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おっさん料理人の異世界グルメ〜行き倒れていた王族や貴族に飯の世話をしていたら慕われすぎて困ってます〜  作者: 双葉鳴|◉〻◉)
怪生と鬼人の国『ジーパ』

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21話 ポンちゃん、ジーパ国に向かう

「それではワイルダーさん、数日間お世話になりました」


「ましたー」


 泊まり込みで世話になってた洋一達は『ゴールデンロード』の店主であるワイルダーに向けてぺこりと頭を下げる。

 ほとんどお金を使わずに今まで来れたのもワイルダーのおかげである。


「もう出てっちまうのか? 名残惜しいぜ」


「目標ができましたので」


「次はどこに行くんだ?」


「ジーパに向かおうかと」


「国外かぁ。まぁお前さんならどこ行ってもやっていけると思うが、国外となるとツテも途絶えるからなぁ」


「そこはこいつでなんとかしますよ」


 洋一は包丁を持ち上げてニッと笑う。

 料理で人々を笑顔にさせる自信がある。そういう顔だ。


「じゃあ、依頼は無事終了だな。こいつをギルドに持っていきな」


「ありがとうございます。では!」


「またな、おっちゃん」


 二人を店先で見送りながら明日からランチはどうするかね? と考えるワイルダー。

 いっそ求人広告でも出すかとギルドに案内を出すのだった。


 洋一と一緒にいた時間は面白く、刺激的だった。

 今までの上位貴族の顔色をのぞいていただけの生活とは圧倒的に異なる。

 料理のレシピもたくさん手に入れた。

 あとは人手か。


 やりたいことはたくさんある。いっそ稼いだ金で増築してしまおうかと紗江考えていた。

 去年と比べて売り上げは30倍も伸びている。

 それもこれも平民の洋一と元高位貴族のヨルダのおかげであった。




「これをお願いします」


「あら、ヨウイチ様。御評判は予々。今報酬をご用意しますね」


 ギルドのカウンターで、依頼終了のサインが書かれた紙を提示する。

 受付嬢とは店先で何度も顔を突き合わせてたヨルダは「おっす」なんて気安い挨拶を交わしていたりする。


「幾らになるかな?」


「住み込みでの働きだからな。数日の食料が買えたら御の字だ」


 洋一はそんなふうに考えるが、周囲も、ワイルダーでさえ洋一の価値を高く評価していた。


「お待たせしました、過去最高額でしたので手間取りました。こちら、報酬となります。どうぞお納めください」


 ズシリ。手に持たなくてもわかる。

 大きめの皮袋がカウンターテーブルの上でじゃらじゃらと音を立てて崩れた。もうみっちみちだ。


「多くありません? 俺たちはGランクで、住み込みでのスタッフですよ?」


 洋一にとってはちんぷんかんぷん。

 完全に日雇いスタッフに支払われる金額ではないことを理解した上での言葉だ。

 これが本来の報酬より多いというのはわかる。

 しかし具体的にいくらの働きなのかという鳥海はできていなかった。


「師匠の場合、これでも少ないと思う働きをしてたと思うけどね。中身を確認しまーす。重っ」


 金勘定以前に、金の価値をわかってない洋一に変わり、ヨルダがお金の管理をする。

 思わず報酬の大きさに小さな体が持っていかれるほどだった。


「いくらあった?」


「金貨120枚」


「それがいくらかわからないんだよなぁ」


「貴族の一ヶ月分のお小遣いかな? 爵位にもよるけど」


 ヨルダの地位ではそれくらいもらっててもおかしくないみたいに言う。

 ちなみに冒険者換算では十年真っ当に働いてたどり着ける額だ。


「それは平民には身に余る額だな。こんなにもらっちゃっていいんだろうか?」


「あんたにはそれだけの価値があるってことだよ。報酬としてそれだけ出した。他の店も同じくらい要求したとして、金額で負けないと自負してると、ワイルダーはそう考えたんだろうな」


