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おっさん料理人の異世界グルメ〜行き倒れていた王族や貴族に飯の世話をしていたら慕われすぎて困ってます〜  作者: 双葉鳴|◉〻◉)
怪生と鬼人の国『ジーパ』

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23話 ポンちゃん、ジーパダンジョンに挑む

 一週間、食で繋いだ縁を元に、ダメ元でダンジョンに入れないかのお願いをして回る。

 全ては美味しい食事の開拓のために。


 洋一の理念を聞いた護衛組の『エメラルドスプラッシュ』の面々は「この人ぶれないなぁ」という気持ちがより一層強まった。


 そんなこんなで団子屋のロクに頼み込むも……


「別に案内するのは構わんが、その場所はお前さんが思ってるような環境ではないぞ?」


「と、言いますと?」


 同じく団子で研鑽をし合ったティルネが食い気味に詰め寄る。


「うむ。儂らの知るダンジョン『天狗の修行場』では、基本的に足場が存在しない。落ちたら終わりじゃ」


「あ、そういう……飛行技術がありきの場所なのですね?」


「修行場と名がつくだけはあるということじゃ。我ら一族ではここを乗り越えられぬものは一人前と認められんからな」


「天狗以外が寄り付くことはないと?」


「物理的にたどり着けぬからな」


 陸路での到着は絶望的で、更には足場のないダンジョン。

 トラップがほとんどで、それを躱す事で鍛錬とする場所だ。

 最後の関門にボスがいるが、ほとんどが序盤で脱落するので、そこに辿り着くまでには皆一人前の顔つきになっていて、それを超えることで課題はクリアとなるそうだ。

 そんな場所に素人が無理矢理行っても得られるものではないか。


 それにオリンが飛行タイプを使役しているのを見たことがない洋一。こちらに潜伏してる可能性は極めて低い。食材を求めるなら、ロクに頼めばいい話である。


 無理に行く必要はないのだ。

 なら天狗の修行場はいかないとして……


 もう一方の方は?

 怪生の領域、影の領域。

 ちょっと暗いくらいなら夜目が利く洋一なので、一応行っておこうと決める。


「どうしても行くのか?」


「まぁ、行けたら行きたいってところが実情ですね。無理にとは言いませんし、ジーパのご飯だけでもだいぶ満足してます。ダメで元々の旅なんで」


「あの場所は幽体、ミンドレイ的にいうならゴーストの巣窟じゃ。取り憑かれるのが関の山だと思うがの」


「あ、大丈夫です。ゴーストなら刺身や天ぷらにして食べたことあります」


「これはやめとけって言っても行くやつだな」


「では私は留守番しておきましょうかね。恩師殿の邪魔になる自信しかありません」


 行く気満々の洋一とは異なり、ティルネはすっかり臆病風に吹かされていた。


 弟子であるなら一緒に行動すべきだと思うが、流石にゴーストを相手に勝てる見込みはない。


 守ってもらうばかりではメンツが立たないと考え、ここはより一層団子に打ち込むべきだろうと方向転換したのだ。


 別にそれを咎めることはしない洋一である。

 むしろ持ち帰って皆に食べさせればいいので無理についてこいとまでは言えなかったのだ。


 そうしてロクを連れて怪生の領域へと赴く。

 ここには護衛としての三人もついてきた。

 過去に攻略した経験があるとかで。

 幾重にも張り巡らされた結界の先、その場所はあった。


 そして見知った顔も。


「おーい、ヨルダ!」


「あ、師匠! どうしたの? 農業見学?」


 見渡す限り一面の田園風景。その一角にヨルダがいた。


「お砂さんは?」


「お姉ちゃん? なんかお色直ししてくるって納屋に」


 ヨルダが指差した先、確かにそこに納屋はあった。

 本来ならお色直しするような場所ではないが、身を一時的に隠す密室という点では問題ないか。


「なぜそんなことをする必要が?」


 ロクも長年の付き合いであるが、今までそんなことはなかったと言いたげだ。


「待たせたの、皆のもの!」


 バーン! という登場音と共に、お砂はすっかり小さくなって登場する。

 ヨルダ側に年齢を寄せたのが丸わかりである。

 美女で会った時の面影はゼロであった。


「あ、お姉ちゃん!」


「ふふふ、どうした妹よ」


「ここ、変な虫が出てきたんだよね。魔法で排除してもすぐ出てきちゃう。稲のほとんどが食べられちゃってすごい迷惑!」


「ふふふ、それはのぅ、こうやって対処するんじゃ」


 お砂が手を添えると、そこに砂が堆く盛り上がる。

 水田が地上から盛り上がり、その虫は水の流れとともに足元に落っこちた。

 そしてすぐに泥の中に潜り込んでしまった。


「こうやって一見退治したように思えても、奴らは泥の中に逃げ隠れてしまう。こういう時、妹ならどうする?」


「うーん? 田んぼと地上を切り離す?」


「正解ではないが、それは魔法使いならではの考え方じゃな」


「お姉ちゃんならどうするの?」


「こうするのじゃ」


 パンッ

 お砂はその場で手を叩くと、黒い札を一枚取り出し印を結んだ。


「お砂の名において命ず、其はなんぞ?」


『我は安寧、畑の安寧。農作物の成長を見守り、外敵の侵入を防ぐものなり!』


 水畑が盛り上がる。

 そして泥の中から虫が弾け飛んだ。

 

