⠼⠉
「ホワイトなにおいばかりね。どこもかしこも、きれいにされたのかしら?」
「ああ……。駅の周りは、すっかり様変わりしたよ」
娘夫婦と、孫夫婦が大都市のホテルで、金婚式の祝いをしてくれた。婿が家まで車を出そうかと声をかけてくれたが、トワとの時間を楽しみたかったので遠慮した。
家路への途中にあるH駅を降り、あのカリヨン公園を訪れた。
「カリヨンは、健在かしら。シルバーとブロンズのにおいが、まだしている」
僕の腕を握らせて、トワをカリヨンまで連れて行った。
「変わっていないよ。ここだけは、昔のままだ」
ベンチに座らせて、手をつないだ。
「明と暁は、歌がとっても上手だったね。お母さんに似たのね」
双子のひ孫が、保育園で習った歌を披露してくれた。音楽が好きなトワは、会場でもいっぱい拍手をして喜んでいた。
「二人とも、光が見えないけれど、あたしがいるから大丈夫だわ」
ひ孫達は、誰かの支えが特に必要だった。トワは、自分が経験してきた困ったことへの対策を、懸命に教えてあげていた。
「美月がおばあちゃんに、北斗がお母さんに。宵のいう通りになったね、あたし達」
トワが僕の肩にもたれた。娘からの贈り物であるオレンジのベレー帽を、さっそくかぶっていた。まるで、彼女に太陽が昇ってきたようだった。
「やっと、夜明けが来たわ。不思議ね、晩年だというのにね。あたしからすれば、これからが朝なのよ」
トワイライトのトワ、と名乗っていた傷だらけの少女が、穏やかなおばあさんになった。
「宵、いつもありがとう……」
「こちらこそ、ありがとう。トワ」
カリヨンが揺れる。今度こそ、ショパンの「ノクターン」だ。僕達より後の世代が、直してくれたのだろう。若者にも、大切にするべきものが何かを分かる心があるんだ。
「ここに至るまで、長かったな」
トワが首をかしげる。なんでもないさ、とゆっくり話して、僕はメモ用紙にボールペンの先を打っていった。なぜだか、初心に返ろうと思ったんだ。
君だけへの、メッセージを届けよう。
⠃⠝⠵⠐⠟⠾ ⠡⠓⠜⠴⠔ ⠣⠃⠟⠃⠜⠒
あとがき(めいたもの)
改めまして、八十島そらです。
こちらを全文、点字にするか悩みました。やめました。
実験のようなお話です。六つの烏羽玉とは何か、最後まで読んでくださった方は
もうお分かりですよね。
難しかったです。「目」で読む、と、「指」で読む、を合わせることを、考えることは簡単でした。
くじけずに取り組み続けたいです。