない存在がいることをすごく恐れていたんだ。今からでも仲良くしてくれるか?」
「そいつはこのお好み焼き? 次第だな」
「そんなので良けりゃいくらでも作ってやる!」
こうして長年の誤解が解け、兄弟間の蟠りはお好み焼きによって取り払われた。
そのあと報酬のやり取りについて話、必要経費として前金を支払う。
馬車の手配や搬送など、そこで冒険者の動きを知るシルファス。
「本来なら手配はこれくらいかかるもんなんだな。俺はそれを知らずになんでもいいだなんて、無知にも程があったな」
「ゲームとは違うでしょう?」
「ああ。目的地を決めたらあとはオートだからな。実際にこうして目にすることによって、多くの人が移動に携わっているのだと知った。知れた。俺は今までそこから目を背けていたんだな」
「それを理解しようという試みがあるだけマシですよ。これからご家族やご兄弟といろいろ会話をする機会も多くなっていくことでしょうし、そこで選択肢を間違わなければいいんです」
「今更と手のひらを返される姿が想像できる。それくらい、周囲には迷惑をかけてきた」
弟にですらこれだ。上の兄二人は特に年齢が離れてるのもあり、完全に他人という感覚だったろう。その上で勇者の才覚持ち。わがまま放題に拍車がかかったと自覚していたシルファス。
もう縋れるものがそれしかなかったと反省の言葉を述べていた。
「生まれガチャ、ねぇ」
ヨーダの言葉を思い出す。
生まれが良ければ苦労しない。
そんなふうに転生者達は述べるが、陽一からしてみたら苦労を免除する代わりに知識を広める機会を失っているようにすら思えた。
苦労と共に生きてきた洋一だからこその感覚を、誰かに押し付けるつもりもない。
「俺からしたら、そんなの高望み以外のなんでもないけどな」
洋一は思い出話、笑い話の一つとして己の過去を語った。
生まれた時からステータスの低さで捨てられ、児童施設で成長。
適齢期になったら口減しで放逐。
ステータスが低いという理由であちこちに頭を下げてようやくレストランの雑用を任された。
そこから30になるまではずっと奉仕生活。
それでも自分は楽しく仕事に向き合えたものだ、と語る。
洋一にとっての苦労は、苦労だなんて言ってられないほどの苦労によって塗りつぶされている。
生まれで苦労したなんて語った、ヨルダやティルネ、シルファスは開いた口が塞がらないほどの絶句である。
「みんなしてどうした? 今じゃこんなのもいい思い出さ。仕事をクビになった時ヨッちゃんに誘われて第二のセカンドライフを始めたんだ。それがダンジョンのモンスターを食材にしてその場で食べ比べをするというものだった。配信というのもやったが、最初は鳴かず飛ばずでなぁ。途中から一切気にせず食べることに夢中になってたから構わないんだけどさ」
あの時から食いしん坊だったよなぁと語る洋一。
藤本要ことヨッちゃんとの馴れ初めもそこに帰結する。
ただの飲み仲間、知り合い程度に考えていた面々は、まさにヨーダは洋一の命の恩人なんだと理解する。
「師匠! オレ、ずっとあの人のこと誤解してた!」
「恩師殿、あなたはなんという過酷な道を乗り越えてこられたのでしょう!」
「洋一さんの苦労に比べたら、俺の苦労なんてちっぽけすぎて笑い話にもなんねぇや」
「ははは。もう終わったことだよ。それこそ笑い飛ばしてくれなきゃ困る。俺だって最初こそはどこでも料理を作るようなやつでもなかった。スタートだって30からと遅い。だからこそシルファスさん、今からやり直して遅いだなんてことはないよ。俺が証明して見せたように、人間はいつになったってスタートできる。獣人なら尚更さ」
「そう、だな。俺はまだやり直せる。洋一さんには教わってばかりだ」
「その意気だ」
「そろそろ港町に着くぞー」
御者台に座るゼスターの掛け声に、一同は気を引き締める。
「いよいよか」