 なんとパワフルな解決法か。


「すげー!」


 しかしヨルダは瞳をキラキラさせてお砂を見た。


「そうであろう、そうであろう。これは仙術の一種でな。位階の低い神様を降ろして土地そのものに主語を与える術じゃな」


「オレにもできるかな?」


「人の身で至るのは難しいが、妾のもとで修行すればあるいは……」


「師匠、オレもああいうのやってみたい!」


 洋一に縋りつき、すっかり降霊術まがいの技術に魅了されてしまったヨルダ。完全に目的を見失いつつある弟子に、洋一は。


「ヨルダがやりたいなら、俺は引き止められないな」


 止めるどころか全力で背中を押した。

 止めるなんてもってのほか。やりたい事は全力で応援する所存である。


「ヨシ、では今日からヨルダはうちの子じゃ」


「よろしくね、お姉ちゃん!」


「うむ」


 すっかり気をよくしたお砂。

 仕掛けるならここかとロクが動く。


「で、用件じゃが」


「ああ、そういえばゾロゾロと連れ立ってなんの用じゃ? 妹の様子を見にきたわけではなさそうじゃが」


「怪生の棲家に進みたい。その許可をもらおうと思ってな」


「ほう……人の身でその場所に行ってなんとする?」


「新しい料理を開拓するために」


 嘘偽りのない、真剣な眼差し。

 名誉でも、プライドでも、仇討ちでもなく。

 ただの料理で死にに行くか?


 全くわからないという顔でお砂は洋一を一瞥する。


「そこには何があるの?」


「もしかしたら探してる相手がいるかもしれない。いないかもしれない」


「確信もなく、闇雲に進むのは命を落とすだけじゃぞ?」


 お砂の言葉は妙に厳しい。

 お姉ちゃんと慕うヨルダの身内を無駄死にさせたくないという感情が伝わってくるようだ。


 それを遮るように、ロクが話に割って入る。


「あー、それなんじゃがの。この男、幽霊でも構わず食うらしい」


「は?」


 お砂はその場で凍りついた。



 ◆



「師匠、すげー!」


「ははは。大した事じゃないさ。ゴーストは刺身にしても美味いんだが、濃い味付けに慣れ親しんでるヨルダには薄く感じてしまうかもな」


「そんな事ないよ? オレ、そういうのすぐわかるもん!」


 そう言いながら、お砂が用意したものであろうおにぎりと焼きおにぎりの違いを語った。


「焼きおにぎり、美味いよな」


「こっちは塩をまぶしただけだけど、こっちはほんのり醤油味!」


「醤油は濃い味の代表選手だぞ」


「えー!」


 ヨルダは理解できないという顔。

 ミンドレイが脂っこい食事をする代表選手なところもあり、これだけの違いを微差と言ってしまうのがもう本当に味覚が終わっている。


「ここはヨルダを納得させるためにも、俺はゴーストを捕まえてこないといけません。大丈夫です、ゴーストの他にもゾンビ系、ヴァンパイアなどの討伐経験もあります」


「それがなんなのかの想像もつかぬが、その自信。妹を悲しませる真似はしないと?」


 いつの間に家族になったんだ?

 いや、まぁ世話になっている以上は家族みたいなものだが。


「俺にはヨルダに美味い飯を食わせる責任がありますからね」


「ならわかった。場所を教える。ただしヨルダは連れて行かせぬぞ?」


「もちろんです。これは俺のわがままですからね。それにヨルダには今一番にやってみたいことがあるでしょう。それを邪魔することは許されません」


「なんだか妹が懐くのがわかる気がするの」


「師匠は納期とノルマを設けない課題を出すからな。でも、サボるのは許してくれないんだー」


「自分でやりたいと言い出したのを途中で投げ出す人間になってほしくないだけですよ。だからそんなに怖い目で見ないでください。大丈夫ですよ、ヨルダは最初こそ何も知らなかっただけで、やってみて農業の楽しさに気がついた。お砂さんのところで新しい技術を学ぼうとしている。俺はそんなヨルダの成長を見守るのも師匠としての勤めだと思ってます」


「いっぱいゴーストを捕まえてくるからな。ヨルダはお米の準備をしていて欲しい。天ぷらはお酒よりもご飯との相性がバッチリだからな」


「わかったー」


 元気一杯のヨルダを畑に一人残し、洋一達はお砂に連れられて影の領域へと至った。



<怪生の住まう地・1F>


 そこはダンジョンというには光が一切なく、生物がまるで存在していないかのような世界だった。

 しかし『天狗の修行場』のような理不尽な足場というわけでもなく、ただ暗いだけ。


「ゼスターさんは夜目が効くんですね」


 一切火を灯さずにずんずん進む洋一。それについてくるゼスター。

 もみじとカエデは気配を察知しながら武器を構えている。


「来ます!」


 ボォウ!

