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【書籍化】老練の時空剣士、若返る〜二度目の人生、弱きを救うため爺は若い体で無双する〜  作者: 鉄人じゅす
1章

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038 結社壊滅編~殺人拳~

「しゅぅぅぅ……」


 結社サザンクロスのエージェント【剛拳武人】アリューシュは結社の拠点の最奥で一人瞑想に耽っていた。

 結社の幹部であるグロイツェルの元、王国で実験を重ね、結社の計画はいよいよ最終段階に移行しようとしている。

 詳しい内容はグロイツェルしか知らないが、アリューシュとしては正直どうでも良かった。

 ぱっと見た感じそれほどの体格には見えないが肉体は鋼のごとき硬さで筋肉も骨も密度が高い。

 黒いジャケットとスーツに身を包み、たばこを常に愛用していた。


 【剛拳武人】アリューシュはかつて裏社会の決闘場でその名ありと言われたほどの人物だった。

 その一撃は鉄をも砕き、恐ろしいほどの実力を誇っていた。

 かつては有名な流派の正当後継者という話もあったがその獰猛で過激すぎる性格から破門されて、裏社会へと足を踏み入れたのだ。

 彼の野望はただ一つ、殺人拳を完成させることだった。

 たった一撃で敵を殺傷できる拳。裏社会においても無用な殺生は禁じられていたためアリューシュは本気を出せず燻っていた。


 だが力を持て余した状況が長く続き、ある日突然爆ぜた。

 気づいた時には裏社会の決闘場は血まみれとなっていたのだ。

 アリューシュはこの上ない高揚感を得ていたとか。


 そんな経緯でアリューシュは結社のエージェントとなり、世界中を巡り実験のついでにその国の強者を味見している。


「【赤の破虎】エドウェルも悪くねぇが……あいつはビジネスで動いてるから本気は出さねぇ」


 アリューシュが望んでいるのは死闘。本気を出し切った先に殺人拳の完成が待っていると信じ込んでいる。

 ゆえに早くこの実験を終わらせて、この国から去りたかった。

 この国の最強はシャルーン・フェルステッド。

 クリムゾンドラゴンを葬った女だが15歳のお姫様がアリューシュの殺人拳に立ち向かえるとは思っていなかった。

 機会があれば味見くらいはしてみたいものだが。


 アリューシュは愛用のタバコを吹かし、次の実験の時間まで待ち続けた。


「アリューシュさんっ!」

「あん?」


 黒の鎧を着た猟兵。結社サザンクロス直属の構成員だ。

 薬などで強化されているので能力は高いが最上級の猟兵には敵わず、戦闘よりも実験の実行部隊の意味合いが強い。

 今回もエージェントアリューシュの補佐としている。


「【赤の骸】が迎撃に出ていいますが突破されそうです」

「まさかエドウェルが負けることになるとはな」

「敵は危険です! アリューシュさんは艦船に撤退……ぐふっ!」


 アリューシュは黙らせるように黒の構成員の腹に拳をぶち込んだ。


「くくく……」


 アリューシュは笑い、昂ぶる。

 たった一人で結社の施設に乗り込んでくる奴はイカれている。

 そんな相手だからこそ殺人拳は有効だ。アリューシュは相手の到着までしっかりと整えた。


「来たな」


 エドウェルをも倒し、この地に乗り込んできたのは淡い色素の髪色を持つ子供だった。

 おそらく成人前後。ぱっと見た感じでここまで乗り込んでくる猛者には見えない。

 しかしアリューシュは見抜いていた。

 子供の奥に眠る圧倒的な力を……。腰に差す三本の刀はいずれも名刀を遙かに超えたそれ自体が秘宝と呼べる存在であることを。


「おぬしがこの会社の責任者ということで良いのかのぅ。お金は回収したが弊社において今後の対応について一筆書いてもらいたいと思っている」


 何を言っているかよく分からないがアリューシュは軽く受け流すことにした。


「責任者って話ならグロイツェルの野郎だと思うぜ。俺はあくまでエージェントでしかねぇ」

「うーむ。その男が役員でお主は役職付きということか」

「何言ってんだクソガキ。来い、おまえの本気を見せてみろ」

「その役員ってのに会わせてもらえないか? 直接話がしたい」


 アリューシュはすでに少年を敵と見定めて、強い気当てをしている。

 常人だったらとっくに気を失っているレベルだ。

 しかし少年は何も堪えていない。


 そうなればアリューシュの回答は一つしかない。


「この俺を楽しませたらグロイツェルの野郎に会わせてやる。小僧、来やがれ」

「やれやれ。儂の実力はある程度見えているようだが、やはり些か若いな。さっきのエドウェルという男の方が分かっていたぞ」

