17話 ポンちゃん、若く見られる
「ここが中央都市か。今までの街よりも随分と賑やかだ。ちょっと人酔いしそう」
街の門の前。だというのにそこは人で溢れていて、馬車の行列も多かった。
今まで通ってきた街も多かったが、ここはその比ではない。
うっぷ、と口元を抑える洋一に大袈裟だなぁとヨルダが堪える。
「ここまで来れば、命知らずの盗賊団の数も減ることでしょう」
「盗賊だったのか? あれは」
はて? と洋一が首を傾げる。
確かに気配は感じていた。なので全員の足を【隠し包丁】で一時的に殺し、ヨルダとティルネが簡単な魔法でその場に埋めたのだ。
野生動物に襲われてなきゃいいが、ぐらいの心配はしてたが。
そうか、あれが盗賊か。
元の世界の探索者にも似たような存在はいたが、こっちでは白昼堂々と犯行に及ぶのかと少しだけ勉強になった。
「どこかで毛皮の売り手が私たちだとバレたのだろう。私を騎士団長と知って襲いかかるなど愚かな奴らだ」
「単純に知らなかった可能性」
「冒険者ギルドで、こちらのジョブが割れた可能性もあります。恩師殿が料理人、ヨルダ殿が農家。そしてワシが調薬師。そこに騎士が一人なら、カモだと認識なさるのでしょう」
「私一人をどうにかできればいいと考えたか?」
「でしょうな。それ以外が一番厄介だと考えられる想像力が足りなかった。ああ言う連中は肩書きだけで獲物を見極める。そう言う意味では奇襲はこれからも続くでしょう。実際にはエラー判定が出なければ恩師殿はSランク相当。ワシらも魔法使いとしてならAランク近くあると思います」
「うむ。冒険者換算ならそれぐらいが妥当か」
「俺はただの料理人なんだが?」
「ただの料理人は目視だけでワイバーンを殺さないんだ、ヨウイチ殿」
「然り」
「まぁ、師匠は料理の腕もピカイチだからな。そこは疑ってないよ」
「うむ。では私は入場手続きをしてくる。皆はここで待っていてくれ」
門の前で数十分待たされる。
ネタキリーが交渉を終えて案内人を連れてきた。
どうやら部下の人のようだ。
「ではアトハ、後のことは任せた。私は先に詰所に戻る」
「はい、後の案内はお任せください。ティルネ殿からの徴収も抜かりなく」
そこは抜かりあって欲しかったと言う顔を浮かべるティルネ。
門を潜り抜ければ、分厚いレンガのトンネルを潜る。
通り抜けた後、それが城壁だと知ったのは高台に登って街の案内を受けた時だったか。この街は王都の一部にあたる。
分厚い城壁は、区画ごとに分かれており。
王城を中央に置き、北を貴族街。南を商業区。
東を騎士や冒険者達の武具の店が並び、西をあらゆる市場が立ち並ぶ商業区となっている。
その中で洋一達は貴族街を選んで歩いていた。
実際に貴族がいるのなら、自分の案内は不要かとアトハは後を歩いている。
ここにティルネの研究所があり、ネタキリーの詰所があるためだ。
「ここら辺は貴族のための街だから、平民の旅行者は本来出入り禁止なんだけどさ」
「その割に、茶髪が多く見えるが?」
貴族の髪色は淡くとも濃くとも金髪で統一されている。
出会った当初は淡い髪色だったヨルダにティルネ。
しかし洋一と一緒に暮らすうち、すっかりハニーブロンドになっている。
本人達は気にも止めてないが、通りすがりの貴族の髪色がそこまで濃くもないのを見て、いろいろいるんだなぁと感じていた。
そして貴族ではない髪色も混じっていることを指摘する。
「お店の店員は流石に貴族じゃないんだよ。でも貴族と懇意にしてるからここでお店を出せるんだ」
「貴族御用達ってやつか」
洋一の例えに、ヨルダが頷いた。
「つまり、平民である以上街にいるにはそれなりの仕事を探さなければいけないと言うことです」
「すごく居心地悪い理由はそれか」
周囲からの視線はもろにそれだ。
なんで仕事を持たない平民がこんなところにいるのか? と言う顔を周囲から受け止めている。今はヨルダやティルネがそばにいてくれるから、指摘されずにいるが、別行動したら咎められかねない嫉妬や蔑みの視線を感じていた。
「そこら辺はワシにツテがあります。恩師殿に相応しい働き口が」
「料理関係なら嬉しいな」
「ええ、うってつけの酒場があります。基本恩師殿は裏方で、配膳などは知り合いに任せりゃええんです」
「まぁ、そう言うのだったら」
「じゃ、オレはその間実家の様子を見に行ってくるよ。子供連れて酒場はいけないだろ?」