 真っ暗闇の中で炎が燃え上がる。


火車(カシャ)だ」


 ゼスターが大剣を鞘から引き抜いた。

 片手で扱うには大きすぎる武器だが、獣人特有の膂力では造作もないことらしい。


「ああ、問題ないです。熟成乾燥【弱】」


 洋一は手をかざし、目の前に躍り出た火車をその場で沈黙させた。


「これを松明がわりにしましょう。あ、いや食べてみても面白いかもしれないですね」


 無造作に包丁で切り付け、一度解体したことがあるかのような見事な手際で分解。

 それを側で見ていた『エメラルドスプラッシュ』の一同は、洋一の非常識さを目の当たりにした。


「どうしました?」


「あ、いや。やる気を削がれたというか」


「私たち、出番ありませんね」


「なんかついていくだけでいいような気がしました」


「まぁ、やっちゃいけないことがあったら注意してくれると嬉しいです」


「たとえば?」


「壁をくり抜いていいか? とか、ダンジョンの構造を無視していいか? とか」


「それを止めなきゃ普通にやると?」


「近道があったら行きませんか?」


 だめだこの人、好き勝手させちゃいけないと一致団結し始めるゼスター達。


「まぁ、やばいことしてそうだと思ったら引き止めます」


「助かります。どんどん行きましょう」


 その後火車や化け狸を始末していき、それで一品作り上げる洋一。

 ダンジョンの中でも日常と同じように振る舞う洋一を、なんでこの人料理人やってるんだろうと虚ろな瞳で見ていた。


 しかし、化け狸の鍋は驚くほどの美味さで、さっきまでの疑心暗鬼具合はどこかへ吹っ飛んでしまう。


「あの狸、こんなに美味いのか!」


「普段火車と一緒に出くわすと厄介でしかないんですけど……この味わいなら許せてしまえそうです」


「へぇ、俺はすぐに処理しちゃったのでその厄介さは分かりませんね」


「火車をワンパンできる人にはわからぬ苦労ですよ」


「それもそうか」


 今回の火は火車を横に倒してその上での調理だった。

 鍋はベア吉に大きくなってもらって出し入れしている。

 不思議な機能に利便性より恐ろしさのようなものを感じるゼスター達。


 つまり同じ種に出会ったらその見た目からは想像できない程の大荷物を隠し持っていることを意味するからだ。


「美味いかー、ベア吉」


「キュウン!」


「まだまだお肉はいっぱいあるからなー、焦らず食うんだぞ!」


「キュン、キュン!」


 しかし洋一とベア吉の姿を見るかぎり、敵対しそうな雰囲気は微塵も感じられない。


 ロクを前にツノを斬解放した時はダンジョンがブレイクした時くらいの騒ぎとなったが、洋一がベア吉のツノを切ったらすぐに収束したのを思い出す。


「もし、ヨウイチさんに私たちの角を切ってもらったら、弱体化しちゃうんでしょうか?」


 洋一の「試す?」の発言に、もみじはすぐにその提案を引っ込めた。

 もしやるとしても、ダンジョン内ではなく安全地帯で試したいとのことだ。


「これ、もし角を切って弱体化したとして、ジーパは旦那を絶対に敵に回しちゃならない相手ってことにならないか?」


 ゼスターの鋭い指摘。

 洋一はなんでそんな物騒な思考になるんだと言いたげだ。

 美味しい料理と調味料の宝庫。その上で弟子が世話になっている場所を敵に回すなんてどうかしているという考えである。

 たらればの話だとしても、いい気分ではない。


「この角って成長の証みたいなもんだからね。伸びすぎちゃった場合はお願いするかもだけど、今はまだいいかなって」


「まぁ、その時が来たらお世話するよ。ベア吉の安住の地が見つかれば、俺もいうことはないんだが」


「ベア吉の安住の地ねぇ」


 一抱えあるサイズのベアキチを抱き抱え、ゼスターはジーパでダメなのにどこなら引き取ってくれるんだ? と頭を悩ますのだった。



 ◆


 狸をしばき、変化用の葉っぱをハーブとしてローストした料理はそれなりに好評だった。


「気のせいでしょうか、私突然暗闇に目が慣れてきました」


 先ほどまでは気配察知のみで洋一とゼスターについてきたもみじが突然そんなことを言い出した。

 目が慣れた。暗い中で生活すればよくあることである。

 しかしここは影の領域。基本的に明かりすらなく、慣れる以前の問題だったりする。


「いい加減長い間いるからね。目も慣れたんだろう」


 もみじの発言に洋一は頷く。

 しかしもみじは否定するように首を横に振った。


「以前は行った時はそんなことなかったんですよ。だから私も驚いてまして」


「そうなのか? じゃあどうして急に?」


 思い当たる節があるとすれば……洋一の飯を食ったくらいだろうとゼスター。


「それはおかしいだろう。俺はゴールデンロードに勤めていた時に随分と大勢の人に振る舞ったぞ? その時に変化があったって人はいないはずだ」


 これも正しい。

 だが、連続して食べた人は少ない。


 ゼスターにもみじ、カエデは時間をおかずにヨウイチの料理を食べたから、少しづつ蓄積したバフが形になったのではないかと結論を出した。


「ともかく、何か角が熱っぽくてですね」


「なるほどな」


 何も言わず、洋一が包丁を取り出す。

 先ほどしたばかりの角を切ってくれという話を思い出したようだ。

 ダンジョン内では切らないで欲しいという発言はすっかり忘れているようである。


「ちょ、包丁をしまってください。この角が成長して、私の身体能力が上がったと考える方が納得できるかなと思っただけです。切らないでください」


「そういうことか。あまり思わせぶりに語られても、察せないからさ」


「もみじ、今のは流石にお前が悪い。旦那、うちの奴らは少し仲良くするとすぐ身内ノリで接してくるからな。護衛任務中だってのに、すっかり浮かれやがって。気を悪くしたようだったらすまないな」


