078 着飾る
「クロス、スティラ。先に来てたんだね」
先の事件で活躍した少年、ジュリオ・ペスターレが馬車の中に入ってきた。
そしてキョロキョロ儂らの顔を見る。
「何かあった?」
「ジュリオさんはメールさんの隣がいいと思います。クロスさんの隣だと頭撫でられますよ」
「ええい、やめい」
「どうしたの……ほんと」
別に毎回毎回幼子の頭を撫でているわけじゃないんじゃぞ。
可愛いなと思った時にやっているだけで深い意味はないはずなのに……。
それはいいとして。
「ブロコリは荷車なんじゃな」
もう一人、王城のパーティに招待されておるのじゃが、ドーピングの力で体が肥大化しているブロコリは客車に乗れないので特別の荷車が客車の後ろに用意されていた。
すでにどしんと音を立てて、荷車で運ばれておる。
「これで全員揃ったわけじゃな」
メールが再び客車に戻ってくる。
「では皆様、フィラフィス王国の王や姫様がおられる王城へお連れ致します」
緩やかに進み、やがて王城の前へ到着した。
前世では200年関わりの無かった場所だったが、今世ではわずか15年で関わる形となってしまった。
王女シャルーンと知り合ったのが一番大きいか。
馬車を降りて、儂ら4人は先導するメールの後を追う。
すでに時刻としては夕日が落ち始めており、夜のパーティに参加するという形らしい。
もちろん王城正面から入るわけにはいかないので来客用の通路を通り、王城の中へ入った。
「それでは皆様にはお着替えをして頂きます。えっとまずはジュリオさん」
「あの……僕は」
そう、男子生徒だが実際は女子であるジュリオが着替える場合どういう形になるじゃろうか。
ここに来ているということはそのあたりクリアしているはずじゃが。
「わたしも詳しく聞いていないんですが、ジュリオさん用の特別メイド隊を編成するよう姫様から命令が出ているのであちらのメイド隊の方へ行ってください」
「うん、そうさせてもらうよ」
メールも同級生ゆえにジュリオが実は女であることは知らない。
シャルーンが気を効かせたようじゃな。
ジュリオはそちらの方へ行ってしまった。
「ジュリオくん、どうしたんだろうね」
「そーじゃな」
事態を知らないブロコリに適当に話を合わせる。
「では男性陣はあちらの執事達とスティラさんは私と更衣室の方へ行って頂きますのでどうぞご準備ください」
スティラと分かれ、執事達に連れられて儂とブロコリは男性用の更衣場へと行く。
やはり男子は礼服というわけか。
どれもこれも高そうではある。儂の運び屋の給料じゃとても払えそうにないな。
適当に見繕ってもらい着ることにした。
「ふぅぅっぅ……気があふれるぅぅぅ」
「ブロコリ。破いたらとんでもない額を請求されるぞ」
「それは困るよっ!」
力を入れたら上半身が破けるからのう。
ゴリマッチョスタイルのブロコリの服を選ぶのを執事達も大変そうにしていた。
そして髪を整われ、礼服に身を包む。
「うーむ違和感しかないのう」
前世200年、今世15年、煌びやかな世界とは無縁だったためこういう服は着慣れない。
まだ布を貼り合わせた粗末な服の方が性に合っていた。
「クロスくん、よく似合っているよ! かっこいいね」
「うーむ。そうなのか? あまりピンとこんが」
かっこよさとは何だろうか。
感性がやはり同年代とは違うせいで自分の顔立ちが良いのか悪いのか正直分からん。
少なくとも女性陣に嫌悪を抱かれていないのは確かだ。
ただ、良いと思えるほど自信があるわけでない。
ブロコリと二人で控え室で駄弁っていた。
パーティ会場にはまだ入れないらしい。儂らはゲストという立場じゃから登場のタイミングがあるんじゃろう。
ジュリオはどういう格好で来るのやら。
「ところでブロコリ。ちょっと同性の意見を聞きたい」
「どうしたの?」
ジュリオが偽ってるせいで儂の同性の友人がブロコリしかいない。
今世はどうも知り合いの性別が偏っている気がしなくもない。
「幼子とのスキンシップを知りたい」
