134 勇者の力
轟音が響き、ブラックバードはその雷の力に強いショックを受ける。雷の斬撃はバードの心臓を止めて、力なく落下させてしまった。
「お見事」
つい、そんな言葉が漏れる。ルージュは降り立ち、振り返る。
「ありがと」
その顔立ち、着衣、その雷鳴の力。ルージュの特異性というものがよく分かる。不思議な存在なのじゃな。メルヤとファーシラが近づいてくる。
「一発で倒すなんてさすがね~」
「また強くなったんじゃない」
「いえい」
メルヤが補助魔法で強化し、ファーシラが魔法で逃げ場をなくし、ルージュの一振りで殲滅。
見事な連携と言えるだろう。
「しかしなぜ今までコートで隠しておったんじゃ。邪魔だろう」
「ボクも邪魔なんだけどみんなが戦闘時以外は着ろっていうから」
そんな言葉に残る二人がため息をつく。
「ルージュの着ている虹の羽衣は雷鳴の力を強化する力があるんだけど……」
「クロスくんはこの服を見て思うことあるかなぁ?」
「よー似合っておる」
「そうじゃなくて」
そしてもう一度ルージュの着ている虹色の羽衣を見つめる。
ふむ、こうやって見るとこの羽衣は極めて布面積が少ないことに気づく。胸元が大きく解放されており、胸部はほぼ肌色であった。
そのためルージュの大きく育った胸があふれんばかりに強調され谷間が作られているのである。さらに下半身も白い太ももが露出されていたのだ。屈めば恐らく殿部が見えてしまうだろう。
「儂が親なら着るのをやめろと言ってしまいそうじゃな」
「ルージュちゃんは発育が良すぎて、この格好で街を歩くともう……凄いの」
「この顔でこの体つきだからね。男性から凄く視線を集めるのよ」
「ボクは気にしない」
「あたしは気になるの!」「私も気になるの~!」
だからコートで隠しておるのか。まぁ儂も故郷の妹達がこんな服装しておったら叱りつけるじゃろうし当然じゃな。
ルージュが王都で会った時はこの虹の羽衣ではなかった。この二人から着るなと強く言われていたんだろう。
「ルージュのこんな姿を見ても全然動じないわね。あんた本当に十五歳? 胸だって本物なのよ、ほらほら柔らかいし本物よ」
「あぁん、揉むのやめて」
ファーシラがルージュの胸を後ろから鷲づかみにして動かしまくる。当然そんなことで動じる儂ではない。精神年齢が違うと言えよう。
確かにルージュは可愛らしいし人を惹きつける見た目をしているのは間違いない。でも儂からすれば幼児にしか見えない。ただそれだけのこと。
しかしブラックバードか。広義的に見れば漆黒の様相をしているからそう名付けられたと思われているが真実は少し違う。割合にてごくわずか。
死してソンビバードとして蘇り、自分を殺したものに復讐する暗黒面からそう呼ばれるようになったのだ。そう、ごくわずか。そのごくわずかが今日現れたとしても不思議ではなかった。
「キエエエエエエエエッッ!」
雷の一撃により心臓を破られたはずブラックバードがゾンビ化して復活。その命を奪ったルージュ目がけて鋭いくちばしを向けてきた。
完全に油断した状態での突撃。三人の少女は振り返りはしてもその突撃まで対処できない。致命的な隙。それを埋めることができるのは。
「斬」
愛用の黒太刀を抜いてその一瞬の隙を埋めた。この場合は仕方あるまい。未来ある若者の命を散らすわけにはいかんからな。
三人の少女には瞬間移動してブラックバードをたたき斬ったように見えただろう。間違ってはおらん。時空剣技の一つを使ったにすぎん。
「ブラックバードは死して蘇る習性を持つ個体がおる。油断はせんことだ」
「……」
刀を鞘に戻し、ぽかんとしている三人の元に戻る。蘇ったブラックバードを真っ二つにして再び絶命させた。
「瞬時に動いたせいで積み荷が少し崩れたな。非常事態ゆえに目を瞑っては欲しい」
荷物を下ろす時間が無かったからそのままぶった切ったからな。うむむ、卵とか割れたかもしれん。まだまだ未熟。三人、いやメルヤとファーシラは驚いた様子で詰め寄ってきた。
「クロス、あんたそんなに強かったの!?」
「もう~、言ってくれたら良かったのにぃ」
「多少心得がある程度じゃ。外に出る以上武器を振るわねばならん時もあるからな。さっきも言った通り儂は運び屋としてここに来ておる」
「変に真面目ねぇ」
「でも助かったわぁ。正直危なかったもの」
一件落着と言った所じゃな。
振り返ったらルージュが微笑んでいた。
「やっぱりクロスは凄い」
「たまたまじゃよ」
クエスト完了ということで儂らは街に戻ることになった。