「全然。ただ年頃の娘さんの考えは全くわからないからさ」


「何言ってんだ? 旦那だって若いじゃないか」


「え、ティルネさんから聞いてないかい?」


 洋一もこのやりとりは何度目だろうかと思い出し、自分の年齢を公開する。どう考えても20にしか見えないが、実年齢は35である。


「見えねぇ……」


「本当、私のお父さんくらいよ?」


「すごく若く見えます」


「好きなことしかしてないからな。さて、お客さんだ。嫁が聞くようになったのなら、任せても構わないかい? 荷物はベア吉が持ってくれるさ。な?」


「キュウン!」


 洋一は食事の片付けをしながら、護衛達の動きを見ることにする。

 今の今まで自分しか動いてなかったからだ。

 ただでさえ護衛としてきてるのに、本当に働かせてないのは忍びないと、動きを見る方向へシフトした。


「そういうことだったら、俺たちの力を見せてやるぜ。吼えろ! ファング!」


 現れたのは壁に手足が生えた怪生だ。塗り壁というらしい。

 動きは遅く、ゼスターの動きを捉えられずに翻弄されっぱなしだ。


「上手いな。大剣を重心移動に使うか。彼は大剣よりも素手の方が強いんじゃないだろうか?」


「獣人は徒手空拳の方が強いよ。でもあれがボスのお師匠さんの形見だからね」


「あの大剣がか……」


 スライムに物理攻撃が通用しないとどこかで聞いたことがある。

 大剣だろうと、徒手空拳だろうと。

 物理攻撃絶対殺すマンがスライムと言う存在なのだ。


 単体でも脅威で、それがでかいと言うだけで恐ろしさは想像するのも容易いか。

 ミンドレイ国民にとっては雑魚でも、ゼスターにとっては乗り越えるべき壁か。


「決着がつきましたね」


 倒れ伏す塗り壁を足蹴に、ゼスターが勝鬨を上げていた。


「流石に塗り壁は食べられませんし、ここに置いていきましょうか」


「ベア吉君、用意してもらったのにごめんね?」


「キュウン」


 少し切なそうに、ベア吉が鳴く。

 しかし問題ないと洋一は右手を掲げて能力を使った。


「【ミンサー】」


 瞬く間に塗り壁はその場からかき消えた。

 足場を失って体制を崩したゼスターが立ち上がりながら洋一に文句を言った。


「なんだ、その出鱈目な能力は!」


「俺の能力の中で最も異質なやつだな。霊魂、無機物問わずにミンチ肉に置き換える代物だ。生物から事前に腸を抜いておけば、その場でソーセージが食えるって寸法だ」


「あのソーセージ、そういうカラクリなのかよ!」


 吐き捨てるようにゼスターは言った。

 もしかして自分達はとんでもないものを安価で食べさせられていたのではないかと。


「すごく美味しかったですよね、ゴールデンロードの」


「こりゃなんの肉を使ってたのか聞くのが怖くなってきたぜ」


「いろんなお肉だよ。その中に偶然ワイバーンが入っていたらラッキーかな?」


「待ってくれ、旦那。ワイバーンは見たことあるだけで、討伐はしてないと言っていたよな? まさか既に……」


 洋一はゼスターの会話に対してそっぽを向き、慣れない口笛を吹いた。

 全く吹けてないのでトボけられもしていない。


「これは確実に何匹か倒してますね」


「他にも余罪も持ってるかもしれませんよ?」


「いや、これは俺たちが黙っとけばいいことだ。敵に回したっていいことはなんもねーからな。むしろ黙ってることで得られる恩恵の方が大きい」


「まぁ、はい」


「なんだかんだで成長を感じられてますからね」


「と、言うわけで試食会だ」


 洋一は早速塗り壁のソーセージを取り出してみんなに分けた。

 まずは生で。


「うん、砂」


「そりゃ壁だもん」


「この食感はこんにゃくですね。ぶるんとしたゼリー上がより一層不快で」


「と言うことで次はボイルだ」


「あ、さっき片付けたはずの火車が!」


 新しいやつが寄ってきたのでそのまま使わせてもらったのだ。

 ここは禁忌の森より随分と暮らしやすいくらいに思ってる洋一だった。

 持ち込んだフライパンに水を張って蒸し焼きの後に炒めて提供する。


「まぁ、食うけどさ」


 ゼスターの呆れたような声。


「あ、砂っぽさは抜けましたね。でも食感はブルンブルンで」


「まぁ食べられなくもないですが、兵糧飯の方がなんぼかマシですね」


 散々なコメントである。

 こういった時は衣をつけて揚げるに限る。


 ダンジョンアタックなのに調味料をたくさん持ってきた洋一ならではのやり方だった。

 こいつはダンジョンに何をしに来たのか? 護衛からのそんな視線が突き刺さるが無視。慣れたものである。


「天ぷらにしたって食感はかわら……うそ!」


「まじか。味が海老に化けやがったぞ」


「これだったらいくつも食べたいですね」


「と、言うわけで次からは見つけ次第塗り壁を優先的に倒してください。調理は任せてくれ」


「なんか、今まで旨味のない倒すだけ無駄な怪生だと思ってましたけど……」


「ヨウイチさんがいるだけでここまで変化しますか?」


「なんなら拠点に一度戻る必要もないな」


「と、まぁこんな感じでどんどん行こう。ヨルダ達にたくさん自慢するためにな」


 オリンを探しに来た目的すら、半分忘れて洋一達は<怪生の棲家・2F>へと足を進めた。



 ◆


 2Fに降りた洋一達を待ち構えていたのは尻尾が二つに割れた猫又だった。

 特に襲ってこないので無視して前を行く。

 ノンアクティブか、はたまた違い狙いがあるのかよくわからない。


 しかし後ろからついてくるので、ベア吉の遊び相手としてあてがう。

 後ろから襲い掛かられても面倒なので、そのための対処だ。

 いまのベア吉は荷物になる前に食材が食べられているので少しだけフラストレーションが溜まっているのだ。


 洋一に頼まれた仕事をこなしたいのに、こなせない状況だ。

 そこに猫又がやってきて、戯れることでストレスの軽減を狙った。


「キュウン!」


「にゃあ!」


 なんとなく仲良くやってるようだ。

 しかしあの猫、どこかで見たことあるような?

