082 褒賞の授与
「皆様、お待たせしました!」
パーティ会場の一番前で進行人が大声を挙げて注目を集める。
「いよいよ出番みたいね。みんなと合流しましょうか」
こないだの事件の表彰が行われるのだろう。
儂とシャルーンはスティラ達の元へ集まる。
「あ、クロスさん、シャルーンさん。クロスさんは消えちゃうしどこいってたんですか」
気配を消す術を使っておったので見つけられなかったようだ。わりと近くにいたんじゃがな。
やはり普通の人には効果があるようじゃ。
「わぁ! スティラ良く似合ってる。すごく可愛い! ジュリオも立派ね。でもドレスの方が似合うんじゃないかしら」
「ありがとうございます。ちょっと照れちゃいますけど」
「あはは、僕は男だからね。何を言ってるのかなぁ、あはは」
学園勢が全て揃い、進行役の言葉を待つ。
「先の事件で解決に尽力した王立学園の生徒の皆様に王家より褒章が授与されるとのことです。立ち会って行って頂くのこの御方」
シューっと音がして、パーティの貴族達から拍手で出迎えられたのは王国騎士隊の軍服で現れた銀髪の若造。
隣にいるシャルーンと顔立ちが良く似ており、そんなシャルーンが微笑ましそうに笑っていた。
「ヘルドゥリス殿下だぁ!」
「王太子殿下に賞章してもらえるんだ」
スティラとジュリオは喜んだ顔を浮かべる。
「やっぱりお兄様が来たのね」
「王太子殿下はおぬしのたった一人の兄じゃったか?」
「ええ。兄が一人と三姉妹で4人兄妹よ」
殿下が進行人から小型の導力拡声器を受け取る。
「王立学園の生徒諸君。先の事件解決ご苦労だった。私も王立学園の卒業生として君達のような素晴らしい後輩達がいてくれて鼻が高い。今日は国王陛下の名代で挨拶させてもらおう」
王太子殿下も王立学園卒じゃったか。
騎士服も着ておるし、いざとなった時は戦場にも出られるということじゃな。
見た感じ実力はシャルーンほどではなさそうじゃ。ま、こやつの実力が規格外と言えよう。
年は確か20代中盤じゃったか。
まだ国王は健在じゃから王位を継ぐの先になるだろう。
他の貴族達の顔や親族であるシャルーンを見るからに評判は悪くなさそうじゃ。
次期国王が期待されているのは国とって良いことじゃな。庶民の儂にはあまり関係ないかもしれんが。
「先日、王立学園に王国を脅かす危険な組織が侵入しようとした。我が妹シャルーンを筆頭に勇気ある生徒達によって事なきを得ることが出来た」
「さすがシャルーン殿下!」
「でもあの事件、娘が学園に通っているから血の気が引く話だったわ」
「しかし駐在の王国騎士は何をやっていたんだ。王女殿下に頼りすぎるのはいかがなものか」
「学園祭の後はセキュリティレベルを上げるという話だし、今後は安心でしょう」
パーティに参加した貴族達から様々な声が聞こえる。
あの学園には自分達の子供が通っている貴族も多いはずじゃ。
じゃがあの事件を被害を最小限に押さえたおかげで警備の人員も増えそうじゃな。
もし事前に食い止めていたらここまでの騒ぎにはならず、学園の警備も変わらなかったかもしれない。
多少の痛みがなければ国も人も成長しない。鍛錬と一緒じゃな。
「では生徒の皆様、前へどうぞ!」
「みんな、私についてきて」
進行人の声に合わせてシャルーンが先導し、パーティ会場の前へといく。
上級貴族達に見守られながら儂らは王太子殿下の前に並ぶ。
また殿下の前にはカートが運ばれ、中には王家の証が掘られた褒章が全員分置いてあった。
これがもらえるということじゃろう。
「ではシャルーン。前へ」
「はい」
お手本ということでシャルーンが王太子殿下の前に立つ。
「生徒会長として生徒達をまとめ、事件解決に向け尽力。その功績を評す」
「ありがとうございます王太子殿下」
殿下はふぅっと息を吐いた。