「子供の自覚があったんだな、お前」
「師匠はオレのことなんだと思ってるの?」
頬を膨らませて抗議するヨルダになんて答えたものかと洋一は言葉を濁す。
「出来のいい弟子かな?」
「なんだよ、それー」
頭を撫でると嫌がらずに受け止めるヨルダ。
それを見ながらアトハは洋一って一体どんな存在なのかと疑問視する。
何せ普通、平民が貴族にそんなことをすれば拷問からの死罪は免れないからだ。
「随分と仲がよろしいのですね」
「まぁ、オレの命の恩人だしな」
「ああ、ヨルダは俺の最高の弟子だ」
「ヨルダ?」
アトハが何かに気がついた。
数ヶ月前、迷子の浮浪者をとある貴族の家に送り込んだ記憶が蘇る。
「うん? オレの名前がどうかした?」
「つかぬことをお伺いします。ご実家とは、ヒュージモーデン家ですか?」
「え、なんで知ってんの?」
「有名なのか?」
「この貴族街で行方不明者の届出が我々騎士団に回ってきていたんです。そこでお生を伺っておりまして」
「あちゃー、親父の差金か」
ヨルダは居心地悪そうに、まだ張り紙あるかな? と尋ねる。
何故かアトハはダラダラと汗をかきはじめた。
「どうしたんだ、アトハさん?」
「あー、えーっと」
アトハはなんと言って切り抜けようかと迷ったが「実は……」と自分が何をしでかしたのかを暴露する。
「え、偽物を送り込んだ?」
「顔立ちがそっくりで、金髪。これ以上ない代替え品はいないと思い、つい」
「それ、バレたら親父に首を刎ねられても文句は言えないぜ?」
「だが、事実その偽物はうまいことやっていたようで」
だからと言ってそれでOKということはない。
「しっかしオレの偽物ねー。どんな人?」
「さぁ?」
無責任なもんだな、と思う洋一。
代役を立てたら後の責任は自分たちにはないと言いたげだ。
「何せ無銭飲食の一斉摘発で保護した浮浪者でして」
「そんなやつをよく送り込もうと思ったよな」
「でも、バレてないどころか活躍しちゃいましてね」
「えっ」
「ご活躍しすぎて王太子の護衛に抜擢されたようですよ? 今年から学園生として参戦してます」
「オレ、13なんだけど」
「えっ」
「えっ」
アトハとヨルダが気まずい空気の醸し出している中、洋一はとある共通点を見出して質問する。
「アトハさん、その浮浪者の特徴をもう少し詳しく教えてもらえませんか?」
「どうしたの、師匠? なんかあった?」
「もしかしたらその偽物、俺の知り合いかもしれないんだ。探してる相棒は魔法に長けているんだ。魔法はイメージだと俺に教えてくれたのはその人でな。どんな経緯で貴族になんか間違われたかはわからないが、魔法のプロフェッショナルとなれば可能性は上がる」
「なるほど、でもオレに間違われるって相当だぞ?」
髪色だけで判別できたとしても身長などは相当な低さ。
洋一の胸あたりの身長しかないヨルダ。
確かに洋一の目算では藤本要の身長そこまで低くない。
だとすれば、
「なんらかの方法で縮んだ?」
「その人がどれくらいの魔力を持ってるか次第なんだよな」
「魔力量で年齢を誤魔化せるのか?」
「若さは保てるよ。この世界の貴族がいつまでも若い理由はそこ」
洋一はティルネを見る。
そこには老けた年寄りの姿が見えるばかりだ。
「おっちゃんみたいにこの年齢まで育っちゃったら、無理だろうけど」
「ハハハ、これは手厳しい。ワシの場合は心労がほとんどの原因ですがな」
「ヨルダはまだ取り返しがつくと?」
「望めば?」
「なるほど、魔力が多くて本人が望めばその姿になるのか」
「うん。魔法大国の人々が若い理由はそこかな?」
「ヨルダも成長しようと思えばできるってことか?」
「やだ」
ちょっと拗ねた顔。
どうやら成長する気はないようだ。
の状態を保ちたい理由はわからないが、聞いても教えてくれそうにない。
「まぁ、ヨッちゃんが無事ならそれでいいか。今は無事を確認できただけでも収穫だ。あとはオリンだな。あいつが今どこにいるかが心配だ」
「オリンって、どんな子?」
「うーん、オリンはベア吉と同じようなモンスターでな。スライムの形をしている」
洋一はオリンについての説明を始める。
「キュウン?」
ベア吉を例えに出したら、即座に反応が返ってきた。
こらこら、この街はモンスターの連れ歩きが禁止されてるんだから顔出しちゃだめだぞー?
