126 決戦、闇の不死鳥①
冬が始まった。
エストリア山に少しずつ雪が降り始まり、その日がついにやってきた。
何とかこの日まで母上は生き残ることができた。
何とか生きながらえたのだ。正直……ギリギリだったと思う。
最期の時まで母上は笑顔を絶やさず、儂や父上に微笑みかけてくれた。
そんな優しい母上を愛するがゆえ……絶対に死なせるわけにはいかない。
「すぅ……」
「エレナが寝ちまったけど……。何かいつもと違う薬を飲ませてたよな」
決戦の日の夜、最期の晩餐を終えた後、儂は薬を母上に飲ませた。
「昏睡薬じゃよ。この目覚め薬を飲まさなければ母上はそのまま死ぬ」
「なっ!」
「起きたまま儂や父上が死んだ話を聞かせたくないじゃろう。絶望したまま死ぬより安らかに寝たまま逝かす方が良い」
「そうかもしれんが……」
「それに不死鳥入りの治療薬は強力なものになる。麻酔変わりに寝たままの方が良い」
目覚め薬の場所を父上に教えておいた。
まぁ父が死んで、儂が生き残ることはまずないがな。
「闇の不死鳥はその名と違って昼に行動し、夜に寝静まる生物じゃ。つまり……夜の内に倒すしかない」
「場所はここから2時間ほどの岬だったな」
すでに不死鳥の居場所は確認しており、夜の間に移動できるように何度かトライもしていた。
不死鳥の場所まで到達するのに不都合はない。
闇の不死鳥は睡眠時に攻撃されると怒り狂い、盛んに反撃してくると聞いている。
今回で一番まずいのは逃げられることだ。空を飛んで逃げられることだけは避けないといけない。
いかに怒らせて攻撃されるかが重要である。
「よし……行くか」
「父上、待つがよい」
儂は家の中の資材置き場から一本の刀を抜き取る。
そして父上にそれを渡した。
「小太刀【自由自在】じゃ。これを使うとよい」
「いや、俺刀なんて使ったことねぇ」
「いいから抜いてみるんじゃ」
小太刀の鞘を抜かせて、父上に柄を握らせた。
父上はぶんぶんと刀を振る。
「なんだこれ……。めちゃくちゃ扱いやすいじゃねぇか。刀って扱いにくい武器で有名なのに」
「当然じゃよ」
小太刀は元々、儂の武器として予備の扱いじゃった。
200年の旅路の中、魔物に囲まれて、武器を失って危険に陥る冒険者をたくさん見てきた。
そういった冒険者にこの小太刀を渡して戦力の一人としてその場を切りぬけてきたのじゃ。
大太刀や太刀のように儂しか使えない武器と違い、この小太刀は誰でも自由自在に使えるような刀としたのだ。
「父上のオンボロ剣よりはマシじゃろう。その刀なら不死鳥も斬り裂けるはずじゃ」
父上の武器もOK。戦闘で使う秘薬もOK。
これ以上ないほど整った状態だ。これで敗北するなら何度やっても無駄じゃろう。
「父上、出陣の時じゃ!」
「ああ、掴まれ!」
父上に背負われ、ロープで体同士をくくりつけられる。
当然父上は両手を出さねば戦えない。
そして儂のほぼ三歳の体では闇の不死鳥の攻撃を避けられない。
つまり一進一退で戦わねばならんのだ。
ロープ自体は簡単に外すことができるので……最悪の場合は命をかけた虚空斬を放つことはできる。
その時は……儂は死ぬゆえ後は父上に任せるしかない。
夜の道を進んでいく。標高のある山ゆえに気温はすでに氷点下だ。
雪がふっておらず晴れているのは良好と言えるだろう。
事前に何度も走っていたため普通なら2時間はかかる道のりを半分近くで踏破することができた。
そして目の前に闇の不死鳥がいた。
「眠ってるな……」
「うむ、間違いなく闇の不死鳥じゃ。これで外れだったら最悪じゃからのう」
「どうする。ふいうちを一発かますか?」
「駄目じゃ。ふいうちは逃げる可能性が高い。今回は絶対逃がすわけにはいかん」
一発で倒せるならそれで良いのじゃがそんな簡単に倒せるなら危険度SSなど設定されておらん。
それに父上の軟弱の攻撃じゃいくら小太刀の切れ味が国宝級でも無理なものは無理なんじゃよ。
なので……。
儂は父に指示して石をたくさん拾い、とにかくいっぱいぶん投げた。
ポコポコと不死鳥の頭や体に当たって……。
「ケェーーーーーーーっ!」
当然ぶち切れる。





