061 両手に華
ブロコリがいわゆるゴリマッチョという形態となり、クラス中が大混乱になって数時間。
そういった縁で仲良くなったこともあり、儂とジュリオ、ブロコリの三人で授業を共にすることが増えていった。
美少年とゴリマッチョとごくごく一般人の儂。何とも奇妙な関係に思える。
今も昼食をカフェテリアと呼ばれる食堂で取るようにしていた。
しかし王都の学校の食堂は凄いのう。人も多ければメニューもたくさんで何とタダ。
学費に食事代が含まれてるんじゃろうが……この美味さで無料は凄い。
「ジュリオ、今日はあまり食わないのう。食欲がないのか」
「食欲がないわけではないんだけど……ちょっと気まずくて」
「何の話だい?」
「君のことだよ!」
ジュリオは体型が変わって大量に飯を食うようになったブロコリを指さす。
「その、何で半裸なの! 気になって気になって仕方ないんだよ!」
「フハハ! 僕が着れる制服は特注しないと無いからね! すぐには来ないんだ」
「それは仕方なかろう。ブロコリ、寒くはないか?」
「筋肉のおかげでね。全然寒くないよ! ムキィッ!」
「ブロコリは随分明るくなったね……」
ブロコリはムキィと半裸でポージングをする。
儂のドーピング理論は完璧じゃな。筋肉を急成長させ、理想な仕上がりになっておる。
「上半身裸は目のやり場に……」
「フハハ、もうジュリオくん。男同士なんだから気にしなくていいよ。あっはっはっは」
「うぅ」
「ジュリオくんもドーピングポーション飲もうよ! 二人で半裸になって筋肉を究めてみないかい」
「死んでも嫌」
ジュリオが女であると知ってるのは儂とシャルーンとスティラの三人だけじゃからな。
3週間で去る儂とスティラはともかく、女バレはなるべく避けてやらんと。
うーんでも女子が飲んだらどんなマッチョになるんじゃろう。
シャルーンにも奨めてみるか。
「ちょっとここいいかしら。席が空いて無くてね」
耳心地の良い女の子の声に自然とそちらに視線がいく。
シャルーンとスティラの二人がランチを乗せたお盆を持っていた。
昼時のため食堂は混雑しており、儂らがいる円形のテーブルにはスペースがある。
儂の両隣に分かれて、シャルーンとスティラは座る。
「急に視線が集まってきたな」
「あはは……シャルーンさんって本当に目立ちますから」
まわりの生徒達がちらりとシャルーンの方に目を向ける。
あまりにたくさんの視線が集まるので感覚が鋭敏な儂は正直不愉快な気持ちになる。
シャルーンは気にもしていないようだった。
「もう慣れっこなんだね」
「子供の頃からだからね。見られても問題ない振る舞いをしていたらいいのよ」
それはなかなか難しい気もする。
王族とは大変じゃな。儂は絶対になりたいと思わん。
シャルーンがじっと眺めていたブロコリの膨れ上がった腕に手を触れる。
「ひゃっ! な、なに」
「昨日の夜は用事で付き合えなかったから授業で見てびっくりしたけど、本当に引き締まってるのね」
「あ、あの……」
シャルーンに近寄られ、ブロコリは顔を真っ赤にして沈んでしまった。
大柄な体を縮こまらせてもゴリマッチョなのは変わらない。
「どうしたの?」
「照れておるんじゃよ。おぬしは自分の美貌が同い年の異性には刺激が強すぎることを気づいた方が良い」
「そうなのよね。同い年の男子ってグイグイ来るか、まったく近寄ってこないかのどっちかなの。ねぇジュリオはどう思う?」
「なんで僕に聞くの……。分かって聞いてるでしょ」
ジュリオはそっぽを向いて追求をさける。
ブロコリの腕から手を離し、今度は儂の腕に触れてきた。
「じゃあクロスはどうして照れないの?」
「どうしてじゃろうなぁ」
シャルーンはぐいっと儂に顔を寄せ近づいてくる。くっついてしまいそうな距離じゃ。
確かにシャルーンは絶世の美女だと思うし、ブロコリのようにまともに話せない男子がいてもおかしくない。
だけど……やっぱり儂からすれば孫同然じゃな。孫に照れるか? 照れるはずがない。もちろん愛らしくも可愛らしくも思うがな。
「……むぅ」
シャルーンが顔を紅くしてそっぽを向いてしまった。
「なぜおぬしが先に背けるんじゃ」
「……いじわる」
「そしてなぜ今度はおぬしが腕を引っ張る」
隣のスティラが儂の腕を引っ張ってきた。
「……学園はシャルーンさんのフィールドだと思いますけど、わたしだっているんですから。ちょっとぐらい構ってほしいです」
なんだかスティラが急にアピールし出して何だというのか。
腕を胸に押しつけられても儂は何も感じんぞ。
「あ、そういうことなんだ」
ジュリオがいきなり声を挙げた。
「ブロコリ、僕達は先に出ようか。ほらっ」
「へ? あ、うん」
ジュリオとブロコリは席を立つ。
「儂も食べ終わってるし……」
「クロスはちゃんとどちらかを選んでから来た方がいいと思うよ」
「何を言っておるんじゃ?」
二人に捕まれているせいで立つことはできず、ジュリオとブロコリは言ってしまった。
薄情な友人達じゃ。うむむ。
立って追いかけたいがシャルーンとスティラが離してくれぬ。
「ねぇクロス。昼前の授業でね」
「わたし達、調理の授業だったんです」
「そういう授業もあるのか」
でも確かに食事というのは戦いをするからこそ大事とも言える。
いつでもどこでも作れるようにすることは決して損ではない。
シャルーンとスティラは各々の包装袋を取り出した。
「それは?」
二人が開いた袋の中身はクッキーであった。
シャルーンは星形で、スティラは○△など図形を模様している。
調理の授業で作ったものなのだろう。
「クッキーって初めて作ったから形はいびつなんだけど」
「せっかく作ったので食べて欲しいなと思いまして」
「うむ」
腕をがっちりと捕まれていて逃げ出すことはできない。
二人の美少女が指でクッキーをつまんで儂の口に向けてくる。
「さぁクロス」
「どっちのクッキーを先に食べるんですか?」
とても逃げたい気分にさせられる。最近この子達、儂にグイグイ行きすぎじゃないか。まったく……儂という年上の風格に憧れる気持ちは分からぬくもないが。所詮は憧れ、無意味なもんよ。
あと羨ましがられているのかこの光景を見て、血の涙を流す男子もおるし、儂が悪意を持たれておる気がする。
クッキーを口に押しつけるでない。最近、この若さについていけてない気がしてきた。
なるべく若い頭のつもりじゃが体と心の年齢が一致してないのはつらいのう。
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