086 急展開
それは儂らがこの社交場に入ってきた時とシャルーンがアニエスを連れてきた時と同じくらいの声量だったと思う。
現れたのは金髪の美男子。煌びやかな礼服に身を包み、拍手で出迎えられていた。
顔の造形的にも貴族男子で間違いなさそうじゃな
「あの小僧はいったい」
「公爵家のフェーデル公子様よ。私は関わり合いはないけど……あの容姿で穏やかな性格だから貴族界ではすごく人気なのよね」
「わたくしもフェーデル公子様のような御方に憧れるのです」
「ふむ、おぬしの好みはあーいう優男というわけか」
だがその言葉にシャルーンは顔をしかめる。
「私としてはもう少し筋力が欲しいわね。私より強い男子っていうのは言葉だけのものじゃないのよ」
「筋力なのであればブロコリなんてどうじゃ」
「でかけりゃいいってものじゃない」
それは男女共に真理とも言える言葉じゃな。
「しかし随分人気があるのう。美形だけで言えば王太子殿下にも匹敵するじゃろうし、なぜこんなに騒がれているんじゃ」
「それはね。今日、待ちに待った婚約発表があるのよ!」
「ほぅ」
シャルーンの言葉にアニエスがさらに続ける。
「フェーデル公子様とミューラス公女様の婚約発表が今から行われるのです。今、貴族界で一番ホットな二人なのです」
「ふむ、どうしてその二人がそんなに歓声を集めるんじゃ」
庶民の儂は貴族界というものがよく分からん。
上級の暮らしなどは縁がないからな。
「前にちらっと話したでしょ。王国の貴族界は二分されているって話。王国の保守派貴族のフェーデル公爵家と改革派ミューラス公爵家は長年関係が悪くてね」
ああ、学園祭のミスコンで対立もそれが関係しておるのか。
家の関係の悪さが派閥を生み、いろんな所で対立を煽っておる。
「どっちも重要な家だから王家としては中立に動かなきゃいけないんだけど……ってこれはどうでもいいわね。それで公子様と公女様が家の対立を収めて今日婚約発表することになってるの。長年対立関係のあった両家が和解するのよ。これほど素晴らしいことはないわ」
「しかもお二人は恋愛関係での婚約なのです。貴族院で出会って愛を育まれて、両家の反対を乗り越えたのですよ」
「ほー」
王国第二の都市に貴族だけが通える学校、貴族院があったな。
貴族の子息、令嬢はその貴族院か王立学園のどちらかに入ることが多い。
王立学院が誰も入れたり、職の選択性が幅広い事に対して貴族院は貴族らしさを重視しておる。
王太子殿下やシャルーンは王立学園出身だがシャルーンの姉の第一王女は貴族院出身だと言っておったか。
「ミューラス公女様は私も憧れてるのよね。流れるようなハニーブロンドの髪が凄く綺麗で男性だけでなく女性も魅力を感じるのよ」
「お姉様だって負けてないのです。でもわたくしも同じ気持ちなのです。お優しくてわたくしにも優しくしてくださって今だって……フェーデル公子様に手を繋がれて壇上の方へ」
その公子様が皆が一望できる場所へと移動した。
そのミューラス公女とやらを引っ張ってきたのだ。
ん?
「あれがミューラス公女様という奴か。ハニーブロンドというよりは普通に赤髪ではないか。美人だとは思うが」
そう、シャルーンやアニエスが言っていた髪色や風格が一致してなかったのだ。顔立ちも何か性格悪そうな感じだし。
「公子様っ!」
女性の甲高い声がする。
現れたのはハニーブロンドの髪色の美少女。こっちの方が当たっていそうじゃ。
「なんで……」
「え、え?」
シャルーンとアニエスが困惑していた。つまり。
フェーデル公子とやらがさきほど現れた女性に指をさす。
「メルエレラ・ミューラス嬢。今、ここで貴女との婚約を破棄させてもらう!」
うん、なんか始まったぞ。貴族界のお約束かな。
フラグクラッシュその⑦ 異世界恋愛のフラグを……それは次回。