 いや、まさかな。


「前来た時、あんな猫いたかしら?」


 過去の記憶を拭い去る洋一に、カエデは以前攻略した時の思い出を蘇らせる。


「知らない個体なのか?」


「攻略したといっても道中で出会わない怪生も多いし」


 むしろ探しに行くことの方が少ないという。

 相性の悪い相手は迂回するのがここのダンジョンでの鉄則らしい。


 相性の悪い怪生とは、討伐してもなんの旨味もない火車や化け狸、塗り壁などがそれに当たる。


 討伐部位は重く、無駄に体力を使うものばかりだった。

 特に化け狸のドロップ品は偽物(葉っぱ)が多く、ぬか喜びさせられたことは何度もあったらしい。

 嫌な相手と言った理由はそこにあrうのかもしれない。


「ふぅん」


「そもそも食べる為に狩ってなかったからな」


「それもそうだ」


 ゼスターの言葉に洋一は納得し、もみじと楓も頷いた。

 今はまさに食べる為に食い入るように周囲を見張っているのだ。

 見つけ次第殺せ! ぐらいの気合の入れ用である。


 なんとも物騒な連中だ。


「さて、初めてみる個体だな」


 現れたのは見上げるほどの大きさの骨。

 ガシャ髑髏と呼ばれる怪生だ。


「なぁ旦那。一応聞くが骨も?」


「スケルトンも昔食った覚えがある。あれはミンチ肉をハンバーグにして食ったな」


「ミンドレイ料理か。脂っこいのはあんまり好きじゃないが」


 ゼスターがミンドレイにいた時の料理を思い出した。

 魔法使いがカロリーを消費するタイプなので、料理が何かと油っぽくなるお国柄だった。


「そのお肉、もちろん普通のお肉とは違うんですよね?」


 カエデが小さく手を上げる。


「ああ、八咫烏の胸肉のようなさっぱりとした味わい。しかし骸骨特有のミルキーなコク。まぁあまり口にする機会のない味なのは確かだな。ジーパ風なら煮付けにしてもいい。味噌なんかにも合いそうだ」