「あなたは?」


「このギルドでマスターをしてるザインだ。初めましてだな、ルーキー」


「初めまして」


「びっくりするくらいに俺の威圧を受け流すんだな?」


「あー、今なんかしてたんです? そういう圧みたいのは少し鈍いってよく言われます」


「そういうことにしておくよ。さて、大金を手にしたという噂はすでにここにいる全てのギルド職員、冒険者が把握している。あんたも用心するといい」


「襲撃ですか?」


 そういうのは慣れてる、ぐらいに思う洋一。

 実際に禁忌の森で数ヶ月暮らしてきているのもあって敏感だ。

 お金を狙うぐらいならいい。ただし仲間を狙ってきたら容赦するつもりはない。そういう覚悟を持っていた。


「いや、勧誘さ。あんたほどの料理人を野に放っておける程寛容ではない。あんたたち、護衛は雇うのかい?」


「道案内くらいは頼もうと思ってますが」


 よもやここにきて勧誘が起こるとは思えない洋一だった。


「冒険者ってのはいろんな国に行く分、そこでの貢献度が大きく影響する。あいにくとジーパまで出向く物好きっていうのはそうそういないが……」


 そう言いながらいくつかの依頼書を出した。


「ギルドから推薦できる冒険者パーティはこのくらいか」


 三組。それはどれもこれもAランクと呼ばれる者たちだった。

 その理由はランクによっていける地域が異なるのだそうだ。

 特にジーパは一般的な魔獣の力量が高く、ランク分けした投球でも最上位を誇る。

 その上で一般市民がそこそこ戦えるもんだから生半可ね戦力じゃ市民に太刀打ちできないのだとか。


「じゃあ、ここで」


「ゼスターのところか。一番最初に声をかけたのはあいつだったな。きっと喜ぶぞ」


 Aランクパーティ『エメラルドスプラッシュ』

 洋一は一時的にそのパーティに後英検案内を頼むことにした。


 



 ギルドで護衛の手続きをしている頃。


「いやぁ、お待たせしました。間に合いましたかな?」


 大荷物を背負ったティルネと合流した。


 実に別れてから六日目のことである。

 何度か店に顔を出したりと打ち合わせはしていたが、こうして合流するまでにいろいろなイベントをこなしてきたようだ。

 久しぶりに会うティルネは顔色もそうだが見た目は随分と若返ったように思う。


 髪のあるなしに関わらず、その表情がもう若い。

 口調もワシから私に変更していたのもあるだろう。


「おっちゃん、おそーい」


「少し用意をしておりましてな」


 ヨルダに言われて荷物を下ろす。中から出てきたのは、長期保存が可能な瓶とそれを蓋する魔道具だった。

 魔法のコルクと呼ばれているようだ。

 魔法が封じられてるコルクで、これで栓をすると中の液体の劣化を防ぐらしい。世の中にはこんな便利な代物があるのだと知った洋一である。


「つっても、魔道具はめちゃくちゃ高いんだよ。これも結構したんじゃないの?」


「ざっと金貨60枚ほどですかな?」


 それを思うと、先ほどの報酬も悪くないのではと思う洋一。


「ちなみに一個で、です」


 補足するティルネの説明に、貴重品には手を出さないでおこうと決意を固めるのだった。


「主に薬品や調味料などを入れるようですな。中には恩師様の熟成加工にも頼るにする薬品もございます。可能な限りお手間をかけるつもりはありませんが」


「それぐらい気軽に頼んで大丈夫だ。ティルネさんにはそれ以上の世話になるからな」


「よう! あの時ぶりだな」


 ゼスター登場。洋一は彼と会うのは久しぶりだったが、ヨルダは何度も接客したとメンバーにも挨拶していた。


「ゼスターさん。今回はお世話になります。護衛対象は三人と聞いたが、残りは誰だ?」


 ゼスターが顔合わせしたのは洋一とヨルダのみ。

 ベア吉はテイムモンスター枠なので除外し、もう一人を探す。


「私です。恩師殿とは師弟の関係でして。ヨルダ殿は姉弟子となります」


「おっちゃんは調味料とポーション作りのプロフェッショナルなんだ。師匠の飯をさらにパワーアップするのに超重要なんだぜー」


「ティルネさんだ。見ての通り【蓄積】の加護持ちの元貴族でね。研究所の方はもう大丈夫なのかな?」


「ええ、私には過ぎた物でしたので引き払いました」


 引き払ったと聞いて驚く洋一。


「新しい目標ができましたので。それに、次の目標に研究室は必要ありません」


「そうか。必要なものは?」


「まだ見ぬ自然と作物との出会い。それが次の研究と課題です」


「そうか。なら俺たちにとっても都合がいい。どうも一つ所にとどまるのは性に合わないからな」


「然り。恩師殿にこの国は小さいでしょう」


「なーんか、この爺さんも一癖ありそうだな」


「戦力としてはオレに劣るけど、集団戦では役に立つよ。チームプレイは苦手」


「護衛対象が矢面に立たないでくれると、護衛する側としてはありがたいがな」


 それもそうだ。

 なぜここで戦力を誇示する必要があるのか?

