094 幼馴染
邪魔になったのかぽいっと外に出されてしまう。
さて里長に挨拶して、里の男衆と久しぶりに賭け麻雀でもしようかと思っていたが幼馴染と妹が離してくれない。
「にーにー、どこ行くの」
「どこでもええじゃろ。うむ、里の衆を診てやらんといかんからな」
「嘘だぁ。どうせ麻雀とかするんでしょ。駄目だよクロスくん4人対戦激ヨワなんだから」
1人で生きてきた儂は1対1なら戦いも遊戯も強かったが複数人でやる遊戯は滅法弱かった
友人おらんかったんだからしゃーない。だが今世ではそういったことも超えていかねばならぬ。ゆえに麻雀したい。
「だから行っちゃだめ」
「あたし達にかまってよ。明日にはまた帰っちゃうんでしょ」
「はぁ……まぁ仕方あるまい」
年寄りは幼子に寂しい顔をされるのに弱い。この子達は孫のように可愛がっておるからな。
年長者としてかまってやらねばならんようだ。
ちょうどいい。
「今度、儂が仕事で滞在してる王立学園で学園祭が開かれる。チケットを渡してやるから遊びにくるといい」
懐から取り出したチケットを2人に渡す。
先の事件もあったから入場はかなり制限されるがこのチケットがあれば無条件で入ることができる。
シャルーンに2枚融通してもらって良かった。
「エレナさんが言ってた王都にある大きな学園だよね! あ、クロスくん制服っぽいの着てるなって思ってたけど……それなんだ! すっごくかっこ良くなってて惚れ直しそうだったよ」
「女子の制服は可愛らしいぞ。テレーゼによく似合うじゃろう」
「えっ! それってプロポーズってことだよね!」
こういうやりとりは日常茶飯事なのでいつも通りスルーじゃ。
「テレーゼも来年成人じゃ。王立学園を目指すなら是非とも学園祭に来るが良い」
「王立学園かぁ……。あたしクロスくんやルーナみたいに頭良くないけど」
「識字さえできれば問題ない。努力飴は毎日欠かさず舐めてるのだろう?」
「うん!」
戦闘能力だけで特待生となれる枠があるとシャルーンから聞いている。
識字以外は壊滅的で頭の中はお花畑で弱いが、テレーゼは弱くはない。
案外向いているのではないかと思う。
「この前ねっ! なんだっけ。クリムゾンドラゴンだっけ。隣の山からこっちに来そうだったから戦ったよ。ちょっと苦戦したけど何とか倒せた。クロスくんに頼らずに倒せたんだから!」
「そうか、鍛錬は続けておるようじゃな。偉いぞ」
「うん!」
褒めてやるとテレーゼはにこりと嬉しそうに笑う。
本当に強くなったな。儂が当時一歳だったテレーゼに努力飴を毎日欠かさず食べさせて鍛錬してやったおかげじゃ。
こんな秘境地の里で生まれた子供はほぼ例外なく生きるのに苦労する。
まともな教育も受けられず、後ろ盾もない。
この里の特殊な事情のせいで成人したらこの里で生きるか外で1人で生きるしかない。ただ里で生きた所で若者がいなければどうせ最後には一人になる。
儂は問題なし。ルーナは母上の血を引いたおかげで美貌と魔力を手に入れていた。
だがテレーゼは特別な才能が何もなかった。どこにでもいる村娘じゃったのだ。
だからテレーゼが1人でも生きていけるように鍛えあげた。
「里の外はもっと強い人がいるんだよね! 楽しみだなぁ」
じゃが世間知らず過ぎるので世に放ったらどうなるかちょっと心配ではある。
「でもテレーゼ。都会は何か怖いよ。ルーは山がいい」
「ええっ! 大丈夫だよ。あたしがついてるし一緒に学園祭に行こう。……新しい出会いがあるかも」
テレーゼも良いことを言う。そうじゃ新たな出会い。儂も学園でジュリオやブロコリと出会えた。ルーナにも良い人が現れるかもしれん。
「テレーゼは誰と会いたいの?」
「あたしね」
テレーゼがぎらりと少し怪しく笑う。
「クロスくんに発情してるメス猫に会いたいかな」
「ぶふっ」
「にーにーに発情してる猫のことちゃんとテレーゼに伝えておいたから」
いつの間に……。
お気に入りの小説に毒されてテレーゼもルーナも田舎者のくせに変な言葉を覚えてくる。
発情しているかどうかは別としてシャルーンもテレーゼに会わせろと言っていたし、会わせるしかないか。
「あたしの夢はクロスくんのお嫁さんなんだからね!」
「はぁ……。35年後も同じ気持ちだったら頼むとしよう」
「子供は欲しいの! ルーナ、錬金術で興奮剤みたいなの作れる? 男の子を無理矢理頑張らせるやつ」
「探してみる」
「それは薬師の領分じゃろ。あと儂を種牡馬みたいに扱うのはやめよ」
まったく。とんでもないことを言う。
「ルーは35年待てるからね」
儂が本当に15才だったら2人の子に好かれて喜んでしまったんじゃろうか。
でもやっぱこの子らは孫同然の幼児にしか見えん。
「にーにー、明日には帰るんでしょ」
「だったら今日はたくさん甘えるんだもん」
二人がぎゅっと甘えるように抱きついてくる。
はぁ……仕方あるまい。妹共の甘えを受けてやるのが兄の役目。
スキンシップはちゃんと取ってやらなければならない。
ルーナの金髪、テレーゼの桃髪に触れ、優しく頭を撫でてやる。
この幼子達の兄貴分となって15年。幼子のあやし方ってのをよく理解している。
「ねぇクロスくん」
嬉しそうにテレーゼは甘えた声で儂の名前を呼んだ。
もたれかかるように体を擦り付けてくる。
いつも元気で何事も突っ走るタイプだが、甘える時は猫撫で声であざとく仕草を見せる。
「にーにー」
ルーナも甘える時はとことん甘えてくるタイプ。
わりと性格に波があるんじゃよ。
血が繋がってないって分かってから何かの線引きを乗り越えたような気がしなくもない。
「ん……」
「えへへ」
頭を撫でたり、顎を触れてやったりすると嬉しそうに頬を綻ばせる。
久しぶりに可愛がってる気がするのう。
二人のお腹まわりをくすぐってやると楽しそうに体を震わせる。
「っ……ふふっ」
「きゃははは、だめっ!」
二人とも反応が違うから特に可愛いと感じる。
テレーゼは激しく逃げようとしルーナはびくびくと体を震わせる。
二人ともかなりのくすぐったがり屋なので昔からよくからかってやったわい。
指を動かしつつけ、笑い悶えさせて少し、動きが鈍ってきたのでやめてあげることにした。可愛い妹分の二人を抱きかかえる。
少し息を切らせたルーナとテレーゼは頬を紅潮させ、見上げるように儂を見た。
「ねぇクロスくん」「にーにー」
二人は言葉をつなげる。
「あたしのこと好き?」
「ルーのこと好き?」
そんな二人の想いに儂は正直に答えたい。
「ああ、大好きじゃよ」
二人は嬉しそうに赤らめた。
「女の子として好き?」
「うむ」
その問いにはこう答えたい。
「幼児として大好きじゃな! ごふっ!」
二人にぶん殴られた。