「よーし、やる気出てきた」


「キュウン!」


「お、ベア吉もやるか?」


「キュウン!」


「にゃあ!」


 ベア吉の遊び相手の猫又も参戦するようだ。

 洋一はその間に1Fに戻って火車を仕入れ、料理の準備を始めた。


 戦闘時間は1時間に満たぬくらい。

 結構長引いたなと言う印象だ。

 単純にサイズが大きいのもあるが、死者という属性で体力が無限であるのがネックであるようだ。

 何せどこをどうすれば死んだのか確かめる術がないのである。


「まじで旦那が助けに来てくれなくて焦ったぞ」


 ゼスターはすっかり自分が護衛であることを忘れてるかのような物言いだ。確かに危なかったら助けると言ったが、代金分の仕事ぐらいはしてほしいものである。


「ベア吉君の攻撃がなかったら危なかったのはこっちだったよー?」


 もみじも危ないところを助けてもらったとベア吉をモフって労っていた。ベア吉も嬉しそうだ。すっかり人慣れしたな、お前も。


「前回は見かけても避けて通りましたからね」


 カエデはもう二度と戦いたくないと言いたげな顔だ。

 前回避けて正解だったという思いが表情に出ている。


「お前もありがとな!」


 ゼスターがしゃがみ込んで猫又の頭を撫で上げた。

 獣人というだけあって、獣の世話が得意そうだった。

 猫又が一般動物なのかも怪しいが。


「にゃあん!」


「何はともあれ、料理しちゃうなー」


「待ってた」


「お腹ぺこぺこー」


「どんな味がするんでしょうか?」


 なんだかんだで、食べるためのバトル。

 倒したら余すことなくいただくのが洋一のスタンスである。


 出来上がったのはハンバーグ。

 そして事前にヨルダから手渡された野菜セットだ。


 おまけつみれ汁とピーマンの肉詰めを仕上げる。

 こんなダンジョンの中で本格的な食事をするものなんて、洋一たちくらいだろう。


 もし冒険者かジーパ人に出会ったら怪生か何かと間違われて襲われても文句を言えないくらいに場違いな光景が広がっていた。


 真っ暗闇の中での食事は、全員が嫁持ちでなければ成し得ないことではあるが。


「あ、これ。ご飯が欲しくなる味です」


 つみれ汁を掻き込んだもみじが身を震わせながら味を全しんで堪能している。やはり行き着く先はそこか。

 白米が主食な時点でわかってはいたが、入手先が限られてるからな。


 お金を出して買うこともできるが、今はヨルダが取り掛かってるところだ。師匠としては弟子の成長を見守ってやりたいところである。

 もちろん『エメラルドスプラッシュ』の面々が持ち込んできているんなら話は別であるが、見た感じその様子は見られない。


「ガシャ髑髏ハンバーグ、これもやばいな。このソースは?」


「お味噌だね。白味噌をハンバーグの肉汁と合わせたソースだ。ほんのりとチリペッパーも混ぜたが口に合っただろうか?」


「これならいくらでも食えちゃうな」


「お肉に白みそですか……全然想像できませんが、口に入れたらこれ以上の相性はないと理解しました。変ですね、どうして涙が出てくるんでしょう?」


 カエデが食べながら涙腺を緩めていた。

 感動で泣いたという感じではなさそうだ。


「あ、これ! お母さんの得意だった料理に似てるんですよ」


「不思議ね、絶対ガシャ髑髏なんて使ってないって分かるのに……」


 姉妹は何かを思い出しながらガシャドクロハンバーグを噛み締めていた。


「偶然の一致ってやつだな。こっちの煮物も美味いぞ。会心のできだ」


「これは初めて食べますね」


 ピーマンの肉詰め、ジーパではその存在すら知られてないらしい。

 こういうところが面白いよなと思う。

 日本とは異なるようで似通ったジーパ。


「俺、この野菜嫌いなんだけど……不思議とこれは食えるな」


「食わず嫌いが治ったんなら嬉しいな」


「キュウン!」


「ベア吉君もペロリと食べきっちゃいましたね!」


 もみじがモフりながらベア吉をあやした。


「ツノは都度切っちゃうから、気にせず食べちゃっていいぞー?」


「キュウー」


 それが嬉しいのかわからぬが、ベア吉は洋一の顔をべろべろ舐めた。


「はー食った食った」


「ダンジョン内でこんなに頑張ったのも、のんびりしたのも初めてね」


「普通、ダンジョンでご飯は食べませんから」


「そうなのか?」


 洋一はそれでどうやって攻略できるんだろうかと驚いた。

 むしろこれは洋一のスタイルなのだ。

 なんならこれ以外を知らないまである。


「食べるとしても手短に干し肉とこう言った水ぐらいだよ。無理をしたって命は一つしかないからな」


「うんうん。言ってはなんですけどヨウイチさんがおかしいんです」


「むしろよく生き延びれましたよね?」


「とは言ってもなぁ」


 にゃあんと猫又があぐらを掻く洋一の懐にやってきて毛繕いを始める。


「そして、怪生にここまで好かれる人も珍しいですよ?」


「そうなのか?」


 どうやらそうらしい。

 最初はベア吉繋がりで仲良くしてくれたのかと思ったが、どうも違うようだ。



 ◆



 ガシャ髑髏のミンチ肉は食べきれないのでお土産に回し、2Fを回る一行。

 相変わらず視界は真っ暗だが、ガシャ髑髏を食べたことでさらなる強化。

 もとい料理バフがついたらしく、先ほどより危なげなく戦えている『エメラルドスプラッシュ』の面々であった。


「なんかさぁ、旦那の飯ってやっぱりおかしいよ。普通は食事しただけでこうはならないんだぜ?」


 ゼスターが呟く。

 何がどう変わったか? それは一目瞭然だった。


「え、みんなが頑張って倒したのを料理して振る舞っただけだぞ?」


「その料理の効果がおかしいという話ですね」


「えー」


 ゼスターは以前ダンジョン攻略にあたり、鬼火を見たら基本敬遠していたらしい。

 物理無効系は天敵であるからだ。


 しかしガシャ髑髏料理を食べて以降、ちょっと武器に力を込めただけで両断できてしまった。


 つまり霊体にダメージを与えてしまったのだ。

 大剣に聖属性効果はない。純粋に技能に【エレメンタルキラー】が追加されたのだろう。

 今までどんな修行を積んでも得られることはなかった。

 洋一のご飯を食べただけで得られたことにより、この先自分がどんな進化をするのか怖くなってしまったようだ。


 なお、この程度はヨルダやティルネの変化に比べたら序の口である。


「でもよかったんじゃないか? 今後スライムをぶった斬ることができるようになった。仇討ちの第一歩だ」


「それにはすごい感謝してる。正直前のままだったら返り討ちに会うのが目に見えてたからな」


「私も、前まで使えなかった降霊術が使えるようになってますね。使役系なんですけど、ちょっと黒札を持ってきてないので今はまだ使えませんが」


「おめでとう」


 パチパチと洋一は拍手を送る。

 もみじは照れたように微笑む。


「私は薙刀を媒介に符術を発動できるようになったねー」


 カエデが元気いっぱいにはしゃぎながら喜んだ。

 三者三様の変化である。

 洋一は特に変化はない。これ以上成長するためにも必要なのがオリンだが、別にこれ以上成長しなくても良い気がしている。

 何でもかんでも自分でやれると、付け入る隙がなくなってしまうからだ。

 それはヨルダとティルネを弟子にとって嫌でも分からされた。

 前まで藤本要(ヨッちゃん)に魔法関連で頼りきりだったのだし、これで良いと思うようになっている。


 なので、オリンを見つけても、そこに頼ることはしないようにしようと思った。

 なお、エネルギー欲しさにオリンが押し付けてきた過去は忘れるものとする。


 ベア吉は案の定大きくなったのでツノを切ったくらいか。


 そしてついてきた猫又の尻尾は三つに分かれていた。

 まさかこの子がボスってことはないよな?

