003 赤子は屈辱
「なぁエレナ」
小童が大太刀の側にあるそれを見つけていた。
「バカでかい剣の側に綺麗な刀が2本あるな。すっげー刀じゃないか。大業物かも」
元々、腰に刺していた太刀と小太刀のことじゃな。ぐはは、100年の年月をかけて儂が鍛え上げ、打った刀なんだから当然じゃ。
「ビスケス。この子って何者なのかな」
「親の姿はどこにもないし、魔物に襲われてここにたどり着いた可能性は低いな。昨日ここで捨てられたのかも」
「そんな……。赤ん坊を捨てるなんて」
「エレナ」
「私達の子は死産だったのに! どうしてそんなひどいことができるの」
小童が涙ぐむ娘っ子を慰めて寄り添っていた。
この二人は夫婦のようで産んだばかりの実子を亡くしてしまったようだ。娘っ子の表情が険しくなる。
「捨て子じゃなくて神の子かもな」
「神の子?」
娘っ子は聞き返す。
「ああ、昨日は例の魔力が降り注ぐ日だろ。弔ったそのすぐ後に赤ん坊が見つかるなんて出来すぎてる。もしかして神様が不思議な力でこの子を生み出して、ここに置いたのかも」
そんなバカな話があるか。儂は200年生きとるんじゃよ。おぬしらが産まれる前から姿はジジイから変わらぬわ。生み出すわけがない。
「私達の子が亡くなって……弔った直後にこの子を見つけた。偶然なのかな」
偶然じゃよ。娘っ子よ、何かを期待してるようがジジイがただ若返っただけじゃよ。
「偶然……じゃないよな」
偶然じゃい。
「ねぇビスケス。この子を私達の子として育てられないかな。こんな山じゃ行き場もないと思うし」
「いいのか? エレナが良いなら俺は構わないけど」
「初めての赤ちゃんを弔って落ち込んだ私達のために神様はこの子を授けてくれたんだわ」
「そうだな。幸い、巨大な魔力で赤ん坊が蘇ったってことにしたらいい。こんな所に捨て子がいるなんて誰も思わないし、髪の色も俺と同じ淡色系だから、バレることもねぇ」
「うん」
「きっとそうだ。エレナのために神はこの子を俺達に託したんだ。この二本の刀はその餞別なのかも」
何を言っとるんだ若造どもは。儂はただ昨日の夜、刀を振るっただけじゃよ。
そして魔力で赤子になってしまっただけじゃ。何が神の子じゃ。アホか。
儂、この小童共の子になるの? 本当に?
「名前はもちろん」
「ええ、私達が付ける予定だった名前、クロス。あなたはクロス・エルフィドよ!」
変な名前ではないがここに来て、別の名前を付けられることになるとは。
儂の本当の名前は! 駄目じゃ口が成長してないから喋られない。
「ばぶぅ……ぐぅ」
「どうしたんだろう」
「お腹空いてるんじゃないか。昔、子守してる時こんな顔してた」
ほほぅ、よく分かっているじゃないか。そうじゃ儂は空腹じゃ。
さぁ小童どもよ。わしにメシを用意するがよい。人生の大先輩として受けてやろう。
「ちょうど良かったわ」
「そうだな。これも神様が分かってたのかもしれないな」
ん? 何を言ってるんじゃ。
不思議に思っていたら娘っ子が上の服を脱ぎ出してしまったではないか。
こんな所で何を考えている……と思ったら娘っ子は大きな胸を露出し始めた。
そこで儂は嫌な予感が脳内に浮かぶ。
「本当のお母さんのじゃないけど……ちゃんとおちちは出るからね」
「実子は亡くなっちまったけど、この子を助けられて良かったな」
待て待て!
この儂に……それを咥えろというのか! ふざけるな、儂を誰だと思っている。
儂は200年生きた孤高の老剣士。こんなことをされるために長生きをしたわけではないってやめろ娘っ子! そんなものを近づけるでない!
「さぁ……クロス、良い子だから。いっぱい飲みまちょうねぇ」
や、やめっ! うぷっ。
200年生きた儂が今更に授乳させられるなんて想いも寄らなかった。
屈辱。
まさに屈辱だった。
嫌がる儂に無理やりをちちを飲ませたこの若夫婦。
絶対に許さんぞ。儂を怒らせて無事で済むと思わないことじゃ
まぁ良い。こんな突拍子も無い現象で体が縮んでしまったんじゃ。
きっとすぐに元の体に戻ってこんな小童共からおさらばするんじゃ。
ゆえに今は捨てられんようにおとなしく……大人しく、大人しく。
そして15年の月日が過ぎた。