058 強くなるためには?(※ジュリオ視点)
私……じゃない、僕の名前はジュリオ・ペスターレ。
王立学園の騎士学科と文官学科を受けている一年生。
ペスターレ家の再興のために男と偽って入学し、何とかこの学園で学業褒賞を手にしたいんだけどなかなか上手く行っていません。
ただ……彼がルームメイトになってから風向きが変わったように思います。
クロス・エルフィド。淡色の髪を持つ、優しい顔立ちをした男の子です。
その優しい顔の彼と出会って速攻、押し倒されて、胸を触られ、服を剥ぎ取られ、女の子であることがバレて、散々な目に合いました。
あれ? 僕の扱いひどすぎない。
でもその縁で天上の人と思っていたシャルーン王女と親しい関係になれ、彼と関わることで僕のまわりが大きく変化しているように感じます。
今日から訓練開始です。
3週間後に来たる学園祭の決闘会に参加し、優勝するための修行が始まるのです。
優勝できれば王女シャルーンの婚約者候補になれる。
実際に結婚することはないけど、唯一の婚約者候補ということで王家と縁ができるのは大きい。男爵家としてこの上ない名誉になると言える。
何としても優勝したい。
一応シャルーンがミスコンに出る代わりに特別賞を与えてもいいって言われたけど、男装してるのにミスコン出て勝利するのは何か違う気もするので保留としてもらっています。
何かそれだと女子のままで良かったじゃんってなりそうだし!
僕は剣術の才能はB、魔法の才能も計ってないけどB相当はあるんじゃと言われています。決闘会は1対1で勝ち抜いていくトーナメント制。
この学園ではあらゆる所から人が集まるので決闘会に出るような生徒はだいたいB以上が相場です。
才能と体格はリンクしていないので、体格に劣る僕は正直不利で今のままだと間違いなく僕は1回戦で敗退です。
でもクロスが3週間で優勝できるように鍛えあげると言っていたので乗っかろうと思います。
普通だったら無理だと思うけど……彼があれだけ自信を持っているんだ。何か策があるに違いない。
それに僕だって男のフリしてこの学園に来てるんだ。覚悟はある。どんな手を使ってでも……強くなってみせる。
夜、誰もいない校舎の裏の広場で僕とクロスはいる。
「さて、さっそく始めようか。時間も限られているからのう」
「うん」
「ではジュリオ。手っ取り早く強くなるにはどうすればいいと考える」
月夜に照らされる中、クロスはゆっくりとした口調で聞いてくる。
「そりゃもちろんトレーニングだよね。量だけでもダメで、効率の良いトレーニングが必要だよね」
「左様。鍛錬は体を裏切らない。強くなるにはひたすら鍛錬するしかない」
「だから今回も鍛錬を続けるという形になるんだね」
「あくまで鍛錬とは地道に続けていく方法じゃ。短期間で強くするには適しておらぬ」
クロスが腕を組み、叫ぶ。
「つまり鍛錬など無意味じゃ!」
何かいろいろ台無しな発言な気がするけど、気にはしないでおこう。
「さて……強くなりたいおぬしのために彼女に力を借りることにした」
陰から現れたのは綺麗なツヤのある青髪に帽子を被った美少女。
クロスと同じ短期入学したS級薬師。
「スティラです。クロスさんのお手伝いでジュリオさんに薬の力を授けたいと思います。宜しくお願いしますね」
「く、薬!?」
「おぬしをヤク付けにしたいと思う」
「犯罪じゃん!」
多分言い方が悪かったんだよね!
薬物関係は当たり前だけど王国では犯罪だ。
薬担当のスティラがいる手前、本当に違法薬物を使うとは思えないけど。
「これは儂が長年の人生を費やして研究をした理論じゃが」
「クロスって僕と同い年の15才だよね」
「15才じゃが」
15年で人生を費やす研究って評価するのはどうなんだろうか。
「能力を計る指標としてこの世には種族値、個体値、努力値というものがある」
「それ……クロスが考えたの?」
「そうじゃが。他で聞いたことがある言葉かもしれんが別物と思ってもらおう」
僕じゃない他人に言っているようだ。
「まず種族値。人の才能に関わる所じゃな。成人の式の時に神器で計測できる才能のランクと同じと考えて良い。人それぞれに成長曲線があり、才能によってそれは大きく変わる」
「分かりやすいよね。シャルーンやヒストールは多分、かなり才能……クロスが言う種族値が高いという理解でいいのかな」
「うむ。ゆえに種族値を伸ばすことはできん。この力は生まれ持ったものと考えた方がいい」
「種族値は変えられない。つまり他の個体値や努力値は変えられるって理解でいいのかな」
クロスはにやりとして頷いた。
「個体値は人それぞれの潜在能力を指す。潜在能力をフルに発揮できれば極めて短期間で能力が向上する。儂はフルになっている状態を6Vと呼んでいる」
「……6V」
「ちから(攻撃力)、まもり(守備力)、たいりょく(HP)、ちりょく(魔法攻撃力)、せいしんりょく(魔法防御力)、まりょく(MP)、すばやさ。この7項目があらゆる人間に備わってるステータスと呼ばれるものじゃ」
「ステータス……。あれ、7項目ない? だったら7Vじゃ」
「うるさい6Vでいいんじゃ」
怒られた! そもそもVってなんだろうか。
「最後に努力値。成長した時に稀にボーナスという形で先述の7項目のステータスが例外的にアップすることがある。それは特殊な戦闘をこなしたり、特別な食事をしたりと千差万別」
「種族値での成長とは別での成長ってことかな」
「左様。そして儂は長年の研究で意図して努力値を加算させることに成功した」
クロスは懐の小さなバッグから小さな何かを取りだした。
「これが全ステータスの努力値をアップさせる努力飴よ!」
名前は非常にダサい。クロスから白く光った飴を渡された。
「これを1日1錠飲めば……おぬしの全ステータスは1ポイントずつアップしていく」
「じゃあ……大量に飲めば」
「20才くらいになるまでは1日2錠飲むと負荷が強すぎて、全身から血を吹き出すからやめとくんじゃぞ」
「怖いよ!?」
なんてとんでもないものを渡してくるんだ!
でもクロスの理論が本当だったら決闘会までの3週間、飲み続ければ相当ステータスがアップするに違いない。
正直1上がってどれだけ強くなるのかよく分からないけど……。
個体値を上げる特訓ってやつも合わせればかなり強くなるのかな。
「クロスもこの努力飴を飲んでるの?」
「ああ」
クロスは笑った。
「儂は1才半から飲んでおる。飲めなかった日もあったが数えて5000錠以上飲んでいるのは確実か」
さすがにやりすぎなのでカットしたやりとり。
「他にもこの別の飴をなめれば成長の補正を変えることができる。例えばこれならちからの補正を上げる代わりにちりょくの成長率が下がる」
「なるほど……魔法を使わない人なら効果は絶大だね」
「ただ副作用として性格がいじっぱりになる」
「洗脳じゃん!?」
どっかで見たような言葉を並べましたが実際に今後使うのは努力飴の話だけなので他のネタはギャグと思って流してください。
一から設定組むより流用した方が分かりやすいかなって思った次第です。種族値と個体値の意味はあえて変えてます。
さて、次からがこの章で書きたかったお話の一つです。
 





