129 決戦 闇の不死鳥④
「――時空剣術【早戻し】」
そう……その最期の映像が脳内で再生される。
未来はこうなる。
時空剣術と地獄丸の力で最期の未来まで見えることができた。
儂の感覚では時間が早戻った感覚に陥る。しかし真実は高速演算による未来視である。
時間を飛ばす早送りと時間を戻す早戻し。時空剣術を極めることは時間すらも凌駕できるのだ。
ゆえ!
儂は父上の肩から飛び降り、ダガーを両手で握る。
不死鳥の動く未来は分かっている。左に向くんだろ?
不死鳥が首を左にまわし、左頸椎を大きく膨らました。
そこにダガーを添えることで柔らかく膨らんだ頸椎に突き刺さるのだ。
「ぎえええええええええええっっ!」
不死鳥の一番の急所を的確に攻撃したゆえに不死鳥は頸椎から大出血をする。
これが……最後だ。
「父上ぇぇぇぇぇっ!」
「はああああああああ!」
父上は小太刀を大きく振り上げた。
そのまま不死鳥の頸椎の出血部に突き刺して、裂くように肉を斬り裂いた。
傷口が大きく広がり、さらに出血量が増える。
地面に着地した儂の体がいつもの熱に戻る。地獄丸の効果が切れたようだ。
儂が切れたということは父上も切れたということになる。
「倒れてくれ……頼む」
父上は願うように出血に苦しむ不死鳥を見ていた。
「終わりじゃよ」
「えっ」
儂の言葉に父上はぞっとした顔をした。
その言葉は儂らが終わりなのか、不死鳥が終わりなのか分からなかったということか。
確かに儂が頸椎に攻撃を与え、父がその傷口を広げただけ。
危険度SSの闇の不死鳥がこの程度でやられるはずがない。
そう、やられるはずがないんじゃよ。だがな……結局人も獣も外側の攻撃に強くても中からの攻撃に弱かったりする。
ゆえに不死鳥の動きは鈍り、逃げようと後退したがすぐに動きが止まってしまう。息も絶え絶えの状態が続いていた。あれではもう飛ぶことすらもできん。
「……不死鳥のやつ、ずっと出血してないか」
「そりゃそうじゃよ。血液をさらさらにする秘薬を放り込んでやったからな」
「そんなのいつ……ってあの時か!」
そう、冷凍光線を受けた時じゃ。あの時に口の中に放り込んでやったわ。
いわゆる抗血栓薬というやつじゃな。人体で投与する量の何十倍も凝縮したゆえに効果は絶大だったようじゃ。
「不死鳥は生命力の高い生き物じゃ。血を固める力も強いじゃろう。あの薬を投与してなければ……今回の攻撃で倒しきっておらんかった」
失った血液は簡単には作られない。いや、作った所ですぐに傷口から出ていくのだからどうにもならん。
不死鳥はついに地面に這いつくばり、息をしなくなった。
「やったのか……」
「ああ……やったんじゃよ」
「俺達の勝ち」
「まだじゃ!」
儂は大声でその父上の声を遮る。
父上は驚いた様子で儂を見た。
「儂らにとって本当の勝利とはなんじゃ?」
父上は目を見開いて答えた。
「エレナを救うことだ!」
「その通りじゃ。勝つために行くぞ!」





