127 決戦 闇の不死鳥②
不死鳥は睡眠を阻害されると一層怒るらしい。
これで逃げる確率がほぼ消えたと言ってもよい。
そして我ら親子が殺られる確率も急上昇したわけじゃ。
「父上……攻めず、防戦一方でお願いする。奴の動きを見極めたい」
「でも! 斬らなきゃ倒せないだろ!」
「斬りかかった瞬間やられるぞ。奴の方が圧倒的に格上じゃ」
人間の倍ほどはある巨大鳥の一種、闇の不死鳥。
その鋭いかぎ爪とくちばしで人間などあっと言う間に死んでしまうだろう。
「おらっ!」
不死鳥の強襲を小太刀を使って父上は捌く。
小太刀の刃はオリハルコンを素材に様々な金属を混ぜ合わせている合金の刀じゃ。
その固さと刃の鋭さは一級品。
「この刀すげぇな……!」
「刀を手放すんじゃないぞ! その瞬間お陀仏じゃい」
父上はいっぱしのB級冒険者。防戦に全振りをすれば強者の攻撃をかろうじて耐えることができる。
怒る不死鳥がくちばしとかぎ爪を振りかぶってくるが上手く、刀で弾いていく。
前世の儂ならすでに10回は倒しているというのに父上に頼らないといけないのが歯がゆい。
じゃが……父上は必死に自分の役目をこなしている。
儂の推測ではすでに10回に8回は倒される予想じゃったが……母上の想いからか儂の予想を超えている。
これが愛するもののために戦う男の力なのか。
不死鳥はいったん下がった。そして大きく息を吸って、ぐるりと左回りに首をまわす。
すると左側の頸椎が大きく膨れ上がった。
「何かくんぞ!」
「恐らくは……」
この不死鳥が危険度SSランク由縁の攻撃。不死鳥の口の中から放たれた赤く熱量の籠もったそれは灼熱の火炎であった。
放射状に出されてしまい、もはや逃げ場などない。
「終わった……」
このままだと儂も父上も焼き殺されてしまう。そうすれば母上も死に、あの世で仲良く家族パーティじゃ。
しかし……まだ早い。
儂は懐から取りだしたそれを振りおろした。
「ぐおおおおおおっ!」
火炎の濁流が横を通り過ぎ、身が焼かれそうになる。
火炎の攻撃が終わった時、まわりの樹木は燃え尽きて……灰のようになっていた。
とんでもない火力じゃな。
しかし我らは生き残った我らは生き残ったぞ。
「なんで……生き残ってんだ」
「ふっ……これじゃよ」
「雑巾じゃねぇか!」
雑巾じゃない!
前世で儂が着ていた一張羅、狼王の黒衣じゃ。
あらゆる属性攻撃を遮断する奇跡の黒衣。SSS級の魔獣の毛皮じゃぞ。SS級ごときの攻撃じゃびくともせんわ。
じゃがそれも母上の手によって雑巾にされてしまったのが悲しくてたまらん。
今回この攻撃を予想していたので雑巾にされたものをつなぎ合わせて布地としたのだ。このサイズなら儂と父上への攻撃を防ぐことができる。
「ケーーーーッ!」
「あの攻撃で儂らが倒せたと思ったじゃろうよ」
「あの火炎で生き残れるって普通じゃありえねーけどな」
不死鳥は再び大きく息を吸った。また火炎かと思ったが……次はぐるりと右回りに首をまわす。
さっきとは逆? ならば!
「父上つっこめ! この防衣なら問題ない!」
「死んだらあの世で説教だからな!」
減らず口を叩かせながらも父上につっこませる。
不死鳥の右側の頸椎が大きく膨れ上がった。
不死鳥の口の中からはさっきとは違う白い霧状のものが浮かび上がる。そしてそのまま急速冷凍されて、冷凍光線が放射される。
光線ならばさっきの炎よりも躱しやすい。火が効かないなら氷ならいけると思ったか?
狼王の黒衣は炎も冷気も遮断する。
まるでバリアのように属性が自ら離れて行くのだ。
「父上飛べ!」
「おうよ!」
父上は飛び上がり、不死鳥の体よりも高く跳躍する。
「このまま攻撃するんだな!」
「無駄じゃよ。父上の攻撃ではあの堅い羽を斬り裂くことはできん」
「だったらなんで!」
「こうするんじゃよ!」
儂は懐から出した秘薬を不死鳥の口の中にぶち込んだ。水も一緒に流して喉の中を通す。
「クエエエエー!」
「父上離脱しろ」
「ちっ!」
父上を急いで下がらせる。あのまま攻撃していたら反撃のかぎ爪で儂も父上も真っ二つになっていたかもしれんな。
狼王の黒衣でも物理攻撃を全て遮断することはできない。
不死鳥は軽く飛び上がって、くるりと回転する。
次は何の攻撃をするのか。じっと見つめていると不死鳥は横に回転した反動を使って大量の羽をこちらに飛ばしてきたのだ。
「クロス! どうやって躱す!」
「ない」
「え?」
「死ぬな! 以上!」





