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004 二度目の生

 結局赤子から元の体に戻れず、15年の時が過ぎてしまった。

 何もしなかったわけではない。歩けるようになってから赤子になった場所へ行き時空剣術を使って元に戻れるかも試してみた。

 じゃが結局50年に1回のあの時でなければ時は進められそうになかった。


 最初は戻れないことに絶望し、自死も考えていたが今は案外それもどうでも良くなってきていたりする。

 言えば若返りに慣れてしもうたんじゃ。

 若夫婦に育てられたクロス・エルフィドという別名の人生を楽しめるまでになっていた。


「クロスくん、そっち行ったよ!」


 おっと、少し呆けておったようじゃ。

 大型の四足歩行の魔獣が儂目がけて突進を繰り出す。

 地面を強く蹴って跳躍し、その攻撃を避けた。


 強力な魔獣が多く住むエストリア山。魔力が満ちる日ではなかったとしてもマナを生む霊山であることには変わりない。その恩恵を受けるために人間だけではなく、多くの魔獣もまた根城にしていた。


「グルルルアアアアア!」


 獰猛な陸トカゲが大声を叫んでおるわ。


 周囲を散開していた幼馴染が戻ってくる。

 ま、問題はなかろう。

 15歳となりかなり体も大きくなった。200歳の頃に比べればまだ小さいが、200年の経験まで若返ったわけじゃない。

 極めた経験は魂に刻み込まれるため、たとえ幼くなったとしても技が衰えることなどない。

 衰えなんてものは修練が足りないから起こるもの。2,30年程度の修練でモノにしたと思うなかれ。


 腰に携えた二本の太刀を抜き、陸トカゲを見据える。


「おぬしは手出し無用じゃ。そこで見ておれ」

「アースザウルスはS級魔獣だからね! 油断しちゃ駄目だよ」


 素早い動きで突っ込んでくる陸トカゲを攻撃を二本の刀で受け止める。

 当たり前じゃが人間の体でこの突進を受け止めたら骨折は免れない。

 しかし200年の経験を持つ儂ならばその衝撃の方向すら制御する技術がある。

 儂はその突撃の衝撃を陸トカゲに跳ね返した。


「ゴバァ!」


 剛撃系の魔獣は案外、自分の力の強さに耐えられないものよ。

 儂が力を加える必要なんてない。

 のけぞった陸トカゲの首を狙うために飛び上がる。

 この程度の相手、時空剣技を使うまでもない。


「散れ」


 二本の太刀を振るい、陸トカゲの首を両断した。


「さっすがクロスくん。負けなしだねぇ」

「たいしたことはしとらんよ」


「でも、あの魔獣は防御力も高いしどうやったらあんなにすばっと切れるの?」

「慣れじゃよ」

「それじゃ分かんないよ!」


 極太の陸トカゲの首の骨を斬り裂くには15歳の腕ではとてもじゃないが無理じゃ。

 しかしどんな物質にも斬り裂けるラインというものが存在する。

 儂はそこを斬っているだけじゃよ。

 誰にでもできることじゃが習得は難しい。才能の無い儂もこれを難なくできるまで80年の月日がかかった。


 ゆえに先ほどの言葉通り、慣れじゃよ。


「これでこの山に生息する強い魔獣はあらかた片付いたよね」


 幼馴染の小娘がしみじみとつぶやく。

 なんとか間に合ったようじゃな。儂がこの山にいる間に強力な魔獣は全て片付けることができた。

 儂は陸トカゲの解体を開始した。素材は有効活用せねばならんからな。


「これで儂の役目も終わりのようだ」


 儂の言葉に幼馴染の小娘は寂しい顔をする。

 いつもは明るい言葉を並べる桃色髪の女の子、それがテレーゼじゃ。

 儂が赤子になった時期の次の年に生まれた里の宝だった。

 赤子時代から面倒をみとるから、対外的には幼馴染として思われているが儂からすれば孫みたいなもんじゃな。


「明日には里を出ていくんだよね」

「都で行われる成人の式に出なければならんからな」


 テレーゼに問われ頷く。

 この世は15歳で成人と言われ、働くことができる。 

 しかし、今の時代は都の教会で成人の式に出なければ成人として認められないらしい。

 儂が前の体だった200年前には無かった式じゃ。時代は変わるの。


 テレーゼは一つ年下なので来年に成人の式がある。


「式の後は里に戻らず王都で仕事を探す。里には戻らないんだよね」

「そうじゃな。たまに里帰りくらいはするつもりじゃ」


「クロスくんがいなきゃ倒せない魔獣はもういないけどさぁ」

「おぬしがいれば大丈夫じゃよ」


「クロスくんがそう言うと安心しちゃうよね。爺口調のせいだからかな」


 赤子に若返ってから15年経っているが実際はさらに200年プラスされてしまう。

 若い体と老成した精神が混ざってるんだから仕方ない。

 これでもかなり頭の中も若返ったと思うぞ。若者文化にも触れようと思っているからな。


「おぬしも来年には考えねばならんのじゃぞ」

「里に残るか。里を出るかだよね」


 悩むのは子供の特権と言える。

 儂も正直里に残ることを選択肢に入れていたが、結局いろんな人の意見を聞き、里を出て、人が多く住む王都へ出ることを決めた。


 前の200年の生はずっと一人ぼっちだった。

 もちろん成人するまではいろんな人の助けをもらっていたが、トータルで見るとやはり一人で過ごすことが多かったと思う。


「せっかく若返ったのじゃから……今度の生は儂は何をして生きようか」


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