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おっさん料理人の異世界グルメ〜行き倒れていた王族や貴族に飯の世話をしていたら慕われすぎて困ってます〜  作者: 双葉鳴|◉〻◉)
魔法と選民思想の国『ミンドレイ』

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16話 ヨッちゃん、いいところを持っていく

「ここが、アスカティシア学院か」


 どんな外敵を想定したのかわからない高い門を見上げ、ヨーダはそんなことを呟いた。

 しかし同席したオメガに即座に否定される。


「違うよ? アースロディア学園だよ。なんでいつも間違うのさ」


「ははは。ジョークだよジョーク」


「ヨーダのジョークはわからなすぎる」


 そんなやりとりをしている二人へ、黄色い声が飛んできた。

 アースロディア学園の在校生や同期だろうか?


 オメガは苦手そうに愛想笑いを浮かべるが、それを一身に受けながら決めポーズをする《《男子生徒》》ヨーダの姿があった。


「ありがとう、レディ達。朝から素晴らしい音色で心が満たされるようだよ」


 歯の浮くセリフをよくも紡ぎ出せるものだね。

 内心でそうぼやきながらオメガはヨーダの袖を引っ張った。

 お前も女の子なのに、よく女の子からの声援を受け取れるね? みたいな顔である。


「オメガは真面目だなぁ、こう言うのは変に突っぱねるほうが学園での暮らしを損ねるんだぞ? ロイド様の警備員としてる派遣されてるオレ達が、女生徒と仲良くしないでどうする。情報は広く多く取れたほうがいい。それに、女好きだと外敵に思わせておけばハニートラップだって仕掛けてきやすい。お前は男だから引っかかりやすいが、女のオレなら対処法はバッチリだ」


「僕は君がそこまで体を張る必要があるのかどうかも疑問なんだけど?」


「まずはポーズでもいいから始めることだな。護衛なんて、結構な無茶振り任せられることがほとんどだぞ?」


「まるでどこかで見てきたように言うよね。もしかして護衛は初めてじゃない?」


「どこかで聞いた記憶があるだけだよ」


「君、本当に僕より年下なの?」


「人生経験の差かな?」


 何かにつけて威張り散らす年下のヨーダに、付き合いきれないとオメガは肩をすくめた。

 校庭を抜け、教室へと入る。

 二人があてがわれたのはSクラス。ここに護衛対象のロイドが編入されたので、その護衛としてあてがわれた二人も同じクラスだ。


 ここまではコネでの入学だったが、ここからは自力で成績を維持しなくてはならない。オメガは余裕そうだが、ヨーダの知識が未知数なので、そこだけが心配だったりする。


「久しぶりだな、オメガ」


「お久しぶりです、殿下」


「殿下はやめろ。学園内では爵位ではなくクラスメイトとして接してくれ。そして君は初めましてだな、ヨーダと言ったか? 父上から話は聞いている」


「おっす! ロイド様。オレはヨーダ。今日からよろしくな」


 あまりにも気安い態度に、ロイドは目を丸くした。

 先ほどクラスメイトとして接してくれと言ったからそう下までなのに、ここまで気安くされるとは思わなかったのだろう。


「バカモノ!」


「あだぁ!」


 即座にオメガからツッコミが入った。


「すみません、こいつは本当に同じ貴族なのか怪しいもので」


 平謝りするオメガに、ロイドは大丈夫だと制した。

 あんまりペコペコされるのは嫌だが、こうまできやすいのは初めてのことだった。


「いや、ははは。初めて対応するタイプで驚いてしまった。こちらこそ、よろしく頼むよ。ヨーダ」


「ほらー、こう言う感じでいいんだよ。オメガは堅苦しすぎるから……すいません。先ほどからこちらを注視する気配があります。今はオレがバカをやることで意識をこちらに向けてますが、狙いはロイド様でしょう」