馬車の中には四人と四匹。護衛対象とお供の見慣れぬ生物達だ。
洋一、ヨルダ、ティルネにシルファス。
ベア吉、おたま、牡丹、武蔵。
港町マッシュアンク。
ザイオンとの連絡口なだけあり、そこには多種多様な獣人が溢れかえっていた。
「なんかここに来るだけで一気にザイオン感が上がるんだよなぁ」
「人口密度的にはザイオン寄りだろう」
ゼスターの言葉に、シルファスが続く。
ゲームでは人口分布までは知れないが、イベントのいくつかで獣人と絡むものが多いとしている。
なのでここまで密集していてもおかしくないとシルファスは語った。
「鬼人も見かけますよ?」
「それでも圧倒的に獣人が多いですね。どのようなものが食べられてるか気になりますね。出港手続き後に時間があったら屋台を回りたいですね」
「一応ここはミンドレイの領内なんだろ? 流石にミンドレイ向けがあるだろ」
「分かりませんよ。どうしても街はその人口に合わせて食の好みを変えるものですし」
ヨルダのぼやきにティルネが合わせる。
そしてあの兄弟のやり取りで思い出す、あまりにも生すぎる食事が脳裏をよぎった。
たまに食うのならいい。しかし三食あれでは気が滅入る。
そんな心地だ。
これは鉄板焼きが受け入れられないのもわかる気がした。
マッシュアンクの人垣の向こう側。
そこでは冒険者同士だろうか? 武器を預けて相撲を取っていた。
どちらが勝つかの賭博をかけており、胴元はどちらかの仲間だろう。
周囲に向けて『挑戦者求む』と呼びかけている。
ミンドレイに居ながら異国に紛れ込んだ心地になった。
「あれは?」
「ザイオンは祖先が獣というだけあり、喧嘩っ早い。なのでああ言った試合形式でどちらの意見が主張されるかを取り決める風潮がある。俺はその風習が苦手で仕方ない」
「兄貴は喧嘩よえーもんな」
「うるさい。俺はインドア派なんだよ」
「またわけわかんねーこと言ってら」
シルファスはこうやって事あるごとに前世の記憶に引っ張られる。
ゼスターの反応を見る限りでも、こうやって周りから人が消えていったんだろうことがわかった。
「今はどうもケバブのソースがチリソースかヨーグルトソースで競い合ってるそうだ」
「みんな違って、みんないいだろうに」
「ただ騒ぎたいだけなのさ。理由をつけて暴れたいんだ。ザイオン人は武力に並々ならぬ執着を持つ。そしてこだわりが強いほどに、力への執着も強くてな」
ゼスター曰く。力の主張よりも、今の強者は何を求めてるのか、商売人に喧伝して回ってるそうだ。
まるで縄張り争いの様相。
ザイオンは国の規模でこれをやっているらしい。
むしろ国政すら喧嘩を通して行うそうだ。
なんだその戦闘民族は、と思ったのは洋一だけではないだろう。
そういうわけで王族だから偉いというわけでもなく、強いものを十者に率いて、さらに従者よりも強くあるのがザイオン国の王のあり方なのだそうだ。
「それで、ゼスターさんは王位を継げそうですか?」
「兄貴はともかく上2人が強敵でな。だが、俺も強くなった。それをみせしめるためにも混ざってみてもいいかもな」
先ほどの喧嘩は、ケバブにヨーグルトソースをかけて食べるのが主流となっていた。
もはや流行こそ喧嘩で決めるおかしな風習の上に成り立つ文化がザイオンなのだとか。
なんか今から行くのが億劫になってきた洋一である。
「挑戦者はいないかぁ! 我こそはと言うものよ、名乗りを上げよ! このままではヨーグルトソース派に乗っ取られちまう! 我こそはチリソース派だという強者よ! 誰かいないかぁ!」
「俺がいく」
周囲に訴える様な声。
胴元はヨーグルトソースが苦手な様だ。
必死にチリソース派を探すが、先ほどのケンカの決着を見た人達は挙手するのを躊躇った。
それほどまでに力の差が歴然だったからだ。
そこに名乗り出たのは小柄なボディにそれを上回る大剣を担いだ戦士、ゼスターだ。
