090 暇つぶしで作って捨てた剣が勇者に拾われ伝説の剣にされた件
「ルージュ、この剣はどこで手に入れた。勇者の剣というのはどういうことじゃ」
「クロスは孤高の鍛冶師って知ってる? 世界中に鍛冶場を持っていた名前も知られていない伝説の鍛冶師。その鍛冶師が打ったものは数少ないんだけどどれも伝説級を遙かに超えた性能ばかり……」
「ほほぅ」
「あまりに偏屈すぎて、友達一人もいない誰も名を知らない鍛冶師だって聞いた」
やかましいわ。
前世の儂は確かに少々気難しかったと思う。
かつて、何度か弟子にして欲しいと言われたこともあったが継承に興味のなかった儂がそれを受けるはずもなく。
そんな気持ちがあったらスティラの大叔父が儂の作ったポーションを盗み出したりせんかったわ。
「もしや勇者の武具とは……」
「ん。その鍛冶師が打った武器、防具のことだよ。孤高の鍛冶場はどこも秘境地にあるから見つけるのが大変なんだ」
誰にも邪魔されたくなかったから人がいない所に手作りの鍛冶場をもうけておった。
鍛冶場は持ち運びできんかったからな。現実世界だけでも10カ所くらいはあったかもしれん。
まさか勇者装備のランドマークにされるとは思わなかった。
「鍛冶場にはもの凄い性能の装備があるんだ。ボクが見つけた時は草むらにあったけど」
基本刀と工作道具しか作らない儂じゃがきまぐれで剣や防具などを作る時がある。
どうせ使わないしお遊びの失敗品なのでそのへんの草むらに捨てていくんじゃが、まさか拾われて勇者装備にされているとは……。
儂からすればゴミ同然じゃぞ。
「草むらに安置されていて神々しかった」
捨てたものがどうしてこう目に映るのか。
もう一度儂が作った勇者の剣を見てみる。
儂が作ったものだから性能が良いのは当たり前か。
儂レベルの鍛冶師が他にもいると思ったのに残念じゃわ。
「ボクは剣とレガースを孤高の鍛治場で見つけたんだ。もう一カ所、王国に孤高の鍛冶場があるって言われてるから……そこを探したい」
そしてまたゴミあさりして装備をもらっていくのか。
王国の鍛冶場じゃったらあそこじゃな。……あそこで何を捨てたか全然覚えてない。
しかし。
「その勇者の剣」
「む、これはボクの剣だから絶対にあげない。そんな目しても駄目」
いらんのだが、自分が作ったゆえに凄く粗が目立つ。
他人が作ったものならどうでもいいが自分が作ったものならもっと良い物を使って欲しい。
2日もらえば勇者の剣を最大級の性能に引き上げることができるが、儂が孤高の鍛冶師だと思われるのは避けたいな。
だが今のみすぼらしい勇者の剣をそのまま使われるのは歯がゆい。
一瞬。せめて一瞬だけでもいいから打ち直させて欲しい。
いけるか、儂ならいけるはずじゃ。
「あっ! 向こうで空とぶおもちゃが!」
「どこどこどこどこ!」
上を向いたな。今じゃ!
儂は金具を取り出し、勇者の剣を打ち直した。
「何もない……。クロス、汗びっしょりだけどどうしたの?」
「久しぶりに大仕事をしたということじゃよ」
ふぅ何とか気づかれる前に打ち直すことができた。
最大強化にはほど遠いが勇者の剣改くらいにはなったじゃろう。
儂の作った剣を使ってるんじゃ。ちゃんとしたものを使ってもらわねばな。
「あれ……勇者の剣が何か違う」
バレたか。
「もしかしてクロスとの一戦で進化したのかも。ボクの剣、すごい!」
それで納得するのか! これは良かったと言えるのか。
「機嫌がいいから特別にクロスにだけ教えてあげる。ボクが知ったすごいこと」
ルージュは地図を取り出して広げて見せた。
そして見つけた二カ所の鍛冶場に丸をつけた。
「ふっふーん。よく見て」
ルージュはペンを使って二カ所の鍛冶場に直線を引いた。
「すごいよね。直線が引けるんだよ。これは何かを指し示しているに違いない」
「……は?」
「仲間の子達にこれ言ったらクロスと同じ顔してた。仰天ってことだね」
うむ、とりあえず言えることは一つ。
勇者がアホで良かった。そしてこんなアホで大丈夫なのだろうか。
いろんな意味で心配する夜であった。
そしてしれっと家に帰って次の日。





