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005 旅立ちの時

 翌日。旅立ちの準備を終え、さっそく里の入り口に足を揃える。

 見送りには里の皆が勢揃いしていた。


 エストリア山の五合目に人口100名前後の集落、サザンナの里。赤子になった儂が15年過ごした場所じゃ。

 魔獣が蔓延る秘境地にある()()()()()()()()。じゃが、ここがなければ儂は今、生きておらんかった。

 動けるようになったらすぐに出ていくつもりじゃったが……案外生活は悪くなく、成人するまでこの里にいついてしもうた。

 215年生きて故郷を持つことの良さを知ることになるとはな。

 里の人、一人一人と話をして身近な親族を残すのみとなる。


「こんな日が来るとは思っていたが……やはり来るものがあるな。エレナなんて朝から泣きっぱなしだぞ」

「だって……クロスと会えない日が来ると思ってなかったんだもん」


「父上、母上」


 拾われた時はただの小僧と娘っ子と思っておった二人も今や父上と母上と呼ぶようになっている。血の繋がらない赤子であった儂に実子と分け隔て無く育てた親としての器に感銘を受けたのが理由だ。

 儂が今の体年齢相応の振る舞いをしているのは二人の子育てに報いるためでもある。

 この両親との暮らしが儂の前世200年の執着を捨て、クロス・エルフィドとしての人生を決定づけた。

 心の中では別の思惑もある。

 前世200年ではまともに親孝行できぬまま実の両親と死別したこともあり、儂は二人にできる限りの恩返しをしたかったのだ。

 成人してこの里を去るまでに儂ができることとして父上達が安全に暮らせるよう危険な魔獣を駆除することにした。


「これで安心して山に入ることができる。魔獣におびえる生活とは無縁じゃ」

「そうか。山での仕事は命がけだったからな。これで魔獣による被害は無くなるんだな」

「魔獣の危険が無くなっても……クロスがいなくなるんじゃ、私は寂しいよ」


 母上は寂しそうに涙ぐむ。


「エレナ。子供は成人したら一度は里を出て行くもんだ。俺だってそうだった」


 子煩悩な母上を父上は支える。


「でも……成人の式を終えてそのまま王都に行くなんて。ちょっとぐらい戻ってきたらいいのに」

「ちゃんと里帰りはするから母上、泣かないでくれ」

「うん……」


 子離れができない母上じゃが、その愛が嬉しかった。

 初めての子が死産で儂はその代わりじゃったが、十分に愛してくれたように感じる。

 前世で200年生きた人嫌いの儂が絆されるんじゃ。すごいものじゃよ。

 親の愛は儂の人生観を変えた。儂も人々に愛を捧げたい。そう思えるようになったんじゃ。


 もう一人涙ぐんでいる子がいる。


「にーにー、やっぱり行っちゃやだぁ!」


 儂に抱きついてくる金髪碧眼の娘っ子。

 元貴族令嬢の母上に似て、とても美しく、きっと将来は絶世の美女に成長するだろう。


「やれやれ、今生の別れではないんじゃ。ルーナ、もう12歳になるなら分かるじゃろ?」

「大好きなにーにーと一緒にいたい」 

「そう焦らずとも、おぬしも15歳になったら里を出るかもしれないんじゃぞ」


「なにっ! ルーナはどこにも出さんぞ! ずっとここにいるんだぁ」

「子煩悩の父上は黙っておれ」


 ルーナの儂の妹となる。拾われた儂と違い父上、母上の実子だ。

 血は繋がっておらんが本当の兄妹のようにかわいがってしまった。

 可愛いだけじゃなく、特別な才能も持っていることが分かっており、儂がその才能を見いだしてなければきっと一人の村娘として生涯を終えたじゃろう。


「ルーナ、おぬしの力は精進すればきっと世界の役に立つ存在となる。兄にもすぐ会えるわい」

「うん、ルーはサボらず頑張る」


 母上そっくりな金髪を撫でてやる。

 この里は世間から閉ざされてた秘境地なので大事になっていないが、いずれは世界はこの子を知ることになるだろう。

 成人するまではなるべく秘匿しておかなければならない。

 それも兄の役目だ。


 ルーナの側には幼馴染のテレーゼがいた。


「里のみんなを頼むぞ。儂が鍛えたおぬしならやれる」


 ただの村娘のこの娘も儂がおままごとのついでに鍛えたやったら儂を除いて村一番の猛者に育ってしまった。

 本人の将来の夢をカワイイお嫁さんと言っていたが、一年後外に出た時が楽しみじゃな。

 

「1年後、クロスくんを追いかけるからね!」

「うむ」

「変な女の子に捕まっちゃ駄目だよ! クロスくんの側には究極で可愛い幼馴染がいるんだからね! そしていつかは……お、お嫁さんに」

「そーじゃな」


 幼子に好かれるとは爺冥利に尽きるというわけじゃな。顔立ちは整ってるんじゃ儂が外の世界で結婚相手を探してやるとしよう。


 最後にまた父上と母上が前に出てきた。

 さて、出発の時間じゃ。


「クロス、成人の式がある水の都までかなり距離があるが魔獣車は使わなくていいのか?」


 下山をしてから都までは乗り物を使ってもかなりの道のりとなっている。

 それなりの金がかかるが、費用は里のみんなが捻り出してくれていた。


「その金は来年のテレーゼのために使ってやってくれ。儂はそんな必要ないこと、父上が一番知っているじゃろ」

「まぁな。おまえが普通の15歳じゃないってのはこの里のみんなが分かっている」


 うんうんと里の民、全員が頷いた。

 ま、儂の200年の知識でこの里を立て直したことも大きい。

 始めは不気味な子供と思われたことだが、今や里長以上の発言力がある。

 結局は慣れなんじゃよ。


「でもな」


 父上がポンと儂の頭を撫でる。

 まだ15歳の身長では父上を抜けぬ。


「それでもおまえはまだ15歳だ。おまえを信じてるからこそ、気をつけてな」

「うむ」


 父に認めてもらえることのうれしさ。

 本当に15歳だったら照れくさくなっていたかもしれぬな。

 父、母、妹、そして里のみんな。


 若返って赤子になり、クロス・エルフィドとして新たな生を受けた儂は未来向けて進み始めるのだった。


 ◇◇◇


 里のみんなに惜しまれつつ、エストリア山を下山。街道に出てきた。

 この15年、エストリア山から出たことがほとんどなかったからこうやって街道を進むこともなかった。

 前世200年では常に世界中を旅をしていたというのにな。


「さて、進むとしようか」


 一歩、二歩地面の道を踏みしめていく。

 風に乗り速度を大幅に早めていく。

 200年生きた儂がやんわり歩いて都まで行くわけがなかろう。

 自然の力を利用し、極めた移動術を使えば魔獣車の速度など簡単に超えられる。


 たまに往来する旅人達がびっくりしておるわい。これだけの早さで走る人間はなかなかおらんじゃろう。


 問題あるまい、行くぞ。

 晴れた道のりにゆったりとした風が気持ちよい。


 このスピードならば日が暮れるまでに都につきそうだ。

 前世では王国中を歩き回ったので道はちゃんと覚えている。15年程度で道は変わらぬな。


「おや」


 半日ほど走った後、違和感を覚え、歩みを止める。


「なんだ焦げ臭いな」


 都まで儂の足であと3時間ほどという距離。その方向に見えるは生い茂る森。

 なぜこんな森でこのような臭いを感じるのか。


「嫌な予感がする」


 そこで儂は……()()と運命の出会いをすることになる。

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