「挑戦者が現れました! お名前をどうぞ!」
「俺の名はゼスター! Aランクパーティ『エメラルドスプラッシュ』のゼスターだ! それとケバブには醤油マヨネーズ! これは絶対だ! チリソースもヨーグルトソースも認めん!」
「ほう?」
ゼスターは新たな派閥を名乗り出て、ヨーグルトソース派のチャンピオンはゼスターに向けて威圧を強めた。
ちなみに醤油マヨネーズが好きなのはもみじとカエデの方だったりする。ゼスターは新たな食文化を広めるために、果敢に体格差のあるゴリラ獣人に立ち向かうのだった。
◆
「勝者! ゼスター!」
「「「「ウォーーーー!!」」」
ヨーグルトソース推しのゴリラ獣人は大敗し、ゼスターが高らかに勝利の勝鬨をあげた。
守ると決めた二人の前で恥ずかしい真似はできない、その力がゼスターに大きな活力を与えたのだと思う。
腕力のゴリラ獣人に速度で圧倒したゼスター。
武器なしのルールは、剣の重さを使って奇抜な動きをするゼスターの枷を外すだけのものとなった。
ただでさえ狼獣人は速度重視。
それをまるでハンデかのように大剣を振り回してるのがゼスターという冒険者だった。
本人曰く腕力を鍛え上げるための修行中とのことだが、それはスピードを殺すデメリットが大きいように思う。
仲間のもみじやカエデも、その武器は合わないからやめなと何度も申告しているが、本人は格好いいからこれ以外考えられないと押し通している。
よって、スピードを手にしたゼスターを視力で捉えきれなかったゴリラ獣人は瞬く間に衣服を剥ぎ取られ、社会的に死んだ。
明日からこの町で闊歩できないほどの辱めを受けたのだ。
この日より、このナワバリのボスはゼスターに傾いた。
それはそれとして、醤油マヨネーズって何? そう思ってる人がほとんどだ。
「ほらよ、兄貴。こっからはあんたの出番だぜ? 醤油マヨネーズが抜群に合うケバブを作ってくれ」
「ケバブはお好み焼きを薄く仕上げて焼いた肉を削ぎ落とし、複数のソースで味をつけるというものです」
ああ、そうか。
ケバブなんて見たことも聞いたことくらいはあるが、好んでたべようとはおもわなかったシルファス。
そこでゼスターは似通った味のお好み焼きを作る機会を与えてくれたのだと理解する。
「俺流でいいのか?」
「俺は兄貴の作るケバブが食いたいんだ」
「洋一さん、ケバブ用の肉はどういったのが主流だ? しっかり焼いたものか? 半生か? それともほとんど生か?」
「俺が食ったことあるのはしっかり火が通ったものですね」
「ミンドレイ人が食うにはそれで十分だが……ザイオン人には少し硬いな。そして……『旨みが薄すぎる』」
シルファスの言葉にゼスターの言葉が噛み合った。
ザイオン人にとって生食文化は、生まれた時から根付いたもの。
それで腹を壊すようなら戦士としても二流。そんな扱いを受けて育ってきた。
国外に出て、稼ごうとするのはどれも一族の看板を背負って生きている一流の戦士。そんなもの達に粗末なものを食べさせたなら、料理人としての恥。
「みんな、手を貸してくれ! 俺はここでザイオンここにありという看板を捧げる。ゼスターとそのメンバーは売り子として雇われてくれるか? 売り上げは折半だ」
「それでいいぜ!」
「出港時間は平気なのか?」
「先ほど予約してきたので大丈夫ですよ。あと4時間ほどで出港だそうです。それまでに準備すれば問題はないでしょうな」
ジーパ行きのボートと違い、ザイオン行きの大型帆船はミンドレイからの積荷もあるため出港する便が限られているのだという。
そのため出港ダイヤが決められており、待ち時間が四時間となってしまったらしいことをティルネから話を聞いて、これはチャンスだとシルファスは思った。
