050 登校
「な、何度も言うけど僕のことは黙っていてくれよ」
「分かっておるわい。それに3週間しかおらんのじゃ」
早朝、寮で一晩過ごした儂はルームメイトのジュリオと登校の準備を始める。
今日の朝から授業に参加し、一人の学園生徒として過ごすのじゃ。楽しみではある。
「気になるなら体型を隠す気功を教えてやろうか? 女だとバレなくなるぞ」
「え、そんな方法があるの?」
「使いこなせば自由自在に体型を変えられる」
「それ教えて欲しい!」
いろいろあったがジュリオとは秘密共有がきっかけで親しくなったように思う。
儂としては同性の友人が欲しかったが致し方あるまい。
「ん? 表が騒がしいようだね」
男子寮の前がざわついていた。
複数の男子生徒が学園へ向かわず、じっと何かを見ていたのだ。
「すっげー可愛い子……」
「あんな子いたっけ?」
寮を出た儂らはそれが何なのかすぐに分かった。
女子の制服に身を包み、青色の髪をなびかせて、儂と目が合う。
洒落た帽子をかぶっており、儂の姿を見た途端目を光らせて近づいてきた。
「クロスさん!」
「スティラ、おぬしじゃったか」
儂の友人であるスティラ・ポンポーティルである。
彼女もまたシャルーンの依頼で3週間、この王立学園に短期入学することになっている。
普段は薬師としてローブを着ていることが多いのだが、今回は他の女子生徒と同じ制服に身を包んでおり非常に可愛らしい様相となっていた。
「すっごい可愛い子だね。年下にも見えるけど……、胸……あっ」
目を引く胸部は相変わらずと言ったところか。
複数の男子生徒達にじろじろ見られ、居心地が悪そうな様子だった。
「その……クロスさんを待っていたんですけど、何かじろじろ見られて恥ずかしいですね」
「初めてギルドに行った時もじろじろ見られてたと言ってなかったか」
「あれはS級薬師が理由でしたし、まわりの人も年上ばかりでした。でも……その興味とは違う感じがします」
その理由は一つじゃろう。
「この学園は同年代が通うから仕方あるまい。スティラの可愛らしさに皆、見惚れておるんじゃよ」
「か、かわっ!?」
「ああ、制服がよく似合っておる。とても可愛いと思うぞ」
「あ、あ、あ、ありがとうございます」
スティラは顔を真っ赤にしてもじもじしてしまった。
うむ、良いなぁ。初めての孫の通学を見てる気分でとても心地よい。
ふと、横を見るとジュリオが驚いた顔をしていた。
「どうした?」
「クロスって硬派な人と思ったけど結構可愛いとかはっきりと言うんだね。……意外というか」
「可愛いものを可愛いというのはおかしなことではないじゃろう」
「いや……普通はそんなはっきりと言えないと思う」
「ジュリオも目がぱっちりしていて可愛らしい子だと思うぞ」
「っ! ぼ、僕は男だから嬉しくないしっ!」
顔を真っ赤にさせおって可愛いのう。この年頃の子は男も女も性別関係なく可愛らしいもんじゃ。
20才越えたあたりからみんな可愛くなくなるからな。10代は儂に取ったら皆、子供。いいや、幼児同然よ!
もう一度スティラの制服姿を眺めている。
普段はローブ姿で足を隠しているのだが、今はスカートで晒されており白い肌がまばゆい。
「ちょっとスカートの丈が短いじゃないか?」
「そうなんです。シャルーンさんに準備してもらったんですが全体的に小さくて困る……」
胸まわりもきつそうで、ゆえに強調されているような気もする。
「男の人にじろじろ見られるから気が気じゃないですよぉ」
「あら、せっかく綺麗な体をしているんだから見せなきゃ駄目よ」
その元凶が現れた。さては隠れて見ておったな。
「シャルーンさんどこに行ってたんですか! 一人で男子寮の前に連れてこられて怖かったですよ」
プリプリと怒るスティラに元凶のシャルーンは緩く微笑む。
「ふふっ、ごめんなさいね。クロスがどんな反応をするか見たかったのよ」
「おぬしは楽しんでおるのう」
シャルーンが現れたことでさらに男子寮が騒がしくなった。
見た目が麗しい女子が現れると小僧は喜ぶもんじゃのう。
「私はスカートの丈が短い方が好きだけどね。足を見れば健康的かどうか判断がつくもの」
「でも中を見られたら恥ずかしいですよ!」
「今日のスティラの下着、すごく可愛いかったわよ」
「ちょ、言わないでください!」
「そうか。スティラはシャルーンと同じ部屋なのじゃな」
「うん、私が頼んだの。スティラといっぱい話をしたかったからね」
「儂もジュリオと一緒で良かったと思っているぞ」
「僕も……って言ってあげたいところだけど昨日いろいろありすぎてコメントできない」
ジュリオにとってはいろんな意味で転機な日になったかもしれんな。
鐘が1回鳴り、それが予鈴であると分かる。
そろそろここを出ねばならんようだ。男子生徒達も慌てて、校舎の方へ向かいだした。
「さぁ、教室に向かいましょうか」
儂とスティラは当然道が分からないのでシャルーンとジュリオに先導してもらい、寮から校舎までの道を歩いて行く。
120年前は他国を滅ぼしまくり、いろんな恨みを買っていたフィラフィス王国も安定期に入ったもんじゃ。この学園の雰囲気を見ればよく分かる。
この学園に通う若造達が笑顔で通学できれば良いな。
「クロスさん」
後ろを一緒に歩くスティラに声をかけられる。
「3週間楽しみですね!」
「そうじゃの。ここでしか学べないこともたくさんあるはずじゃ」
「それにクロスさんと一緒に過ごせることを……待ち望んでました!」
スティラは満面の笑みで可愛らしく振る舞う。
そんな様子に儂も自然と笑みが出てくる。
「うむ、楽しい学園生活になれば良いな」
 