 握手しながら、ひそひそ声で密談。

 ロイドも黙しながら頷いた。

 その気配の主にはロイドも当然気付いていたようだ。

 そして思いの外周囲を見ているなと先ほどの不敬な態度を改め、評価を少し上げる。


「ロイド様?」


「いや、なんでもない」


 オメガは気がついてないのか? と言う顔。

 ヨーダが心配で他のことに気が回ってないようだ。


 魔力感知ではなく、気配感知はオメガよりヨーダの方が優れているのかと納得する。


「さて、自己紹介はそこそこに席に着きたまえ」


「オレ、窓側だった!」


「僕は廊下側だね」


「日当たり良好でお昼寝し放題だぜー」


「流石にそれはやめろよ?」


「なんだよー冗談じゃんかー」


 クラスは終始和やかなムード。そこへ少し遅れて肩に小狐を乗せた和服少女が現れる。


「あらあら、随分と賑やかでありますねー」


 独特なイントネーション。マッシュルームヘアにかんざしなどを差した異国少女だ。耳は少し尖り、額には角。

 どうやら鬼の種族のようだ。


「ああ、紀伊様。お久しぶりです」


「お久素振りです、ロイド様」


「誰?」


「バカモノ、こちらのお方は東方国家の姫君であらせられる、此山(コノヤマ)紀伊(キノ)様であらせられるぞ!」


「すいません、他国の知識が浅いもので」


 キノコの山ねぇ、だなんて考えるヨーダを他所に、失礼を詫びるオメガ。


「良いわ。他国の学園にまで名前が知れ渡っているなどと思っていません。そこら辺はこれから知らしめればいいだけです。ねぇ、オリン?」


「キュッ」


 紀伊が尋ね、小狐が短く鳴いた。

 オリン? そんな偶然があるのだろうか。

 鳴き声も狐らしくなく、どこか懐かしい響きだった。


「見慣れぬ生物です。その動物は東方国家でも珍しい種族なのですか?」


「あら、目の付け所がいいわね。この子は狐のオリン。特殊個体よ」


「金色の毛皮、捌いて売りに出せば随分と高く買ってくれそうだな」


「あら、流石にそれはこの子に失礼よ。その辺の狐と一緒にしないでくれる?」


「失礼。価値のつけられないタイプだったか。オレはヨーダって言うんだ、よろしくな、オリン?」


「キュッ」


「あら、人見知りをするこの子が珍しく頭を撫でられてるわね」


「そんなに珍しいことなのですか?」


 オメガがヨーダの代わりに頭に手を伸ばそうとするも、すぐにその位置から頭は動いてしまった。すぐに紀伊の反対側の肩に移ってしまったのだ。


「あっ……」


「普段はこんな感じよ? だから妾以外に懐くなんて、貴方様とは気が合いそうだわ」


「紀伊ちゃんだっけ? よろしくな」


「ふふふ、すぐにその減らず口を躾けて差し上げます」


「全くお前は、編入初日からトラブルを起こし過ぎだ!」


 クラスの自己紹介が終わり、授業説明が終わって、実技のテストが始まった。


「へー、こんな的当てなんかでオレらの実力がわかるもんなの?」


 試験会場では、遠くに的があり、そこに魔法なり何なりの攻撃を与えて破壊、またはダメージを与えればいい感じのようだ。


「ミスリル製の的だ。そう簡単に壊れるモノじゃないさ」


「それと、魔力量によっては破壊もできないときている。純粋に力がものをいう鬼人族でも難しい試験だよ」


 鬼人族。先ほどの紀伊などがそれにあたるようだ。


「まずは僕が手本を見せよう。Sクラス生としての実力を全校生徒に知らしめる必要があるからね」


 オメガがクラスを代表して前に立つ。

 選択魔法は中級の【火炎壁(ファイアウォール)