 自分たちはただ旅をしたいだけである。


「しかしジーパは片道だけでも結構ある。資金はどれくらいある?」


「三人で金貨120はあるが、足りるか?」


「十分」


 足りるとのことで安心した。

 

「俺達は野宿でも断然構わないスタイルだし、自給自足で事足りるので、ほんと旅費はかからないんだが、揃いも揃ってマナーを知らなくてな。そっちの面では苦労をかけると思うが、改めてよろしく頼む」


「こちらこそ」


 ゼスターはついでとばかりに護衛するメンバーの紹介をしてくれた。

 まだみんな若いのに自信に満ち溢れていてAランクはさすがだなと思う洋一達であった。



 ◆



「わー、おっきな水たまりだー」


 ヨルダが船から身を乗り出して目を輝かせた。


「ヨルダ殿は湖を見るのは初めてですかな?」


 ティルネが船のバランスを保つために反対側に立った。

 この魔道シップは借り物なので、壊したら当然弁償しなければならない。


「内陸育ちだと、まず湖を渡ることはないからな」


 ゼスターが操舵室から顔を出して話を継いだ。

 確かに用がなければ出かける必要もない。

 全て国内で完結する話だ。

 洋一達のような余程の物好きでもない限り、わざわざ国を出ていく国民はいないという。


 その理由が……


「国ごとに住んでる種族が異なる?」


「ああ」


 ゼスターは頷いた。

 確かに思い返せばミンドレイでは人間としか出会ってない気がする。

 だからこそ洋一は人間しかいないと思い込んでいた。


「俺たちのような混ざりもんはミンドレイじゃ歩きにくくてな」


 ゼスターが混ざりもの?

 そう聞いて洋一はまじまじと見る。

 