儂はシャルーンやスティラに対してちょっとズレた対応を取っているのではないかと最近思い始めていた。
儂とて200年生きてきたわけだが全てを理解しているわけではない。
やはりちゃんと15才の若者に確認しておくべきだろう。
「フハハ、僕には小さな妹がいるからね! よく知ってるよ」
「ほぅそうか!」
小さな妹……この巨体であればあやつらと同じ年頃と考えて良いだろう。
「最近幼子達に怒られてしまってのう。儂としてはただ可愛がってるだけなんじゃ」
「分かる分かる。まだまだ子供なのに大人ぶっちゃうよね」
「そーなんじゃ。そんな所が可愛いからつい頭を撫でたり、頬をつついたり、くすぐったり、顎を触ったりするんじゃが……いかんのだろうか」
「……」
ブロコリは目を瞑り考える。そして。
「親しい関係の幼子なら問題ないよ!」
「そうか! やはり儂は間違っておらんかったんじゃな」
やれやれ、安心したぞ。
これで心置きなく可愛がることができそうじゃ。
「まぁ同い年の子にやったらまずいと思うけど、さすがに違うよね」
何かブロコリがちらっと呟いた気がしたがよく聞こえなかったので気にしないことにした。
会場入りがOKという連絡が来たので儂とブロコリは指示された方へ歩いて行く。
扉を開け、通路に出ると着飾った二人の顔見知りと出会う。
「やぁ、二人とも」
まず先に前へ出たのはジュリオだった。
男と偽っている女の子だがそれを知るものはわずかしかいない。
今回は男物の服で着飾っている。長い髪をまとめて光らせ、完全な美少年となっていた。
胸の方も何かで押さえているのか膨らみはない。
「ジュリオくん、かっこいい!」
「ありがとうブロコリ」
「ふむ、確かによく似合っとる」
男と偽っているが、ジュリオは男装を好んでいるようにも見える。
学校でもその美麗な顔立ちから女子人気も高い。
ブロコリに聞こえないようそっと声をかける。
「おぬしあまり男装ばかりだと女に戻れないんじゃないか」
「そういう路線も悪くないよね。でも男装できるのはこの三年だけだからさ」
今の間に楽しんでおくということか。
女子の取り合いに発展せねばいいのう。
「それよりほらスティラ」
「ま、待ってください。心の準備が!」
ジュリオは後ろに隠れていたスティラを前に出す。
着飾ったスティラの姿に正直驚いた。
海のように青い髪色と薄い桃色のドレスは非常によく似合っており、色合いを指示した者のセンスがよく分かる。
恥ずかしそうに顔を俯き、儂をちらりと見る。
年下に見える童顔がメイクにより大人びて見えるように非常に強い可愛らしさを表していた。
そして豊満な胸元はしっかりと強調され、誰もがきっとそこに目を向けているだろう。
「随分あれじゃな。色気を誘う衣装じゃな」
「こんなの着れないって言ったんですけど、シャルーンさんとファリナさんが特注で用意したって言われて……」
「庶民には手の届かない金額な気がするのう」
ドレスだけではない、青髪によく似合うマリンブルーの宝石で象られた装飾品もつけられている。
いったいどれだけの金がかけられているのやら。儂の給料では到底無理じゃのう。
「じゃがよく似合っている。普段の薬師服のローブも良いが、着飾った姿もとても魅力的じゃ」
「えへへ……ありがとうございます。でも」
スティラは少し足下を気にしていた。
「ちょっとヒールが高くて、歩きづらいんですよね。さっきも転けそうになって」
「ふむ」
儂はスティラの手を掴む。
「クロスさん!?」
「ならば儂がエスコートしてやろう。手を掴んでおれば転んでも助けてやれる」
「あ……、はい!」
スティラはにこりと笑顔で返してくれた。
「良かったね。スティラ。……でもブロコリには刺激が強いみたい」
ブロコリは顔を赤くして別の方を向いていた。
スティラのドレスは際どくて目に悪いからのう。
ただブロコリは相変わらず女子に対する免疫が無いと思う。
ブロコリはぶるぶる震える。
「気が、気があふれるぅ」
「だから服が破けるぞやめい」





