125 父との約束
「ぶっそうなこと言うじゃねぇか」
「言いたいことを簡略化しすぎたのぅ」
父上も冷や汗をかいて儂をじっと見つめていた。
子にそんなこと言われたら誰だって戸惑ってしまうか。他人だったらふざけるなということになるんじゃろうか。
「父上も分かってると思うが……母上はもうもたぬ。何とか持って冬の始まりといった所だ」
「そうか」
父上は冷ややかに納得したそぶりを見せる。しかしその拳は悔しそうに握られていた。
取り繕っても仕方がないんじゃ。真実を告げてこそ……次に進むことができる。
「父上は危険度:SSクラスの闇の不死鳥を知っておるか?」
「あの伝説上の生き物の不死鳥に似てるっていうあの魔獣のことだろ?」
「うむ。だが似ているのは外見だけでない。実際に闇の不死鳥の肉体に極めて高濃度の生命力が携わっていると言われて、それが不死鳥の名の起源とも言われておる」
「……」
「その闇の不死鳥が秋の産卵を終えた後、エストリア山のある場所で体を休めるということを知っておるか?」
「……噂には聞いたことがある。危険過ぎて確かめもしなかったけど」
「アーリントから情報を購入したんじゃよ。産卵を終えた闇の不死鳥がこの山にもうすぐ来る。この意味が分かるかの?」
「マジかよ。つまり……闇の不死鳥を倒すってことか」
そう。闇の不死鳥の心臓にはおそらく古龍並の生命力が封じ込められてるに違いない。
人の生命を蘇らせるほどの力を持つそれを素材に治療薬を作ればきっと万病を治す治療薬となるのだろう。
かなり確証は高い。
だが父上は首を横に振った。
「無理だ。危険度SSってのは絶対に手を出してはいけないレベルなんだ。最上級の冒険者ですら倒せない魔獣を倒すなんてできるはずがない」
「できる」
200歳の儂はさらに上のSSS級の古龍を単独で撃破したことがある。それに比べたら闇の不死鳥など大したことはない。
「儂ならば……不死鳥を一撃で倒すことができる」
「……ほんとかよ」
「ただし、その時は儂は死ぬ」
「なっ!」
渾身の虚空斬を放てば不死鳥を一撃で葬りさることができるだろう。
しかしその反動で儂は間違いなく全身の骨が砕け死んでしまう。
「儂が死んだ時のために薬の調合の仕方は残しておくつもりじゃ。儂が作らないゆえに薬の性能が不安定になるのが難点か」
「そんなのは駄目だ! だったら俺一人で」
「さっきも父上が言ったじゃろう。最上級の冒険者ですら倒せないと。父上一人だと完全に無駄死じゃよ」
「くっ……」
「だから儂は問いた。儂と一緒に死んでくれるかと。儂と父上が共に挑めば両方生き残り母上を助けられるかもしれぬ」
それが最も理想な戦い方だ。
だが成功率は限りなく低いだろう。結局儂が虚空斬を打って終わらせる方が確実である。
どちらにしろ不死鳥の心臓を運ぶ役を父上にやってもらわねばならん。
「なぁクロス。俺はエレナに頼まれてるんだ。おまえを立派な大人に成長させてくれって」
「なに?」
「それがエレナの願いなんだよ。だから……一緒に二人で暮らそう。エレナの分まで、俺……がんばるから」
「ふざけるな」
「え?」
ぷちんと切れたような気がした。
気づけば強い感情があふれ出していた。
「そんなものが本当の母上の願いなわけがない!」
「……クロス」
「母上はもう一人子供作って儂を立派な兄にしてあげたかったと言った。母は父上と儂と……生まれ来るはずの子と一緒に暮らしたかったんだ! 父上の言う願いは悔いしかない。そんな願いは認めない!」
「……」
「父上はミランダが逝く前に言っただろう、【惚れた女を喜ばせてやれ】と。父上は惚れた女の願いを叶えてやらないのか!」
「ぐっ……だが!」
「父上。貴様の願いはなんだ! 貴様は誰よりも儂よりも……母上を愛しておるんじゃろう! 母上のいない世界で貴様は生きたいか!」
「そんなわけねぇだろ! 俺にとってエレナが全てだ。エレナのいない世界なんてで生きる意味なんてねぇ! ガキが偉そうに言うな!!」
「ならば立ち上がれ! 生きて母上と添い遂げろ。もしくは死んで天国で添い遂げろ!」
びしっと指を突き付けて儂は父上に訴えた。
方法は三つ。全員が生き残る奇跡のプラン。儂の命を犠牲にし、父と母だけが生き残るプラン。全員が死んであの世で再会するプラン。
儂は200年生きたんだ。若い二人のために、儂をここまで育ててくれた二人のために命を犠牲にしても良いと思っている。
それが儂なりの親に対する恩返しよ。
「とんでもねーこと言いやがるなクソガキ」
「そうじゃろう。こんな風に育てたのは他ならぬ父上じゃよ」
父上は儂の頭の上に手を置き、ぐりぐりと回す。
「おまえだけが死んで生き残るプランなんてねぇ。全員生きるか、全員死ぬか。それだけだ」
「ふむ」
「二人でエレナを助けるぞ。闇の不死鳥だが何だか知らねーが……ぶっ潰しでエレナの命になって貰う!」
「承知! 父上の覚悟受け取ったぞ!」
あけましておめでとうございます。
ここ数週間ありえないほど忙しくメンタル崩壊してて何も手がつきませんでした。
予約投稿なので普通に投稿してましたが裏では死んでましたごめんなさい。
まだ忙しいですが来月くらいからはある程度落ち着くと思います。
本作の書籍化は少しずつ進んでいます。
1巻分の原稿は形になり、イラストレーター様も決まりました。
お伝えできるタイミングはまだ先ですが今年も宜しくお願いします。





