066 彼とデート④(※シャルーン視点)
それはクロスとの楽しいデートの帰り道だった。
「今の王国は一極集中により大都市しか恩恵を受けられないようになっている! このままでは地方は死にゆくだけだ! 今こそドルフェン特区は王国から独立していかねばなりません」
王都の中心にある大広場ではそこそこの規模のデモ活動が行われていた。
王都ではよく見る光景ではある。その内に王国騎士団が現れて、そのデモが解散させていく。
「こっちに来てから知ったがかなり騒々しくやっているみたいじゃの」
「うん、特にドルフェン特区はね」
ドルフェン特区の独立のために過激な活動をしているテロ組織がある。それが王国解放軍【エンティス】。王国内で問題になっている闇の一つね。
彼らが各地で活動を成功させてしまったゆえにこうした独立運動が各地で見られるようになってしまった。
デリケートな問題で王族としては無視できない。
「王国の成り立ち上、仕方ないのかもしれんが一般市民にはあまり迷惑をかけて欲しくないのう……」
「主張は然るべきだと思うけど、テロ活動は絶対に許せないわ。やり過ぎだもの」
「フィラフィス王国が起こした大規模の併合戦争から幾年。これだけ経っても……変わらぬな」
クロスは遠い目で広場を見続けていた。
何だか私とは見ている所が違うみたい。
正直まだ15才の私はこういった活動にピンとこない。立場を考えたら口にはとても出せないけど。
「王国もひどかったが……ドルフィン国も正直似たようなもんじゃったよ」
「え?」
「なんでもない」
クロスは少しだけ考えこむような素振りを見せた。
これは先代国王のさらにさらに前の国王。この人が暴君と呼ばれており、各地方の国に攻め入って強引な併合を成し遂げてしまった。
ゆえに国の文化を徹底的に破壊つくし、現存しているものはほとんどない。
残るのは語り継がれた口伝と隠してわずかに残ったものだけだ。
大昔に生きていた人はいろんな国の秘術を持っていて今とは比べ物にならないほど知識を持つ人がいたと言われていた。
ゆえに今、当時の王国の対応は間違っているんじゃないかって言われ続けている。
証明するものが何も残ってないんだから言ったもん勝ちよね。
当時のことを覚えてる人がいればね。まぁ、120年生きた人なんて存在しないんだから仕方ないか。
「王国ってそんなに荒れてたのかなぁ」
「そうじゃのう。じゃが今のおぬしのような王族がいるならきっとその選択は間違っていなかったと思うぞ」
「……ありがとう?」
「そこは疑問系じゃなくて素直に受け取れ」
クロスはにこりと笑い、私達のデートは終わりを迎えようとしていた。
短い時間だったけどクロスとのデートは凄く楽しかった。
またこうやって時間を作って二人で楽しいことをしていきたいな。
時間は夕日が沈もうとしている頃で、守衛のある校門の所へ急いで向かった。
生徒会長が門限を破るなんてしちゃいけないしね。
校門の所に到着する。
「あと1週間ほどで学園祭ね。このまま何事もなく楽しい学園祭になればいいなぁ」
「ふむ、そうじゃな」
クロスは導力で動く門と守衛をじっと見つめていた。
「どーしたの。そんな所を見つめて」
「ちょっと気になることがあってな。やはり言うべきだったか」
「うん? あ、今日は星が見えるかなぁ。夜はスティラやジュリオも誘ってみんなで食べましょうか」
「うむ」
何だかさっきからクロスの行動がおかしい。
なんか迷っているように見える。
「ねぇ」
「シャルーン、おぬし……明日は学校に来ないと言っていたな」
「うん、ちょっと王家関係の仕事でね。夕方に帰ってくるわよ」
「それはみんな知っているのか?」
「生徒は全員じゃないと思うけど大人はみんな知ってるんじゃないかな」
クロスは真面目な顔で振り返った。
「行くな」
「え」
ドキリとする言葉だった。
さっきまでの雰囲気とは裏腹にそんな真面目なことを言うクロスの顔付きがとても凜々しくて自然と顔が熱くなってしまう。
行くなってどういうこと。
私と側にいたいってことかな。
え、うそ……。もしかしてそういう。
「この気持ちおぬしに伝えるか迷ったんじゃ。おぬしは忙しいじゃろうし、他にもやることはいっぱいある。だが……もうこの気持ちを隠すわけにいかない」
「い、いきなり何よ。そ、そんなのもう言ってるようなものじゃない!」
真面目な顔をし、耳を貸せと呟くクロス。恋心に浮かれている私は言われるまま髪をかき上げて耳を差し出す。
そっとクロスの側に寄った。
そしてクロスは一言呟いた。
「――えっ」
甘い言葉を期待していたのに、放り込まれた言葉は私の頭の中を真っ白にするものだった。
そして時間は遡り、事態は放課後になった頃に遡る。
ラブコメパートは終わり、少し雰囲気が変わります。