054 女子の戦い
「男子は決闘会、女子はミスコン。これがこの学園の二大イベントなのよね」
そういう絡みになるんじゃな。
男は武を女は美を。このフィラフィス王国ではそういう文化が根強く残っている。
国ごとの特色といえばその通りだが人によっては生きづらさを感じてしまうのだろうな。
前世200年で世界中を旅をしてきたからいろいろ思う所はある。
「み、ミスコンだなんてわたしには無理ですよ! 可愛くないですし」
「可愛いわよ。ね、クロス」
「うむ。スティラは本当に可愛いと思うぞ」
「え、えへへ……そんなことないですよぉ」
「チョロいね」
ジュリオよ。声が大きい、もう少し小さく言わんか。
「スティラに出てほしいのには理由があってね。今、王立学園の女子は二分してるのよ」
「二分?」
「三年の上級貴族同士が親の家の関係で仲が悪くて派閥争いがあってね」
貴族あるある話じゃな。
「それでミスコンで決着をつけるって話になってるのよ」
「決着をつければいいんじゃないか?」
「そんな簡単な話じゃないの。勝った派閥が負けた派閥に対して優位性が生まれるのが問題なのよ。そんなものが出来たらこれからの火種になりかねないわ」
さらにシャルーンは続ける。
「表立って仲が悪いのは三年の二人だから、今回ミスコンで決着がつかなければそのまま卒業して流れて、派閥争いが小さくなる可能性が高いの。だから派閥に所属していないスティラに出て欲しい。もちろん王族としてバックアップはするから」
「責任重大ですよ……」
「そもそもおぬしが出たらいかんのか?」
「私も特別ゲストで出るのよ。私が出たら王族贔屓になるからミスコンの意味ないでしょ」
今のシャルーンの人気を考えれば当然じゃな。間違いなく投票の全てが取られるからミスコンの意味がない。
殿堂入りという別枠が必要というわけだな。
「あの……審査ってもしかしてきわどい格好とかするんじゃ」
「そうよ。男子は好きだもん」
「む、無理ですよ! わたしスタイル良くないですしっ!」
全員がスティラの胸に視線を向ける。そしてあえて突っ込まないことにした。
「男性票は稼げそうじゃな」
「あとはどうやって可愛らしくするかよね。そこは王家専属のスタイリストに任せるわ」
「わたしの意見が……。他の方とか先ほど会ったファリナさんやメールさんはどうなんですか?」
あの二人も十分に美少女と言える。その言葉にシャルーンは首を横に振った。
「ファリナは貴族令嬢だから本人が嫌がってるけど派閥に入ってて、出ちゃうと意味がないし、メールは侍女でもあるから上級貴族には逆らえないの。だからしがらみのないスティラに出て優勝してもらうのが一番!」
「はぁ……分かりました。お手伝いするって約束しましたし。でも勝てなくても怒らないでくださいね」
「スティラなら大丈夫。私も側にいるしね。それにもう一人枠を用意してるから」
「へぇ、それは誰なんだい?」
ジュリオはそんなとぼけたことを言うが、この流れでなぜおぬしがそこにいるか考えておらんのだろうか。
そして皆の視線に気づき、慌て始める。
「も、もしかして僕を出させるつもりなの!」
「あなた、知らないと思うけど女子人気高いのよね」
顔立ち良しで美少年の雰囲気をもっておるからのう。
実際は普通に女の子じゃが。
理由の知らないスティラにちらりとジュリオの本当の性別を話して、えーっという反応をされる。
まぁ儂らは3週間だけの通学なのでバラしても問題ないだろう。
「僕は男だから出ることはできないよ」
「そういうのいいから出なさい」
「理不尽だね!?」
スティラよりもばっさりと切られている気がする。
拒否権はないのかもしれない。ジュリオの場合は色気のある格好より女受けのする格好の方がよさそうじゃが、ただミスコンの性質上女の色気も必要と思える。
「男子人気をスティラが取って、女子人気をジュリオが取る。そうすれば票数がバラけて派閥の女子達が勝つ可能性は低くなるの」
「意味は分かるけど……。でも僕は決闘会にでも出るし、もしバレたりしたら……」
「大丈夫よ。ミスコンは公平性を保つために名前は出さないから。女の子好みの女装をすればあなたなら勝てるわ」
「あれ、おかしいな。男子のフリして入学したのに女装してミスコンに出るなんて本末転倒じゃないかな」
ちょっと哀れな気がする。
どこか呆けた顔をするジュリオとスティラから距離を取るため一歩下がる。
しかし、その行動はすぐに気づかれてしまった。
「うん、クロスさんも女装して参加しましょ」
「そうだね。それがいいよね」
「おぬしら……現実逃避でむちゃくちゃなことを言うでない」
シャルーンも乗ってきて、あやうく女装させられそうになったのは秘密である。