「先着10名までは新チャンピオンの俺が奢る! ザイオン向けケバブはこうやって食え! ゴロット入った血抜きしてない生肉! 食感の変わるミンチ肉(当然生)! そこに刻まれたネギなどの臭み消し! それに抜群に合うのが醤油マヨネーズだぁあああ!」
早速一枚焼き上がった新ケバブ(ユッケ包み)を頬張り、ゼスターは吠えた。
最初こそは醤油マヨネーズと言う未知の味が想像できないでいたが、血の滴る生肉と聞いて食指を動かされた獣人が集まり始める。
そして最初に食べたのは衣服を剥ぎ取られた前チャンピオンだ。
「こんなのでお前のやった罪は消えないぞ?」
「バカやろう、勝負に負けた奴が負け惜しみを言うんじゃねぇよ。今回俺に負けたのはお前の力だけに頼った戦いだけじゃこの先やっていけないという教訓だ。これ食って理解しろ。今まで食ってたものが、いかに俺たちにとって合わない食事だったのかをな」
ゴリラ獣人ザルバックはそれを一口頬張り、すぐに涙を流した。
口の中いっぱいに広がる野生の味。
冒険者となってから失っていた野生が、血の滴る生肉によって色鮮やかに思い出される。
一族でいちばんの腕前だったザルバック。
当然外の世界でも通用するだろう腕力はミンドレイでも受け入れられた。
しかし年月が経つうちに、すっかり野生を忘れ、牙を抜かれたことに気がつく。
残ったのは生まれ持っての恵体。
それでもミンドレイでも通用した。
お金は稼げても、思い描いた夢には程遠く、全盛期の頃より随分と弱くなった。
仲間からは信頼こそされていたが、それは某りょ行くで勝ち雨とった信頼だった。
故郷の味が懐かしい。
そこで生の味を思い出させるヨーグルトソースを推進し始めた。しかし仲間内からは不評だった。
これでもまだ足りないのに、どうすれば再びあの力を取り戻せるのか。
そんな時、この新生ケバブを手に入れた。
故郷を思い出す味だった。
血の滴るような生肉。
ゴロゴロっとした角切りな肉と、ミンチにしたものが交互に口の中を楽しませる。刻まれたネギ、ふわりとした胡麻の香り、生肉独特の臭みを消し、口の中に余韻を残した。
そして一見して無駄に思えるこのかわ。
これ自体が味に新たな調和を生み出していた。
そして醤油マヨネーズなる見たことも聞いたこともないソースが、その生肉と衣と一体化するのに必要不可欠だった。
最初は魚特有の臭みを彷彿とさせた。
鰹節と昆布を削った旨みを醤油に纏わせたものが使われている。そこに脂っこいミンドレイ人が好きそうな味。
こんなものが生肉に合うわけがない。
そう思っていたザルバックは、結果涙を流していた。
「どうだ、乾いた魂が震えるだろう? 俺達ザイオンはこの国の連中から悪食のように思われてる風潮がある。が、これならば奴らも食える。生肉を食うのは忌避されている奴らでも、思わず夢中になる不思議な味わい。この醤油というのは我らと異なる種族進化を果たしたジーパで生まれた調味料よ。魚好きのあやつらが生でも旨みを引き出せるように工夫を重ねたもの。そこに生野菜をことさらうまくするための酸味と油分の集大成、マヨネーズを加えた。なくてもうまいが、これがあるだけでミンドレイ人にも受け入れやすくなる」
そこまで考えて。自分達ザイオン人がこの国でやっていけるようにまで考えてそれを推し進める奴がいたなんて。
「改めて名を聞こう」
「ゼスター。ゼスター=ヴォルフ=ザイオン。ザイオン王国の第四子だ。俺を王に選んでくれたら、お前らの食生活は改善させてやる。どこであろうと血の滴る生肉を食わせてやる。清き一票をってな? まぁ、上の兄貴が強すぎるから、未だ修行中のみではあるが」
「知らぬこととはいえ、数々の不敬を働いてすまなかった。まさか王家に名を連ねる方だとは……」
「気にすんなよ、俺はただ王家に生まれただけ。ザイオンはただでさえ世襲制。強さが何よりも物をいう。が、上ふたりは己の強さばっかり重視するからな。俺はそれとは違う道を目指してる」
