099 第一関門
王居。その名の通り、フィラフィス王国、現国王陛下の親族が居住する場所を言う。
この国で最も権力のある王族が住む場所ゆえに宮殿とも言えるような規模だった。
観光スポットゆえに誰でも寄って外観を見ることはできるが高い塀に囲まれており、王国親衛隊が警備しているため侵入は非常に難しい。万に一つも事件が起きないように厳重に守られている。
さすがに王立学園の警備とはわけが違う。
第二王女シャルーン。第三王女アニエス。
儂が知り合った二人も平時はあそこに住んでいるのじゃろう。シャルーンは現在は寮生活じゃが。
「どうぞお通りください」
「ご苦労じゃ」
警備所で王家の印の押された手紙を見せると親衛隊も事前に聞いているのか中に入れてくれた。
もちろんボディチェックはされており、刀は持ち込めないので無限収納バッグに隠している。
無限収納バッグは隠匿機能もあり、ONにすると外からは小さな鞄にしか見えなくなる。
なので儂は自然にいろんなものを王居に持ち込むことができる。
ま、何もせんがな。
王居は広大な敷地となっており、あの宮殿の中にたどりつくのも一苦労じゃ。
警備所は馬車が通れるほどの大きさを誇っており、道も舗装されている。
普段は宮殿まで馬車で行くのかもしれない。
「ほう」
歩いて宮殿の側まで行くと大きな庭園が広がっていた。
色とりどりの花に均等の植えられた樹木。この庭園だけで入館料が取れそうなほど素晴らしい。儂は前世の頃、世界中を旅し自然の庭園はよく見てきたが人の手が入ったものはほとんど見たことがなかったので良い経験が出来たように思える。
「これは見事じゃな」
「喜んでもらえたかね」
ふいに声をかけてきたのは農作業服を身にまとった白髪の若造だった。
60歳、いや70歳ぐらいか。年齢の割に風格はあるな。じゃがまだ些か若い。
「お見事です。これだけの規模の庭園は見たことがありません。貴公は庭師の方ですかな」
「ええ、前任者が退職するということで私が引き継いだのだよ」
庭師はにこりとした柔和な笑みで答えてくれた。
非常に落ち着いた、地に足のついた言葉遣い。良いな。
「宮殿の方へ行くのだろう? 私が入口まで案内しよう」
「お心遣い痛み入ります」」
庭師の方と庭園の花々を眺めながら並木道を歩いて行く。
「話は聞いておるよ。姫のパートナーに任命されたクロス・エルフィドさんだね。我々使用人の間でも話題になっていたよ」
「貴公はシャルーンと長い付き合いなのですか?」
「はっはっは、赤子の頃から知っておるよ」
庭師は思い出すように空を見上げた。
「彼女は……幼い頃はよくこの庭園で走り回っていてね。いつも笑顔でまるで天使のように可愛らしい子だったよ」
幼い頃から元気いっぱいなのは予想がつく。まぁ次第に剣を持ち、腕をあげ、魔獣を倒し、王国最強に名乗り出るまでになってしまうとは誰でも予想できんかったかもしれんが。
「彼女は優しく正義感の強い子だ。王族としては少し向かない性格ではあるが……今の時代はそういう子がいた方がいいこともある。兄弟姉妹が多いと特にな」
「そうですな。昔は後継者争いが活発だったと聞きますからね。特に先代の国王陛下が即位する時はいざこざが多かったとか……」
「……。まだ若いのによく知っているね」
「王国民として義務教育ではないかと思います」
まぁ儂としては現国王より先代国王の時代の方がよく知っておる。
記憶をたどればさらに昔の国王だって。
「少し心配なのだよ」
「何がでしょう」
「彼女が王族として判断を迫られた時、自責の念に押しつぶされないか心配でね」
「先の戦いで人質に取られた生徒を見て……動揺したと聞いています」
庭師はじろりと儂の目を見た。
「そんな時支えてあげられるのがリンクパートナーの存在だ。パートナーは王族の判断を支える立場となる。もし将来彼女が選択に迷う時……君はどう支える」
「できる限りの助言はするでしょう。しかし……最後はシャルーンの判断を尊重します」
「それが大勢の命を奪うことになってもか?」
「ええ」
「軽い気持ちで言っておるのではあるまいな!」
庭師の取り巻く気迫が変わる。
もし儂が本来の年齢であればその気迫に怯え、何も言えなくなってしまっただろう。
シャルーンですら怯んでしまうかもしれない。
だが……。まだ若い。
「シャルーンは決して間違えないと私は信じています。シャルーンの判断はきっと最後には大勢を救うことになるでしょう。彼女はそれだけの力と意志を持つ素晴らしい若者です。シャルーンが間違えるということは私の判断が間違えてたということ。ですが」
儂は庭師の瞳を見つめる。
「儂が間違えることなど絶対ありえん。儂の判断こそが何よりも正しい」
「っ!」
庭師はびくりと体を震わせ、一歩下がってしまう。
だが表情は引き締めたままだ。一般の70歳であれば愕然とし言葉を失ったことだろう。
さすがは名君、修羅場をくぐりぬけておる。
「君は何者だ」
「儂はただの運び屋……。一般人です。でも貴公は違う。そうでしょう? シャルーンの祖父であり、英断で王国の繁栄を支えたアクリオス・フェルステッド先代国王陛下」
「……」
庭師……いや、先代国王陛下は口を閉ざした。
フラグクラッシュその⑩ 屋敷でのほほんと余生を暮らしてる庭師や掃除のおじいさんが実は長老的存在なフラグをたたき壊す。
君のような勘のいいガキは嫌いだよってことで次回100話です。





