089 雷鳴の勇者ルージュ
「やっと城から出れた」
「執事かメイドに聞けば良かろう」
「ボク、知らない人に声をかけられないんだ。とても勇気がいる」
どんな勇者だ。
そういえば儂もシャルーンもこちらからルージュに話かけてたし、ルージュから話しかけている感じはなかった。
人見知りなのは本当なのかもしれん。
ま、社長よりはマシだろう。アレ以上の人見知りはなかなか無い。
城を出るついでに着替えもすませておいた。
このまま帰っても良いじゃろう。用事はすませた。
「はぁ、ドレスは窮屈だった」
ルージュもまた旅人の服に身を包んでいた。
軽装を意識しているのか肌の露出がかなり多い。
半袖、半ズボン。胸元も屈めば谷間が見える格好で非常に危うい。
発育はかなり良好。
儂が親なら間違いなく叱りつけてしまいそうだ。
「随分と身軽な格好じゃな。そこまでする必要あるのか?」
「知らないの? 肌を露出すればするほど軽くなって早く動けるんだよ。つまりそういうこと」
どういうことじゃ。
ルージュと話していると頭が少し痛くなってくる。
思慮深いフリして何にも考えておらんのではないか。
「パーティを組んでいると言っていたが他は皆女子なのか?」
「ん。男を入れてもいいんだけどみんな可愛いから崩壊するかも」
ま、そんな破廉恥な格好してたら小僧共はたまらんじゃろうな。
「ねぇクロス」
ルージュは腰に下げた片手剣を鞘から抜く。
「ボクと一戦交えて欲しい。キミは強い。多分シャルーンよりも」
「……儂はただの運び屋じゃぞ。それにこんな所で戦う気か」
王城の前にある広場。儂らがいるのはそこじゃ。
こんな所で激しい戦いをすればあっという間に騎士達が来てしまうじゃろう。
勇者がいいかもしれないが儂は正直困る。
「たった一攻防でいい。普通はそれで実力が分かるでしょ」
普通ではない。それで実力が分かるのは勇者か紅蓮の剣聖姫くらいなものよ。
後は200年以上生きた運び屋くらいなものか。
「良いじゃろう」
儂は愛用の黒太刀を抜き、ルージュ向けて構える。
勇者ルージュの実力をはっきりと把握しておきたいと思った。
勇者のみが使える雷鳴の力をここではっきりと見ておきたい。
興味本位と言うやつじゃな。
お互いに剣を構え、ルージュの体に雷の力が宿りバチバチと音を立てる。
アホな言動はしているがその実力はあきらかに本物。
油断すれば儂もやられてしまうかもしれない。
ルージュの持つ片手剣。女性が持つにしてはやや大きめの剣は独特な形をしている。
よく見ないと分からぬが見事な作りで伝説級の名剣と言っていいだろう。
さすが勇者の剣。良い物を持っておる。例の伝説の部具の1種なのかもしれない。
「はああああああああっ!」
「ふんっ」
攻防は一瞬。
儂やルージュほどの実力であれば相手を斬らなくて決着はつく。
ルージュは剣を振ると同時に大量の雷の力を剣に走らせた。
「雷鳴剣っ!」
雷の力を帯びた一撃はショック状態を発生させ、動けなくなってしまうだろう。
儂の黒太刀は導通性が高い。ゆえにまともに打ち合えばあっと言う間に戦闘不能になってしまう。
しかし儂は感電などせぬ。
ルージュの片手剣を正面から受け止め、その雷鳴の力を完全に遮断した。
そのやり方は簡単だ。電気の力もまた時空の力で断つことができるのだから。
時空剣士に雷鳴は通用しない。
お互いの立ち位置が入れ替わり、ルージュは剣を、儂は刀を鞘に収める。
実力の差はこれで分かっただろう。
「むううううううううううううっ」
ルージュが大きく頬を膨らませて怒っておった。
可愛すぎて負けた気分になりそうじゃ。やはり幼児は可愛いな。
「差が分かったようじゃな」
「ぷい」
勇者様はかなり負けず嫌いのようだ。
「雷鳴の力がかき消された。何をしたの」
「何をしたと思う?」
「……分からない」
「ならば鍛錬あるのみじゃな」
そう、全ての技術は鍛錬の先に習得できる。
時空剣士なんて大層な名前を頂いたがそれも結局は鍛錬の先に得た物じゃ。
雷鳴を打ち消す剣術もまた……。
「クロス、勇者パーティの一員になって」
突然の誘いに驚く。
「シャルーンに断られた次は儂か?」
「ん。今はシャルーンよりも……あなたに興味がある」
勇者に誘いを受けるとは光栄。
儂も偉くなったもんよ。じゃが。
「それはできない」
「なんで」
「儂はただの運び屋なんじゃよ。勇者パーティなんていうハイカラなものは似合わない」
それは明確な拒否。
いくら頭が足りなくてもそれぐらいは分かるじゃろう。
じっとルージュのオッドアイを見つめ合う。
「むううううううううううううっ」
「語彙力!」
それしか言えんのか。
シャルーンに断られ、儂に断られ、ルージュの心中も分からなくもない。
そもそもルージュのパーティって全員女なんじゃろ。
同世代の女の知り合いはこれ以上不要なんじゃが。
幼児は好きじゃが囲まれたいわけてはない。たまに愛でるのが楽しいのであって毎日は不要。
「前も言ったが運び屋としての依頼なら受けてやる。まったく力になりたくないわけではない」
「ん」
だが少し落ち着いたようだ。
「今度絶対利用する」
落ち着きを見せたらはっと驚いてしまうほどの美しさに見えた。
夜の風に金色の髪とオッドアイの瞳はよく映える気がする。
あと50年老いれば絶世の美女となるじゃろうなぁ。
せっかくじゃ儂も質問するとしようか。
「良かったらおぬしの剣。見せてはもらえぬか。かなりの名剣と見受ける」
「ふっふっふ」
とても自慢気な顔をする。こういう所は儂より年上には正直見えんな。
ルージュの持っていた勇者の剣はかなりの硬度を誇っていた。
儂の黒太刀と重ね合わせてヒビすら入らんとは……。いや、折ったら大問題になるから折ってはならないんじゃが。
「この剣は凄いの。ボクの雷鳴術と相性がばっちりなんだ。今までいろんな剣に触れてきたけどこれ以上の剣は存在しない。きっと世界最強の剣なんだと思う」
ぶっちぎりに褒めちぎっている。
儂も鍛冶を嗜んでいるため、剣の見聞きには自信がある。
遠目からじゃったが確かに良い剣じゃ。儂以外にも優れた名工がいるのは良いこと。
儂はルージュから勇者の剣を受け取って天に掲げた。
うーむ、これが伝説の勇者の剣。刃先も硬度も儂の好みに合っておる。いったい誰が作ったんじゃ?
そして気づき、思わず小声でこぼしてしまった。
「これ昔、儂が作った剣じゃん……」
しかも草むらに捨てたやつじゃん……
フラグクラッシュその⑧ 伝説の勇者の武具のフラグをぶち壊す。
どんな武具も誰かが作ったものなんだから仕方ないですね!





