128 決戦 闇の不死鳥③
大量の羽が強襲し、儂はダガーを父上は小太刀を使って迎撃をする。
急所への攻撃だけとにかく防ぎ、軽傷は捨て置く。傷薬は山ほど用意してあるため致命傷を喰らわねば問題ない。
儂は無事だった。父上はどうじゃ。父上がここで死んだら全てが終わる。
「父上……耐えたか!」
「……くっ、何とかな」
良かった……。心の底から安堵する。
しかし全身に羽が刺さっており、頭部から出血もしている。恐らく儂への攻撃を無意識で庇ったに違いない。儂への攻撃が薄かったからな。
父上の状態はかなり良くない。次くらえば恐らく終わる。それは向こうも分かっている。
ならばもう一歩の猶予もない。
「ここまでか……」
今の体じゃ……さっきまで防戦一方の戦いもできない。
このままじゃ間違いなく終わる。
「父上、儂はいったはずじゃ。一緒に地獄を見ようと」
「なに?」
「この地獄丸を飲むといい。5分だけ無敵になれる薬じゃ」
儂が200年の生きた調合で習得した最狂の薬、それが地獄丸じゃ。
この山で採れる薬草で作れたのが幸いだった。
「それを飲めばアイツに勝てるのか」
「逆を言えばこれを飲まなきゃ不死鳥に殺される」
「ただの薬じゃないんだろ? おまえが作る薬なんだし」
「ご明察。効果が切れて一ヶ月。死んだ方がマシなほど地獄の苦しみが始まる。死ねない地獄が待っている」
200年生きた儂が地獄と思うくらいじゃ。相当な副作用が待っていると思っていい。
しかしその効果は絶大だ。
「父上、地獄へ一緒にいこうぞ!」
「へっ、そんなの地獄じゃねぇよ」
父上は儂が差し出した地獄丸を掴んで口に含む。
「エレナのいない世界。それが一番の地獄だ!」
「よくぞ言った! それでこそ父上じゃ!」
儂も地獄丸を飲み込む。この薬は今の力をオーバーブーストするだけなので、3歳近い体でも持つはずじゃ。
一ヶ月地獄が待っているがな。
不死鳥が再び、横に回転する。羽の攻撃が一番効果的だと分かったんじゃろう。
だが……さっきのようにいくかな。
鋼のように堅い羽が何百本も放たれる。さっきは成す術なく喰らうまでだったが。
「オラララララララララ!」
地獄丸の力でブーストされた父上はその全てを小太刀で叩き斬る。
動体視力と運動能力がオーバーブーストしているのじゃ。
「やっべえええええ! 今なら俺、S級冒険者にもなれそう!」
「5分だけじゃがな! 行けぇ、今なら肉弾戦もいけるはずじゃ!」
「うおおおおおおおおおっっ!」
父上は小太刀を握り、不死鳥に向かって走り出す。
羽の攻撃が効果がないと分かると再び、不死鳥も鋭いかぎ爪を振りかぶってきた。
父上はその攻撃を避け、鋼とも言える不死鳥の体毛に斬撃を与えた。
「きゅえっ!」
わずかに効果がある。しかし、オーバーブーストしてこのダメージでは駄目だ。
倒しきれず5分が終わってしまう。
父上は不死鳥の連続攻撃を躱して何度も斬撃を与えるが致命的なダメージを与えられていない。
じゃが……チャンスは必ず来る。その時を見極めろ。200年生きた儂の勘を信じるんじゃ。
父上の大ぶりの斬撃を躱し、不死鳥はわずかに後退した。そして大きな息を吸う。
「ここじゃ! 父上……突っ込め!」
「おおおおおおお!」
父上に突っ込ませて不死鳥と距離をつめる。
この距離で炎と冷気のブレスを受けたら狼王の黒衣でも防げない。
つまりこれが最後の攻防となる。
大きく息を吸った不死鳥。恐らく右向きか左向きに首をまわすだろう。
確率は50%。外せばそのままブレスで殺される。
絶対に外すわけにいかない。
儂は不死鳥の動きをじっと見つめていた。そして息を吸いきった不死鳥は左回りに首を回す。この動きは間違いなく炎の動きだった。
不死鳥はそのまま左の頸椎を大きく膨らませる。
そうして真っ赤になった不死鳥の口から火炎のブレスが放たれた。
放たれた灼熱の火炎は儂と父上を覆っていく。
「クロスぅぅぅぅっっ!」
そう……それが父上の最期の言葉だった。





