137 鍛冶場にて
片付けをし、再び旅路を開始する。
それから二時間ほど歩いて目的地である孤高の鍛冶場とやらに到着した。うんやはり間違いない。
「ここが孤高の鍛冶場よ!」
ファーシラが指し示した先、メルヤもルージュも期待した目でその場所を見ている。儂だけがその場所を見て頬をひくつかせた。
そう、そこは紛れもなく前世の儂が作った野営場であった。人嫌いであった前世の儂が寝泊まりするために作った場所じゃ。
どうでもいいが孤高ってなんじゃ。余計なお世話じゃ!
この世界で儂が作り上げた十そこらの野営地の内の一つ。確かにここまでの道筋にどこか見覚えがあるとは思っていた。
「今回も遠かったわねぇ」
前世の儂なら一日ほどでいけるがな。そんな遠くに作ったつもりはない。
「こんな場所に鍛冶場を作るなんて孤高の鍛冶師ってどんな人だったのかしら。街に作らない時点で偏屈で癖の強そうな人だったんでしょうね」
やかましいわ。だが正直前世の儂なら否定はできん。赤子の頃に親の愛を受けたおかげでここまで温和になることができたんじゃ。
前世の儂はなぜあそこまでとがっていたのか。三人はすぐに鍛冶場の方へと向かう。ここで刀や工作道具を直しておったからのう。
「のう、おぬし達」
「ん?」
三人は儂の声に振り返る。
「あそこに調薬道具があるんじゃがあれは貴重ではないのか?」
「ボクは興味ない」
「あたしも別に。薬ならメルヤじゃないの」
「私は回復術師であって薬師じゃないもの。薬草の見分けとかできないし」
三人ともまったく興味を持っていなかった。ううむ、嘆かわしい。この場所は調薬場としても活用していたのに。今時の若いものは!
「見つけた! 伝説の武器」
どうやら何かを見つけたようだ。その場所へ向かうとファーシラが嬉しそうに見つけた杖に頬ずりしていた。
「見なさいクロス。孤高の鍛冶師が打った伝説の杖よ。あたしが使ってるものに比べて性能が段違いだわ。こんな凄いの見たこと無い」
「やったねファーシラ」
「戦力アップね~」
良かったのうと言いかけたがあまり感情が乗せられない状況なので言えなかった。
「その杖。こ、ここで見つけたのか」
「ええ、神々しく地面に安置されていたわ。あたしが手にいれるの待ってたみたい」
基本刀と工作道具しか作らない儂じゃがきまぐれでその他の武器や防具を作る時がある。
旅先で見つけてきた余った伝説級の素材で作っているので性能はきまぐれの割には高い。
じゃがやはりきまぐれはきまぐれ、だいたいは草むらに捨てたり今回のようにゴミ捨て場の鍬代わりに地面に突き刺していたものをファーシラは安置させていたと勘違いしたらしい。ゴミ捨て場にあった武器を神々しいと頬ずりするとは……。
「ルージュの剣。あたしの杖。あとはメルヤ用のメイスが手に入れば最強ね」
「ええ、次の鍛冶場を探しましょ!」
そうしてゴミあさりをして装備を入手していくのか。メイスも作って捨てた記憶があるからどこにはあるじゃろうな。
しかしこの真実を知った時、この勇者パーティの女子達はどう思うんじゃろうな。まぁええか。前世の儂はもうこの世にはおらん。
勝手に使えば良かろう。うーむ、……今の儂なら鍛え直せばその杖も勇者の剣ももっと良い武器になるんじゃがのう。
だがそれを言うわけにはいかない。説明が面倒くさいし。はぁ。
「そろそろ日が暮れるし、今日はここで休むぞ」
野営所と行っても立派なハウスがあるわけではない。
雨風がある程度防げる程度の小屋があるだけじゃ。しかし数十年放置していたこともあり小屋は屋根がボロボロになってしまっていた。ここにはあまり来ていなかったからなぁ。
小屋で休むよりテントを張った方が良いという感じだった。
今日は目的達成ということでちょっと豪勢な晩ご飯に三人娘もご満悦。
うむうむ、子供の笑顔はやはり良い。運び屋の仕事が落ち着いたら外食専門の料理人になるのも良いかもしれんな。食後はたき火を燃やしてのんびりと過ごす。
しかし雲の動きが何やら虚ろ。ううむ。今日の夜は雨になるかもしれんな。
「クロス」
外でのんびり空を見ていた儂に声をかけてきたのはルージュであった。残りの二人はすでにテントに入ってしまっているので二人だけの状態。
「ちょっといい?」
言葉が少し辿々しいのは特徴的か。そしてルージュの金髪は夜の暗闇にもよく映える。
オッドアイの瞳がたきびの炎で照らされ神秘的な姿にも見えた。やはり美しい。あと五十年老いれば儂好みの女子へ成長するだろう。しっかりと育ってもらわねばな。