「まったく君はどれだけの成果を挙げるんだ。この間、龍討伐で勲章を授与したばかりだろう? 本来君はこっち側の人間なんだが」
「あら、剣聖と言われた大叔母様も部屋が埋まるほどの勲章を得たと聞いています。王家としては問題ないのではないでしょうか」
「ぬいぐるみを持って私に甘えていた可愛かったシャルーンに戻ってほしいとたまに思うよ」
「今も甘えていますよ。ただし剣を持ってドラゴンの首を抱えてですが」
兄と妹、微笑ましいやりとりをしていた。
「シャルーンさんは殿下と仲良しなんですね」
「殿下は三姉妹との仲も良いって言われてるね」
隣でジュリオとスティラが前のシャルーン達を見て呟く。
シャルーンは褒章を受け取り、一歩下がった。
「スティラ・ポンポーティル嬢、前へ」
「は、はい!」
スティラは緊張した様子でゆっくりと前へ出る。
「被害のあった生徒への治療や他の生徒へのメンタルフォローなど生徒の健康面に対して功績を評す」
「ありがとうございます!」
「褒賞としてスティラ嬢には王家の管理の薬草地、ミッドワルツ大森林へ立ち入りを許可する。S級薬師としての躍進を期待するよ」
「ほ、本当ですか! 嬉しいです」
ミッドワルツ大森林か。
あそこは故郷であるエストリア山と同じようにマナを生む地脈の密集地で貴重な果物や薬草が採れる場所であった。
儂も数十年前はよく入って採集をしておったわい。
ただその重要さに気づいた王国によって管理されるようになり乱獲を避けるために選ばれた者しか入れなくなったと聞いている。
あの地へ入れるのは本当に選ばれし者だけだという話だが、薬師にとってはこれ以上のない褒賞と言えるだろう。
褒章を受け取ってニコニコ顔のスティラが戻ってきた。
「ミッドワルツ大森林、どんな薬草が採れるんだろう……えへへ、楽しみだなぁ」
「良かったのう」
「はい! あ、クロスさんも一緒に行きましょう。魔獣が出る場所なので一緒に来て欲しいです」
「儂も興味あるし、付き合うぞ」
「ジュリオ・ペスターレ殿、前へ」
「はい」
ジュリオは凜々しい歩き方で殿下の元へ行く。さすが貴族令嬢……じゃない子息。
「構成員の逮捕に協力し、功績を評す」
「殿下、ありがとうございます」
「褒章としてペスターレ家には王家より一事業を任せたいと考えている。詳しい話は後ほど当主にさせて頂こう。君は勉学に励むと良い」
「っ! 光栄です、殿下」
学業褒賞を超える王家からの褒賞じゃ。ジュリオの家からしても名誉なことじゃろう。
儂は隣に下がったシャルーンに声をかける。
「性別を偽ったままで褒賞なんてもらって大丈夫なのか?」
「本来は大問題になるわね。でも私が間に入ってるから大丈夫、根回しをちゃんとしてるわ。ジュリオには婚約者候補として長らく側にいてもらわないと駄目だからね~」
「おぬし、やはり相当権力持っておるな」
「今頃気づいた?」
先ほど兄妹仲良しの会話は大衆へのアピールなのかもしれない。
シャルーンほどの能力、人気となると王太子殿下と対等になりかねないからな。
王太子派、第二王女派なんてものができると火種になりかねない、
お貴族様のパワーバランスとやらはいつの時代も面倒なものよ。
しかしシャルーンは王国屈指の戦闘力に加え、国民から人気、度重なる勲章。
群を抜いているのは間違いない。
儂は恐ろしい女子と知り合ってしまったのかもしれぬ。
「ブロコリ殿、前へ」
「はぁい!」
大声と共にはち切れそうな服が悲鳴を上げておる。
興奮せぬようにと言っておいたが無理か。
ブロコリは王家に対して憧れを持っている。騎士となって王や民を守りたいその願いが強い。
ゆえに殿下に認知されることはこの上ないことだろう。
「構成員の逮捕に協力し、功績を評す」
「ありがとうございますぅぅぅ!」
「びくっ」
声がでかい。
 