「ごちゃごちゃ言ってんじゃねぇっ!」


 アリューシュは飛び出し、拳を突き出した。

 その一撃は鉄をも貫き、人間の骨などあっと言う間に砕いてしまうだろう。

 少年は最小限の動きで避けていく。


「あらよぉっ!」


 アリューシュの力は拳だけではない、その蹴り技も山を砕き、海を割る。

 何十いや何百人もその拳と蹴りで葬ってきた。

 武器を使わない格闘術でアリューシュはエージェントの中でもトップクラスに強かった。


 徒手連撃から蹴りの応酬。少年は避け続けた。


「ちぇああああっ!」


 さらなる一撃。当たれば必勝。鋼のような肉体に無尽蔵な体力。

 いずれは少年も捕まる……そう思えた。


「おぬし、伸び悩んでいるな」

「っ!」


 いきなりの言葉に動揺する。

 それは事実だった。裏社会から結社に入って数年。

 アリューシュの実力はあの日を境に伸びなくなった。だが認めるわけにはいかない。

 認めてしまえばこの道へ進んだことが間違いだと思ってしまうから。


 少年を黙らせるためにアリューシュは必殺のブローを少年に向けて打ち込む。

 避けられ続けているのはあくまで陽動。最後の一撃を与える……そのためだった。


「死ねやぁぁぁっ!」


 巨大な魔獣の腹をも突き破る。必殺のブロー。このブローでダメージを与えられなかったものなど存在しない。

 心臓に向けて放ったブローが少年の体に打ち込まれる。


 勝ったと思った。

 砕いたと思ったんだ。

 でも砕かれたのは己の拳だった。


「ああああああああっっ!」

「赤子のようなパンチじゃな。避けて損した」


 アリューシュは苦痛にあえぐ。

 確かに当てていた。少年の心臓に向けて渾身のブローを打ち込んでいた。

 しかし鉄を超えた固すぎる何かに当たった感じだった。

 少年は少しの痛みも感じておらず、ケロっとしていたのだ。

 アリューシュの渾身の一撃は何も通じていなかった。


「おぬしが目指したい道はこういう奴か? 手本を見せてやる」

「……あ?」


 少年は刀を鞘に戻し、両手を構える。

 そうしてシュッと軽やかにブローを打ち込む。

 それはアリーシュも胸にぽんと触れた。


「ほれぇ」


 ベキベキボキボキッ

 アリューシュのあばらの骨を全壊するかと思うほどの衝撃だった。


「――っ!」


 アリューシュ大きく息を吐き、たまらず膝をつく。

 肺が壊れそうで息も苦しそうだった。


「才能はあったんじゃろうがやはり鍛錬不足じゃな。基礎が足りん、基礎が。なぜ30歳代で達人ぶるんじゃ。まだ小童よ」

「ぐふっ……あぁ……てめぇ、ど、どれだけの功夫を積んでやがる」


「悪いが徒手格闘は刀以上に才能が無くてな。恥ずかしいもんじゃ」

「あの技術で才能がないだと……ふざけてんのか!」


「200年修行してこの程度じゃ才能など無くて当然じゃろう」

「に、200年?」


「知らんのか? 本当に極めた技術は心に結びつくんじゃ。体が変わったとしても心が変わらねば技術の再現は容易い」


 意味が分からないとアリューシュは思う。

 しかしアリューシュの願ってやまなかった一撃をこんな少年が再現したことに愕然としてしまう。

 何度生まれ変わってもこの少年には敵わない。

 アリューシュは考えるのを止めて、気を失った。


「気を失ってしまったか。おいっ」

「ひっー! アリューシュさんがやられた! 艦船へ逃げろっ!」


 黒の構成員達はアリューシュを捨て、転送装置を使い、逃げていく。


「その先に役員とやらがいるのかもしれんな」


 少年ことクロス・エルフィドは転送装置の方に向かうが起動しない。

 おそらく鍵が何かでロックがされているのだろう。

 先ほどの猟兵達の動きは見ていた。クロスはアリューシュに目をやる。

 そのまま足を掴んで腰に下げた無限収納バッグにつっこんだ。


「さすがじゃ。どんなものでも99個入る、エルバース式錬金術で作った無限収納バッグ。恐ろしいわい」


 その鞄はクロスの妹が作製した鞄であり、見た目の何千倍の量を収納できる。人間ですらアイテムとしてストックできるのである。アリューシュの体は完全にバッグの中に入ってしまった。


「人間は99人入るのか、個別になるか……試しに実験するには恐ろしいのぅ」


 クロスは猟兵が向かった転送装置を起動させる。

 思っていた通り、手持ちにアリューシュがいるので反応したようだ。


 結社の本拠地へ乗り込んでいく。

人間も鞄に入ればアイテム扱いとなります。

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