067 事件はこうやって仕込んでいく。なのに(涙)
私の名はワルドス・ディオフィール。今年で47才となる。
妻と子はいた。
今はこの王立学園の守衛所の警備員の一人として働いている。
この仕事についてそろそろ半年といった所か。始めは不慣れであったがようやく仕事にも慣れ、融通も利くようになってきた。
「あの~すみません!」
「何でしょうか?」
王立学園の制服は白を基調としており、男子は凜々しく、女子は可愛らしくをイメージしている。
可愛らしい制服に身を包んだ女子生徒が声をかけてきた。
子も順当に育っていれば同い年くらいだったのだろうか。今更なことを考えても仕方ない。
「えっと……。校門に学生証を落としたかもしれなくて……届いてないですかぁ?」
「少々お待ちください」
お仕事である以上10才以上年齢が下であっても言葉遣いは崩さない。
それに相手はこの王立学園に通う生徒。卒業後の進路は明るく、いつ上長になってもおかしくない子ばかりなのだ。
王国の未来を担う子供達が通う園、それが王立学園だ。
「こちらに届いてますね。一応身分証明のプロフカードを見せてください。すみませんが規則なので」
「良かったぁ……届いてたんですね」
「あのあたりに落とす生徒は多いですからね。うん、プロフカードも大丈夫です。ではお気をつけて」
「ありがとうございます!」
女子生徒はにこやかな顔で去って行く。
守衛の仕事というのは子供達の笑顔を守ることにある。
この半年間、ずっとその職務を忠実に続けていた。おかげで生徒達からも声をかけられるようになり、一個人として満足のいく生活をしている。
「あの~、守衛さん」
「何用でしょうか。おや、あなたは」
それはこの前、門限を少し過ぎてしまって戻れなくなってしまった男子生徒だった。
今日はまだ門限まで時間がある。何用だろうか。
「この前はありがとうございました……。守衛さんが手を回してくれたおかげで怒られずにすんだんで……あの時の御礼に、これ実家で作ってる饅頭なんすけどもらってくれませんか?」
「おやおや、これはありがとうございます。この前のは理由が理由でしたからね」
迷子の子供に連れ添っていて門限に間に合わなかった子だ。
本来であれば規則は規則なので許されないのだが、守衛の判断で融通を利かすことができる。
これは一応学校側とも協議で了承をもらっていた。生徒達には言えないが。
「ですが次からはちゃんと守らないといけませんよ。庇えるのはあの時だけですから」
「うん……。ほんと助かりました!」
男子生徒は去って行く。
私はくれた饅頭の封を開けて口に含んだ。甘すぎて私に合わないな。
「……」
校門の外に何やらな不審な男が立っている。
その男がゆっくりと近づいてきた。
私はまわりの守衛の同僚達に手を挙げて、自分が対応することを決める。
たたたっと走って、不審な男に近づく。
「こらこら、ここは王立学園の敷地内になります。これ以上は進んではなりませんよ」
「おおー、そうかい。酔ってしまってねぇ。公園かと思ったよ」
どうやら不審者は酔っ払いだったようだ。
「しかし大きな学園だねぇ。さすが王国随一の学園だ。守りも鉄壁なんだろうねぇ」
「ええ、我々だけでなく駐屯の王国騎士もいますからね」
「そうかい」
「それに剣聖姫もおられるので万に一つも危険ありませんよ」
私の言葉に酔っ払いの男はにやりと笑った。
「そうかい。それなら大丈夫ってことでいいんだな?」
「ええ、何の問題もありません。大丈夫と言えるでしょう」
「……」
「……」
酔っ払いの男は振り返り、さっと立ち去っていった。
私は息を吐き、守衛所に戻る。
「何か問題あったら駐屯の王国騎士団に連絡するけど……」
「大丈夫です。ただの酔っ払いでしたよ。あはは」
「最近は物騒だからなぁ。王国解放軍がここをターゲットにする可能性も否定できん」
「ええ、気をつけないとですね」
同僚に断りを入れ、私は守衛所の外へ出る。
今のやりとりでもう計画は止まらなくなったのだ。
私の名はワルドス・ディオフィール。
王国学園の守衛で働く警備員の一人である。
そして。
王国解放軍【エンティス】の構成員でもある。
明日、この学園は同志達による襲撃が行われる。
この半年、首領のイワフルの命によりこの学園に潜り込み信頼を勝ち取ってきた。
学内のパトロールと評して学校内に仕掛けを行い、同志達の行動をサポートをしてきた。
今はのほほんとしている同僚達も明日は阿鼻叫喚となっていることだろう。
先ほどの酔っ払いの男は同志の一人。
彼は計画の始動の最終確認をしに来たので私は大丈夫と伝えた。
情報漏洩の可能性があるのでこれ以降の計画の停止は不可能である。
明日この学園は地獄となる。駐屯の騎士は全員皆殺しにし、生徒達を人質に立てこもるのだ。
王国の未来を担う若者は血を見ることになる。
「ちょっと宜しいじゃろうか」
今日は守衛に声をかけてくる生徒が多い。
明日この学園は地獄となるのに無意味なことをするものだ。
だが私は計画が始まるまでは守衛の仕事を全うする。
王国解放軍の構成員ではなく、一人の警備員として振る舞い続けるのだ。
「忘れ物でしょうか? それとも何か見つけましたか」
「ちょっと報告したいことがあるんじゃ」
声をかけてきた男子生徒は淡い髪色を持っており、古風なしゃべり方をする生徒だった。
そういえば最近よく顔を見る気がする。短期入学の生徒だろうか。
「おぬしに言うべきかどうか悩むんじゃが……」
「言ってくださって大丈夫ですよ。私で良いかどうかは聞いてから判断できますよ」
「そうか! 世迷言かもしれんが」
成人したての少年の言うことだ。大した話でもあるまい。
「明日、学園がテロリストに占拠される可能性が高いんじゃが何とかしようかと思う」
「ぶっほっーーー!?」
とんでもない言葉に思わず吹いてしまった。
フラグクラッシュその⑥ 学園を狙うテロ事件の発生フラグをぶっ壊す。
敵側の視点でこれやられるとマジで悪夢だと思います。