 洋一は疑いながらも頭を撫で上げた。


「鬼火はお料理しないんですか?」


「あー、これにはちょっとコツがあってな。俺が倒す必要があるんだ」


「え、俺が斬ったんじゃダメなの?」


 斬れはすれど、触れないゼスター。


「ダメではないが、今の状態ならミンチ一択だ。俺が披露したいのは天ぷらや刺身だからな。よく討伐モンスターで傷をつけすぎて納品を安く買い叩かれた経験などはないか?」


「うっ……頭が!」


 あったらしい。

 忌々しい記憶としてゼスターは身悶えた。


「まぁ、そういうわけで。次、見つけたら教えてくれ。味見はその時にしよう」


「はーい」


「承知いたしました」


「お前ら、パーティリーダーは俺だぞぉ!」


 なぜか洋一の言うことを聞くようになったもみじとカエデ。

 すっかり胃袋をつかまれてしまったらしい。

 ゼスターは少し寂しそうな声を上げた。


 少しして、もみじが声を上げる。


「居ました! 鬼火です」


「ちょっと、そんな大声を出したら」


 鬼火が一斉に洋一達に襲いかかる。

 その数は数百。

 まるで怪生部屋かと言うほどのトラップだろう。


 と、言うのもこれらは時間をおいて増えるタイプの怪生なのだ。

 スライムが分裂するように、鬼火は何かを燃やすと分裂する。

 問題は何を燃やしたかによるが。


「まぁ、問題ないよ。俺には鬼火のコアが見えてるからね【隠し包丁】【活け〆】」


 少し距離を置いて見据えた先に対象を捉える。

 続いて技能を選択し、それを【加工の魔眼】で掌握、一気に加工した。

 代価はほんの少しの眼精疲労だ。

 使いすぎると物理的に目が見えなくなるが、今のぐらいならあと200回は行使できるので問題はなかった。


 なんだったら料理を食べればそれらの使用回数は回復するからである。

 眼精疲労もなんのその。

 ある意味では洋一にだからこそ使いこなせる技能でもあった。


「よしよし、大量にゲットだ。まずは下拵えしちゃうなー。みんなは周囲の警戒を頼む。ゼスターさんにはミンチ用の鬼火の確保を頼もうかな」


「オッケー。俺の大剣が唸るぜ!」


「ベア吉は餌をあげるから大きくなってくれ」


「キュウン!」


 さっきのガシャ髑髏のソーセージを与えて程よく大きくしたところで、体毛に下拵えずみの加工鬼火を袋に詰めてねじ込んだ。


 これでなぜか重さを無視して持ち運べると言うのだからとんでもないチートだ。

 ベア吉にこれがなかったとしても、物理的に持って貰えば良い話だが、ミンドレイもジーパも治安が厳しくて今のところそれが叶った試しはない。

 ちょっと厳つくなるだけでみんな警戒しすぎなんだよ。


 遠くから聞こえる「ヒャッハー、俺様は無敵だー」と言う雑音をBGMにしながら料理を始める。


 まずは【隠し包丁】で身動きできなくなった鬼火を【活け〆】で意識を刈り取った後、塩を揉み込む。

 現段階で手づかみできるのは洋一くらいだ。

 ボウルの中に水を張り、それを数回繰り返して粘り気をとった。


 エレメンタル系は塩漬けすると粘り気が出るのだ。

 イカを彷彿させる粘り気を念入りにとってから、<1F>から連れてきた火車を焚き火に下茹で。

 火車は便利すぎるので、もうこいつをペットにしてしまいたいぐらいの洋一である。


 沸騰した湯に潜らせると、まだ神経が通っているのか刻んだ鬼火はクネクネと動き出した。再度【活け〆】を使用してまっすぐに伸ばす。

 

 刺身の方はこれで良いだろう。

 次につけだれを作る。醤油、柑橘系のしぼり汁、ごまなんかを植物油と混ぜてかき混ぜた。

 あとはこれをイカそうめんみたいに食べてもらうだけだ。


「できたよー。ちょっと誰かゼスターさんを連れ戻しに行ってきて」


 声がどんどん遠ざかっていくのを心配した洋一が、護衛が護衛対象から離れてどうするとお叱りを入れながらゼスターを呼び戻させた。


「悪い、旦那。なんか楽しくなってきちゃって」


「まぁ空腹は最高のスパイスというからな。俺特製、鬼火そうめんだ。刺身とは違うが、こういった食い方もありなんじゃないかと思ってな。そもそも、味は特になく、食感が面白いだけだからな」


「この二つの棒を使うのか?」


「もちろん、無理をする必要はない。フォークなんかもあるぞ。こいつをパスタみたいにクルクル回して絡め取って食べたりしてもいい」


 箸を使い慣れてないジーパ人にそうめん系は難易度が高すぎたか?

 と思われたが、食べたい一心で覚えるにまで至るもみじとカエデ。

 ゼスターも最初こそはフォークで巻いて食べてたが、自分以外が箸で食べてるのを見て、慣れないながらも苦労して食べていた。


 別に無理をしてまで覚えずとも良いのにと思うが、それでも自分の料理を食べるためにしてくれた苦労には嬉しく思う洋一だった。



 ◆



 鬼火そうめんを頂いた面々は、その食感と喉越しを楽しみながら、天ぷらを待ちかねる。

 味は本当にしないので、つけ誰で風味を増しているだけに至る。


 何せ捌いた量が量だ。

 そして鬼火一体から取れるそうめん量は3人前。

 そうめんは大量にあり、あとはつけ汁を補充しながら食べ進めている。


 今回陽一がそうめんをチョイスしたのは、ひとえに天ぷらを合わせるためでもあった。


 下拵えは先ほどのような塩での滑り取りのあと、蒸すなどの工程を加えて筋切り、天ぷらの衣に潜らせて油の中に投下。

 食事のいくつかを火車に食わせてたら勝手にパワーアップして、火の勢いは十分だ。


 ジュワァア……と油から引き上げられた天ぷらは見た目的には美味しそうだ。しかしそうめんの味が味なだけに、味の方は諦めている面々。


「こいつは塩で味わってほしい。そうめんとは全く異なるものだ」


 先に味を見た洋一が、味について言及したことに驚きを隠せない。

 下茹でしたそうめんがアレなのに、天ぷらにしただけでそこまで変化するのか?