「ぱっと見じゃわからねぇよ。俺は獣の、メンバーの何人かはジーパの出身だ。冒険者ってのはいろんな種族でもやれる仕事だからな」


「だからジーパへの伝手があったんですね」


「俺よりもうちの双子がな」


 ゼスターが指差すチームメイトは、巫女服姿の薙刀使い。

 髪を後ろで纏めた大和撫子、というイメージの双子の姉妹であった。

 普段から額当てをしているから気にしてなかったが、どうやら額から生えてるツノは飾りではなく自前らしい。


「俺が気がつかなかっただけで、ミンドレイにもいろんな人たちがいたんですね」


「因子さえ見せなければ人間として扱ってくれるからな。と、言っても俺が優れてるのは嗅覚と脚力くらいだ。他は普通の人間だよ」


 そう言いながら、ゼスターがティルネを睨んだ。

 道中で賊に襲われた時の『胡椒魔法』をいまだに恨んでいるらしい。


 事前にそういう魔法を使うと言ってなかったのも悪いが、ゼスターもゼスターである。

 自分たちがそういう身の上だと後になって話されたら、ティルネとて対応できるはずもない。

 単純に国内では話せない可能性もあったのだろうが。


「次からは気をつけます故」


「先にどういう魔法を使えるかの相談をなー」


「それはそちらの身の上も同じことでは?」


「まったくだよ」


 ガシガシと頭を掻きながらゼスターは魔導シップの操作に戻った。

 この船は魔法の供給されたら動かせるらしいが、それなりに直感が必要らしい。

 それこそ野生の勘のなせる技だとか。


 『エメラルドスプラッシュ』で運転技能が高いのはゼスターだけ。

 それ以外は全員暇を持て余していたのだ。


「そういえば、ゼスターさん」


「あん?」


「ここの湖に生息する存在は自由につってもいい奴ですか?」


「こんな高速で動いてる船で釣りか? おすすめしないぜ?」


 洋一の質問に、ゼスターは怪訝な顔をした。


「ああ、そういうのじゃなくて。勝手に捕って後で文句言われないかだけ」


「それなら問題はないな。わざわざこんな場所まで釣りに来る奴も少ないし」


「この水域だと、大型種しかいないと思いますよ?」


 ジーパ出身の薙刀少女、カエデが経験があるかのような回答をする。


「ほう、ワイバーンクラスの?」


「あそこまでじゃないですねー。せいぜい丘です」


「ワイバーンは山だもんなー」


「よく知ってますねー」


「一度見たことあるんだ」


「へぇ!」


 その後食ったなんて言い出しはせず、お互いに余計なことを言わないまま笑い合う。


「そんじゃあ、ちょいと味見しますかね【ミンサー】からのー【腸詰め】」


 洋一は水面に手を翳し、そう口にした。

 途端に前方で渦巻きが発生。


 まるで水底にいた大型種の存在が突如として消失したかのような現象により、渦は次第に大きくなった。


「あちゃあ」


「師匠、何したの?」


「ちょっと下にいた水獣を【ミンサー】でちょちょいと」


「それでなんでこうなってるの?」


「その場に空気の層が突如できあがり、水がその場所に一気に流れ込むとこのような渦が出来上がります」


「今そんな事言ってる場合か! 魔導シップが流されてるんだぞ!」


「ヨルダ、ティルネさん! なんとかならないか?」


「中の空気をぬけばいいんだな? だったら【土塊】の理屈で!」


「お手伝いしましょう!」


 ヨルダが魔法構築を展開し、それを模倣したティルネ。

 その間も渦はどんどんと大きくなり、勢いも早くなった。


 水の上で船のなんと安定しないことか。

 洋一は全ての原因が自分にあるにも関わらず、そんな無責任なことを考えていた。



 そして……


「はぁー、はぁー、生きてる! 俺たちは生きてるぞー!」


 ヨルダの魔法が功を奏し、洋一達一行は無事大渦を乗り越えることができた。


「師匠はさー、次からは陸の上でやるようにしてよね?」


「面目ない」


「それで、どんな水獣を釣りあげたんです?」


「そうだなぁ、今ここで試食会をしてもいいんだが……」


「……!」


 ゼスターの無言の圧力を一身に受け、洋一は「沖にあがってからにしよう」とこれ以上のトラブルは起こさないと宣言した。



 ◆



「もう二度とあんなことしないでくれ!」


 港町につくなり、ゼスターに怒られた洋一である。


「ごめんって、もう船に乗ってる間にはしないと誓うよ」


 頭を擦り付ける形の土下座。

 これ以上の反省ポーズもないだろう。

 が、ゼスターの怒りのボルテージが下がる様子もない。


「船に乗ってなくてもやめてくれ。この国での信用が地の底まで落ちる!」


 問題は洋一のやらかしによって、溜め込んだ信用が消えることを恐れたのだ。たった一回の護衛任務でそれが灰燼とかしたら?

 ゼスターでなくとも怒るのは仕方ないと思う。


「面目ない」


 お冠である。

 許可をとったのにおかしいなと思いつつ反省のポーズを取り続ける。


「まぁ、そう怒んないでよ。師匠だって水の中からモンスターが消えることでどんな障害が起こるか知らなかったんだから。今回のことで理解したと思うから、もうやんないよね?」


