007 高潔な姫
さきほどは茫然自失な状態だったが儂が助けたことで意志を取り戻す。
「一般人!? なんで……なんでこんなところに」
幼子は大けがをしているがまだ力は残っているようだ。
しかしあの赤トカゲ。よく見る個体ではなさそうじゃ。図体も大きく、非常に獰猛に見える。
「早く逃げてっ! あのレッドドラゴンは特別個体のネームドなの! とてつもない強さだわ!」
ネームド。聞いたことがあるな。
強い人間が名を世界に知らしめるために二つ名を得るのと同じで、一種の魔獣の中でより大きく、強力な個体のことをネームドと呼ぶ。
そして名前も変わると言われている。
「あのレッドドラゴンの本当の名はクリムゾンドラゴン。王国でも討伐例が100年前に1体しかないと言われている危険な魔獣なの!」
赤トカゲ程度なら普通に倒せるはずだったが、ネームドの特殊個体ゆえに戦線が崩壊したということか。
「私が時間を稼ぐから! あなたはすぐに逃げて」
「ボロボロのおぬしに何ができる」
「ここで食い止めることはできる! 近くに退却させた騎士達がいるわ。助けてあげて」
「おぬしは逃げんのか」
「駄目。私が逃げたら騎士達は追いつかれてしまう。あいつは人間の臭いを嗅ぎ取るの」
そうじゃな。そういう習性を奴らは持っている。
「私の名はシャルーン・フェルラ・ロギュール・フェルステッド! 王国の騎士であり、第二王女である私が背を向けるわけにはいかない!」
彼女は立ち上がり、ネームドの魔獣に向かっていく。
折れた騎士剣を振るい、炎のブレスを避けていくが体力の限界なのか動きが悪い。
魔獣の尾撃に吹き飛ばされてこちらに戻ってくる。
「がはっ」
「やめておけ、これ以上は死ぬぞ」
「例えそうであっても!」
ボロボロなのに気品を感じる高潔な精神。軽度なやけどを負いながらもその美しさは損なわれておらぬ。
王女など城の中で美しく着飾ってるだけだと思っていた。
200年生きて今もそう思っているのにこの幼子の姿はどうだ。ボロボロなのにとても美しい。
儂がこの子と同い年くらいの時……どうだった? もはや語るまでもない。
「私がこいつを倒すんだぁぁあ!」
剣聖姫シャルーンだったか。その二つ名にふさわしい生き様だ。
……そのような高潔な精神を持つ若者をこんな所で死なせるわけにはいかない。
儂の2回目の人生は彼女のような先のある若者を支えるべきではないか。
「せめて体力を回復するんじゃ」
「無理よ……。回復術師はいないし、ポーションは切れた」
「ならばこれを飲めい」
儂は仙薬を取り出して、シャルーンに渡そうとする。
「そんな怪しげな薬……いらない!」
興奮状態のせいか、仙薬の効果を信じていないようだった。
しかし出血もしておるし、怪我の具合も良くない。仙薬を飲まさねば綺麗な肌に傷が残ってしまう。
ならば仕方ないな。
「こっちを向けぃ」
「へ」
儂は仙薬を口に含み、シャルーンの肩に手をやり思いっきり引っ張った。
「何をするのっ! えっ……むぐっ!」
そのまま唇を幼子の唇にくっつけ、こじあける。
飲まぬなら強制的に口に含ませるしかない。儂は口移しで仙薬をシャルーンに投与した。
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