 否、つい最近体験したばかりではないか。

 ソーセージにしても食べれたもんじゃなかった塗り壁をエビのごとくプリンプリンにした技法を。

 アレは天ぷらだった。

 ならこれも、同じような変化を起こしていてもおかしくはない。


 ザスターが意を決し多様に口に放り込む。まずは塩がない状態で。


「うおっ! 随分と弾力が増したなぁ。でも味はそうめんと一緒だ。漬けダレに合わせても良いのかい?」


「まずは塩と合わせてほしいかな」


 洋一に聞けば、一字一句違わぬ答え。

 そこに秘密があるようだった。

 ならば漬けダレに合わせるのは愚策。


 ゼスターは言われた通り塩をふりかけ、箸で器用に掴んでは口元にはこぶ。


「うわっ こうきたかぁ」


 噛むごとに食感が変わる。

 さっきまでは柔らかかったのが急に引き締まった様な噛み応え。

 ただ、それをどう説明するか、ゼスターは的確な答えを持ち合わせていなかった。


「みんなも食べてみろ。これは塩以外で食べるのは勿体無い」


 さっきの自分は勿体無いことをしてしまったと反省し、もみじとカエデに促した。


「あ、これは確かに説明が難しいですね。ほんのり柚子の香りがします」


「えっ」


 ゼスターはそんな味は感じなかったと言いたげにもみじを見やる。


「その様子ですとボスは感じなかったのですか?」


「ははは。それはきっと鬼火の辿ってきた人生がゆずに関わるものだったんだろう。塩は古来より魔除けの効果がある。塩を合わせると鬼火の記憶が天ぷら全体に染みるんだ。個体によっては当たり外れも多いけどな」


「なるほど、天ぷら一個一個にも人生、魂生があるわけか。それが味に変化をねぇ?」


「深く考えたら随分と罰当たりなことをしてませんかね、私たち」


 もみじが天ぷらをまじまじと見ながら顔を青ざめさせている。


「生き物を食べるってことはそういうことさ。せめてもの手向けだ。美味しく食べてあげようじゃないか。おかわりはたーんとあるぞ」


 洋一が油から引き上げた天ぷらを皿に盛り付けていく。

 今は余計なことを考えずに一身に食べることに集中した。


 鬼火を食べて万能苦になるというのもおかしな話だが、皆が皆次の目標を見据えていた。


 何かパワーアップした様な気がするけど、今はそんなことより余韻を楽しみたいという顔。


 そしていよいよ持って尻尾が四つに割れた猫又が、とうとう喋り出した。


「にゃあん、ごちそうさまにゃ」


「キュウン?」


 不思議そうな顔でベア吉が猫又にじゃれついた。


「にゃあん、やめるにゃー」


 今まで見ていた景色なのに、声が聞こえただけで嫌そうに聞こえるのだから不思議なものだ。


「しゃべった?」


 驚く洋一とは対照的に、紅葉や楓は特に驚く様子も見せない。

 もしかしてジーパでは猫が喋るのは一般的なんだろうか?


「もしかして、あなたは此山家の猫ちゃんですか?」


 カエデがしゃがみ込み、喉をこちょこちょする。


「そうにゃん、ここから先は此山家の敷地だから入るのに相応しいか見極めてたにゃんよ」


「此山家って?」


「ジーパのお殿様の家名ですね」


「その、お城? がダンジョンの中にあるんだ?」


「此山家の私有地がダンジョンになった、というのが正しいですね。お砂さんは代々此山家のご意見番をしていました。だから領域、敷地内に入れるに相応しいものの見極めをしております。私たちは一度ここに面通しした過去があったので攻略の許可をいただきました」


「おい、聞いてねぇぞ」


 ゼスターが初めて聞いたという顔で憤慨している。

 どうやらジーパ人の口は相当に硬いようだ。

 国を出ても秘密は守ってることから窺い知れる口の硬さだ。


「それは、緘口令が敷かれてたし?」


「にゃん。にゃーの案内以外での口外は禁止なのにゃ」


「この子が喋る、ということは許可が降りたということですね」


 出なければずっと白猫のふりをしていた、ともみじ。


 カエデに至ってはずっと猫又の相手をしている。

 お偉いさんの飼い猫だからと遠慮はない様に見える。

 昔から動物が好きなんだろう。


「それで、猫又様は俺に何の御用だい?」


 洋一もしゃがみ込んで猫又に向き合う。


「強いエネルギーの流れを感じたから声をかけたにゃ。あの方のお眼鏡に適うと思ってのことにゃよ」


「あの方?」


 知ってるか? そんな視線をゼスターやもみじ、カエデに向けるも全員が首を横に振る。

 この山家の主人、お殿様は殿下と呼ぶので別人だろうとのことだった。

 そして一人いる姫はミンドレイに留学中。

 あの方という存在に心当たりはないと言っている。


「この世界にダンジョンを根付かせたお方にゃよ」


 オリンか?

 気を逸らせながら、洋一は猫又の誘いに乗るのだった。

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