「そこは確実に」


「だったらいい。ジーパに着く前に全滅するところだったからな。まったく、とんでもない人だぜ」


 興奮気味のゼスター。

 しかしその仲間のカエデは。


「しっかしあんな水害が起きるほどの個体、一体なんの怪獣を仕留めたのか、わたし気になります!」


「そういえばそうだな」


 カエデに乗せられて、怒りよりも興味が上回ったゼスター。

 あれほどの水害だ。

 中途半端なサイズの海獣ではないだろう。


「ボス、ここは一度ヨウイチさんのご飯のご相伴に預かってみてはどうかと思いますが?」


 大和撫子の美人姉妹の片一方、もみじが小さく挙手をした。

 カエデがヨルダのような小さな美少女であるならば、紅葉は長身美女。


 昔から背の高さがコンプレックスであるかのような、そんな葛藤が彼女の身振り手振りを小さくまとめているかのようだった。


「ふむ、一理ある。が、先に手続きを終えてからだ。流石にその辺で飯を作り始めたら変な目で見られる。入港時から目をつけられたくないからな」


「まぁ、そうですねー」


 どうもその辺は寛容ではないらしい。

 ミンドレイが人間の国であったように、ジーパをまとめてる鬼人族は仁義を重んじるようだった。

 そういう意味では人間向きではない国という位置付けだった。


「おう、久しぶりだな、犬耳。今回はどんなご用向きだ?」


「イヌミミ?」


「こっちの通し名だ。鬼人族はツノがあるかないかで能力を判断する。一般の人はツノなし。でも固有の能力を持つ場合は……」


 ゼスターはフードを取り払って、狼のようなピント張った耳を曝け出す。ミンドレイでは一切見せることはなかった姿だ。


「そっちで呼ばれることが多いな。ツノなしの地位は低いんだよ、ここは」


「へぇ」


「ただいま、お兄!」


「もみじとカエデは相変わらずだな。ツノなしにいじめられてないか?」


「生まれ持った膂力が違うからねー」


「逆にいじめ返す感じかな?」


「はっはっは」


 生まれ持った能力差というのをわざわざ洋一達に見せつける受付。

 どうやらもみじたちとは血縁関係にあるようだ。

 その目は家族に手を出したらただではおかんぞと物語っている。

 若干血走ってるというか。


「そっちの三人は初めてだな?」


「洋一です。こちらの国には食の開拓に来ました」


「この旦那、ジョブは料理人で冒険者ランクはG……と普通ならそう紹介するところなんだが」


 飲み込みきれない真実を隠しながらの説明。

 ゼスターの歯の隙間に何かを詰まらせたような物言いに、受付は首を傾げる。


「最初に言っておく、この旦那にだけはツノなしの定義を当てはめないほうがいい。単独で伝説級(レジェンダリー)を屠ってる」


「ほう!」


 受付の鬼人の目つきが変わる。

 奥の席から立ち上がり、洋一の前までやってきて体つきを見た。

 そして、挨拶がわりの握手をした。


 昔から握手で力量をはかる習わしがある種族であるが故に。


「よろしくお願いします」


「ああ、あんた強いな。射殺さんばかりのさっきを叩きつけているにも関わらず、動じず、か。書類にはそう書いておこう」


「何が何だかよくわからないが、うちの弟子も多分伝説級(レジェンダリー)を倒せると思うぞ? 俺と違って魔法を使うが」


「ほうほう、そっちの童とジジイか。魔法使いと。しかし詠唱ありきの威力重視魔法では、こちらの妖魔の相手はできまいて。愚鈍なミンドレイの魔獣と比べられてもな」


 どうやらこの土地に住むモンスターは妖魔と呼ばれる存在らしい。

 多分妖怪とかの一種なのかもしれない。

 カッパとかいるかな?

 いたらぜひ食してみたいものだなと考える洋一。


 過去に知的生命体を口にしているので、多少特殊調理食材であろうとなんとかして見せる洋一だった。


「あんまりオレらをみくびらないほうがいいぜ、おっさん」


「然り。我々は本国では落ちこぼれ、あまりもので有名な【蓄積】魔導士であるが故」


「詠唱速度と威力を重視していないとな?」


「ま、そこら辺はおいおい見せていくよ。ね、師匠?」


「まぁ、機会があればな」


「強い奴は大歓迎だ。ようこそ、鬼と怪生の住む島ジーパへ」


 再度握手を交わし、港の案内所を通じて本国へと入る。

 金貨はミンドレイでしか使えないらしく、ほとんどの賃金を両替した。

 こちらでの通貨は(ふだ)だ。


 色によってグレードが異なり、白→黄→青→赤→黒となる。

 独特の文化体系だなぁと思いつつ、管理はヨルダに任せた。

 洋一はそういうのに疎いので案内係が何かと必要だった。


「そういえば紅蓮殿、先ほど湖で水害にあったが、あの下には何が眠ってる?」


「水害? 珍しいな。今の時期にはお目覚めになられないはずなのに」


 お目覚めになられない?

