096 罪
「そう……今、王都ではそんなことになってるのね」
「俺達が暮らしていた時代とはもう別物だな」
夜もどっぷりと更けルーナが寝静まった後に、儂は両親に王都の現状の話をした。
学園生活も含めて、時を振り返るように。
「母上は確か貴族院に通っておったと言っておったな」
「うん、体が弱かったから通える日数も少なかったけどね」
母上は生まれつき体が弱く、病に倒れることが多かった。
元貴族令嬢だった母上がなぜこのエストリア山にいるか察しているが詳しくは知らない。
「王城のパーティに招待されるなんてすげぇな」
「正直びっくりしたわい。第二王女のシャルーンと知り合ってからびっくりすることばかりじゃわ」
「イベリナ……。いえ、イベリナ王妃様は立派な姫を産んだのね」
「立派。ちょっとお転婆すぎる気もするがな」
「でもそのシャルーン様のことを語るあなたの顔はとても優しそうだったわ。とっても良い子なのね。あとスティラちゃんって子も可愛くてすごく頭が良いって分かるわ」
儂の表情で察したということか。さすが母上というべきだな。
「王妃殿下とは仲が良かったのか?」
「貴族院での後輩だったの。当時私が侯爵令嬢で彼女は伯爵令嬢だったわ。美人で頭が良くて優しくて……国王陛下が見定めるのも当然と言えるほどだったのよ」
「そうなのか。その血をシャルーン達が受け継いでいるのだな」
シャルーンの豪傑さやアニエスのあの性格も受け継いだものなんじゃろうか。
「王城では母上の実家であるミストラル侯爵家とは会わなかったな。金髪の貴族は多くいたが」
「無理に会わなくいいわ。私は侯爵家とは縁を切っているから」
「エレナ……」
気まずそうに父上は目を伏せる。
過去は知らぬが平民で冒険者だった父上と侯爵令嬢の母上。この二人が結ばれた先はだいたい想像がつく。
正直儂も二人の子ではあるが血の繋がりはない。血統主義の貴族に取り入ることは難しいだろう。
だが……。儂は奥ですやすや眠るルーナをちらりと見る。侯爵家の血を引くあの子は……。
「皆が元気でいるならそれでいいわ。クロスも無理して関わろうとしなくていいから」
「うむ。できることだけやらせてもらうとしよう」
儂は無限収納バッグからお金を取り出してテーブルの上に置く。
二人はその金を見て渋い顔をした。
「儂が王都で稼いだ金じゃ。これを里の運営資金の足しにしてくれ」
「そんなに無理しなくていいのよ。あなたの人生はあなただけのものなのよ」
「金だけじゃなくて食べ物とか衣類諸々も用意してくれたじゃねぇか」
儂は宵越しの金を持たない性格のため収入の内に薬草作りにかかる経費を抜いた利益は全てエストリア山へ仕送りという形にしている。
郵送コストが馬鹿にならないのでこうやって身一つで帰ってきた時にまとめて置くようにしている。
「仕送りなどよくある話じゃろう」
ばっと父上が立ち上がった。
「おまえは俺達が子供に頼らなければ生きていけないって思っているのか!」
父上は激昂し、強い口調で話す。
「思ってる」
「アッハイ」
「そもそも儂がおらねばこの里は滅んでおったじゃろうに。魔獣退治や薬術によってこの里は生き延びれたのに父上はこの10年何を見ておったんじゃ」
「スミマセン」
父上は情けなく座ってしまった。
父親らしく威厳を見せようと思ったのじゃろうが、残念じゃが儂は200年以上生きている。若造のさえずりなど物ともせんぞ。
「儂は稼ごうと思えばいくらでも稼ぐ手はある。それは父上や母上が一番理解してるじゃろう。この里の収入は限られておる。外貨をアテにすることは恥ずかしいことではない。もしテレーゼやルーナが伴侶を得て、この里で過ごすのであれば次世代のことも考えねばならぬ。この金は里の未来への投資じゃ」
「そう言われたら何も言えねぇーよ。ったく父親らしくさせてくれよ」
「充分受け取っておるよ。父上、母上に育ててもらって儂は充分幸せじゃ」
「クロス、ありがとう。でも無理だけは絶対にしないでね」
「それで父上と母上はやはりこの里からは出られないのか?」
「……」
学園祭のチケットは何も2枚だけではない。
両親を連れてくる生徒もかなりいるのだ。儂としても親孝行はしたいものだ。
ここへ来た時も母上が制服姿を見た儂に感激していたからな。
母上が父上を見て……頷く。
「クロス。このエストリア山、サザンナの里がなぜ出来たか察しはついてるんだろ」
「うむ。テレーゼやルーナはまったく知らないじゃろうが察しはつくぞ」
この秘境地エストリア山で移り住む100人程度の集落。
元貴族令嬢の母上に平民の父上。
「この里は罪人の里なんじゃろ。罪を犯した者達を危険を承知で強制労働させるために作られた場所」
エストリア山はマナが肥えた大地で薬草を作るのに適した場所だ。
そしてここで採取されるマジックリーフが魔力を回復させるマジックポーションの原料となっている。
父上達はこの魔獣が多く住む場所でずっと働かされている。
罪が無くならない限り、里から逃げ出すことはできない。
罪状は恐らく貴族令嬢との駆け落ち、そのあたりじゃろう。
「俺もエレナも苦しいけどここでの生活は悪くないって思ってる。王都の留置所にいたらきっとエレナとは別れてしまっていたからな」
「ええ、元々長生きできないと思ってたから。最期までビスケスと一緒にいたかったのよ」
その罪状は産まれた子供には適用されないため子供達は自由に外へ出ることができる。
だがこの罪状は自由を得る代わりに終身刑のような扱いじゃ。
かつてこのサザンナの里のような罪人の里がこの山には無数にあったが、すでに2割ほどしか残っていない。
儂がおらぬ里はここ15年でかなり滅んでしまっていた。
「俺は幸せだ。エレナもいて、クロスもいて、ルーナもいて……これ以上を望むのはわがままってもんだよ」
「うむ……」
じゃが……。若者はもっと幸せになって良いのだと思う。
罪は償わないといかんがその償い方をもっと考えばならんじゃろう。
今世は裏の立場でのんびりシャルーンやスティラの活躍やテレーゼやルーナの未来の手助けをしたいと思っていた。
だがせっかくシャルーンのパートナーとなり、王族と関係性を持てた。
この繋がりを里の未来や母上の親族との関係性に使うことができれば儂の今世も充実していくだろう。
「ねぇクロス」
母上は優しげな声で儂の名を呼ぶ。
「今、幸せ?」
そう問われたら返すことは一つ。
「ああ、幸せじゃよ。とても楽しい人生じゃ」
◇◇◇
「クロス!」「クロスさん」
週明けの登校日。学校へたどりついた儂は朝一でいきなりシャルーンとスティラに問い詰められる。
シャルーンは大声をあげた。
「王城の事件でよくも私達に徳をなすりつけてくれたわね!」
「徳ならば良いのではないか?」
若者言葉はわからんのー。
突然ですが本作の書籍化及びコミカライズが決定しました!
本当は2章終わる時に公表したかったのですがその時期が激務予想となったのでちょっと早いですが公表することにしました。元々許可自体は頂いてるので。
今発表できるのはこれだけでいろんな情報は年明けてからになると思うので引き続き本作を応援いただけると嬉しいです。
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あと一言でもいいのでおめでとうございますと感想頂けると嬉しいです。
元気をください。リアルがつらいのです。





