081 ルージュとシャルーンと
「ルージュも久しぶり。相変わらずの健啖家ね。でもあなたの旅はカロリーを消費するんだし、しっかり食べ溜めておいてね」
「ん」
「おぬしらはどういう関係なんじゃ? ルージュは貴族っぽくはないが」
シャルーンよりもルージュの方が少し身長は低めだ。
体付きの良さはどちらも一級品。儂は色気よりも筋肉の付き方に目がいくがな。
言葉遣いを考えるとシャルーンの方が年上に見えるが、この場にドレスを着ているということはルージュは少なくとも成人はしている。
案外1つか2つ年上なのかもしれない。
「ルージュはね。勇者なのよ」
「勇者? なんじゃそれは」
初聞きの言葉に問い返す。
「勇者とは魔を祓うことができる加護を受けた者を言うの。ルージュはその素養を持っているのよ」
「魔を祓う? 随分と曖昧な言葉じゃのう」
「フィフス教の啓示にそう伝えられているから」
この世で最も広まっているフィフス教の教え。王国は信者も多く、教会が至るところにある。
成人の式もフィフス教の教会で行っておった。
「オッドアイの眼を持ち、雷鳴の術を行使する者。それが魔を祓う勇者の証なんだって。ルージュの外見にぴったりでしょ」
確かにルージュは両目、違った色を持っている。
世の中は火、水、風、地、闇、光の6種のカテゴリー属性を持っている。
光の一種だと思われていた雷だがその枠には入らない属性であることが分かったのだ。
雷鳴の術を行使できる人間は特別な人間。つまりそれが勇者ということか。
「魔を祓うとはどういう意味なんじゃ」
ルージュに聞いてみる。だがルージュは首を横に振るだけだった。
「その魔が何を指すかボクは知らない。魔族かもしれないし、魔獣かもしれない」
「ふむ」
「どっちも人類の敵だから気にせず祓えばいい」
「だからルージュは世界中をまわっているのよ。雷鳴の術は魔族にも魔獣にも相性がいいと言われているからね」
属性相性というのはわりと馬鹿にできない要素である。
ルージュが雷鳴の術を使うだけでかなりの強さの魔獣も倒すことができる。魔族や魔獣被害に怯えるもの達にとっては救いの術となろう。
「各国の王は勇者の旅を支援していて、勇者ルージュ一行には報告も兼ねて立ち寄ってもらっているわけ」
「そういうことじゃったか」
旅をするにしても金はかかるもの。国から支援を受けて旅をしているのであればこういう社会パーティにもお呼ばれするのだろうな。
大人の事情的に断りづらいし、ルージュが気が進まない顔で認識阻害の術を使っているのも分かるもんじゃ。パーティを組んでいるということじゃが、ルージュ以外にその姿は見えない。
必要なのはあくまで勇者だけということか。
「世界を旅していると言っておったが具体的な目的はあるのか? 魔獣退治だけではあるまい」
「世界には勇者だけが力を引き出せると言われている封印されし伝説の武具が存在するの」
「ほ~。大層な名前のものが出てきおったのう」
「世界各地に散らばっていてそれを見つけ出すのが目的の一つかな」
強力な魔を祓うために伝説の武具を集める。
立派な目的じゃのう。世界中に散らばるなら各国の協力も必要になってくる。
勇者の旅とは意外に過酷なものなのかもしれない。
「二つ手に入れて、三つ目がこの王国にあると言われているの」
幸先の良く集めておるようじゃが……事前情報などもあるんじゃろう。
ただ全ての武具の情報があるわけではないだろう。恐らく魔獣の住むダンジョンの奥地に行かねばならんじゃろうし、長旅になりそうじゃな。
「勇者として目的はそれだけど、ルージュの旅の目的はそれじゃないのよね」
「うむ? それはどういうことじゃ」
ルージュは指を唇につけて可愛く片目を瞑った。
「ひみつ」
「まぁ知りたいわけじゃないからええわい」
まだ若いのにちゃんと目的があるならそれでいい。
勇者であることを強いられているのであればその旅は良くないものだと思うしな。
ルージュはシャルーンに軽く詰め寄る。
「やっぱりシャルーンにも来てほしい。ボクのパーティは前衛が手薄なの」
「あなたにそう言われるのは光栄なんだけどね」
「勇者のパーティは他に誰がいるんじゃ」
「魔術師と回復術師の三人パーティ。シャルーンがいてくれればもの凄く安定する」
王国最強の騎士として名高いシャルーンなら納得じゃ。
ルージュは一人で前衛を張っているのか。雷鳴の術を使えるとはいえ、後衛二人を守るのは大変じゃ。
「前も言ったけど王国は今凄く荒れていて離れるわけにはいかないの。もちろん王国にいる間で困ったことがあったら手を貸すから」
「ん」
ルージュは軽く頷くのみだった。
シャルーンが断ってくるのが前提だったのかもしれない。
ルージュはお皿をテーブルの上に置いた。
「じゃ、ボクは帰るね。旅の報告とシャルーンに会いに来るのが目的だったから」
「もう、相変わらずマイペースね」
シャルーンは呆れた顔をするが正直儂も同感だったりする。
儂も用件が終わればさっさとこの場から出たいと思うし。
すたすたと歩くルージュは一度止まり、振り返った。
「なんかちょっとだけ匂うのが気になるけど……」
「匂い?」
変な匂いはしないが、何か感じ取っておるのか。
特に殺気なども感じないし……。気になることはなさそうだ。
「でもシャルーンがいるなら大丈夫だと思う。クロスもまたね」
「うむ。運び屋の依頼が必要ならいつでも受けるぞ」
ルージュはささっとパーティ会場の人混みを抜けていってしまった。
「勇者というのは良く分からんが腕が立つのは間違いないな」
「強いわよ。剣だけなら私の方が上だけど、雷鳴術を組み合わせられたらどうなるか分からない」
「ほぅ」
「それに伝説の武具を手に入れたって言ってたから……さらに強くなってるかもね」
「人類の希望が強くなる分には何の問題もないじゃろう」
ルージュには何の悪意も感じなかった。
名前の通り勇ましい者。未来ある若者が多いことは喜ばしいことである。