 洋一は嫌な予感を感じて身震いする。

 受付の鬼人、紅蓮はこれは言うべきかと考えあぐねていたが家族が信頼を置くパーティメンバーなら言っても構わないだろうと口にした。


「龍神様が眠っておられる。冬の暮れ、無事春を迎えられるようにと生贄を求めてくるのだ。去年は20人、贄となった」


「誰もそいつを仕留めようとは思わないのか?」


「あれは古の時代からの怪生であるミズチ様であるぞ? 人の身で倒せる系統ではないわ。何せ本体が水そのものであるからな。枠組みに当てはめるのなら神話級(ミソロジー)か。いや、それを逸脱する厄介さよ。我々はそれに抗う術を持たぬ」


 体が水なら違うかー。

 洋一はホッとしながら話を促した。


 しかし洋一はすっかり忘れていた。

 過去において【ミンサー】は幽体や無機物にも作用していたことを。

 有機物にしか使ってない数日のうちに忘れ果てていた。



 ◆



「実はその時に何匹か仕留めて肉に置き換えたんだが、調理場を借りたいんだ。そこの兄さんは凄腕だが、自他ともに認める料理人でな。王族を唸らせたほどだ」


「あの脂っこい料理は好かん。だが、少し興味が湧いた。いいだろう、うちの調理場を貸してやる。その代わり、食わせろ」


「それくらいでしたらお安いご用ですよ。あ、それと」


「ん?」


「宗教的な理由で食べられないもの、苦手な食べ物、調味料はありますか?」


「おう、油で揚げたのはどうにも好かねぇ。茹でる、煮る、蒸すまでなら平気だ。生でもいけるが、素材によるな」


「わかりました」


 古き良き日本人のスタイルか。

 他の地域の料理を踏襲する前の日本と同じ文化を辿ってると思っていいか。

 ならば、ハンバーグやカツなどはやめておいたほうがいいか。


「餃子とかは?」


「ああ、あれもいいなぁ。少し味付けを薄めて……それと紅蓮さん、調味料をいくつかお借りしてもよろしいですか?」


「おう、あるものでよければ使いな。中にはツノなしに受け付けないもんもいくつかあるが構わないか?」


 紅蓮は快活に笑う。

 洋一は問題ないですよ、と調味料の味を見た。

 思った通り、畑に豆が植えてあったので味噌と醤油を発見する。

 田んぼも見かけたので、きっと米もあるだろう。


「なら味付けは……」


「いつものより随分と薄め?」


「ミンドレイ風のスタイルとは異なるが……」


出した料理はミンチ肉をそぼろにして味噌と味醂で味付けしたものと、つみれ汁だ。あとは魚を醤油と味醂で煮付け他物をお出しする。


「ほう、我らの料理を食したことが?」


「以前、どこかで食べた記憶があったんです。あいにくと前後の記憶が曖昧で。食の開拓は、記憶の開拓でもありまして」


「なるほどな。見た目だけ似せてても味は追いついてないかもしれぬと?」


「そうなります。ついでで良いので味見していただけますか? 昔の勘を取り戻したくて。かつての自分はどんな人物だったか。それを思い出したいのです」


 洋一は、嘘偽りない感情で言った。

 記憶は一切失ってないが、弟子たちにはそう言いふくめている。

 なので、これは方々で言いふらす予定の話だ。


「ふむ。このそぼろはいい味だな。白飯が欲しくなる」


「よかった。こういうスタイルならジーパでも喜んでもらえそうですかね?」


「白飯ってなんだ?」


 ヨルダは疑問に思いながら聞く。

 洋一はパンに変わる主食だと言った。

 ヨルダにとってはパンに代わる主食がパッと思いつかず首を捻った。


「いや、これなら好きなやつも多いぜ。腕がいいってのは本当だなぁ、こっちの条件を述べただけで好きな物をピタリと当てちまった!」


「ほへー。オレには少し物足りなく感じるけどな」


 ジーパの食事はミンドレイ国民には薄く感じるようだった。

 オイル煮とパン食の人から見たら米食は異端か。


 紅蓮は白飯があったらそれにまぶして食べたいと豪快に笑った。

 洋一達は箸で食したが、紅蓮たちは手づかみで豪快に食べていた。

 箸の文化はないと言うらしい。

 人ではなく鬼だから文化形態が異なるのだろうか?


 半分人なのでこだわる部分はこだわる感じか?

