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009 緊張の糸

「はぁ……はぁ……」

「ふむ、見事な一撃だ」


 たった一撃で首を刎ねることができるとは……彼女は非常に才能に秀でているな。

 高潔な精神を持ち、先のある若者が強いのは良いことだ。


「……。はっ! 火を消さなきゃ」


 今もメラメラと炎が森を燃やして、広がっている。

 ここで消火をせねば大きな被害が広がるだろう。だが問題はない。


「シャルーン、おぬし水魔法は使えるか?」

「ええ、闇を除く5属性使えるわ」


 剣術だけでなく、魔法も使いこなすとは……。

 使いこなす属性の数が多ければ多いほど魔法の才が優れているという指標となる。

 魔力量とか威力とかいろいろあるが今は良い。


「儂に向かって水魔法を放て。できる限り大きい方が良い」

「あなた……何をする気なの」

「はよせんか。燃え広がって救えなくなるぞ」

「う、うん!」


シャルーンは大きく息を吸って、両手を翳す。

魔法を唱える詠唱を行い、巨大な水球が空中に出現した。

直径数メートルほどの水球。魔力量も見事なもんじゃ。


……儂にはない魔法の力。羨ましいものじゃな。

儂は飛び上がり、二本の刀を再び抜く。

その刀を水球に突き刺し、体を横回転して出現させた水刃を周囲に飛ばした。


 水刃を全域に飛ばすことによって炎を全て吹き飛ばすことができた。


「全部消えちゃった……」

「おぬしの魔力量のおかげじゃな」

「で、でも刃を飛ばしたのに……どこも斬れてないじゃない」


 儂の飛ばした水刃は木々を斬ることなく、炎のみを斬り裂き消化したのだ。


「炎は物質ではない。ならば物質ではない刃を飛ばせばそれだけを消し飛ばすことはできる」

「……そんなことできるわけ、いえ、それを目の前で見てしまったものね」


 もしシャルーンが水魔法を使えなければ大気中の水分を利用して水刃を発生するつもりだった。それだと時間がかかってしまうので魔法を使えたのはラッキーであった。

 儂に魔法を放つ才能はないが、200年の研鑽で魔法みたいなことはできるようになっている。


「私の知っている剣術が覆りそうだわ」

「ふむ、誰でもできることじゃよ。才能の無い儂でできるんじゃからな」


 これは誇張でもなんでもない。200年学べば誰だってできる。


「あなた何者なの」

「ただの一般人じゃよ」


「一般人がクリムゾンドラゴンを倒せるわけないでしょ!」

「何を言っておる。倒したのはおぬしじゃろ」

「……そんなこと」


 トドメの一撃は間違いなくこのシャルーンが与えた。儂は多少手助けしたにすぎん。


「あなた名前は? いくつなの」

「儂はクロス。クロス・エルフィド。成人前の15歳じゃよ」

「私と同い年!?」


 ん? そんなに驚かれることか。

 まぁ元は200歳のクソジジイじゃ。振る舞い的に年長者と思われてもおかしくはないか。


「あれだけの強さを持つ人が同い年だなんて……」

「おぬしも十分強いと思うがな」


「私がどういう存在か知って言ってるの?」

「知らぬ」

「一応王国最強って言われてるんだけどね。でもあなたは私より断然に強い」

「運が良かっただけじゃよ。おぬしの攻撃で奴も弱っておったのかもしれぬ」


 シャルーンはまぁいいわとため息をついた。


「体は大丈夫か。仙薬は効果があったと思うが」

「ええ、凄い薬だわ。もう動けるもの。あなたが私の口の中に……あっ」


 何かを思い出したのかシャルーンは顔を紅くしてへたりこんでしまった。

 そしてきりっと睨んでくる。


「は、初めてだったのに……!」

「初めて?」

「私にキスしたことよ! は、初めては好きな人で……私よりも強い人って決めっ、あれ? クロスは私よりも強い……」


「何を言ってるか分からんが無事なら行くぞ。儂は都の成人の式に出ねばならんからな」

「待って……。あ……」


 走りだそうとした儂に対し、シャルーンは立ち上がれず前屈みで座り込んでしまう。

 足が震えておるのか? シャルーンは振り返って自分の足を見て、やがて体全身が震え始めた。


「あれ……なんで」

「緊張の糸が切れたのかもしれんな」


