143 勇者として②(ルージュ視点)
魔族の戦士達との戦績は五分五分。少しの油断もできない戦いになる……はずだった。
「ブースト、オフェンスアップ。シールド展開!」
メルヤの補助術で全体的な強化を計る。だけど何なんだろう。いつもより強化具合が増しているような気がする。
「フレアストーム!」
ファーシラの得意な火炎魔法が炸裂する。魔族の戦士を近づけさせないための牽制の魔法だけどその火力は猛烈で魔界の戦士達は慄いている。
「行くよ」
「なっ!」
リーダー格の魔族の男に肉薄し一気に剣を振る。男にはギリギリの所を避けられる。でもまだまだ終わりじゃない。ボクはそのまま攻め続けた。
横から後ろから魔界の戦士が迫ってくるけどボクはそのまま戦い続けた。今までなら同時に二人が精一杯だったけど三人でも四人囲まれていても戦えそうだ。体がとても軽い。
「馬鹿な! いつの間にそれだけ腕を上げた!」
理由は一つしかないよね。
「体をモミモミされたからかな」
雷鳴の力を剣に這わせ、力を行使する。それが音となって大地に響く。魔族に特攻のこの技を今の調子の良いボクが使えば五人まとめて倒すことができる。
「――ライジングスラッシュ」
「ぐあああああっ!」
五人まとめて雷鳴の剣技で戦闘不能にすることができた。
「ルージュちゃんすごいっ!」
「こんなに簡単に勝てるなんてね」
「早くクロスを追おう」
こんなことはしてられない。多分大丈夫だと思ってたけど目で見ないと分からない。クロスのおかげで体は絶好調だよって伝えたい。そしたら何て言ってくれるかな。またハグしてくれないかな。
「くっくっく……」
地に伏せた魔族の戦士達は笑う。雷鳴の力のショック状態から立ち上がれていないようだ。
なのに何でそんなに笑っているんだろう。
「勇者ルージュ。あんたはつえーよ。魔族の中でもトップクラスの俺らがまったく敵わないとは予想外だぜ。きっとあんたを倒せる奴はほとんどいないだろう」
「だから何」
「だけど今回はあんたを倒せるお方を連れてきた」
その時だった。突如現れた闇の力を持った触手がファーシラとメルヤの体を貫く。
「ファーシラ、メルヤ!?」
突然現れたその触手はボクの所にも飛んでくる。雷鳴の力の感覚でそれを見切り、剣でその触手を弾き飛ばす。
さらに現れる触手を避けて、斬りつける。思ったより早くて攻撃が重い。何なのいったい。
「ふむ……この攻撃を避けるか。さすがは雷鳴の力を持つ勇者だけはある」
空間転移を経て現れた男は角を持つから魔族なのは間違いない。その風格は先ほどの戦士達とは比べものにならないほどに強い。
「へへへ、このお方は魔王軍幹部三柱の一人、ヘカロス様だ。魔王候補でもあられる!」
魔王軍の幹部。まさかそんな奴がこの人間界に現れるなんて……。確かに曾お祖父ちゃんの手記に残ってたっけ。三柱とは魔王直属の配下で恐ろしい力を持つ魔族の戦士だって。雷鳴の勇者である曾お祖父ちゃんでも三柱の一人を倒すので精一杯だったらしい。でも魔王候補ってどういうこと? 魔王はもしかして……。
「余計な情報をもらすな。弱者め」
「がはっ! ああああああああ」
ヘカロスという男の触手が五人の魔族の戦士達の体に突き刺さり魔力を奪っているようだ。そうして魔族の戦士は塵となって消えた。
「仲間をどうして」
「弱い兵に意味はない。どちらにしろ任務完了の暁には始末すると決まっていた」
「おまえ達はおかしい」
「ふふ、人間も似たようなものではないか」
くっ、早くこいつを倒してファーシラとメルヤを助けないと。例え実力差があっても雷鳴の力さえ当ててしまえば勝てるはずだ。
「さぁ始めようか勇者。私に勝てるかな」
ヘカロスから無数の触手がボクに向かって迫ってくる。躱し、トップスピードで飛び出し、雷鳴の力を貯める。触手の動きは決して速くはない。これなら一気に近づける。
「来い。雷鳴の力とやらを見せてみたまえ」
「言われなくても!」
全力で雷鳴の力をひねり出し降り、剣に纏わせて一気に振り下ろした。これならやれる。雷鳴の力に不可能はない。なのにヘカロスの触手の防御に阻まれる。雷鳴の力でショック状態にできるはずなのに阻まれてしまう。
「な、なんで!」
「小娘の雷鳴ではこの程度が限界か。濃厚な私の闇冥の前ではたいしたことではない」
「雷鳴は魔族に特攻なんじゃ……」
「当たればの話だろう?」
ヘカロスの触手が無数に現れて、ボクの体を縛っていく。油断した。全身を拘束され剣を落としてしまう。
「ぐっ……」
「三柱である私が出張らねばならん事態に陥った君の力は評価しよう」
「ああっ!」
触手に縛る力が増し、体がミシミシと音を立てる。痛みで思わず気を失いそうになる。
「同族の復讐に君を辱めても良いのだがあいにく人族相手に性的興味は沸かなくてね」
「んっ!」
触手により恥ずかしいところを締め付けられて変な声が出てしまう。だがその行為はすぐに終わった。
「はああああああっ!」
ボクは力を振り絞り、触手による拘束を解いた。そして勇者の剣を拾いヘカロスに斬りかかる。
「ライジングスラッシュっ!」
「あの拘束を解くとはな。だがまだまだだよ」
地面から突然現れた触手により足を絡められ、バランスを崩してしまう。そのままへカロスから出現した触手に再び縛られてしまった。ヘカロスは鋭い槍のような触手を出現させ、ボクに向けていた。
「良い攻撃だったがこれで終わりだ」
「く……ほどけない」
「勇者よ、死ね!」
「……ファーシラ、メルヤ、パパ、……クロス。ごめん」
最期の言葉をボクは呟いた。目を瞑り、悔しさで涙が出てしまうほどだ。だけどその攻撃はいつまで経ってもこなかった。
「まぁ待て。そのくらいにしてはくれんか。この子はまだ伸び盛りなんじゃよ」
ポンとへカロスの肩に手を置くのは逃がしたはずのクロスだった。何でここにいるの。戻ってきたの? どうして。