「それがこの食文化か」
「ああ、どこにいてもザイオンを思い出せる。故郷を思い出し、そこで何をしに世界に出たかを思い出す。外に出てもザイオン人である誇りを胸に置ける。俺は野生を失ったザイオン人をこれ以上見てられなかった」
「だから、これを作った?」
「これは第一歩に過ぎないのさ。シルファス=ハイエヌ=ザイオン。この名を覚えておけ。俺と共に新王政を築く者の名だ」
「ザイオンを関するということは?」
「俺の兄貴だ。そしてこの新ケバブの創造者でもある。俺の想いだけでは再現不可能とされたものを、こうまで再現してくれた。これから天下を取る名前だ。俺が王になれなくても、この名は忘れてくれるな。共に食って広めて支えていこうぞ」
「そうか。その名、胸に刻んでおく。そして悪かった。小さいからと見下した。お前こそ立派な戦士だ。俺の体格に物おじせず立ち向かえる勇気。ザイオンの戦士としてのあり方を思い出した」
「だったらぜひ研鑽を積んでくれ。そして次再戦する時までにはその腑抜けた精神を叩き直しといてくれよ?」
ゼスターはバルザックの胸をトンとたたき、別れの挨拶をした。それからおおよそ3時間に及び、新生ケバブは売れ続けた。
出航までは時間はあるが、他のメニューも食べたいという希望から早めに店をたたんだのだ。
その代わり、商人ギルドマッシュアンク支部にてレシピの公開を行った。
そのレシピは瞬く間に知れ渡った。
ザイオン人が目の色を変えて買い付ける伝説のメニューとして、マッシュアンクの名物料理となるのだった。
「やったな、兄貴。ザイオン新メニューとしての第一歩が築けたんじゃないか?」
「どうだろうな。ここじゃいいが、ザイオンには生肉以外の食文化がある」
「鳥獣人や草食獣人か」
「そうだ、それらの種族の求めるものを叶えてこそ、我が覇道は成立するのだ。だが、スタートとしてはいい出だしだった。ゼスター、お前のおかげだな」
シルファスはゼスターの胸をトンと叩く。
「そうかい? だったら精一杯恩に来てくれ」
ゼスターもシルファスの胸を同じように返そうとして……
むにっ
想像していない感触が返ってきたことに驚いた。
「兄貴? 少し太ったか?」
「おい、貴様。血縁だからといっていいことと悪いことがあるぞ? 別にふとってない。筋肉がついてるだけだ」
「いや、だってそれは男の胸じゃない。筋肉だったらもっとゴツっとした……」
「え、お前こいつのことずっと男だと思ってたの? 笑える」
狼狽えるゼスターに、ヨルダが残酷な事実を告げる。
「何を言って……俺は男だ…だってぶら下げてるし」
「うーん、これは同じ女の感だが、あんたは昔のオレとそっくりなくらいに女々しいんだよ。勇猛果敢なザイオン人にしてはって意味でな? ゼスターのにいちゃんに比べたら、あんたは何かにつけて自分よりも他人に対して愚痴っていた。ゼスターの兄ちゃんはいつも自分の力不足を嘆いてたぜ? けどあんたにゃそれがない。転生者? ってのはわからないけど、あんたのそれは子供のわがままにしか見えねーよ」
「女々しい?」
「あ、そういえば昔ヨッちゃんに聞いたことがあるな。犬のような見た目の猫の種族。ハイエナと呼ばれる種族のメスは、オスよりも体格が大きくて、ついてるらしい。しかしそれはオスのシンボルというわけではなく、外敵から身を守るための偽装だと」
「なん……だと!? つまり俺は、メスの可能性があるってことか? せっかく鍛えたら筋肉のつく肉体に生まれ変わったと思ったのに……こっちの世界でも女に生まれるとは、なんてついてないんだ!」
がくりとうなだれるシルファス。
「せっかく! 男に生まれ変わったと思ったのに! こんなのあんまりだー」
「つまりあなたはもともと女性で、レディファーストは率先して受けてきた側だった。なので紳士の嗜みも何も知らないと?」