 そのままシャルーンの瞳から涙が流れ始める。

 仙薬のおかげで傷は回復しているはずだが精神的なダメージの回復はできない。

 15歳の幼子が死に瀕した状況を脱したんじゃ。無理もない。


「死んじゃうかと思った。あなたがいなければ……私。ひっく……ひっく」

「……」

「ひっく……逃げるわけには。私はみんなから期待されてここに来たのだから」

「うん」

「でも怖かった……すっごく怖かったの。ああああああぁぁぁぁん!」


 15歳など本当に幼子じゃ。なのにネームドの赤トカゲと対峙してしんがりを努めて騎士達を逃がすなんて並の子ができるはずがない。

 儂が前世の15歳だった時に出来たか? できるはずがない。


 儂は泣き叫ぶシャルーンを両手で抱きしめた。


「あ……」


 自然とシャルーンの美しい銀の髪を撫でていた。


「シャルーン、おぬしはとても立派じゃったよ」

「……クロス」


「よく頑張ったな。騎士達もその家族も魔獣に脅かされた人達も皆、喜んでおるよ」

「……もっとぎゅっとして」


「ああ、儂で良ければおぬしを支えよう」

「えへへ」


 シャルーンは嬉しそうに表情を綻ばせる。

 落ち着いてくれたようだ。そしてそのまま目が虚ろになってきた。


「急に……眠く」

「疲れがどっと来たのじゃろう。今日はゆっくり休むと良い」


 ゆっくりと寝息を立ててしまうことになる。

 可愛らしく寝ておるなぁ。こうやってみると妹のルーナや幼馴染のテレーゼを思い出す。

 やはり子供は可愛らしい。孫を持ちたい気持ちが分かるもんじゃ。

 うーむ、シャルーンが歩けるなら任せるつもりじゃったが眠ってしまったシャルーンや先で倒れている騎士を放置できん。


「今日、都へ行くのは諦めるか」


 確かこの先に村があったはずだ。儂はシャルーンを背に抱えて、村へ向かって走った。


 ◇◇◇


 予想通りシャルーン達はその村を拠点にしてこの討伐クエストを行っていたようで、村人達も快く迎えいれてくれた。

 元々、あの赤トカゲの存在がかなり恐怖だったらしく、討伐したことを話すと村人達は安心したように喜んでいた。

 もちろん討伐したのはシャルーンなので、そのことを話し、儂はたまたま通りがかって小さく助けをしただけという話をした。

 ちゃんと討伐者が名誉を受けなければならんからな。儂は何もしとらんよ。


 そして翌朝。


「全力で走れば昼までには到着するじゃろう」

「待って!」


 宿を出ようとした儂にシャルーンが追いかけてきた。

 昨日の疲れが残っているのか動きがおぼつかない。


「仙薬で傷は治っても疲れは抜けぬ。昼頃まで寝た方が良いぞ」

「そうする……けどあなたに一つ聞きたくて」


「なんじゃ」

「クロス、あなたどこに住んでるの!」


「ん? ああ、都の成人の式が終わったら王都で仕事を探そうと思ってる」

「王都! そうなんだ。じゃ、じゃあまた会えるよね」


 シャルーンは何だか嬉しそうに長く伸びた銀髪をくるくると手で巻いている。

 儂を見る目が何だか熱っぽい気がするんじゃが。


「じゃ、儂は行くぞ」

「ま、待って! クロスにはその……私にあんなことした責任を取ってもらわなきゃいけないの!」


 責任? 何の話じゃろうか。

 魔獣討伐に勝手に手を出したことだろうか。

 待て待て、それを言うなら儂のスケジュールに遅れを生じさせたそっちの方が責任ある気がするが。


「そういう意味ではおぬしに責任を取ってほしいんじゃが」

「私が!?」


 シャルーンは顔を真っ赤にし両手で頬を覆った。


「つまり性奴隷とか、私を無茶苦茶にするとかそういう責任……」

「時間がない。何か用件があるなら都の方へ来るといい。どっちにしろ1泊はするからな」

「でも私、自分より強い人を夫にしたいと思ってたから願ったり叶ったり」

「聞いておらんな。まぁええわ。さらばじゃ!」


 ブツブツとうるさいシャルーンを放って儂は都に向かって走ることにした。


「クロス! あ、もう……。ちゃんと御礼も言えてないのに。……都に行くって言ってたっけ。追いかけてみようかな」

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