060 力を解放して(※ジュリオ視点)
「い、今永遠って言わなかった?」
僕はその言葉に信じられず口を挟んでしまう。
「言ったぞ。正確には半永久じゃな。鍛錬は怠れば筋力は落ちるからゆるゆるにはなるかもしれぬ。でも問題はなかろう」
「いやいや駄目でしょ! 小柄だったのにゴリマッチョになったらみんなびっくりするよ! だって体格全然違うし! 完全に別人じゃないか! ブロコリもまずいよね」
ブロコリは手鏡を持って自分の姿を眺めていた。
「僕、カッコイイ」
「ウソでしょ!?」
「僕、小柄で弱々な体が大嫌いだったんだ。こんなムキムキになれて最高かも」
良かった良かったとクロスとブロコリが笑い合う
男子ってそれでいいんだ。
完全に別人になってるけど! 髪色や筋肉だけじゃなくて身長とかも伸びてるからね。
親御さんびっくりするんじゃないだろうか。
「ふわぁ……何かすごく眠くなってきた」
「ドーピングの作用で体が疲れたんじゃろう。早く休むといい」
「じゃあ……また明日ね」
のしのしとそのままブロコリは帰って行く。
彼にもルームメイトがいるはずだけど、変わり果てた姿を見て……どうなるんだろうか。
「よし、じゃあ次はおぬしじゃ」
「え」
ポンとクロスは僕にドーピングポーションを渡してくる。
多分男女関係なく、これを飲んだらムキムキゴリマッチョな体を手に入れることができるんだろう。
そうなれば……決闘会もきっとごり押しで優勝することができる。
没落してしまったペスターレ家を再興させるためにどんな手でも使うって決めた。
だから……!
「僕はやめます」
「なぜじゃっ!? おぬし、強くなりたくないのか!」
「無理でしょ。ねぇスティラ。これ……飲める?」
「死んでも嫌です」
めっちゃ笑顔で断ってくる件。作ったの君だろ!
卒業したら女に戻る予定なのでドレス着れなくなるくらいムキムキになるのはさすがに無理だよ!
クロスにその後も説得されたが、同じ女の子のスティラも僕の立場に立ってくれ、僕のムキムキドーピング計画は無しになった。
そして翌日。
「ブロコリの野郎、まだこねーのかよ!」
今日は一限目から男子だけの武具修練の授業となる。
ブロコリはまだ来ていない。いじめの対象がいつまで経ってもこないことにヒストールは怒りを溜めていた。
昨日までの彼が現れたらきっと……ボコボコに折檻されてしまうのだろう。
けど。
「ごめん、寝坊して遅刻しちゃった」
「おせぇぞコラっ! ぶふっ!」
ぞよっと男子一同はびっくりする。
小柄でなよなよしているはずのブロコリがゴリマッチョの大男に変貌していたからだ。
声は間違いなくブロコリのままなので誰かは分かっていたけど全員がその変化に焦る。
僕とクロスはその様子を遠目で見ていた。
「初見じゃなくてもびっくりするよね」
「2限目は男女合同じゃから、また騒ぎになるじゃろうな」
「な、何があった」
「どうしたのヒストール。変な顔をして。僕はブロコリ、何も変わらないよ」
「完全に別人じゃねーか! こ、声は一緒だからブロコリなのかよ」
「フハハ、僕と修練しようよ」
ブロコリはヒストールよりも身長が上回ったので、上から威圧するように声をかけていた。
「っ! てめぇ……。随分イキったマネをしやがって。そんな見せ筋で俺に敵うと思ってんのか!」
ゴリマッチョで巨漢相手だがブロコリである以上ヒストールに逃げる選択肢はない。
ヒストールとブロコリは向かい合う。ヒストールは木刀を手にブロコリに斬りかかった。
「死ねぇぇぇっ!」
「ふん」
しかしブロコリは片手でその一撃を受け止めてしまう。
その力は圧倒的だった。
「ぐぐぐぐ……」
「なんだぁ。その力は」
ヒストールは両手で力いっぱいを木刀を動かすが、片手のブロコリに勝つことすらできない。ブロコリは腕を持ち上げる。そのままヒストールは宙に浮いてしまい、バタバタ足を動かしてしまった。
「はぁっ!」
ブロコリはバキッっと木刀を握りつぶしてしまう。
「ひぃっ!」
ばたんと地面に尻をついてしまい、情けない声を出すヒストール。
パワーの差は歴然だだった。
「その程度のパワーでオレを倒せると思っていたのか?」
「ば、ばけもの……」
「オレがばけもの? 違う……オレはあく」
「しっかりせい」
「あいたっ!」
いつのまにかクロスがブロコリの後ろにまわっており、叩いて我に返していた。
ブロコリは時々別の人格が宿ってるような気がしなくもない。
「ブロコリ……儂とやるぞ。まだその体に慣れておらんじゃろう」
「うんっ!」
それからクロスとブロコリは対人戦を開始した。
ブロコリの圧倒的なパワーに対して、クロスは見切るように避けていく。
ブロコリは強い。でもクロスはさらにそれを上回っていたのだ。
「なんなんだよ、こいつらは……」
クラスの男子最強を思われていたヒストールは面目が丸つぶれとなる。
今までヒストールが一番強かったから誰も逆らえていなかったがブロコリがいる限り、ヒストールはもう暴挙に出ることはないだろう。
男子にまとまりがないって嘆いていた先生の不安も、シャルーンの見えない男子のいざこざに対する不安も全てクロスが解決してしまった。
まぁ完全に力技だったけど……。良い方向に繋がったのは間違いない。
これだったら彼のことを信じてみてもいいかも。
修練を終えて、戻ってきたクロスが僕の所に来る。そして笑顔を見せた。
「ジュリオ、やはりおぬしもドーピング」
「ぜったいヤダ」
僕も笑顔でそう返した。
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