052 女子に囲まれて
シャルーンはジュリオの正体を知っているはずじゃが。
「クロスさんはやっぱりノート取るのお上手ですね。薬師だから分かります」
「レシピをまとめたりせんといかんからな。おぬしは……今時じゃな」
スティラがまとめたノートを見せてくれたが、色ペンを使って綺麗に描かれており、若者のノートという感じがする。黒一辺倒の儂とはまた違うな。
「今日の放課後、スティラと一緒に来て欲しい所があるの」
「仕事の話じゃな?」
「ええそうよ。ジュリオ、あなたも手伝ってほしいの」
「僕も?」
「あなたを見てピンと来たっていうか……。損はないはずだから」
シャルーンは儂らと別々のことを頼もうとしているのかもしれないな。
まぁ良い。金を稼ぐ以上はちゃんと仕事をする。それが社会人というものよ。
そのときだった。
「姫様ぁぁっ!」
がらりと教室を開き、シャルーンの友人で貴族令嬢であるファリナが現れた。
シャルーンの後ろから抱きつこうとして、すぐさま避けられる。
「むむむ、……逃げるなんて悲しいですわ」
「また人の胸を触ろうとしてたでしょ。目線で分かったわよ」
確かに。ファリナの視線はシャルーンの豊かな胸に向いていた。
はじめからそれを狙った動きだったに違いない。
「それで……メールはなぜ落ち込んだ表情をしてるんじゃ」
同じくシャルーンの友人で侍女でもあるメールは後ろから沈んだ顔でシャルーンを見ていた。
「姫様の部屋から追い出されたのです……しくしく」
「3週間だけだから! スティラと一緒の部屋にしたくて……何度も言ったじゃない!」
なるほど、シャルーンは元々メールと同じ部屋だったがそのような事情で今回スティラと一緒になったのか。スティラも苦笑いしているじゃないか。
儂はジュリオを見る。
「おぬしは儂が来るまで誰がおったんじゃ」
「……ちょっと前までルームメイトがいたんだけど、僕と一緒だと情緒がおかしくなるって言われて逃げられちゃったんだ。何がいけなかったのかなぁ」
可愛い女が男のフリしてるのが問題なのだと思うぞ。
本人に自覚がないのが一番まずいな。やはり早急に体型を変える術を授けた方がいい気がする。
「あら? わたくしと一緒の部屋になったんですし、良いではありませんか」
「だってファリナさん……すぐ抱きついてくるし、身の危険が!」
「仕方ありませんわ。わたくし、美少女が大好きですもの」
「ジュリオ。おぬしはアレを参考にするといい。中身はおっさんじゃ」
「無理だよ……」
ファリナは初見なのかスティラをじっと見つめる。
美少女が好きなのであれば当然スティラもその枠に入るのは間違いない。
「スティラさんですわね? ちょっとよろしいかしら」
「え? は、はい。よろしいです……」
その瞬間、ファリナはスティラの背後にまわっていた。
恐らくこの動きを見切れたのは儂とシャルーンぐらいじゃろう。
スティラはまだ気づいておらず、ファリナの両手はその豊満な胸に突き刺さる。
「ひゃああああああっ!」
しっかりと揉まれ、淡い悲鳴を上げるスティラ。
当然クラス中の視線を浴び、男子達の股間がつらくなる光景となる。
儂はぴくりもせんがな。
「こ、これはなんて柔らかくボリューミィ。姫様の胸も弾力があって素晴らしいですが!」
「私のは言わなくていいわよ!」
「あん……ちょ、きゃははははっ!?」
次はそのままの流れでスティラの脇腹がくすぐられる。
「ほほぅ、姫様と同じくらい敏感ですのね。とても素晴らしいですわ、この笑い声をBGMでご飯を食べたい」
「そこだめ、お、おなかはらめなのぉ……!」
「ここですわね。右脇腹……うふふ。ほんと可愛いですわぁ。おなかをほれほれ」
「やぁっ!」
スティラは耐えきれず、倒れ込んでしまう。
倒れ込んだまま逃げようと足掻くために制服のスカートがひらり。
「ひゃ、ひゃっ、ひゃめぇっ」
「ほら、ファリナ。それぐらいにしてあげなさい。男子の視線もあるんだから」
「あらあら、男子の皆様。股間を押さえてどうしたのかしら」
わざとらしく言うが男子達は必死に押さえていて何も言うことはできない。
「でもクロスさんとジュリオさんは平常ですのね。これだけの美少女が乱れたのに……どんな精神ですの」
「あはは……。可愛かったけどね」
「同じくと言っておこう」
ファリナはジュリオに視線を向ける。
「うぅん、わたくしジュリオさんにも手を出したいって思ってしまいますの? なぜ……? 男性にはしないって決めているのに」
「ひっ」
「ジュリオ、冷や汗を拭くがいい」
儂はハンカチをジュリオに渡してやる。
このファリナという女、底知れぬな。
人を見る才能に秀でているのじゃろう。
「ひっく……ひどいですよぉ」
スティラが涙目で立ち上がる。
「あら、ごめんなさい。良ければわたくし受けもできますから! 仕返し上等どんとこいですわ」
「え、えーと」
「仕返ししたら倍返しされるから止めておいた方がいいわよ。私もファリナには仕返ししないって決めてるから」
「あん! わたくし、姫様とどこまでも重ね合っていたいのにぃ」
「仕返しをさらに返されて、気を失いかけるほど笑わされて後悔したわ……」
王国最強をノックアウトさせるほど手技。ちょっと興味はあるのぅ。
儂が女であれば伝授してほしかった気もする。
スティラが儂をじろっと見ていた。
「クロスさん、見ましたか!」
「何を?」
「み、見てないならいいです」
「紫色のパンツのことじゃったら気にせんでええぞ」
「ちゃんと見てるじゃないですか! 言わないでくださいっ!」
「とても可愛い下着でお尻も肉付き良くてたまらんかったですわ。ハァハァ」
「ジュリオ、おぬしやっぱファリナのマネをすべきだと思う」
「僕がやったら退学になる気がするよ」
そんなこんなでワイワイガヤガヤ会話が盛り上がっていく中、不快な視線を浴びせてくるもの達がいた。
そう、女子達に羨望の視線を向けながらも、そんな女子の園に気軽に話しかける男の儂に敵意を持っているクラスの一部の男子達だった。
うーむ、一波乱出てきそうじゃな。
 





