016 挑戦の時
リドバは鋭い眼光で儂を射貫いてくる。
儂が本当に15歳のままだったら怖じ気づいてしまうだろう。だが儂には200年の生き様がある。
数十年しか生きていない若造を恐れることはない。
「わしは忙しいのだ。愚か者共に無駄な時間を使う意味はない」
リドバは振り返り、出て行こうとする。
「ほ~~~~。ところで貴様、若い頃……フレトバ大空洞で大怪我をしたことがあるよのう」
ぴたりとリドバの歩みが止まる。
「治療してもらった老人の鞄から二本何かを抜き取ったそうだな。それは今、どこにあるのかのう」
「その話をどこで……」
やはり心当たりがあるようだ。
動じていないように振る舞っているが声に震えが見られるぞ。
「挑戦を受けてもらえるなら口外しないと誓おう。血判状でも作ってやる」
「……挑戦の内容は」
「スティラが明日の朝、貴様らの前でエクスポーションを作り上げることとしよう」
「クロスさん!?」
「よかろう。ただ基準に到達しなかった場合はただですむと思わぬことだ。謂れの無いことに対する名誉毀損で多大な負債を抱えてもらう」
◇◇◇
「なんであんな約束をしたんですか!」
教会での騒動の後、儂らは裏の通りで話をしていた。
スティラがなかなかの剣幕で訴えてくる。
「助けて頂いたことには感謝しています。敵しかいなくて絶望で心が壊れそうな時にクロスさんがいてくださったおかげでわたしは耐えることができました」
四面楚歌の状況。過去Eランクだったものは皆、謂れの無い言葉の暴力を受けたのだろうか。
一人でも味方になるものがいればギリギリの所耐えられる。
ただ、心は壊れてしまったら、治すのに苦労するんじゃ。
「儂は無謀な挑戦を突き付けたわけじゃないぞ」
鞄から紙用紙を取りだしてペンを走らせる。
頭の中に残っている知識をスラスラっと書き記した。
「スティラ。ポーションとはレシピがあれば簡単に作れるのか?」
「簡単ではないですが難易度は段違いですね。私はポンポーティル家のポーションは全て作ることができます」
「ならばなぜエクスポーションは作れない」
「それはレシピが解明されていないことが大きいです。私は一度作ることができれば二度と失敗しません」
なのにリドバはエクスポーションを作ることができなかった。
スティラほど有能であれば一度作れば大抵できるようになるはずなのに不思議じゃのう。
儂はぺらんとスティアに紙用紙を見せる。
「エクスポーションのレシピじゃ」
「は」
「これで恐らく作れると思う」
「そんなわけ! あ、でも理に適ってる。この発想はなかったな……。これなら、いや、まさか」
さすがじゃの。ありえないと切り捨てるのではなく、内容を見て精査をしようとする。
才あるものならではの動きじゃ。
やはりEランクと断じたあの神器、儂の予想なら間違いないのかもしれんのう。
もう分かっているかもしれんがあの赤色のエクスポーションは儂が作ったもので間違いない。
今から100年程前、液体回復薬の理論を完成させていた儂はあれを自分のために作り出した。
そして鞄にしまったまま保管し50年ほど前、とあるダンジョンで大怪我をして倒れておったリドバをきまぐれで助けたんじゃよ。
液体回復薬を使って怪我を治してやり、面倒を見てたんじゃが。ある日、鞄から2本の液体回復薬を盗まれて逃げられてしまった。
そしてそのすぐ後にポンポーティルがポーションの開発に成功し、王家から名誉を頂き劣化品が市場に出回るという話を聞いた。
利用されたことが不愉快で儂は液体回復薬精製の計画をやめにしたんじゃ。
それから粉薬、丸薬関係しか作っておらん。
「問題はこの品質の薬草が手に入るかどうか。あと根本的に調薬場が無いです」
「ポンポーティル家の調薬場を借りるわけにはいかんからのう」
「都中を駆け回れば器具や場所を確保できるかもしれませんが」
非効率じゃし、それはやりたくない。
もう昼は過ぎているし、時間は限られている。
あの手を使うしかないな。
「では儂の調薬場を使うことにしよう。素材も器具も全て揃っておる。ポーション作りも可能じゃ」
「本当ですか! 水都のどこにいけば」
「いんや」
儂は北の空の方を指さした。
「エストリア山じゃよ」