062 学園生活
授業が終わってある一仕事を終えた後、儂は再び生徒会からのお仕事をこなしていた。
朝の内に学園祭用の荷物が大量に届いており、それらを効率よく各部屋や各部活を行っている部屋に届けていく。
学園祭向けて出し物を行う部活動も多く、それらのために購入された備品を届け先に納めていく。
備品の入った箱には発送伝票が張られているが中身はちゃんと書かれていないことが多い。しっかり書かれているのは届け先だけだった。
これだと間違えるのも納得じゃ。昨年は大変じゃっただろうな。今年は儂が運んでいるのでミスはない。
運び屋として仕事を経験しているのでだいたいの中身は予想がつく。いや、予想をするのが楽しみというのがある。
今運んでいる先は球蹴り部の部室。中身は恐らく三角コーンじゃろうか。
さっそく部室に入ってみる。
「生徒会からお届け物じゃ。受け取ってくれい」
「よぉー、生徒会! ありがとな」
球蹴り部の主将に箱を渡し、一緒に中身をチェックしていく。
やはり予想通りのものが入っていた、
「ねぇねぇ、生徒会さん。来週、試合があるんだけど……どう? 出てみない」
「あんたの動きだったら活躍できると思うぜ。どーよ」
「仕事の兼ね合い次第じゃな。また連絡させてもらおう」
短期入学のため儂の名前を知っている生徒はほとんどおらず、生徒会の手伝いをしていることから儂は皆から生徒会や生徒会さんという名で呼ばれておる。
会社名で呼ばれていると思われたらわかりやすいか。
シャルーンから証明代わりに渡された生徒会役員の腕章をつけているのが一番の理由だ。
球蹴り部の部室を出て、次の所へ向かう。その通り道。
「あ、生徒会さん、この前は手紙の配送ありがとね! 助かったよ」
「うむ、お役に立てて良かった」
校舎をまわっていると困っている生徒達を見かける。
本来の運び屋の仕事であれば金を取らればならんが、今の儂は生徒会の役員でしかない。
当然生徒会長の名代にして様々なお手伝いに精を出した。
「おーい、生徒会さん」
「む? 鍛冶研究部の小娘か」
まだ若いのに見所のある若者達じゃ。
この学園は文官コースもあり、その授業の中には商業系の授業も存在する。
魔物が蔓延る現代において、武具というものは非常に重要なのじゃ。
「ちょっと分からないことがあるんだけど、この前教えてもらった金属の製錬方法なんだけど」
「ふむふむ」
何か今までにない画期的な製錬方法を学園祭で発表したいと言っておったので、130年前に王国に滅ぼされて失ったとある国の製錬方法を授けてやることにした。
儂がこの生で行いたいのが技術の伝承じゃ。
知識有効活用できる若者に自分の知恵を伝えていきたい。
あのリドバ・ポンポーティルのような若造ではなくてな。
「ありがとー! でも凄いよね」
「ふむ?」
「生徒会さんの知識って全部シャルーン様から教わったんでしょ。あの人、万能だから納得しちゃうなぁ」
「そうじゃな。王族ゆえにその知識も得ておるんじゃろう」
儂の名において知識の伝承を行うと面倒なので全てシャルーンから教わったということにしている。だって儂から教わったと言われて、何かあったら面倒なんじゃもん。
これで生徒達が一つも疑問に思われないのが才女シャルーンの凄い所じゃろうか。
生徒達の尊敬が生徒会長へと向かって行き、シャルーンの株が上がっていく。
儂はさらに良いことをしているんじゃなかろうか。これは褒められてしまうな。
他にも工芸品の作り方、魔獣の絞め方、細工素材の錬成など様々な文化部の生徒に聞かれ、武術関係の部活動の生徒達にも武器の扱い方など知見を求められることが増えていった。
運び屋としてたくさんの荷物を学園の中のあらゆる場所を巡って届けていくついでに。届け先で悩み事を聞いて、それの解決ために奔走する。
若者のために働いていることが本当に楽しかった。今となってはもう……儂以上に学園を知るものはいないんじゃと思うほどだ。
ただ一つ思うのは本来215才である儂ではなく、15才の自分がその場にいたかったという想いだった。
200年前は今よりさらに世界は混沌としていて、戦乱にまみれておったわい。
今が平和とは言わんが……、今のような時代に本来の15才として過ごしたかったと思う。
「はっ! ふっ……」
仕事を終えたので生徒会室へ戻ろうした時、広場でジュリオが木刀を持って汗を流していた。
近くで女子生徒達が羨望を送っているようだ。
顔立ち整った男子の姿にうっとりしているのだろうか。
「夜も訓練しておるんじゃ。オーバーワークをしてはいかんぞ」
「クロス。君は運び屋の仕事中かな?」
「左様」
ジュリオは素振りを止めて、儂の方に視線を向けた。
最近は学園祭の決闘会に向けてジュリオと夜間トレーニングを行っている。
個体値を上げる特訓や努力飴でジュリオの戦闘能力は飛躍的に上昇。あとはシャルーンにも手伝ってもらい、実戦的な勘を養っている。もはや訓練開始直後のジュリオとは別人じゃ。
「僕は強くなっているのかな」
「始めはまったく手が届かなかったのに最近はシャルーンと剣で打ち合うくらいには腕を挙げてるじゃろう」
「そうだけど……。夜やったことなんて基礎トレーニングと実戦練習と」
「努力飴によるドーピングだけじゃろ」
「自分の体が薬で強化されているんだなって実感してるよ」
3週間で決闘会に勝つ力を手に入れるために小手先の技術より、ステータス値をアップさせる方がてっとり早い。勝利したければレベルを上げて物理で殴れ。
「スティラなんかずっとレポート書いてるけど絶対僕で治験してるよね!」
「薬師はデータ取りをせねばならんのじゃよ」
儂の薬の知識を吸収し、スティラはとんでもない薬師に変貌しようとしている。
いつか薬神と呼ばれる存在になるかもしれんな。
「そんなに嫌ならドーピングポーションがあるぞ」
「ムキムキは絶対やだ」
「男性の治験はできたから女性の治験データを求めてるんじゃぞ」
「僕は男だもーん」
そんな可愛いらしくウインクする男がおってたまるか。
冗談と雑談を終え、儂はジュリオの側を離れた。生徒会室へ向かい歩みを進める。
生徒会室の中に入るとシャルーンがソファに座って寝そべっていた。
机の上には書きかけの承認書類が並んでおる。おそらく仕事疲れの仮眠といった所だろうか。
しかし枕もせずに寝転んで、制服が少し寄れてしまっておるぞ。
生徒会室に入ってくるのは儂の知り合いぐらいなのでシャルーンのこんな姿を見ることはないと思うが。
「よく眠っておるな」
頑張ってるお姫様にできることがあるじゃろうか。
前話はたくさんのいいねをありがとうございます!
来週から盆休みなので書き溜めて頑張ろうと思います。夏バテでストックがちょっとやばくなってきました……。
でも頑張ります。





