132 勇者様ご一行
フィラフィス王国辺境の街ロラール。王国最南端の小さな街であり、これより南は険しい山々で自然の国境となっている。
王都や水都に比べれば文明は進んでいないが、正直これが普通だとも言える。都会は文明が進みすぎじゃ。要望のあった積み荷を背負ってここまで来た。予定の時間に間に合わせるために早足で来たせいで少し疲れたな。荷馬車は儂が走るより遅いが寝てれば到着する利点がある。
やれやれ王国学園祭まであと少しじゃが、例の事件のせいで今は休校となっておる。
生徒達はそれでも学園祭の準備を行っていたが儂は外部生ゆえに運び屋の仕事を受けることにした。
指名だったしな。
「もしかして運び屋さんかしら?」
「うむ?」
街の入り口で清楚な白の法衣を着た娘っ子がおった。緑の髪を背中まで伸ばし、柔らかな笑みを浮かべている。
目尻が落ちており優しげの雰囲気を持っていた。風貌から街の住民ではなさそうじゃ。冒険者の類い、外部の者ということか。
「依頼人のルージュの仲間で良かったか? 儂は運び屋のクロス・エルフィドという」
「そうです。メルヤといいます。こんな遠くまでよく来てくれたわぁ。しかも若い男の子だなんて、ちょっと待ってね」
依頼人の一人であるメルヤは大声を上げた。
「ファーシラぁ。運び屋さんが来たわよぉぉ」
「え、ほんと!」
ひょっこりと黒髪おさげのつり目の娘っ子が建物から出てきた。黒いローブに身を包み、手には魔法杖を持っている。
「思ったより早かったわね。もう三日ほど待たされると思ってたわ」
気が強めのキリッとした目でじろっと見てきた。
「その大荷物を背負ってきたの? 見かけによらず力があるのね」
「びっくりよねぇ。まだお若いのに凄いわぁ」
「運び屋じゃからな」
儂は等身大以上の大荷物を背負ってここへやってきている。一応この者達の要望されたものを全て持ってきた結果なのじゃが。確かに大の男が二,三人力を合わせて運ぶような分量じゃ。
儂じゃなかったら一人で運ぶこともできまい。メルヤとファーシラ。儂より少し上の一七,八歳ってところか。身に纏う魔力と着衣からこの二人が何者かはおのずと見えてくる。
「あんた今、何歳よ?」
「この間成人の式を終わらせたばかりじゃ」
「十五歳ってこと? 思った以上に若いわね!」
どこの世も成人したては見習い扱いじゃからな。儂はすでに即戦力で運び屋の仕事をこなしておる。ベテランぶってる若造運び屋にも負けんわ。
「一つ目の仕事はこれで終了じゃな。依頼はできる限り多くの補給物質の調達で良かったかのう」
「うん、ありがとうねぇ。お金はちゃんと払うからぁ」
食料飲料が半分以上、あとは衣類や趣味品などいくつか。儂は運んだだけで揃えたのは別の者なので中身は知らん。その中身が傷つかないように運ぶのが運び屋の仕事じゃ。しかしこれだけの量。揃えるのにも運ぶにも金がかかる。この年頃でそれだけの金額が払えるとは金回りの良い娘っ子達なんじゃな。
「じゃあ次のお仕事もそのままお願いできるかしら。クロスくんが来たのはそれが主目的よねぇ」
「うむ、運びだけなら誰でもできるからな」
「びっくりしたわ。ルージュの知り合いって聞いてたけどもっと大柄な人が来ると思ってたから」
「すぐに出発するのか? 儂は構わんが」
「そうねぇ。出来れば日が沈む前に戻りたいからすぐに出発したいんだけど……」
メルヤは少しため息をつく。
「ウチのリーダーがまだ起きてこないのよ」
「ファーシラが魔術師でメルヤが回復術師で良かったか?」
「へぇ、分かりやすいとはいえちゃんと見分けるなんてね。その歳でここに来るだけあるわね。正解よ」
「あの子が出てきたわぁ」
宿屋から体を覆うコートと白いフードを被った少女が出てきた。顔立ちと表情はここからは窺えない。まだ眠り足りないのか動きが散漫だ。
だが近づいてきて分かった。その金色の髪色と特徴的なアメジスト系とオパール系の色素を持つオッドアイは印象的で、まるで人形のように顔立ちが非常に整っていた。
「ルージュちゃん。あなたの指名した運び屋さんが来たわよぉ」
「ん」
「先日ぶりだな、ルージュ」
「うん、来てくれてありがとうクロス」
「へぇ……あのルージュが男の子に和やかに笑って」
「王城にいた時、何があったのかしら」
「では出発しようぞ」
「知り合いとはいえルージュちゃんと目が合って顔を赤くせずに反らさない人初めて見たかも」
「この子可愛くないの? クロスの好みじゃないの?」
ファーシラがルージュの肩を揺すって儂に見せつけてくる。
「可愛いとは思うぞ」
「それだけ?」
「うむ」
ルージュは人形のように可愛らしい。じゃがこの年代の子はどの子も可愛らしいもんじゃ。王女であるシャルーンも凜々しさの中に可愛らしさがあり、スティラもまた子供っぽさがありながら芯の強さを持った可愛らしさがあった。儂にとって二十代以下の子はみな可愛い。赤ん坊は男女問わず可愛いと感じる心と同じではなかろうか。
「そもそもファーシラとメルヤも同じくらい可愛いと思うぞ。三人とも皆、可愛くて魅力的じゃ」
その言葉にファーシラとメルヤが驚いて顔を赤らめてしまった。
「二人とも顔真っ赤」
「だだ、だって、男の子にそんなこと言われたのは初めてだし!」
「みんなルージュちゃんばっかりだったからまさかの言葉だったわぁ」
「やれやれ。では出発しようぞ」
3章の開始となります。
書籍版は序章、1章(入社部のみ)、3章で構成されています。
なのである程度書籍版から流用しているわけですが、WEB版ではルージュを2章に出してしまったせいですでにいろいろ設定が破綻して困ってます笑
そんなわけでWEB版も少し修正、特に王立学園の入学期間を2週間から3週間に変更しています。
なるべく今までと設定に齟齬が出ないように調整しましたがボロが出てたら、すみません許してください!
スルーしてください! 書籍買って頂けたらもっと分かりやすくなってると思います!(宣伝)
そんなわけで下記がカバーイラストとなります。
やばいですね。かっこよすぎますね!
表紙はクロス、シャルーン、ルージュの三人ですが、口絵にはスティラもちゃんとおります。
4キャラのキャラデザも公開予定なので発売日まで宜しくお願いします。
下記クリックで公式ページに飛べますので宜しければ見ていってください!