カバンを上から撫であげて、ウインナーを二個ほど放る。
「キュウン!」
嬉しそうにガツガツ食べ始めた。
これで少しはおとなしくなるだろう。
「と、話がズレたな。オリンはなんというか、スライムであってスライムじゃない。あくまでもスライムの体を借りてる別の生命体だ」
「精霊、みたいな?」
「それが近いかな? 本人はダンジョンコアでな。契約した相手のもとにモンスターの姿で分身を送る存在だ。今は分体か、果たしてコアその物がこちらにきているかの判別はできないが、どこかでダンジョンが現れたらそのうちの一つがオリンだな」
「ダンジョンですか? 世界中にありますが」
アトハの説明に、だろうなという答え。
「だから探すのが厄介なんだよ。誰かと契約していた場合、俺と縁を切ったということになる。そういった場合の対処法は何が適切なのか、俺には量りかねる」
「そのオリンを見つけたら、師匠はどうするの?」
「可能であれば前いた場所に戻りたいと思っているが」
「やだ、まだオレ師匠から教わってないこといっぱいあるよ!」
途端に子供みたいに暴れ出すヨルダ。
がっしりしがみついて、涙目を浮かべてる。
「俺もなぁ、この世界の食事を食べ尽くしてないからな。見つけてもすぐには帰らないと思うから安心してくれ。単純にオリンを見つけたいのは便利だからなんだ」
「便利と言いますと?」
「街から街への移動が一瞬になる」
「それは魔法的な?」
「俺もよくわからんが、エネルギーがどうだのと言っていた。俺の作る飯が、そのエネルギーを稼ぐのに最適だともな。それで契約を結んだわけだが、今や行方知らずでな」
話を聞いていたアトハはにわかには信じられない、突拍子すぎる話だと理解する。
「まぁ、欲しい機能はそれではなくてな。あいつはモノを腐らせずに無限に持てるし、俺の私物のほとんどをあいつが持ってるからなんだ。それを手に入れて、本来の俺の料理をみんなに披露したい、それだけでさ」
「そっちをどうでもいいっていうのは、後にも先にも多分師匠だけだと思うぞ?」
「そうかー?」
「恩師殿らしいと言えばらしいですが」
「普通は戦略級の魔法です。各国が欲しがるでしょう」
「欲しがったとしても、あいつは隠れるのがうまいからな。それに、求めるエネルギーを増幅させる要因がない限り、首を縦には振らんだろう」
「師匠クラスの料理上手? だめだ、思いつかねぇ」
「俺もなんで好かれたかいまいちよくわかってないんだよ。それ目当てで俺を拐かす相手も出てくるだろうが……」
さっきの盗賊の比ではない連中、ましてや国が狙ってくるかもしれないと脅かす。
しかしヨルダは洋一と一緒に生活してきたからこそ理解している。
「ワンパンで神話級を倒せる相手に喧嘩を売れるかって話か」
「すまない、今なんと?」
アトハは理解が追いつかない顔。
ティルネはここにくるまでに討伐対象を害獣駆除くらいの手軽さで屠ってみせた師の実力を疑ってない。ヨルダに至ってはジェミニウルフすらワンパンだったので、すっかり信用し切っていた。
「ああ、師匠とは禁忌の森で出会ったんだ。そこで真っ赤な毛皮のツノの生えたクマと遭遇して、鍋の具材にしたって聞いた時は理解が追いつかなかったんだ」
「ただの出まかせではなく?」
「その毛皮を飾るだけで伝説級が寄り付かなかった時点で本物」
「話には聞いていたが、ただの料理人と名乗るのは無理があるのでは?」
「俺はただの料理人として振る舞ってるだけだよ。そこにどんな噂の尾鰭がつくかはどうでもいいかな」
「多分人類最強兵器とか言われると思う」
「大袈裟だなぁ」
ヨッちゃんのこと、オリンのことを話して、洋一はこれからの目標のなんらかを再確認する。
