091 久しぶりの再会
今日も学園はお休みとなっている。
だが学園祭の準備のために登校している学生も多い。
儂も学校へ行き、皆の手伝いをするつもりだったのだが……そろそろ後回しにしてきた私用をこなさねばならん時が来てしまった。
そう、それは親しい人を学園祭に呼ぶということである。
前世の儂であったらそんなことする気にもならなかったが、今世の儂は家族愛にあふれている。
生徒全員に配られるチケットを使うことで入場できるため是非とも家族を呼んでみたいのだ。
王都から秘境地エストリア山までは人の足でもまる一ヶ月。儂でも数日はかかるじゃろう。チケットを送っている時間も暇もない。
ならばこうするしかない。
「ルーナ、ファストトラベルを使うんじゃ!」
水の都でやった時のように錬金術師である妹を呼び出し、ファストトラベルという瞬間移動アイテムを使って移動する。
昔、フィラフィス王国により滅ぼされすでに消えた技術と思われているエルバース錬金術によって生み出されたアイテムじゃ。
会社の使われていない部屋に石版を敷いてランドマークを設定。
魔石を砕いて空間移動のチャンネルを作り、ルーナのアトリエと結びつける。
この通話石版もエルバース錬金術で作ったものである。
扱いづらいがどんなに遠くても言葉が通じるのは凄い。
石版が光り、ゲートが作られる。そしてぴょんとゲートを飛び越えて女の子がやってきた。
「にーにー!」
儂に抱きついてくるのは血の繋がらない可愛い妹。
いつもに比べて随分と力強く抱きついてくるわい。
やれやれそんなに儂に会いたかったのか。
「どうしたんじゃ。そんなに儂が恋しかったのか」
「ん」
「まったくおぬしはもう12才なのじゃから……少しは」
「72日」
「へ?」
「にーにーが王都についたらすぐランドマークを設定するって言ってたからわくわくして待ってたのにルーは72日も待ってたの」
「……」
「随分時間がかかったんだね」
「濁った目で訴えるのはやめてくれんか」
生まれた時は純粋な眼で儂を見ていた妹が随分と濁った目をしているように見える。いったい何があったというのか。王都に到着したらエストリアと繋ぐゲートをすぐ作るつもりだったがすっかり忘れてしまっていたのだ。
きっかけは父上から届いた手紙である。
ルーナがゲートの前でにーにーから連絡が来ないと嘆いているという内容に肝が冷えた。
そこで今度の学園祭に招待することで名誉挽回しようという魂胆じゃ。
ルーナは儂と同じ無限収納バッグから何か棒状のようなものを取り出し、儂の体になすりつけてきた。
恐らくエルバース錬金術で作ったアイテムなのじゃろう。何なのかは儂も分からん。
「何をしておるんじゃ」
「んとね」
濁った目のまま言うんじゃから正直怖い。
この目は父上が里の娘っ子にちやほやされていい気になってる所を眺めていた母上の瞳にそっくりなんじゃ。
父上は母上を愛しているが母上は正直その100倍父上を愛しておる。そんな重さをルーナはしっかりと受け継いでいた。
「メス猫発情棒だよ。このせーふくってのに染みついたメスのにおいを嗅ぎ分けるの。にーにーに発情しているメスが3人。怪しい人が2人。他は何とも言えないね」
「……」
「にーにー、あのスティラって子以外にも濃い臭いをつけるなんて……テレーゼに報告だね」
前世200年、現世15年。
女性関係の痴情だけは経験したことがないので儂は何も言えんかった。
分からんのじゃよ。マジで。
だから言うしかあるまい。
「社長をおぬしに紹介しよう」
気にしないことにしよう。深掘りしても良いことなどないことがこの世にはたくさんある。