ティルネのこめかみはぴくぴくと浮き上がっている。
それを横目にヨルダは「あーらら」とひとごとのように見守った。
「いや、師匠! わた、俺は元々性別こそは女として生まれたのです。しかし精神がどうにも男で、前の世界でもそのことで苦労してきたのです。手術をして、性別を変え、それで男としてやってきた。紳士のマナーだって身につけたつもりだった! でも、社会はそれを認めてくれず、生きる意味を見失った。ゲームにハマったのだってそんな過去があるからで……」
「それは男になりたい願望が強く反映していた。当初出会ったばかりのあなたは手に負えない獣でしたよ。男になれたという願望が成就され勝ち組になれたと思い込んでいた。それゆえの傲慢さが周囲に迷惑をかけていたのではありませんか?」
「それは……」
ないとは言い切れなかった。
シルファスの前世でやりこんだゲームは乙女ゲームで、そこに出てくる登場人物は女性の思い描くヒーロー像。
シルファスが強く惹かれたのは俺様系。傍若無人に振る舞っても、家柄が守ってくれる。そして主人公にだけ垣間見せる弱さ。そういうギャップに惹かれた。
だからこそもし生まれ変わったら俺様系になりたいと願い、それが成就した。
シルファスはようやく物語の主人公になれた気がした。
けれどこのザイオンの食生活に関しては、シルファスの思うようにはならなかった。だからこそ提案した。もう少しを入れてみてはどうかと?
しかしその案は撤廃。
誰からも嘲笑され、シルファスは居場所を失った。
これではせっかく男に生まれ変わった意味がない。
そう思ってゲーム知識での無双を開始した、と白状した。
「なんつーか、元気出せよ兄貴」
「お前はこの半端者の俺を、まだ兄貴と呼んでくれるのか?」
「俺は血縁者だからってあんたを認めたわけじゃないぜ? 男でも女でも、この味を再現できるやつはそう多くない。ヨウイチの旦那でも、だ。この意味を理解してるか? 俺があんたを買ったのは、俺が王になった時、この食糧が必要不可欠だからだ。だから兄貴、いや、姉貴って言った方がいいか?」
「できれば兄貴で」
「じゃあ、今まで通りだな。で、兄貴はどうすんの? 王は男にしかなれないけど」
「わた、俺は勇者としての宿命を果たすよ」
「お好み焼きは?」
「それは永遠のテーマだ。勇者家業はついでだな」
「ついでで勇者やるやつなんて初めて聞くぞ?」
「いいんだよ、もし俺が死んだら、お好み焼きと共にあったという伝記を綴ってくれ」
「やだよ、めんどい」
「なんて姉弟想いのない弟だ」
「俺には守るべき嫁がいるからな。他人の面倒まで見てらんねえっていうの」
「そういえば、王位を継ぐ決意を見せた理由はそれだったな。俺にも紹介してくれよ」
自分が女だと理解してからのシルファスのウザ絡みは度々血ゼスターに向かった。
そのまま出港時間まで、義理の妹たちに弟のどこに惚れ込んだのか市場調査を行った。
その行動力は男では見せない猛禽類が如き執着を見せた。
そして時間は過ぎ去り、やけにぐったりとした一行は暑苦しくも画期的な街ザイオンにやってきた。
「なんつーか、ごめん?」
事実を突きつけたヨルダが、こうも悪い方向に走り出したシルファスの矛先に向かったゼスターに謝罪を告げた。
「何はともあれ、新天地だ。ここでの食、ダンジョンを楽しもうか!」
洋一の呼びかけで、それぞれが目的を思い出す。
食を楽しもうと望む洋一達。
王になるために舞い戻ってきたゼスター達。
そして勇者として聖剣の封印を解放するためにダンジョンに赴くシルファス。
それぞれが利害の一致で共に行動するザイオン旅行は、序盤からつまづきまくる形でスタートした。
「まさか為替までもが喧嘩で決まるとは思わなかった」
武器・魔法・魔道具使用禁止。
自分の望む金額と、相手の中抜き代金の提示額を飲むかどうかの戦いが、今始まる!