全員揃っても、すぐには帰らずに少し世界を回って歩くか、ぐらいに考えた。
そしてヨルダも実家からの捜索が打ち切られたこと、代わりに偽物が家に行ったことを理解して安心して洋一と行動する。
そして洋一の世話になる予定の酒場に全員で乗り込んだ。
「ワイルダー、居るか! ワシだ!」
「こんな朝っぱらから誰かと思えば無駄飯ぐらいじゃねーか」
出てきたのは強面の平民。
刀傷だろうか? 頬から目に向けてざっくりとやられている。
それが戦場でのものか、貴族からの仕打ちかはわからないが、髪色は薄いブロンドの時点で貴族上がりなのは確かだった。
ティルネと仲がいい時点で同じ境遇の士なのだろう。
「会ってそうそう耳が痛いことを言うな」
「それで、そっちの見慣れない連中は?」
「今日はお前の厨房に人手の紹介をしようと思ってきたんだ」
「紹介だぁ? 常に資金繰りに追い回されてたお前が、一帯どういう風の吹き回しだよ」
そんな二人の会話に割って入る洋一。
「よろしく頼む」
「見るからに若いが大丈夫なのかい? うちは酒場だが、客はお貴族様だ。やる気だけじゃどうにもならねーぞ?」
一瞥し、見た目から判別する。
「まずは腕を見てもらったらいいんじゃないか?」
「そりゃそうだ。なんか作ってみな」
ワイルダーに厨房に入る許可を得たので、早速食材に当たりをつける。
久しぶりの厨房だ。
見慣れた調味料に食材。
今までの限られた環境とは異なる。
あらゆるものが作りたい放題だった。
「食材は何を使わせてもらってもいいのか?」
「あまり高いのはダメだぞ? 使っていいのはここからここまでだ」
ワイルダーに示された食材を見繕い、洋一はとある料理を思い浮かべる。
まるで長い間その料理だけしてきたような手際の良さで、早速ワイルダーの度肝を抜いていた。
「持ち込み品の素材を使っても大丈夫か?」
ソースの味見をしながらワイルダーに問う。
「あんまり変なものは出せないぞ?」
「大丈夫だ、恩師殿の飯は全部うまい」
「お前が誰かを褒めるなんて明日は槍でも降るのかぁ?」
今までどんな付き合いだったのか、その一言でわかる。
だからこそ、見る目は確かだと思わせてやりたい。
「お待たせしました。ホーンブルの赤ワイン煮です。付け合わせによく冷やした白をお勧めします」
「酒の指定までするなんて、相当腕に自信があるようだな。が、食ってみなきゃわかりゃしねぇ」
「その料理、ワシもいただいて良いだろうか?」
ワイルダーが値踏みするように洋一の料理を一瞥する中で、ティルネは確実にうまいだろうから自分も味見したいと申し出た。
ヨルダやアトハも同様だったが、勤務中に酒をいただくのはまずいと判断して辞退する。
ヨルダは肉だけでも食いたいと物申した。
食欲に忠実にすぎる。
アトハも肉だけなら食べたいと申し出て、洋一は人数分仕上げることにした。
ワイルダーはティルネの態度を訝しむ。
「お前、こいつの腕を信用して俺の店に送り込んできたんじゃねぇのか?」
「限られた食材での料理しか食ってこなかったからな。贅沢品は初めてだ」
「これを贅沢品て言うなんて、お前らしくないぞ? 本当に今日はどうした?」
赤ワイン煮など、この町ではポピュラーなメニューだ。
表通りでは見向きもされない。ワイルダーの店でだって出してる一品である。
「心を入れ替える機会があったのよ」
「なんだそれは」
ワイルダーは呆れたような顔でグラスにワインを注ぐ。
ワイルダーとティルネの二人分だ。
「まずは再会に乾杯!」
「ああ、生きて帰れたことを今ほど噛み締めてることはないだろうよ。そして……ああ、思ったとおりだ。魂に染みる味がした」
