033 秘密結社【サザンクロス】
時間は半日前に遡る。
「ヘスラ先生、ありがとうございます!」
「いえいえ、こちらこそ冒険者ギルドの皆さんにお世話になっていますから」
冒険者ギルド所属、S級薬師スティラ・ポンポーティルは素材採取のために王都から少し離れた遺跡の中へ入っていた。
中で遺跡研究を行っていたヘスラという40代後半の男性と出会い、意気投合して語り合って遺跡を出てきた。
「先生なんてそんな大層な者ではありませんよ。どこにでもいる巡回神父ですから」
「でも貴重な薬草の群生地も知っておられましたし、考古学にも知見があって……わたしもすごく勉強になりました」
「それは良かったです」
穏やかな語り口調で年下にも敬語で話すヘスラの姿にスティラはすっかりと信用してしまっていた。
「趣味の遺跡巡りに付き合わせてしまって申し訳無いですね」
「ふふっ。でもヘスラ先生は遺跡のことになると口調がすごく早くなるからびっくりしました」
「私くらいの年になると若者と話す機会が少なくなりますからね。スティラさんのような可憐な方に聞いてもらえるとつい喋りすぎてしまうんですよ」
オタク気質なのかもしれない。
スティラもその後、薬草のことについてマシンガントークを行ったようでお互い様だと苦笑いし合うことになった。
「ヘスラ先生は王国中の遺跡を見てまわっていると聞きましたが」
「ええ、ゆくゆくは世界中もまわりたいですねぇ」
「同じ所を短期間でまわってたりするんですか?」
「……」
一瞬、ヘスラの微笑みが途切れた気がした。
「なぜそう思ったんです?」
「遺跡の最奥に紋章みたいなのがあったじゃないですか。あそこの地面だけ埃が少なかったので高頻度で誰か来てるのかなぁって」
ヘスラは少しの間考え込み、やがて大笑いした。
「バレましたかぁ。あの紋章が気になってよく来てるんですよ。神父の仕事をさぼってるとバレると大変なので黙っててもらえると……」
「そうなんですね! 薬草を頂いたので大丈夫です。わたし、口堅いですから!」
スティラは可愛らしく頷く。
そのまま会話は弾み、街道の別れ道にまでたどり着いた。
「この先の街道宿で人を待たせてるんですけどヘスラ先生はどうされるんですか?」
「このまま王都に行こうと思ってますのでここでお別れですね」
「今日はありがとうございました! それでは」
スティラは大きく礼をして走り去ってしまった。
ヘスラはにこやかな笑みでスティラの走る方を見つめており、やがて……。
「さすがS級薬師。若いわりに良い目をしている」
禍々しく妖しい目つきへと変わり、雰囲気を変えた。
それが本来の彼の姿と言わんばかりに……。
「計画の邪魔になるならあそこで殺すべきだったか。いや、たかが薬師の小娘に不要か」
ヘスラは再び遺跡の中に入り、周囲に誰も人がいないことを確認し、懐から取りだした錫杖を振るった。
「転移」
◇◇◇
ヘスラは転送術を使い、とある組織の本拠地へ戻ってきた。
その場所にいる三人の姿を見て、ヘスラはニヤリと笑う。
「グロイツェル、戻ってきたか」
「ったくいつまで待たせるのよ」
「おや……エージェントが全員揃っているとは皆、仕事熱心なことだ」
「けっ、思ってもないことを言いやがって」
ヘスラとそれに従う三人の若者の仲はそれほど良くはない。
同じ組織に所属しているが常に腹の中を探り合っている関係だ。
ヘスラ・グロイツェル。
柔和な笑みはすでに消えており、巡回神父であり、そして結社【サザンクロス】の幹部の一人だ。
結社【サザンクロス】
世界中を股にかける謎の多い組織で高度な技術力と組織力を誇る犯罪組織である。
まだ実現が不可能なはずの空を自由に駆け抜ける飛空挺を所有している。
構成員には猟兵が多く、練度は非常に高い。
今いる場所は幹部とエージェントしか入る事ができない特別な空間となっており、転移術を使わなければ侵入することもできない。
「では報告を聞こう」
「ムーカイラの実験は問題なし。邪魔が入ったが王国騎士もギルドも練度が低いな」
「さすが【剣帝】エーベ。エージェントⅡである君の心配はしてないよ。確実な仕事をしてくれるからね」
「おまえに褒められても嬉しくはない」
剣の腕前だけならば世界でも五本の指に入るほどの実力を持つ【剣帝】エーベ。
確実な仕事を行い、組織の中でも信頼度は高い。
「フェーエストでの実験もまぁ……そこそこね。でもあれは何だい? 妙な現象が発生して戸惑ってしまったよ」
「ちゃんとデータは見せてもらって想定通りであることは確認している。ミドオルズ、感謝するよ」
「ふん」
【毒薔薇】ミドオルズ。この場で紅一点ではあるが、その危険度はむしろ抜き出ているのかもしれない。
二つ名である毒薔薇がそうさせているか。
「ハスクベルウの実験は楽しかったぜ」
「アリューシュ。君の場合は実験よりは止めようとする王国騎士との戦いに重きを置いているように思えるが」
「はん、悪いかよ」
「実験さえ行ってくれるなら何でも良いさ」
ぶっきらぼうな声を出すのが【剛拳武人】アリューシュ。
人を殺すことも躊躇しない、極めて危険な男であった。
三人のエージェントとそれらを指揮するグロイツェル。
結社【サザンクロス】は王国を巻き込んだ危険な実験を行っていたのだ。
「んでグロイツェル。最後の実験を王都でやるんだろ? 天女帝は何か言ってるのかよ」
結社【サザンクロス】のトップである天女帝。幹部やエージェントは彼女の指示で世界各地で実験を行っている。
天女帝と出会えるのはグロイツェルなど幹部しかいない。
アリューシュの声にグロイツェルは大きく表情を緩めた。
「気になるかい? 天女帝より授かりし計画がこのフィラフィス王国をどう変えるのか。私は楽しみでたまらないよ!」
「どうせ悪趣味なことにしかならないだろ」
「最後の実験が終われば君達もこの素晴らしさが分かるだろう。さぁ始めようじゃないか」
グロイツェルは錫杖を大きく振って、にやりと笑った。
「【王国異界化計画】の最終段階を! くくくっ、あっはっはっはっは!」
王国に大きな危機が訪れる……はずだった。
「申し上げます! 王都の外れのアジトに侵入者が現れましたァ!」





