092 社長と妹
「クロスくんの妹さん! きゃー可愛い」
ランドマークはハヤブサの事務所兼自宅に設置したので引きこもりの社長は当然いつもいる。
妹を紹介をすると目を輝かせていた。
「妹は大丈夫なのですか」
「うん、大丈夫だよ。子供はまだ耐えられるの。15才超えてたら耐えられなかった」
社長の基準が意味不明な件。
社長が重度の引きこもりになったのは成人の式でEランク認定された件が原因だと聞いておる。
相手が成人しているしてないは大きいのかもしれん。
今はシャルーンがおかげでEランクは無料で再神託が可能となっている。
だが重度なコミュ症の社長が再神託を受けられるはずもなく今も変わらず闇をはき続けておる。
社長が儂とルーナを交互に見ていた。
なんとなく言いたいことは分かる。儂とルーナ、髪色、瞳の色、見た目、雰囲気。
何一つとして一致していない。
「にーにーとルーは兄妹だけど血が繋がってないの」
「え! あ、そうなんだ」
「儂は幼い頃、この子の両親に拾われたのです。血の繋がりなど関係ないほど儂らは仲が良いですよ」
「うん、手を繋いでるし、お互いが家族だってこと伝わるよ。私は1人っ娘だから羨ましいなぁ」
こうやって若返ったからこそ家族愛というものが大切だと思う。
社長も先代社長と強い絆で結ばれておったと聞くしな。血は繋がらなくてもルーナは妹だし、絶対に守らねばならんと思っている。
「でもルーナちゃんの年頃だったら隠してそうだけどちゃんとお話してるんだね。クロスくんのご両親は2人を信頼してるんだね」
「あ、いや」
儂が否定しようとした時、ルーナが無限収納バッグから変な棒を取り出す。
そして儂とルーナの間を棒で繋ぐ。
「DNA鑑定器。これを使えば家族兄弟の血の繋がりを判定できるんだよ」
「……」
当たり前じゃが社長は言葉を失う。儂はルーナの方を向いた。
「儂はこういうものを作らせるためにエルバース錬金術を教えたわけではないんじゃが」
ルーナは儂の方に視線を向けてにこりと笑った。
「血が繋がらないからにーにーとルーは結婚できるんだよ」
この件があってからメス猫発情判定器などおかしなアイテムを錬金術で作るようになってきた気がする。血の繋がりなど家族愛に不要と思っていたがルーナには何か違う意図があるように思える。
それまでは一緒に寝たり、風呂に入ってたのを嫌がるようになって兄離れしたかと思えば側にいたがったり、テレーゼと一緒に女磨きをしたりと変わったように思えるが。
「ルーは50才までにーにーの側にいるからね」
慕ってくれるのは嬉しいが父上は孫を所望じゃぞ。儂もルーナの子を抱いてみたいんじゃが。
そんなルーナだったが社長をじっと見つめていた。
「え……と何かな」
「年上。もしかしてにーにーの好みかも」
「そんなことないよ。クロスくんって最低50才は超えてないと駄目って言ってたもんね」
「そーですな。社長もあと10才くらい老いれば良い感じになりそうですな」
「そう? そんなこと言われたら照れちゃうよ。……ちょっと待って私29才なのに何か計算おかしくない?」
「よし、ルーナ。儂が王都を案内してやる」
「ん、にーにーとのデート!」
今日はエストリア山に行く予定だがまだ時間がある。
愛する妹に都会のすごさを教えてやるのも教育と言えるだろう。
「ママから王都はものすごく栄えてるって言ってたから楽しみ!」
「母上が住んでいた時代からさらに進化したと言えるじゃろう」
儂も30年ぶりの王都じゃったがその繁栄ぶりに驚くべきじゃ。
儂が初めて王都へ来たのは100年以上も前だが……あの時代の王都がよくここまでなったものよ。
儂はルーナの手を繋いで、自宅の扉を開け外へ出る。
人も多いし迷子にさせるわけにはいかんからな。
外へ出て青い空に光る太陽をまばゆく感じてしまう。
儂も運び屋の仕事で王都中を回っているからな。今時の幼子が好む店もよく知っておるぞ。学園へ通ったこともあり出来た友人から今時を教えてもらたんじゃ。
ふふふ、儂も都会人らしくルーナを案内してやろうぞ。
「さぁルーナ。どこへ行きたい。兄がどこへでも連れてってやるぞ!」
「エストリア山」
「は?」
振り返るとルーナが街から背を向けていた。
影の中に入り、明らかに都会の明るさに煽られていたのだ。
「ルーには都会は早かった。山がいい」
「家から出たばかりじゃろう!」
ルーナは母上似の煌びやかな外見のくせに外に出るのを嫌がるタイプじゃった。
家の中で錬金術をやっている時が一番の至福と言わんばかり……。
まさか外に出て都会の明るさに煽られてしまうとは。
「おぬしのために儂はいろいろ調べたのに……。あと3年もすればおぬしも成人なのじゃぞ」
「ルーはパパとママと山で一生生きてくから」
「12才のくせに仙人みたいなことを言うでない」
なんで前世含めて200年生きてる儂よりも世捨て人みたいになっておるんじゃ。
ルーナは儂から離れて、再び自宅の中へ入ってしまった。
「あれ? 出かけるんじゃなかったの?」
疑問に思った社長を横切り、ルーナはゲートの方へ向かっていく。
儂はこの苦労を社長に言うしかなかった。
「妹はこのままじゃ引きこもり一歩手前になってしまうかもしれん」
「大丈夫だよクロスくん」
社長はまるで落ち着いた眼で儂を見ていた。
「私を見て。15年近く引きこもってるけど元気にやってるよ。ルーナちゃんだって大丈夫だよ」
「……そうじゃな」
「うん!」
「緊急家族会議を行わねば! 社長を見たら一層そう思えてきた」
「それどういう意味!? ってクロスくん今までで一番焦ってない!?」
焦りもするわい、妹の一大事じゃ。子育てとは大変なものよのう。
ドラゴンと対峙するよりよっぽど大変じゃ。





