031 ヒロイン達を会社に案内
王都フィラフィス。
フィラフィス王国の首都にして、王国最大の都市でもある。
200年以上生きた儂からすれば30年ぶりじゃったが、水都の変化並に様変わりしていたと思う。
ここ最近の魔法導学の研究の結果、機械化が進んでおり、導力機という名で人々の生活水準が大幅に上昇した。
エストリア山で15年暮らしていた儂も正直たまげてしもーた。
同じ王国なのに王都と地方の差は歴然で別の世界に来たのではないかと思うくらいだ。
そんな都市に一ヶ月も住めば慣れてくるもので、あっと言う間に時間は過ぎていった。
才能無しのEランクゆえに就職活動はなかなか大変じゃった。プローフカードにEと書かれているを見ただけで門前払い。
試用期間も無く追い出されては何もできん。
ちなみに成人の式以外で再び神託をするのはかなりの金がいるらしく、ランク更新が盛んでないのはこれが原因でもある。金が稼げないからランクを上げたいのに金が無いからランク更新を受けられない。世の中は世知辛いものじゃ。
しかし無事に就職も成功、普通の成人者として暮らしている。
今日は仕事場の事務所に彼女達を招待した。
というより押し掛けられそうだったので時間を作ってやむなく来させたのだった。
「運び屋に就職するって聞いた時はびっくりだったけど、制服似合ってるじゃない」
「クロスさんにぴったりの職業だと思います」
シャルーンとスティラは運び屋の制服姿の儂を見て、妙に感慨深そうに見ていた。
別に普通の作業着じゃぞ。刀を持ちやすいようにはしているが。
王都は広いからもう二度と会うことはないと思っていたが、到着して3日で居場所がバレた。
王都の役所に住民票を移したことがきっかけに違いない。
まさか嗅ぎつけられるとは……。スティラへはシャルーン経由だろう。
「せっかくクロスと学園生活を送れると思ったのに……」
「わたしもギルドに来てくださると思ってたんですよ」
「その二つも正直考えたんじゃが、運命の出会いというものを感じてな」
ずざざっと足音がしたので振り帰ると社長が震えた手でお盆を持っていった。
「ククク……クロスくん、おと、おと、お友達が、来たから……飲み、飲みもの」
「社長! そんなことは儂がやりますぞ!」
すっころびそうだったので社長からお盆を引ったくり、飲料のコップを二人に渡す。
紹介する手間が省けたわい。
「この方が【ハヤブサ】の社長をされている。アイリーン社長じゃ」
「よよよよろよろ……よろろろろろろろ」
「社長さんのところだけ地震起きてるけど大丈夫!?」
「気にせんでくれ。社長は重度のコミュ障なんじゃ」
「それでよく社長ができますね……」
スティラの言いたいことも分からんでもない。儂はもう慣れたが。
「クロスくん、この子達はみんな同い年?」
「そうなりますな。成人の式を終えたばかりです」
「あの……社長さんの声が全然聞こえないんだけど」
「儂にしか聞き取れんから気にせんでくれ」
「本当にそれで社長ができるんですか……」
スティラは一歩前へ出て、にこりと愛らしい笑顔となる。
「初めまして! 冒険者ギルドの特級薬師をさせてもらっているスティラ・ポンポーティルです。クロスさんとは親しいお付き合いをさせて頂いています!」
「爆乳美少女!? ひえええっ!」
「じゃあ私も。シャルーン・フェルステッドです。クロスの上司だから言いますけど、一応王国騎士をやらせてもらってます。あと第二王女でもあるのでクロスに何かあったら王家が許さないで気をつけてくださいね」
「お姫様!? ぎゃああああっ!」
「おぬしら、明るい眼差しを社長に与えるんじゃない」
「あwせdrftgyふじこlp!」
社長が若さの熱気に充てられて、発狂してしまったじゃないか。
唖然とする二人に説明することにする。
「社長は10代後半の思い出が一つも無いそうなのでおぬし達のような未来に可能性のある若者が天敵なんじゃ」
「そ、相当個性的な方ですね」
「あなたに近寄る女性ってまともな人いないの?」
その理論だとおぬし達もじゃないかと喉元まで出かかったが、耐え抜いた。長男で良かった。
「社長は確かに問題点も多い御方じゃが、儂はとても尊敬しておる」
「え、そうなんだ。へへ、クロスくんに褒められると私頑張れるかも。もっと褒めて褒めて」
「生き返ったわね」
「満面の笑みですよ」
「社長の承認要求は時々儂もたじろぐレベルじゃからな」
社長はでへへとふやけた顔をする。ここは彼女の良い所を挙げておくとするか。
放っておくとメンタルが自虐に走ってまともに動かなくなるからな。
「社長は優しく、聡明で」
「うんうん!」
「経理知識や業務改革は目を見張るもので」
「うんうん!」
「社長としての器はあり」
「照れる照れる」
「肌のツヤが50代で儂の好みでもある」
「えへへ……。あれ、今私盛大にディスられた?」
褒め言葉はこれくらいでええじゃろう。
「運び屋の仕事で王立学園や冒険者ギルドに立ち寄ることもある。おぬし達にも力を借りるかもしれんの」
「いつでも来なさい。案内してあげるわ」
「はい、お待ちしてます!」
王国での暮らしでまた新たな出会いが始まりそうじゃ。