131 そして新たな命が芽生える
こうして闇の不死鳥の戦いを経て、母上の中に潜む病魔を完全に取り除くことができた。
この後いろいろあったが、儂と父上が一ヶ月死ぬほど苦しんだことも今となっては良い経験なのだと思う。
そうして少しずつ体力が戻ってきた母上は夏頃には完全に復調し、儂が赤子になった頃と変わらぬ姿へと戻ってきた。
病魔は完全に治癒し、治癒する過程でダメージを負った肉体は儂が作る内臓の回復薬を使って一生かけて治癒していくことになる。
この回復薬を使わねばおそらく母上の寿命は従来の半分くらいしかなかっただろう。
しかしこの薬を飲み続けていれば……父上と同じくらいまではきっと生きられる。
そして儂が4歳になった頃……エルフィド家で良い話があった。
「立派な女の子だよ」
村で一番の産婆であるエルゼの元、母上は子を産んだ。
「わぁ……ありがとうございます。エルゼさん」
出産で疲れをみせる中、エルゼから渡された赤子を抱えて喜びをかみしめている。
抱かせてほしいとせがんだ父上に赤子を渡す。
「おおおっ、エレナに似て可愛い子だなぁ! 感動だぁ」
「ほらっクロス。抱いてあげて。あなたの妹よ」
「儂が抱いても良いのか?」
父から赤子を受け取り、産声を上げた後少し静まった赤子の様子を見ていた。
実に小さい。4年前、儂自身もこのサイズだったことを想うと成長したなと思う。
出産に至るまで正直早かった。しかしこうなることは分かっていた。
母上の体が治ったおかげで今までの時間を取り戻すかのように父上と母上が子作りを開始したのだ。
毎晩毎晩あえぎ声が盛んなため、儂は一人で調薬室で耳栓して寝ることが増えていた。
しかしこの子は正真正銘父上と母上の子だ。血の繋がらない儂は用済みになるのだろうかと思ったこともあったが。
「クロス、お兄ちゃんとして可愛がってあげてね」
「この子が外に出られるようになったら四人でピクニックに行こうぜ!」
そんな思いは杞憂だったようじゃ。
「名前はもう考えておるのか?」
父上と母上の口が同時に開く。
「ルーナ」「ルーナ」
その淀みない言葉。とうの昔に考えていた言葉なのかもしれない。
死産となった子が女の子だったらつけていた名前だったのかもしれないな。
儂は母上に返すまえにもう一度ルーナに顔を寄せる。
「ルーナ、兄として儂が存分に可愛がってやろう」
この年になって妹が出来るとは思わなかったが……楽しくやっていけるんじゃないか。そう思えた。
そして7年の月日が過ぎる。
◇◇◇
「ヒーリング草とリバイブリーフと……まぁこんなものか。ハーブ園として適正な栽培できるようになったが取り過ぎないようにせんとな」
11歳となった儂、クロス・エルフィドは年齢に応じた成長を見せたと思う。
そうはいってもまだまだ筋力は足りず、太刀すら満足に振るえん。
まぁ……小太刀を使えるようになったのは大きな進歩と言えるだろうか。
今日に至る様々なことがあった。年齢を重ねて変わることがたくさんある。
そう、例えば……。
「にーにー!」
金髪の見た目麗しい子供が儂の右腕にしがみ付いてくる。
年を重ねるたびに母上にそっくりになってきたわ。父上の遺伝子が濃くなくて本当に良かったと思う。
「ルーね! お花の冠作ったの!」
「スタミナグラスの採取はどうしたのじゃ」
「忘れてた」
「まったく……」
今年七歳になった妹のルーナ・エルフィド。
儂が七歳の時はもっとしっかりしていたように思えるが……。まぁ集落で一番の末っ子ゆえに大層甘えん坊に育ってしもうたわ。
父も母も儂ですら溺愛してしまっているからのう。
前世での弟妹に対してそこまで興味はなかったから、家族へ感情以上に老婆心で妹に愛情を注いでいるのかもしれんのう。
儂の頭に不器用な作りの冠を乗せてえっへんと自慢気な顔をする。
男の冠などかっこ悪いわい。
だが可愛い妹が作ったものを無碍にするわけにもいかず……兄とはつらいものじゃと感じる。
この先の流れは多分決まっておる。
「クロスくん!」
そうくるじゃろうな。
幼馴染のが近づく気配がしたので正直諦めた。
「あははは! クロスくん、花の冠なんか変だよ~! あははは!」
「うるさいわい」
ピンクの髪をふわふわ動かして遠慮なく笑う女の子、それは儂より一つ下のテレーゼである。
「それで何しにきたんじゃ」
「何しに来たじゃないよ。エレナさんがパイを焼いてくれるっていうから楽しみに来たのにクロスくんもルーナもいないから呼びにきたんだよ」
「はい。せっかくですし幼馴染のみんなで食べたいですから」
「ああ、そういえば朝、母上が言っておったな」
「パイ! ルー、ママのパイ大好き。にーにー帰ろう」
ルーナがサボった分、採取が終わってないんじゃが……。
まぁ仕方なかろう。
採取用の籠を担いで集落への道を進む。
まだ危なっかしいルーナの手を繋ぎ、もう一方の手をテレーゼが握ってくる。
「エレナさんのパイ、すごく好みなんだよね~」
「ルーもね、いっぱい食べるよ!」
こうやって女の子が二人揃うとまた騒がしくなってたまらん。
おまけに幼馴染が儂以外全員女の子故に集落の男衆から誰を狙うんだと毎度のように言われてしまう。
まぁ確かに血の繋がらない妹のルーナも含めて、テレーゼも美しく育った。
ただ一つ言えることは……。
「せめて、あと40年は老いないと恋愛対象にはならんな」
「にーにー、何か言った?」
「んにゃ何も」
ここから儂一人でなく幼馴染達との物語となる。
◇◇◇
「ということがあったんじゃ。ジュリオ、儂の家族愛どうじゃ?」
王立学園の中、日もどっぷりふけてしまい、儂の後ろで聞いていたジュリオは呟いた。
「長過ぎだよ! いつまで駄弁ってるのさ。もう年越したくらいの感覚だよ!」
老人の話は長いというのが定番じゃからな。
寮に戻った儂はまた手紙が届いていることに気づく。
また王家から……ではない。貴方の運び屋としての力を借りたいという話のようだ。
「差出人は……」
勇者ルージュ。
間章完結です。
次から本編に戻り三章の開始となります。
すみませんが三章開始は書籍発売時期に合わせたいのでそれまでお休みとさせてください。
一応カバーイラストや各キャラのキャラデザもラフができあがっており、告知まであと少しと言ったところですが現実恋愛の書籍の方が早く発売しそうなのでそっちの方に注力させてください。
書籍1巻の内容は序章+1章(運び屋入社部分)+三章となります。
ルージュを早く登場させたいのでこうなりました。
おかげでWEB版と中盤以降かなり変わってくると思います。
2巻が出るなら完全に分岐するかもしれません。
WEBはRPGのフラグを潰していくスタイルですが、書籍は若返り無双を重視しているので方向性が違うって感じですね。
キャラデザもカバーも最高に仕上がっておりますのでそれまでお待ち頂けると嬉しいです。
それでは改めて宜しくお願いします。