 武人とそうでない人の差異がわからないな。


「ならば、こういうのはどうでしょう?」


 洋一はその場で粉と水、塩で生地を練り薄く伸ばしては皮を作る。

 そこに味を調整した肉を包んで揚げた。

 本当なら肉はそこそこに春雨なんかを使いたいところだが、鬼人は手づかみがスタイルだという。

 ならば、こう言ったものの方が好まれるのでは? という直感があった。


「揚げ物か」


「春巻きと呼ばれるものです。この衣は肉を包み、肉汁を外に出さないためのものとなります。揚げる他に煮る、蒸すなどでも変化をもたらします。まずは一口お召し上がりください」


「ふむ」


 途端に腕を伸ばすのが億劫になったかのような紅蓮。

 意を決して口に入れ、咀嚼。

 最初は揚げ物ということでイヤイヤだったが、咀嚼していくうちに気分が上がってきたかのようだった。


「ああ、いいなこれ。揚げ物というともっと油っぽくて胃が重くなる感覚があるが、これは軽い。心が弾むようだ」


「そして煮たものがこちらになります」


 こちらは蒸し餃子の様な分厚い皮に包まれたものだ。

 

「ふむ、見た目からして異なる」


「揚げるのと異なり、皮は水を含むと破けやすくなる。ですので」


「だから分厚くした? 単純な話だな」


 洋一は頷く。多く語る必要はない。

 ここから先は料理人と食事をするものの対話だ。

 結果は食べた者の態度に如実に現れる。


 紅蓮は風変わりな料理をつまみながら口に入れた。


「ほう! これはまたイケるな。俺は猫舌だから多くは食えんが、好きなやつは好きだろう」


 ガタイは大きいのに猫舌なんだ?

 容姿に不似合いな特徴に思わず吹き出してしまいそうになるが、人の特徴を笑うのは失礼なので我慢した。

 誰だって不得意なことの一つや二つあって然るべきものだしな。


「これは餃子を煮たものか?」


「小籠包と呼ばれる蒸し料理です。スープをこの皮に包む。本来は手づかみで食べるというより、器の中でこうやってほぐしてスープにして飲むのがスタイルですが、それは受け取り手次第です。餡が液体なので非常食としては持ちませんので、そこは提供者次第でしょう。その日のうちに食べていただくのが最良ですね。まぁ、俺もどの様な歴史でこの料理が生まれたか詳しく知りませんので。食べて美味しかったので記憶に残ってたんでしょうね」


 記憶を失ってるのに、こんなに蘊蓄を語って良いものか?

 ここで釘を刺しながら話を区切る。

 不自然になり過ぎない様に、次の商品をお出しする。


「そしてこっちが?」


 小籠包と一緒に蒸した肉まんである。


「そちらはそのままお食べください」


「ではいただくとしようか。ほう、こちらは肉の旨みに野菜が相まって食べやすいな。油もくどくない。なんの肉だ?」


「先ほど仕留めた水獣です」


「魚の味ではないように思うが?」


「俺の能力は魚でもなんでもお肉に変えてしまう物なので、見た感じはお肉ですが、そこに素材独特の風味が加わるんです」


「面白い特技を持ってるな。その能力で伝説級(レジェンダリー)も仕留めたか?」


 洋一は黙して語らず。

 本当は神話級(ミソロジー)も屠っているが、それは内緒のことだったからである。

 その日は借りた厨房で肉まんを大量生産して、いく先々で挨拶と同時に配って歩いた。



 ◆



 洋一が港を出て数刻後。

 港の入港案内所に一人の男が立ち寄った。

 青衣服に白の意匠を施した服を纏う大男だった。


「何を食ってるんだ、紅蓮? 仕事はどうした」


「ん? おお、氷河か。龍神様のご機嫌はどうだった?」


「それなのだがな」


 歯に何か挟まったかのような物言い。

 何かあったのだろうか? 