「おいおいおいおい……なんだこいつは? こいつがホーンブルだって!? 最高級ミノタウロスに勝らずとも劣らない逸品だぞ! 一体何をした!」
「何も? ただ強いて言えば肉のポテンシャルを引き出す仕事をしました。そして、仕掛けはそれだけにとどまらない。よく冷やしたワインを肉を食べた後に口に含んで見てください」
言われた通りに実行する二人。
そして実行した直後、両名の表情がとろけた。
酔ったと言うわけではない。
ただ、これほどまでの味の変化を体験したことがなかったからだ。
肉汁が白ワインと混ざり新しいソースに生まれ変わった。
口の中が新しいソースでいっぱいになった後に肉を放り込めば、その料理がもう一つの顔を覗かせる。
食べて、飲んで。また食べて。
気がつけば空っぽになった皿にフォークを突き立てる二人がいた。
その顔はもっと食べさせろ、と言っているかのようである。
「お口に合えばよかったですが」
「あんた、どこかのレストランで働いていたことがあるのか?」
「この国ではありませんが、15年間世話になってた高級レストランがあります」
「15年? あんたは見たところ20に登ったばかりだろう?」
「こう見えて、俺35なんですよ。ティルネさんにも驚かれましたが」
「嘘だろ。こんなに若そうなのに俺たちより年上?」
だから思う。ヨルダは洋一が魔力持ちでは無いのかと。
ただし魔法使いでないことは髪色から明白。
単純に使う必要がない境遇に居ただけではないかと勘繰っている。
でなければ説明が使いないことがあまりにも多すぎた。
「言っただろう? ワシにとっての恩師殿だと。年配であると言うだけでなく、人としてのあり方がワシなんかより随分と真っ当だ」
「お前がそこまで惚れ込む相手かよ。角が取れたなんてもんじゃねぇぞ? 今のお前は別人だよ」
まるで別人だ。
久しぶりに出会うティルネをそう評するワイルダー。
「合格だ、と言いたいが」
「まだ何か?」
「あんたを雇うのは問題ないが、そっちの子供はどうする? ティルネと騎士様はそれぞれ帰る場所がある。だが、そっちの子はそんな服装であんたと一緒にいる時点で訳ありだ。違うか?」
「ヨルダはどうしたい?」
「オレも、師匠と一緒に働いちゃダメか?」
「本人は仕事を希望してます。雇ってもらうことは可能ですか?」
「髪色から察するに貴族だろう? 雇うのは構わんが、うちは場末でね、あんまり多くは払えんぞ?」
「むしろお金くれるの? ぐらいに思ってる。師匠のご飯が食べられるだけでラッキーだからね」
「そりゃそうだ。大金積んでも食いたいと思わせる料理だった。その対価を労働で払うのか? 悪くない考えだが。うちは酒場だ。お嬢ちゃんは可愛いから酔っ払い客の相手を任せられるかどうかになるな」
「皿洗いとかじゃダメなのか?」
「魔法使いに皿洗いなんてさせたら俺の首が飛ぶわ」
「オレはどっちでもいいよ。なんだったら男装するし」
「うーん、まぁそれでも食い下がる客はいるだろうけどな」
「そういう客は師匠が何かしてくれるから大丈夫!」
「お貴族様からこんなに信頼を得られるなんて、あんた何者だ?」
「ハハハ、ただの料理人だよ。なぜかそうは見られないけどな」
「じゃあ、二名。うちで預かる。短期の募集でいいか? 流石にずっとは預かれない」
「じゃあ、ギルドに募集をかけてくれ。彼らは最近登録したばかりでね。お給料はそこで払う感じでいい」
「冒険者か。あんまりそういう連中を雇ったりはしないな」
「なら一度始めてみたらいい。お前のお眼鏡に敵わなければ追い払えばいい話だ」
「まぁな」
こうして洋一の他にヨルダも働き口を見つけるのだった。
それを見届けて、ティルネとアトハは店を後にした。