 的に相当のダメージを与えたが、それでも壊れることはなかった。

 しかし生徒たちは中級魔法を初めてみたかのようにオメガに注目する。


「うおっ、なんだあの魔法は!」

「中級のファイアウォールだと!? ではあの人がタッケ家のオメガ=タッケか」

「あれだけの魔法を放って汗ひとつかいてないわよ?」

「俺たちと出来が違うってのか?」


 周囲の注目を浴びるのを、どこか気恥ずかしく感じているオメガ。

 ヨーダは拍手しながら迎えた。


「いやー、すごいじゃん。あんな程度で驚いてもらえるんだな」


「君から見ればそうかもしれないけどね」


「あら、ヨーダ様はあれ以上のことが?」


「それは出番が来るまでのお楽しみだぜ、紀伊ちゃん」


「ふふ。学園でのライバルはロイド様くらいと思っていましたが。オメガ様にヨーダ様も捨て置くには勿体無いほどの大物に見えてきましたわ」


 紀伊が瞳を細める。

 そしてSクラス生二人目の生徒としてその腕前を披露した。


「此山紀伊の名に置いて命ず。其はなんぞ?」


 胸元から取り出したのは文字が書かれた札。

 それを数枚取り出して祝詞を唱えた。

 祝詞に応じて符が雷を纏って顕現した。


『我は雷光、激しき雷光。あまねく光を集め轟き、主人の敵を滅ぼすものなり!』


 雷が意思を持って動き出す。

 それは武将のような甲冑を身に纏い、振り上げた槍が的に向かって叩きつけられる。


 先ほどのオメガの炎の壁を越える魔法の本流が、的に吸収されて砕かれた。


「ふふ、どうかしら?」


「これがジーパの符術ですか。初めて目にしますが大迫力ですね」


「ジーパ?」


「鬼人族が収められている土地だ。本当にお前は何も知らないな」


 あー、ジパング的な? みたいな解釈をするヨーダ。

 そう言う繋がりがあるのね、と納得した。


「さて、次はあなた様の出番ですわよ?」


「先にうちの大将の出番だぜ?」


「すまないね、紀伊様。私が先で」


「いいえ、ロイド様の実力は知っていますもの。的が新しく交換されたみたいですわよ」


「よかった。また壊してしまうからね。私の聖剣は切れ味が鋭すぎる」


 腰に穿いた剣の柄を撫であげ、ロイドが会場に立つ。


「起きろ、エクス」


 まるで眠っていた恋人を起こすような優しい口調で、ロイドは剣に語りかけた。

 すると呼応するように嵌められた宝石が光だす。


「少し注目を浴びるが、それはお前への賞賛だ。では、いくか」


 すらり。


 剣を抜き放つ。

 美しい刀身。見るものを魅了するような美しさ。

 だが、込められた魔法は全然優しくない。

 身を竦ませる程の威圧感と共に、ロイドは舞踏を踊るかのような華麗さで的を切りつける。


 全校生徒の皆が見惚れるほどの華麗さで。

 遅れて斬撃が舞い降りる。

 切りつけたのは一回。

 しかし光の粒子が多段ヒットした。


 斬撃で割れなくとも、その後の粒子で的を割る。

 ゴリ押しもいいところだ。


「剣の腕も魔法の腕のすごいとは聞いていたが、これほどとは」


「あの光がロイド様の魔法さ。セイクリッドチェイサー。斬撃をなぞるように多段ヒットするので、ほとんどの魔獣は訳も分からず絶命する。あの剣はロイド様にとっては付け合わせみたいなものなんだ」


「とはいえ、一太刀で的を半分は削り切ってたぜ?」


「切れ味の凄さはさしたる要素じゃないさ」


 いや、大した要素だろ。

 確かに当てられなければ意味はないが。

 当てれば勝ち確とか、相手にするのも厄介だ。


 最悪操られることまで想定してるヨーダ。

 これが敵に回って勝てるか?

 そんな嫌なシミュレーションなんかを脳内で繰り広げた。


 剣を抜かせなきゃなんとかなるが、抜いたら終わるなと言う予感が拭えない。


「最後はあなた様ですわよ? ヨーダ様」


「みんなして目立ち過ぎなんだよなぁ。オレに派手さは求めないで欲しいもんだぜ」


 名前を呼ばれたので前に出るヨーダ。

 そして詠唱したのは初級魔法の【火槍】だった。


「おいおい、最後のSクラス生は随分とパッとしない魔法を使うじゃないか」


 周囲の生徒たちは先ほどまでの大魔法が出てこないことにやじを飛ばす。


「あら、この程度? がっかりさせないでくださいましね?」


「君はやる男だと聞いている。Sクラス生に恥じない成果をあげてくれよ?」


 紀伊だけでなく、ロイドまでも無茶振りをする。

 ここで披露するつもりはなかったが、仕方ないかと術式を破棄。


「オレは優しいからみんなに圧倒的差を見せつけたくなかったんだが仕方ない」


 ヨルダは杖を後ろに放り、その場で指を鳴らした。

 ただそれだけ。

 静寂が試験会場に響く。


「おいおい、なんだそれは! だったらさっきの【火槍】の方……が?!」


 最初こそ笑い出したAクラス生。

 オメガと同様に中級魔法を使い、それなりに賞賛を浴びていた。

 だからこそ、ヨーダの場所をあけ渡せと強気だった。

 しかし徐々に全貌を明かし始める待機状態の【火槍】が生徒にも見えるように展開されていく。


「悪いな、審判次の的を用意しといてくれ」


 パチン。

 指を鳴らすとそれが一斉に的に向かって放たれた。



 ズドドドドドドドドッ!!


 一発一発はただの【火槍】。

 しかしそれが数十、数百、数千ともなれば?

 終わらぬ猛攻についには的が悲鳴を上げるように砕かれた。


 それでも一度放たれた【火槍】は的を砕き続け、ついには会場の床も穿ち破壊し尽くした。用意するのは的だけでは無くなった。

 審査員はさっきまで薄ら笑いえを浮かべていた己を律する。


「悪いな、ベイビー。Sクラスの椅子は安くねーんだ。オレから奪い取りたかったら、いつでも挑戦を受け付けるぜ?」


「「「「「な」」」」」


 なんじゃそりゃーーーと会場全体が湧く。

 オメガですらその数の【火槍】の同時展開を見たことがなかったからだ。


「お前、そんな数ストックできたのか? 僕との模擬戦では手を抜いていたな!?」


「準備が必要なんだよ。お前みたいにパパッと用意は出来ないんだ」


「だとしてもだ! 僕は今憤りを覚えているぞ!」


 あの冷戦沈着なオメガが顔を真っ赤にして怒っている。

 そんな姿を初めて見るロイドは、とんでもない相手が護衛についたなと言う感想を思い描く。


 そして紀伊も。

 まさかこれほどまで!? と瞬きをした。


 近接では膂力で上回る自信がある。

 それを補う中・遠距離の符術。

 しかし近接戦であの手数で来られたら敵わない。


 最初はこんな軽薄なやつが護衛だなんてノコノサートも耄碌したものだと軽蔑したものだ。

 しかし蓋を開けたらこれ以上ない采配。

 見た目で判断して勝手に隠した扱いした紀伊の見る目がなかっただけだと露呈した。

 

「なーんか。仲間からやたら敵対視されてるけど、気のせいかね?」


 気のせいではない。

 自分に迫る、どころか追い越している実力者を前に、皆が闘志に火をつけた形だった。


 そんな気配を感じて「だから本気は出したくなかったんだよなぁ」と溢した。

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