 紅蓮は食べかけの肉まんを一気に頬張り咀嚼する。


「何かあったか?」


「龍神様が見当たらんのだ。今の時期は祠にて休息中。違いあるまいな?」


「どこかに出かけてる?」


「その可能性は著しく低い。何せ数百年、ジーパから出て行かぬ怠惰な存在だぞ? 今更どこにいくというのだ」


 二人にとって龍神様とは厄介な存在だった。

 否、二人だけではない鬼人族の皆が目の上のたんこぶとして龍神、みずちを扱っていた。

 

 ろくに働きもしな育成に一丁前に生贄を要求する。

 その上で大喰らいだ。

 腹痛でそのままお亡くなりになればいい。子供ですらそんな罰当たりなことを考えていた。


 だからこそ、勝手にどこかにいくなんて考えられず、二人して頭を傾げた。


「お前の方でも何か異変を嗅ぎ取ったりしてないか? 見知らぬ客が来たなど」


「あー、そういえば」


 紅蓮は今日の昼間に


「誰か来たか?」


 昼頃に到着した一行を国に入れたと話した。


「もみじとカエデか。まだ冒険者なんてやってるのか? もういい年だろう」


 余計な世話を焼く氷河。

 同世代の氷河にとって、紅蓮の妹は自分の妹と同義。

 自分はすでに二人の子供がいる。

 二人にもいてもおかしくない年齢なのだが、まだ冒険とやらの方が大切なようだ。


「ジーパは狭いのさ、妹達には」


「それでもしきたりがある」


氷河が難しい顔で腕を組んだ。

 しきたり。それは鬼人族の暗黙の了解である。

 力強き相手を見つけたあとは、


「そうそう、その妹パーティはな、とある一行の護衛できたらしいぞ」


「護衛? お前の妹たち以外にも誰か来たのか?」


「ああ、料理人だ。他にも農家見習いと調薬師のおかしなパーティだ。なんでも失った記憶を探してるようだぜ」


「その見慣れぬ食べ物も、その料理人のものか?」


「おう、お前の分ももらっておいたんだがな」


 その最後の一口を紅蓮が自分の口に放り込む。


「もしかしてお前……」


「悪い、美味すぎて全部食べちまった」


 紅蓮はなんの悪びれもなく両手を上げた。

 もう手元には何もないというアピールだ。

 氷河は長い付き合いからキツく言ったところでまるで取り合わないことを知っている。


「まったく、昔からお前はそういうやつだったよ。で、その料理人とやらは護衛をつけるほど弱い存在なのか?」


 護衛をつけてまでジーパに来たがっている。

 その理由はなんだ?

 氷河の疑問も尤もだ。


「あの人間はなぁ、イヌミミの兄ちゃんですら手を焼いてたからな」


「イヌミミ……確かゼスターと言ったか。妹を預けてる冒険者のリーダーではなかったか? Aランクと言えばそれなりだろう? なのに手を焼くと?」


「知識がすっぽ抜けてる感じだな。記憶喪失という話だし、だが料理の腕前はおっそろしいぜ。ジーパに来たのは初めてだってのに、ジーパ通の俺が唸ったほどだ」


 ガハハ、と笑う紅蓮。

 

「ジーパの味を知る料理人か。ツノは?」


「ない」


「ジーパに縁のある客ではないと?」


 より一層訝しむ氷河。

 ジーパを知らぬ、縁もない。

 だというのにジーパ人好みの料理を作れる。


「初めて見るタイプだ。だっていうのに、俺の威圧を受けてもピンピンしてやがる」


「もしかすると、その御仁が龍神の化身であるかも知れぬぞ?」


「まさかぁ」


 らしくない事を言う。

 氷河の当てずっぽうな指摘に、紅蓮は堪えきれないとばかりに腹を抱えて笑った。


「お前の威圧を払いのけ、そしてジーパを知るもの。龍神様であると考えた方が納得できる」


「まぁ、そう考えたい理由もわかるが。俺は違うと思うぜ? あの人、まるで他人を疑ってねぇんだ。その上で強ぇ。ジーパ人が気にいる、そんな素質を持ってる兄ちゃんだ」


「それは確かに龍神様とは違うな」


 別物だろ。紅蓮は氷河を見据えて言った。


「まぁ、近いうちに紹介するよ。それか飯の話題が出たらその中心地にその兄ちゃんがいるだろうよ」


「そこまでか?」


 ご飯がうまい。ただそれだけで話題を掻っ攫うほどなのか?

 と疑う顔。


「ジーパの歴史に名を刻むぜ。あの兄ちゃんはそんな存在だ」


 確信的に言う紅蓮に、氷河は話半分で受け取った。

 またこの男のホラだろう。

 あまり鵜呑みにしてこれ以上振り回されたくないと言うのが氷河の本音だった。

 

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