070 王立学園強襲事件~戸惑い~
王国騎士の無力化はできなかったとしても、まだ手はある。
開門とした時に同志にすぐの対応を促せば良い。そうすれば王国騎士が校舎に来るまでに制圧することができる。
そのためには校舎の外に張り巡らせた魔法を封じる結界さえバレなければ。
「何か仕掛けがあるな。恐らく魔法を封じるものじゃろう。教師や生徒達の魔法を封じて、占拠しやすくするためか」
何でいきなりバレるの、わけがわからないよ。
もう何か諦めたくなってきた。この仕掛け作るの結構時間かかったのに……。
男性生徒は結社製の魔法封じの導力具を無力化する。
「警備員殿、頭を抱えてどうなされた」
「な、なんでもないよ」
今すぐ同志達に計画中止を伝えたいけど、漏洩防止のために潜伏先は不明だし、連絡方法もない。
だが……まだ可能性がある。
体育館には大量の武器を隠してある。同志達がそれを手にいれれば逆転できるかもしれない。
「では最後に講堂へ行くかのう」
「なんでぇぇぇぇっ!?」
「人質を一つに集めるなら講堂じゃろう。スピード重視のテロ活動で大量の武器を持って侵攻するとは思えん。現地調達じゃろうな」
こうして私と生徒は講堂の地下倉庫へ行き。
大量の武器を発見した。
「うむ、まさか本当にあるとはのう……」
やや暗めの地下倉庫で導力銃や大型の弓など大勢の人質に向けるための武器を少しずつ隠していたのだ。
この数ヶ月少しずつ入れていたのに最後の最後でバレてしまうとは何事か。
待てよ。
ここは人通りのほとんどない倉庫。
ここで彼を殺してしまえば武器の件はバレない。
そして夜通しでもう一度魔法封じの導力器をしかけて設置すれば決行の時間に間に合う。
これはやるしかない。
私は……生徒をここで殺す!
警備員は警棒を常に携帯している。
ごくまれに魔獣が学園近くに侵入することがあるからだ。
これで本気で殴打すれば頭をかち割ることも不可能じゃない。
この生徒には悪いがこれも同志のため。エンティス国独立の礎となってもらう。
導力銃に気を取られている男子生徒の後ろにつき、思いっきり振り上げ、振り下ろした。私は目を瞑り、自分の行動から目をそらすことにした。
シュっと音がして、振り下ろした先が頭でないことに気づき、目を開ける。
生徒が鋭い目をして、何かを放り投げた格好になっていた。
私はゆっくりと振り返る。
大きな刀と私の警棒とそして……ネズミの体が貫通していた。
「ポイズンラッドじゃな。たいした魔獣ではないが……けがが無くてよかった」
「あ……ああ」
「すまんのう、おぬしの警棒も一緒に突き刺してしまった。弁償させてもらおう」
「い、いえ、かまいませんよ」
私も王国解放軍の構成員として長年生きてから分かる。
この少年はただ者ではない。
少なくとも私では絶対に勝てない。あの一瞬の投擲でネズミと警棒を突き刺す芸当なんてできるはずもなかった。
◇◇◇
「これで憂いは全て断つことができた」
「そ、そうですね」
「おぬしが立ち会ってくれたおかげじゃ感謝する」
「いえ……」
全ての仕掛けを解除されてしまった。
もはや同志達は丸腰でテロ行為するようなものである。
これからどうする。きっとこのままシャルーン殿下にも報告をするんだろう。
そうなったら調べられて……きっと私も逮捕されてしまうだろう。
この警備員の仕事も偽造のプロフカードを使ってるのだから。
「儂は仕事に戻ることにする。おぬしはこの件を上に報告するか、判断を頼みたい」
「え、君は殿下に報告するのではないのですか?」
「うーむ、シャルーンも忙しいからのう。それにもう全てを解除してしまった。言えば最初から何もなかった状態に等しい。今となっては虚言と思われてもおかしくないかもしれん」
「……」
「だからおぬしに任せる」
そのまま男子生徒は立ち去ってしまった。
私がこのまま警備員の上長に報告すれば……すぐさま、騎士団に連絡が行き、明日同志達はきっとすぐに捕らえられてしまう。
私は何もできず、その日は終わった。
◇◇◇
翌日、朝10時。
結局悶々としたまま夜の当直を終え、私は守衛にいたままだった。
「じゃあ席を外すから後は頼んだぜ」
そのまま同僚は席を外して違う所に行ってしまう。
今日は奇跡の日。つまり同志が来るタイミングで守衛にいるのは私だけなのだ。
予定では……この時間に魔獣車に乗って同志30名がこの学園に乗り込んでくる。
頼む来ないでくれ。他のトラブルで急遽中止になってくれ。
その願いは……魔獣車の音で消え去ってしまった。
まっすぐに近づいてくる魔獣車。
しかし正門の仕掛けは解除されてしまっているので手で動かすことはできない。
そう、私がここで仕掛けを動かしてを門を開くしかないのだ。
門を動かせば同志達はこのまま乗り込んでいくだろう。
しかし王国騎士団は無力化出来ていない。
校舎の外の魔封じの仕掛けも解除されてしまっている。
体育館の地下倉庫の武器は全て撤去されてしまっている。
このまま同志達が中に入っても!
でも……、この計画は私だけのものではない、例え失敗してでも!
私は導力門のレバーを動かそうとする。
「やめておけ」
そこには昨日の男子生徒がいた。
「それを引けばおぬしの仲間達の罪は重くなる。学園侵入の罪は重い」
「……そうですね」
「おぬし達が何者かは知らん。だが……若者を害して手に入れるものは美しくないぞ」
私達は何のためにこの計画を進めていたのか。
王国への復讐。それが第一なのは間違いない。
だけど同志の中には亡き先祖の願いである独立を願っているものだっている。
おそらく今、あの魔獣車にいる中の半数はそれを願っているのだろう。
レバーを開けてしまえばほぼ丸腰のまま王国騎士と戦うことになる。
生徒に手をかけることもできぬまま確実に全滅となるだろう。
私の意志は決まった。
「イワフルに粛正されてしまうな」
私は……、レバーを引っ張ることができなかった。
同志達の命を救いたかったのだ。
「おい、どうなってる! 門が開かねぇぞ!」
「くそ、大丈夫なんじゃねーのか!」
同志達が門の前からで立ち往生していた。
30人いてもあの導力で動く強固な門を開くことはできないだろう。
「おい、そこで何をしている!」
「不審集団を発見、至急対応する!」
さっそく王国騎士団に見つかってしまったようだ。
これで同志達は全員捕まってしまうだろう。だが、殺されることはないはずだ。
「これで良かったんだろうか」
私のつぶやきに……男子生徒は声を挙げた。
「死んでしまってはそこで終わってしまう。だが生きてさえいれば未来に繋がる。おぬしの行動は彼らの未来を繋いだのじゃよ」
「……そうだといいですね」
これで全てが終わった。
その時だった。
「っ!」
爆発音が発生する。
慌てて正門の方に視線を向けるが特に変わりはない。
違う。音がしたのは裏門の方だ。
「裏門の方にもおったのか」
「し、知らない。私は何も聞かされていない」
イワフルは何も言っていなかった。
もしかして私の知らない計画があったのだろうか。
……イワフルにとって私もまた捨て駒だったのかもしれない。
「わ、私はどうすれば!」
「安心せい」
少年はにやりと笑う。
「想定していなかったわけじゃない。まぁ大丈夫じゃろう」