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068 王立学園強襲事件~仕込み~

「ワルドス、王立学園の潜入は順調か」

「ええ、問題ありません」


 それは数ヶ月前のことだった。


 王国解放軍【エンティス】の構成員である私は首領のイワフルに呼び出された。

 エンティスはかつて王国に滅ばされて強制併合されたドルティス国の血を受け継ぐ者達で構成されている。

 目的は現在のドルティス特区を王国から独立し、一つの国として認めさせること。

 それが祖先の悲願だった。


 新たな任務である王立学園の潜入の件の進捗を聞かれたのだ。


「次の計画は順調に事を進めている。だがそれが終わればいよいよ大物にターゲットを定めたい」

「それで私が潜入している王立学園ですか」

「王立学園は王国の未来だからなぁ」


 イワフルが首領になってからエンティスの評判は幸か不幸か知名度はうなぎ登りとなっている。

 ただの反王国組織でしかなかったエンティスが魔族や隣の強国に匹敵する脅威になるなんて思ってもみなかった。

 イワフルの言葉は重みがあり、命じられればどことなく高揚感を覚えさせる。

 それで何人もの同志は散ったが不思議とイワフルを糾弾する気にはなれなかった。

 イワフルについていけば……王国への復讐が果たせる、そう思ったのだ。


「いよいよ計画も具体的に決まった。物も用意している。気取られずに仕掛けていけ」

「承知しました。では計画の内容を教えて頂けますか」


 同志達が学園に乗り込むまでに全てをこなさなければならない。

 ただ呆然と警備員の仕事をこなすだけでは駄目なのだ。

 扮している間にもやることは山ほどある。作戦を成功させ、同志達を可能な限り生かさねばならない。

 学園に対するテロ活動は大変危険だ。中には駐屯の王国騎士団がいるのだから。


「王立学園の出入り口は正門と裏門の2カ所がある。今回は30人の同志達を正門から攻め込ませる予定だ。正門は導力式の引き門らしく、手動では開かん。しかしこれを使えば手動で開けられるようになる」


 イワフルから受け取ったのは導力の仕掛けをジャマーすることができる道具だった。

 たしかエンティスは秘密結社【サザンクロス】と協力体制にあったはず。

 そこからの技術提供だったか。


 これを使えば引き門を同志達で開けることができる。つまり学園内に侵入することができるというわけだ。

 念のために決行日は私が開門に立ち会っておけば確実だろう。


「問題はやはり王国騎士団ですね」


 学園の生徒達を守るために駐屯している王国騎士団。

 生徒達の中には貴族や他国出身の若者もいるので非常に重要視している。


「普段は生徒に見られないように離れた駐屯場にいるはずだ。これを使え」


 イワフルに渡されたのは印が描かれた一枚の紙だった。


「決行日の前日に駐屯場に貼り付けておけ。精神に作用する呪印で丸一日動けなくなる。その隙に全員殺せ」


 なるほど、それで騎士団の動きを封じるというわけか。

 封じてしまえば騎士といっても無力。


「あそこは武具を嗜んでる奴も多い。6ヶ月の間に生徒が外に出ない日を調べておけ」


 武具修練の授業があったはず。武器を持った生徒が多ければ多いほど制圧に時間がかかってしまう。

 教室にいる時は武器を持っていないので全生徒が教室にいる時間帯を調べないといけないな。


「あの学園は魔法を使える生徒もいます。それも封じなければなりませんね」

「ああ、結社から実験用に魔法を封じるフィールドを発生する導力器を受け取っている。校舎全域に行き渡るようにセッティングしろ。これで生徒も教師も何もできん」

「6ヶ月の間に調べておきます」

「武器も少しずつ送っていく。講堂の地下にでも隠しておけ」

「作戦の概要把握しました」


 これらのことを全てかみ合えばたやすく学園を占領することができるだろう。

 全生徒を講堂に集めて、人質を取れば王国も我らエンティスの要求を無視できぬはずだ。これは非常に大きな作戦となるだろう。


 気がかりは……人質に若い生徒を使うということだろう。生きていれば私の子と同い年くらいの子を……。


「同情心なんて考えるなワルドス。10年前のことを忘れたか」

「っ!」


 忘れるはずもない。

 10年前、ドルティス特区で起きた王国軍による鎮圧事件。

 その被害は一般市民にも及び私の妻と子はそこで亡くなった。

 過去の件から寛容だった王国があの時だけはかつての残忍さを思い出したかのように攻め入り、無残な結果を生み出してしまった。


 それからすぐにイワフルがエンティス入って、デモ程度しかしてこなかった王国解放軍は過激なテロ組織へと変貌したのだ。


 もうこの手は血にまみれている。止まるわけにはいかない。


「だが一つ、大きな問題点がある。計画を変えねばならんかもしれん」

「それはいったい」

「王女シャルーンだ」


 その名はよく知っている。王立学園の生徒会長であり、第二王女であり、そして王国最強の姫騎士。一騎当千の実力を持つ猛者であるのは間違いない。


「あの女は強すぎる。魔力を奪って、人質を取っても脅威度が下がらん」

「イワフルの予測でも除去しきれないのですか」

「だがあの女が卒業する三年後まで待つわけにはいかない。幸いあいつは王族だ。全ての日の授業を受けているとは思えん」

「ええ、何度か外出しているのを見たことがあります」

「外出が確定している日をあぶり出せ」

「承知しました」


 こうして私は再び、王立学園の守衛の警備員へと戻った。

 シャルーン殿下が外出し、生徒達が校舎に閉じこもり、比較的警備が薄くなる奇跡の日が決まったのだ。


 この日を逃しては次、いつになるか分からない。

 エンティスの前の活動の成果で王国からのマークが厳しくなっている。

 イワフルとエンティスの念願を叶えるんだ!


「明日、学園がテロリストに占拠される可能性が高いんじゃが何とかならんか」


 それなのに計画を直前の直前で問い詰めてくる学生の存在に私は大いに悩まされることになる。



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